背神のミルローズ

たみえ

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|急《まくあけ》

占星鍛冶士

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 揺らめく赤瞳に、自然と視線が吸い寄せられ――とんだ。

 ――『あなたの目、私にくださいな』

「はじめまして、ミルローズ。私はあなたのです」

 ――『全く見えぬな、お主。――ならばやはり本物か』
 ――『お主の護衛の刀が見たいのじゃが……なんじゃ、今度の……の主は狭量じゃのう』
 ――『妾が受け継ぐ精霊の赤眼は魔女の瞳と同等に特別なものじゃ』
 ――『……ちゃんと呼んで良い、という許しが出ておるのじゃろう? 妾は遠慮しておるが』

「ミルローズ? どうし……これはっ――いま、何が視えました!!」

 ――『……の環とは、かつて最期の……で課された――うーむ。この話はなしじゃ。出来ぬ』
 ――『既に消えてしまったものを悼む必要なぞない。どうせすぐにでも後追いする運命じゃろうからな』
 ――『どうやらお主の……が先んじて大陸のあちこちを……して回っていたようじゃが……いずれその保険も尽きれば世界も終いじゃな』
 ――『いかにお主の……が裏で孤軍奮闘しようとも、たった一人の……の力だけではこの大陸もそう長くは保っておられん、ということじゃ』

「何が視えてるか、今すぐ答えなさい! ミルローズ!」
「……なんだ、これ――」

 一方的に共有され、今まで手探りだったかのように時間経過とともに共有速度が――。
 誰だコイツは……いや、まさか――!

 ――『心理戦だァ? バカ言うんじゃねーよ。感情は不合理の極みだろうが。――これは純然たる頭脳戦だぜ』
 ――『……生命ヒトの倫理で神が説けるものかよ』
 ――『どうしたその程度か。足掻けよ、クソお気にどもが』
 ――『オレ様の勝ち、だぜ……ッ』

「……ハッ、」

 無意識のうちに口角が吊り上がり、大笑を浮かべた。

「ミルローズ! 答えてお願い――」

 加速した先、広がった記憶がたったひとつへと一点集束されていく、――あァ、これは。そうか。

 ――『……好きなほうを選べよ、その為の大嘘だぜ』
 ――『ハッ、そうかよ。……クソ面倒なやつだぜ』

「――――」

 ――『――……ありがとう』
 ――『おいで。私の――』

「――そこまでです。カサンドラ、下がりなさい」
「ですがっ!」

 鈴蘭が間に割って入ったことで、
 ハッ、ここから先は有料お預けってか……全身くらくらするぜ。

「オイ、……」
「――何一つ、答える必要はありませんよ。何一つとして」

 素早く手を口の前にすっと差し出され、反射で言葉を止める。

「鈴蘭様っ! 何故ですか! ……まさか?」

 途中で何かを察したらしい魔女に対し、淡々と鈴蘭が答えた。

「――はい、その通りです。あなたを利用しました。ご協力ありがとうございます」
「何ということを……ッ! どうしてこんな……やっとのことでここまで――ッ」

 その身を引き裂いても足りないのだ、と思わせるほどに悲痛な叫びで何かを訴える魔女に――その様に対し、鈴蘭が心の底からだろう満面の恍惚とした笑みをうっそりと浮かべ、一見して魔女から庇うようにして二人の間を遮り続けた。
 ……ひ弱な鈴蘭を退けるのは簡単だったが、そんな気は何故かまるで起きなかった。クソ面倒だからという理由ではない。これは単なる懐疑心のせいだった。
 ――心底どうしようもない、己すら対象範囲内であるどうしようもない恐怖による懐疑心だ。

 ――『私の――』

 利用された憐れな魔女の悲痛な叫びが耳をひたすら劈いても、神の守り人が射殺すような視線を突き刺し続けてきても、まるで微塵も湧かなかった。
 ……クソが。あんなもんが一体なんだっていうんだ。無視すりゃいいだろうが――。

「知ることは、でしょう」
「鈴蘭様! 何を言っておられるのですか!? ――隠すなどもってのほか! 論外です!」
「それが道理なのでしょう。……ですが、私のジャッジは無慈悲なまでになのです。一切妥協したくありません。――
「鈴蘭様! そういう問題ではないでしょう! 積み上げた全てを、滅茶苦茶に壊すおつもりですかっ!?」

 一見すれば魔女に対する言葉であったが、それがこちらへの遠回しであからさまななのは聞かれずとも気付いていた。
 ――心底、どうしようも救いようがないぜ。

 ――『……

 それはクソみてェな心底どうしようもない、懐疑心であり願望。そしてすら必要ない、だった。ハッ……んなもん、神ですら縋りたくなるってェもんだぜ。
 いつの間にか、無意識に強く握って小刻みに震わせていた拳から自然と力が抜けていた。

 なァ、……――このオレ様が、自らテメェの操り人形に成り下がるんだ。分かってんだろうなァ? 鈴蘭。

 そんな視線を鈴蘭の背に強くぶつけ、己の答えを告げてやった。びくり、と鈴蘭が反応して嬉しそうに小さく頷いたようだが、それでも苛立ちは抑えられない。
 クソほど腹立たしいぜ……オレ様が何をどうしようとしたところでアレで、コイツのあんなクソくだらなくてしょうもねェ私怨で――、望む結果までの一直線の道筋が緻密に構築出来んのかよクソが。
 ――恐ろしいクソ執念がよォ。参ったぜ。だから大人しくテメェの掌の上で踊ってやるよ。

「言葉を慎みなさい、カサンドラ。、理解出来ないのも仕方ありませんが、受け入れて下さい」

 もう調ことに鋭敏に気付いたのか、魔女との間を遮るのをやめながら鈴蘭が今にもいつかの神のように、ぴょんぴょん飛び跳ねて変な踊りを披露しそうな既視感のある高いテンションで嬉し気にのたまった。
 ……どうせテメェは殆どなんもしねェで面倒山ほど押し付けるだけのくせに、そんなに嬉しいかよ。あァ、そうかよクソが!

「……あ。ぼうたん、あなたもですよ。目が口ほどにものを言っています」
「……失敬」

 ……そういや、このクソ真面目も居たなァオイ。あァ、クソだりぃ――ッ!

「――あっはぁ。何それ、おもしろぉ~い」
「……まあ、あなたはいいでしょう」

 鈴蘭が、その場に図々しくも遊び気分で引っ付いて来ていたディプラデニアが共有の一部を盗み視てことを察し、チラリと目を輝かせる魔女を視たが……暫し考え、諦めた。
 ――何が良い、だ。全然よくねーよ。……つーかよく考えりゃコイツが一番、愉快に荒らしてたじゃねーか! ふざけんなよ――。

「――それでは皆さん、時間も差し迫っているので改めましてご挨拶を」

 全然そんな空気じゃない中で、鈴蘭が笑顔で押し通す。クソが……。

「こちらはカサンドラ。――あなたが誕生一番に滅ぼした、魔女の中でも特に珍しい占星鍛冶士の生き残りです。あ、ついでに肉体的にはあなたの伯母ですね」
「……鈴蘭様、」
「――続きまして」

 頬を引き攣らせ、ぷるぷると全身震えるカサンドラとやらを無視し、鈴蘭が次の相手を手先で気にせず指し示す。

「こちらはお姉ちゃんにしての、ぼうたんです」
「……は……」
「あらまぁ。残念ねぇ、ぼうたん」

 鈴蘭からの流れるようになされた唐突で衝撃的な告知に、ぼうたんが分かりやすく目を見開いて口も半開きで固まった。
 ……細かい調だと知っていても容赦なく惨いな。

 まあそうこなくっちゃァ、初っ端からやる気が全く出ねェってもんだぜ。アレの通りなら……いや。どのみち憐れなやつだな、ときゃらきゃら愉しそうに、盗み視たのだろうを思い浮かべて笑っているディプラデニアに、流石に可哀想になった。
 とはいえいくら可哀想であっても、それをどうこうするつもりは微塵もない。むしろ率先して切り捨てるだろう。

「そして、これまで最も主軸となって動いていた功労者の――シャナラです」

 言いながら鈴蘭が指し示した先に、――そいつは居た。
 こちらの緊迫したアレコレなぞどうでもいいとばかりにぶす、とした表情で空気も読まずにふてくされていた。

「鈴蘭様、これは聞いていません――何故、私の身体を勝手にバイクへ改造してるのですか!?」

 今いる場所は――以前した約束とやらのせいで、鈴蘭に強制的に連れて来られてやってきた、どっかの車庫の中であった。その端にはかなり目に痛く目立つ色合いをしたクソ趣味悪いバイクが堂々と鎮座している。
 到着してすぐ、ディプラデニアが一目視た後にひぃひぃ身を捩りながら涙目で「シャナ姉ぇの身体ぁ、めるへ~ん」とかなんとか笑い咽る中でアホが「わ、私の身体ー!!」と叫んだのは記憶に新しい。
 その後すぐ、伯母と名乗る魔女が入ってきてこちらを怪訝そうな顔で伺いつつも挨拶したところで、いきなり冒頭の事が起こり――。

「おまけに相当、趣味が悪いデザインです!」
「そうですか? せっかくお姉ちゃんの好みに合わせましたけど……そこまで嫌がるなら仕方ありませ――」
「――先に言って下さい! 勿論、主の好みなのであれば趣味が悪いなどということは決して、微塵もありませんので! ええ!」

 んなわけねーだろ。アホが。すぐ騙されやがっ……いや待てオイオイ。
 云々考えてやがんじゃねーか!? マジかよオイ――。

「シャナラ……あなた、鈴蘭様とはグルですか!」

 言葉も無い、とばかりにぷるぷる震えて閉口していたカサンドラが絞り出すように悲痛な声を出した。
 ぎゃあぎゃあ鈴蘭と言い合っていたシャナラが問いにちら、と一瞬カサンドラを見てからぺろりと己の手を舐めて毛づくろいし始めた。

「グルとは人聞きが悪いですね、カサンドラ。長い付き合いなのに、そのような誤解は悲しいです」

 ……実体が変なもんに改造されて使えなくなったとはいえ、このアホはいつまで狐のままで居るつもりなのかという疑問が場違いにもふと湧いてくる。
 別にいつまでも狐にこだわる必要は無く、こいつレベルの魔女ならいくらでも実体はできるはずだ。……まあどうせ、クソみてぇなしょうもねー理由でそうしないんだろうがな。

「誤解で済めばまだマシです。――あなたたちは! いま何を仕出かしたのか、理解しているのですか!」
「むしろ今まで分からずいたことに驚きです、カサンドラ。――主が為、それ以外に私が動く理由はありません」
「……シャナラ!」
「会うことを承諾したのはそちらでしょう」
「わたしは……っ!」

 言い返せず、カサンドラが悔しそうに唇を噛みしめ俯いた。
 ――まあ、からな。お相子だろ。

「拙者も気になるでござる故に――鈴蘭様」

 衝撃からなんとか戻って来たらしいぼうたんが、眉間に皺を寄せながら鈴蘭へ静かに詰め寄った。
 二人からの問い詰めにとうとう笑みを引っ込め、鈴蘭がため息を零しながら聞き分けの悪い小さな子ども相手に教えるように答えた。

「……残念ながら。どう足掻いてもこの子以外――から、ですよ」
「そのような戯言――ッ!?」

 ぽつり、と鈴蘭が零したその言葉にカサンドラとぼうたんが驚きに息を呑み何かを反論――しようとした瞬間、その時は唐突にやってきた。……いや、やってきた。
 頭にすんなり馴染むように、そのの言葉は違和感なく溶け込んでくる。

『――わたしころして』
「ほら……はじまりましたよ」

 淡々と鈴蘭が呟く。

「ッなに故!」
「どうして……!?」

 突然のことに驚く二人の動揺の隙を突くようにぐ、とぼうたんとカサンドラが同時に苦悶の表情を浮かべて悶絶し出した。
 ハッ……始まったかよ。今の今までどんな魂胆で手を出して来ねェかと警戒してれば、コレだぜ。いきなり前触れなく故意にルールを叩きこんで、オレ様がぜってー断らねェ前提で強制クソゲーにぶちこみやがる――。

 ――神から生まれた、聖霊ヒトであるあなたの選択の全てを、私はします。

 何が尊重します、だコラ……恐ろしいほどまでにのねェ緻密な計画を立てやがってクソが。
 ふぅ――失敗なんざ、。だが一方で、辿
 ……改めて考えりゃ、とんでもねェクソゲーに放り込まれたモンだぜ。

「オイ、アホ――即行でこいつらを狩りやがるぞ」
「媒体はぁ、コレでっ」

 ぽい、とディプラデニアがノリノリでどこからともなく取り出した大鎌を投げ飛ばしてきたので、仕方なく掴んで受け取った。
 ついでに、アホ魔女の魂が間髪入れずに狐から大鎌へ淀みなく宿って片頬が思わず引き攣る。――準備良すぎだろ。事前にあらかた知ってただろ、このクソ魔女どもが――チッ。

「――オレ様が凶帖にテメェらクソ魔女ども、一人残らずその名を刻みやがれ!」

 漸ッ――。
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