背神のミルローズ

たみえ

文字の大きさ
4 / 33
|序《はじまり》

|道程《みちのり》 弐

しおりを挟む

『ごめんね……シャナラちゃん……でも助かったよぉ~』
「お役に立てて光栄です。主よ」
「…………」

 ゆっくり北上した船を一旦降りて辿り着いたのは、人がぎゅうぎゅうに詰まったように無駄に狭苦しく、さらには人の子にとっては生き苦しい場所だった。
 何よりも理解し難いのが、無駄に高い建造物は飛べない人の子にとっての死牢なのに、そんな場所に好んで住む愚かな人の子が多くいることだった。神より理解出来ない。

「……なに?」
「…………」

 そしてコレも。人の子ではない、コレも理解し難い。何故のか。

「この子が主の……ですか」
「…………」

 にこり、と薄く笑って肝心の言の葉を省いて紡いだのは人の子によれば魔女、と言われる類の存在であった。

『あ、うん。そうそう。可愛いでしょぉ~? しかもミルローズって言うのよぉ~』

 可愛いでしょ~、私が名付けたの~、と続けて暢気に宣まった神に悪気は無いようであった。が、魔女の気に触れたらしい。何故かこちらが睨まれた。理解出来ない。

『シャナラちゃん、最近の調子はどう? 無茶なお願いしてごめんねぇ……』
「主よ、気に病むことはありません。万事は委細恙なく」
「…………」
『そっかそっか。無理してないならいいよ。いつもありがとうね~』

 そう言って神は魔女を撫でるフリをした。やはり魔女が相手であっても透けるままらしい。
 そしてただのフリだと分かっていて、魔女が耳とをぴょこぴょこ嬉し気に揺らした。
 犬猫のように自然な反応である。まさか魔女なのに野生に還ったのだろうか。魔女なのに。
 速くここから移動したいがしかし、だからといっての身の上なのでじっと神と魔女の戯れを傍観するしか今は出来ない。
 ここに至る少し前までは甲斐甲斐しく神が先導していた為、今さら気付いたまさかの欠陥であった。少し神と離れた隙に……実に認めがたい事象だ。

「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!! き、キツネが喋っとるうううううう!!!!」

 ……どうやら犬猫ではなく、狐だったらしい。紛らわしい。
 先ほどまで神たちのやり取りに静かに沈黙、というよりは喋る狐姿の魔女という存在に気付き、その理解し難い事象に遭遇して茫然自失としていた老人の我に返った叫びによってなるほど言われてみれば、と納得した。

「――それでは主よ、暫しお待ちを。只今そちらへ参りますので。失礼、御老体」
「ひ、ゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!!」

 透明な板の向こう側、不安定な柵の中から透明な板を真面目にキュッキュッと拭いて粛々と清掃していた老い先短そうな人の子を道連れに、魔女が何某かの操作をした一瞬後、視界から消えるように真っ逆さまに共に地へと落ちていった。
 ふと、なんとなく近くの柱に刻まれた痕を確認した。……94階か。

『大丈夫! 寿命は減ってないよ!』

 ……そういう問題ではない、と思うのは野暮かもしれない。こちらが柱に向けた視線に気付いて、何を思ったのか。はっ! と実に間抜けな顔で何か見当違いに違いない事を悟ったらしい神が告げた言葉を、やはり無視して透明な板からそそくさと離れた。
 ……本来、位置不明でむやみやたらと動くのは得策ではないが、なんとなくここに居るのは心地悪いから仕方ない。

 無視して歩き出した後ろから追ってきて『うーん。……あっ、ここって迷路みたいだね! 分かる分かる。仕方ないよねー』などと、またしても斜め上な頓珍漢なことを言って慰めてるのか独りごとなのか構うのがアホらしい神をやはり無視した。
 いちいちこの神に構うだけ労力の無駄だ。

 ――人の子に対して異常に甘やかすかと思えば、やたらと辛辣なときもある。何が神の基準か。やはり理解出来ない。……考えるだけ無駄か。

 何故か漏れそうになった息を不便に感じながら、スタスタと見通しの悪く狭苦しい屋内を適当に歩き回る。……いざとなればあの脆そうな透明な板を壊して飛び降りればいいか。
 ――しかし板を割る前に魔女が迎えに来たため、いざという時は来なかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

処理中です...