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|序《はじまり》
|道程《みちのり》 弐
しおりを挟む『ごめんね……シャナラちゃん……でも助かったよぉ~』
「お役に立てて光栄です。主よ」
「…………」
ゆっくり北上した船を一旦降りて辿り着いたのは、人がぎゅうぎゅうに詰まったように無駄に狭苦しく、さらには人の子にとっては生き苦しい場所だった。
何よりも理解し難いのが、無駄に高い建造物は飛べない人の子にとっての死牢なのに、そんな場所に好んで住む愚かな人の子が多くいることだった。神より理解出来ない。
「……なに?」
「…………」
そしてコレも。人の子ではない、コレも理解し難い。何故そこに居るのか。
「この子が主の……ですか」
「…………」
にこり、と薄く笑って肝心の言の葉を省いて紡いだのは人の子によれば魔女、と言われる類の存在であった。
『あ、うん。そうそう。可愛いでしょぉ~? しかもミルローズって言うのよぉ~』
可愛いでしょ~、私が名付けたの~、と続けて暢気に宣まった神に悪気は無いようであった。が、魔女の気に触れたらしい。何故かこちらが睨まれた。理解出来ない。
『シャナラちゃん、最近の調子はどう? 無茶なお願いしてごめんねぇ……』
「主よ、気に病むことはありません。万事は委細恙なく」
「…………」
『そっかそっか。無理してないならいいよ。いつもありがとうね~』
そう言って神は魔女を撫でるフリをした。やはり魔女が相手であっても透けるままらしい。
そしてただのフリだと分かっていて、魔女が耳と尻尾をぴょこぴょこ嬉し気に揺らした。
犬猫のように自然な反応である。まさか魔女なのに野生に還ったのだろうか。魔女なのに。
速くここから移動したいがしかし、だからといって迷子の身の上なのでじっと神と魔女の戯れを傍観するしか今は出来ない。
ここに至る少し前までは甲斐甲斐しく神が先導していた為、今さら気付いたまさかの欠陥であった。少し神と離れた隙に……実に認めがたい事象だ。
「ひ、ひぃぃぃぃぃ……!! き、キツネが喋っとるうううううう!!!!」
……どうやら犬猫ではなく、狐だったらしい。紛らわしい。
先ほどまで神たちのやり取りに静かに沈黙、というよりは喋る狐姿の魔女という存在に気付き、その理解し難い事象に遭遇して茫然自失としていた老人の我に返った叫びによってなるほど言われてみれば、と納得した。
「――それでは主よ、暫しお待ちを。只今そちらへ参りますので。失礼、御老体」
「ひ、ゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……ッ!!!!」
透明な板の向こう側、不安定な柵の中から透明な板を真面目にキュッキュッと拭いて粛々と清掃していた老い先短そうな人の子を道連れに、魔女が何某かの操作をした一瞬後、視界から消えるように真っ逆さまに共に地へと落ちていった。
ふと、なんとなく近くの柱に刻まれた痕を確認した。……94階か。
『大丈夫! 寿命は減ってないよ!』
……そういう問題ではない、と思うのは野暮かもしれない。こちらが柱に向けた視線に気付いて、何を思ったのか。はっ! と実に間抜けな顔で何か見当違いに違いない事を悟ったらしい神が告げた言葉を、やはり無視して透明な板からそそくさと離れた。
……本来、位置不明でむやみやたらと動くのは得策ではないが、なんとなくここに居るのは心地悪いから仕方ない。
無視して歩き出した後ろから追ってきて『うーん。……あっ、ここって迷路みたいだね! 分かる分かる。仕方ないよねー』などと、またしても斜め上な頓珍漢なことを言って慰めてるのか独りごとなのか構うのがアホらしい神をやはり無視した。
いちいちこの神に構うだけ労力の無駄だ。
――人の子に対して異常に甘やかすかと思えば、やたらと辛辣なときもある。何が神の基準か。やはり理解出来ない。……考えるだけ無駄か。
何故か漏れそうになった息を不便に感じながら、スタスタと見通しの悪く狭苦しい屋内を適当に歩き回る。……いざとなればあの脆そうな透明な板を壊して飛び降りればいいか。
――しかし板を割る前に魔女が迎えに来たため、いざという時は来なかった。
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