背神のミルローズ

たみえ

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|序《はじまり》

|道程《みちのり》 参

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『「あばばばばばばばば」』
「……アホか」

 体温を分け合うにしてもそもそも触れ合えないのに、お互いに寄り添って無駄に寒さに震える神と魔女に白けた視線を向け、ついに言ってやった。
 ――神も魔女もアホしかいないのか。何故なんの備えも無く極寒の地を渡ろうと思ったのか。
 人の子もそうだが、生きとし生ける生物の実体全てに共通して温度が影響を与えるのは理に聞かずとも分かろうというものだ。
 理に従う魔女、なんて大層な肩書が名前負けしている。

 ――しかも、己の姿が現在ひ弱な狐であることを忘れていたらしい単にアホな魔女はともかく、神のそれは完全にフリだ、フリ。
 よく分からないノリとやらで必要ないのにわざわざ力を無駄遣いして一旦どんなものかと寒さに晒されてみたそうだが、刹那も保たず即刻やめたらしい。賢明なのかアホなのか。……いや、やはりただのアホだ。神なのに。

 ブオオオオオオオオオオオオオオオオオオ……。

 聞こえた低く重く腹に響く大音に、間もなく目的地に到着することを悟る。
 といっても、辺り一帯が殆ど白と青と水色に染まっているため、一目見ただけでは確かな違いは分からないが。

「ぼぼぼぼずずずぐぎぅ、ゆゆゆ、ががが、むむむ、にいいいいいぃぃ……ッ!!」

 アホな魔女は、魔女らしく龍脈から力を得て実体を温めるか保護するという簡単な方法が思いつかないらしい。
 未だ律儀に生息圏が違うひ弱な狐の実体を、その実体の生息圏の常態のままで過ごしている。
 真正のアホだ。おかげで道案内のくせに、何を言ってるのかまるで分からない早速の役立たずっぷりである。

『おー、そっかそっか。ユキノシタちゃんとは久々だなぁ。元気かなぁ』

 ……腐っても神か。どうやら魔女の言葉の意味を読み取ったらしい。とうとう寒いフリに呆きてぶつぶつ漏らしだした神の独り言――こちらは話返していないのでただの独り言だ――によるアホな魔女の言葉を要約すると、北極周辺を担当する一番距離の近い魔女の一人がわざわざ神を迎えに来てくれるらしい。
 実に御苦労なことだ。同じような役立たずでなければいいが。

「――おーい! こっちー!」

 アホな魔女の言葉を聞き取り終わったところで、ちょうど良かったらしい。件の魔女が巨大な氷上で手を振っていた。力の流れを見るに、同じようなアホではないらしい。しっかりと全身を保護していた。
 呼ばれるままに下へ意思表示すると、心得たように新手の魔女の方向へと移動先を変えた。短時間ではあったが、上手く躾けられていたようだ。なんだ。アホな魔女より賢いな。

「カミサマお久~! 元気そうで良かったー! て言っても、アレだけどね。あはは!」
『ユキノシタちゃんも元気そうだね! うんうん! そうなのアレなの。しかもこーんな素敵な幽霊になっちゃってねー! あはは!』

 何が面白いのか全く分からないが、ひとしきり神と笑い合うと、新手の魔女はこちらに向き直ってニカッ! と歯を光らせるように、一見すると全く裏表が無さそうな笑みを浮かべた。
 そしてそのまま「そっかそっか君がそっかー。あははー」とまたしても楽しそうに笑い、そのまま特に何かを追加で言うでもなく早速と道案内を先行し始めた。

 ――が。この魔女、アホな魔女に比べると案内役としては必要十分ではあったが、いちいち興味の無い――神は興味津々にじっくりしっかり見物していた――観光名所とやらに連れ込まれて移動の時間を無駄に潰されたので、アホな魔女とは違う意味で足を引っ張られた心地であった。

 ……そして、新手の魔女と合流した際に乗ってきた生物の上でついに凍りついてて実はそのまま置いて行かれていたらしいアホな魔女は、何故か出発の時になってボロボロの無残な姿で見つかった。
 何やらこちらが観光名所とやらで時間を潰されている間に聞くも涙、語るも涙な大冒険とやらをしていたそうだが、全く興味が湧かなかった為にトランクという箱にそのまま問答無用で詰め込んだ。

 ……どうせ、その冒険内容とやらは相応にアホらしいものだろう。聞かずとも予想がつく無駄話に付き合う義理は無い。容赦なく鍵を掛けてやった。律儀に狐になりきるようなアホな魔女のことだ、力を使って鍵を開ける発想は芽生えまい。
 それで神が何やらきゃいきゃいとうるさく騒いでいたが、ただでさえ無駄な時間を費やしたので、もちろん丸ごと無視して荷物としてアホな魔女を荷物棚の奥に詰め込んでやった。
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