不自由と快楽の狭間で

Anthony-Blue

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1.やっと見つけた

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 初めての女性は、駅の改札口の前で待ち合わせた綺麗な赤い口紅が目立つ人だった。

「待った?ごめんね。瑞樹君だよね?ちょうど出かけようとしたらバタバタしちゃってさ」

 出会い系サイトのプロフには、アカネ20代後半と書いてあったが、化粧の濃い分、年齢はもう少し上に見えた。とはいえ、女性に対して目が肥えているわけでもないので本当なところはわからない。ボディラインのはっきりわかるニットのワンピース姿に、ボクはどこを見ていいのかわからなくなっていた。ボクは彼女の顔を知らなかったが、アカネはボクだとすぐにわかるような情報を教えておいた。

「ねえ、車椅子押した方がいい?」

「あっ、いや電動だから大丈夫です」

「そう、よかった。ワタシこういうの慣れてなくてわかんないんだ。さあ、ここにいても目立つから、早くホテル行こっか」

 そう言ってアカネという女性は、ボクの前を歩き出した。後ろ姿を追って移動する形になったボクは、まじまじとアカネの体を観察する。迫力あるバストとヒップに挟ませられて相対的にくびれを意識させる体型を想像力という刃物で体を覆っている物を剥いでゆく。それだけでもボクの心臓は鼓動を早めてゆく。今から行われるであろう行為に少し不安を感じてゆく。



 ネット社会は、いろいろな障壁を取り去ってくれている。法律に触れなければPCのモニターにはありとあらゆる女性の裸体が映し出される。家にいながら車椅子のまま快楽の世界を垣間見ることだって出来るのだ。

「昔は大変だったんだぞ、エロ本1冊買うにしたっても。雑誌に載っている通信販売を使う手もあったけれど、料金振込用紙に書き込みしたり、それを郵便局に持って行ったりと苦労して手続きしても期待していたモノが届くとは限らないしな。夜中とかに繁華街の一角にあるエロ本の自販機に行って買ったりしてたんだから」

 と、かなり年上の車椅子の先輩から聞いたことがあった。障害者を長くやったいると、性の話とは無関係な『聖人君子』的に捉えられることが多いように思う。もっと露骨に言えば生殖機能にも障害があると思われることが多いのも確かだ。

 夜の歓楽街を車椅子で歩いていると、酔いの回った見ず知らずの男性から

「兄ちゃん、アソコってちゃんと起つの?」

 とすれ違いざまに言われたことがある。そんな無神経なヤツには心の中で強がりを叫ぶ。

「アンタのよりはデカくて堅いかもね」

 脊椎損傷で下半身麻痺の人ならともかく、普通の障害者(この表現も健常者の人にはわかんないだろうが)なら男性は普通にペニスは勃起して、射精だってする。女性だって胸を揉めば感じるし女性器を愛撫すれば愛液で濡れると思う。問題は、そもそもスイッチの入った欲望をどうやった発散させるかだろう。彼氏彼女がいる人ならデートにでも誘って心の高ぶりを鎮めてもらえるだろうし、パートナーがいない人ならオナニーで欲望をはらすだろう。しかし、障害者は健常者でも難しいパートナー探しがより一層困難なのは言うまでもない。

 今回のことも、あることがきっかけだった。日頃から心ない言葉を吐く知り合いが

「お前、そんなんだから、どうせ童貞なんだろ。ネットでエロ動画見てオナニーばかりしててかわいそうだよな」

 と、言い放ったのだ。言っていることは、的外れではないのだけれど、だからこそ余計に腹立たしく感じてしまった。ならばと思いいろいろ調べてみた。風俗という手もあるのだけれど車椅子だとなかなか敷居が高い。デリヘルも候補に挙がったが自宅に来てもらうのは結構費用がかさむ。では、ラブホならと考えてネットで調べてみると、バリアフリー対応のラブホがあることがわかり、あえてデリヘルではなく出会い系サイトで相手を探してみることにした。もちろん、後出しじゃんけんみたいなことをして揉めたくないので車椅子使用者だと会う前に告げることにした。サイトの募集を当たっていくと、「車椅子なんだけど大丈夫?」と言った途端に返事が来なくなるパターンだった。それでも粘り強く何人かに当たっていると

「あ~、う~ん、たぶん大丈夫だと思う。エッチは出来るんだよね?」

 という、やっぱりそこかぁというおまけ付きの返事で了承を得た。お金が必要で相手が見つからないという裏の事情も透けては見えていたのだけれど、そこはこちらも贅沢は言えないので会うことにした。
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