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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

681 使用上の注意

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 何度来ても蝋燭ろうそく灯火あかりだけで部屋は薄暗い。
 隠し部屋に入りなり《探索》と《魔力感知》で知性ある本インテリジェンス・ブックの本体を探し、そこに移動する。
 本棚から一冊の本を抜き取り、燭台しょくだいと無地の本と羽根ペンが置かれた机にその本を置いた。

「聞きたいことがあって来たんだが、答えてもらえるか?」

 カズが問うと、無地の本がひとりでに開き、羽根ペンがふわりと浮き動き出し、サラサラと文字を書き始める。

 『よく来た同種の本に選ばれし者。大きさは憧れか欲望か、を、入手したという事か』

「ああ。それで使用法の注意とかを聞きたくて来た」

 『答えよう。対価は異なる世界の魔法が封じられたカード』

「俺の持ってるトレカのことか? 一枚でいいか?」

 『三枚を要求する』

「俺が選んだのでいいか?」

 『構わない。極めて貴重な異なる世界の品』

「わかった」

 少し考え《アイテムボックス》から三枚トレーディング・カードトレカを出して知性ある本インテリジェンス・ブックの横に置く。
 選んだのは複数枚所持していて、今までに使用した事のある、幻を見せる霧を作り出す『幻惑の霧』と、特定の範囲に侵入した者がいたら音で知らせる『警報装置』と、対象に一つの耐性を与える『プロテクション』の三枚。
 実際に使用しているので、魔法としての効果も分かっており、譲渡しても問題ないと選んだ。

「対価は先払いする。この三枚だが説明はいるか?」

 『不要。希少な対価に値する情報を伝えよう。ただし欲してる情報かの保証はできない』

 手に入れた大きさは憧れか欲望かアイテムを《鑑定》したので効果は分かるが、かつての所有者が手放した理由や、副作用や注意など知っている事を聞いた。

 使用の際の注意は、他の装備する種のアイテムと同様、長時間使用での魔力消費で起きる、魔力が枯渇して意識を失う危険性。
 そして使用者の願望が強過ぎ、欲望が己を狂わせる事。
 心を制御できぬと欲望に飲み込まれ、いずれは己だけではなく、周囲の者を巻き込み身を滅ぼす。
 これはカズが入手した、大きさは憧れか欲望か、だけに起きる事ではないと、知性ある本インテリジェンス・ブックは付け加えた。
 
 そして大きさは憧れか欲望かアイテムが人手に渡り、数倍数十倍になるという効果だけが伝わり今に至る。
 長期に渡り使用していれば、自ずと使い方を覚える。
 使用者の魔力量と魔力操作が必要から、一人が長い間所有する事はない。
 数ヶ月所有する者も居たが、記録上では殆んどが数日続けて使う事が出来れば良い方だった。
 それが都合の良い効果だけが伝わり、双塔の街の開拓時に、冒険者ギルドが所有した事で一部の効果が明らかになると、冒険者ランクによって使用制限がされた。
 そして何時の間にか必要とされなくなると古道具屋に並び、人から人へと渡って第五迷宮フィフス・ラビリンス内へと。

 『以上が対価としての情報となる。これ以上求めるのならば、検索する内容を詳しく要求する』

「だいたい聞けたから、とりあえずはそれでいい。あとは使用するレラの質問に答えてやってくれ」

 『承知。質問があれば答えよう』

 入手する前から思っていたのか、レラはちょこっと考える素振りを見せて質問する。

「カズが持ってる大きさは憧れか欲望かそれを使うと、あちしはどんな風に大きくなるの? 急にでっかくなっちゃうの? それともちょっとずつなの?」

 『その質問では、どちらでもあり、どちらでもないと答える』

「何それ。分からないって事なの?」

 『肯定でもあり、否定でもあると答える。それは使用者の魔力量であり、魔力操作の精密さによる。瞬時に大量の魔力を使用することにより、瞬く間に数倍から十数倍大きくなる事が出来るだろう。ただし急激な変化は、身体に掛かる負担も大きくなる』

「最初はちょっとだけ大きくなって、少しずつならして方がよさそうだな」

 『連続使用での魔力枯渇は、生命活動の危険を伴う。使用しない場合は、肌身から離しておくことを推奨する』

「大丈夫なの? カズ」

「なれるまで…いや、なれても一人の時は使わないようにすればいい。何か変だと感じたら、レラから取り上げるように、アレナリアとビワに言っておけば大丈夫だろう。と、思うんだが?」

 『使用したレラの状態にもよる。魔力の供給先が突然消え、行き先を失ったその魔力を制御できなければ、身体に影響を及ぼ事もあるだろう。記録に残っている使用した冒険者には、数ヶ月魔力を感じる事が困難になり、狩人が狙う獣や低位のモンスターを討伐するのすら難しくなった』

「なんか使うのが、ちょっと怖いんだけど。ねぇカズ、本当に大丈夫なの」

「……」

「黙らないでよ、カズ! スゴく不安なんだけど!」

「万…億が一起きても、ケガさせないように努力するよ」

「そこはケガさせないって言いきってよ! ちょっとでもケガしたら、責任とってよね」

「責任て、俺に何をしろと?」

「死ぬまであちしを養って、愛してよね!」

「……ん? それって、何も変わらなくないか。養うのは今まで通りだし、愛してって言うが、レラとも結婚したんだよな。だったら愛し…なんで赤くなってるんだ?」

「だ、だってさ、カズがあちしに愛してるだなんて、恥ずかしげもなく……」

「レラが言いだしたことだろ(恥ずかしげもなく風呂に入って来てたのに、今さらその反応かよ)」

 何時もはからかいながら平気で、好きとか愛とかエロとか言うのに、それが自分自身に向けられ、レラは初心うぶな少女のように照れる。

 『やはりお前達を観察するのは興味深い。結果がどうであれ、再度訪れる事を期待する。その時の対価は不要』

 もう教える情報はないのか、はたまたその必要はないのか、知性ある本インテリジェンス・ブックは会話を終わらせようとする。

「なんかあたしらに出てけって言ってない」

「言ってはないな。書いてるから」

「そういう意味じゃ」

「冗談だ。俺が対価として渡したトレカを調べたいんだろ。違うか?」

 『肯定。未知の魔法が込められたカードの解析は、至高の時間となるだろう』

「期待に値するかは保証しないからな」

 『どれだけ年数が掛かろうと、調べ解析する。それが知識を追い求める亡き主キルケの考え。それに長い年月をこの部屋だけで過ごすには、新たな刺激が必要』

「引きこもりの研究者みたいな事を。まぁいい。とりあえず聞きたいことは聞いた。あとは実際に探り探り試してみて判断する。それでいいかレラ?」

「カズに任せるよ。使ってみないことには、わからないんでしょ」

「そういうことだ。ってことで、俺達は行くことにする。その方がいいんだろ。トレカそれを調べたいインテリジェンス・ブックお前には」

 『肯定。話が早く良好』

「欲しいものを手に入れ、情報を与えたからとっとと出て行けって。まるでたちの悪い商人みたい」

「たしかにそうだが、色々と知らない情報を教えてくれるんだから、そんなに文句を言ってやるなよ」

 会話で使う白紙の本に早く出て行けとは書いてないが、知識ある本インテリジェンス・ブックとした話の内容から その様に取れるとレラは言い、カズも同じ様な考えを抱いた。
 何はともあれ、結局は実際に試してみないと、聞いたただけじゃ今一つ、というのが結論だった。
 あと少しで帝国を出て行くので、次訪れるとしても、おそらくは何年も先になるだろうと伝え、カズとレラは隠し部屋を出る事にする。
 空間転移魔法ゲートを使用したところで、ふと思い出す。
 以前カズの所有するインテリジェンス・ブックアーティファクトの古書に、知識を分け与えてくれた事で、双塔の街の第五迷宮フィフス・ラビリンスで役に立った事の礼を言い、隠し部屋を後にする。

 隠し部屋に入る際に、殆んど人の来ないカビ臭い古本屋が建ち並ぶ裏路地を中継場所にしたので、レラが隠し部屋から出てすぐに、早く離れようと鼻を押さえて要求してきた。
 カズは再度空間転移魔法ゲートを使い、帝都南部のフジが住む林に移動した。
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