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五章 テクサイス帝国編 1 大陸最大の国

438 捕らえた者達の処罰

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 それから五日後の昼過ぎ、捕らえた者達を聴取した資料の束を持ち、ニラがメリアスの家にやって来た。
 アレナリアはレラとビワとクルエルに、二階に居るようにさせた。
 リビングルームには通されたニラの他には、アレナリアと家主のメリアスとカズの三人。

「あなたが来たってことは?」
 
解決した。と、言っておく」

 ニラがバッグから書類の束を出し、それに目を移して聴取と調査した内容の一部を話す。
 手配されていた暗殺者のアヘンとロイドは、魔導列車が開通しているクラフトから兵士が来るまで、冒険者ギルドの牢に監視付きで厳重に捕らえられている。
 熊の獣人は大峡谷方面の開拓地で、罪人奴隷として最低五年間の強制労働をかせられる事が決まったと。

 そして暗殺者三人を使い、クルエルを拐わせた主犯だが、聴取の最中に歯に仕込んでいた毒を使って自殺をはかり、現在も昏睡状態。
 ギルドマスターが不在の間に、噂程度の事だと判断を誤り、ギルドは後手後手に回ったあげく、聴取中主犯に自殺を図られる始末。
 生きてはいるが、意識を取り戻すかは不明。

 ニラは苦い顔をして、自分の恥を隠さず話す。
 それが狙われたクルエルと瀕死のメリアスを助け、ギルドの評価を下げずに済んだ、せめてものお礼と償いだと言った。

 なぜなら既に暗殺者が街に潜入した事や、住人が被害にあった事などが噂として広まってしまっているからだった。
 幸いな事に、狙われたのがクルエルであるのは知られておらず、今回の暗殺者を捕らえ解決に導いたのは、兵士ではなく冒険者ギルドだと言われているからだった。
 実際にカズはなのだから間違いではないが、ニラの内心では納得してない。
 現在いまの冒険者ギルドの責任者として、カズには感謝の意を示さなければ、体裁を保つのに感謝した。
 だがやはり気に食わないらしく、その表情は苦々しいものだった。

ニラあなた本当に感謝してるの?」

「ギルドとしては感謝してる。としてはね」

 ニラの態度を見て、アレナリアだけではなく、メリアスも若干気分を悪くする。

「指示を出してた主犯と暗殺者の三人は、セテロンから流れて来たって事でいいのよね?」

セテロンだった国ね。本人達は自白してないけど、暗殺者は手配されてたから、流れてきた場所は明らか。主犯の男に関しては不明。国が潰される前に、ここまで逃げ出して来たんじゃないかと。得た情報からわたしが推測した」

「あながち間違ってないかも知れませんね。今回の暗殺者連中と一緒に大峡谷を渡って来た可能性もあるか─」

「知った風な口を」

「─と……(俺が答えるとこれか。メリアスさんが同席してるのに、よくそんな態度取れるもんだ)」

「ずっと見てはりましたが、ニラはんに不愉快な思いをさせる事を、カズさんがしたんですか?」

 流石の態度に、メリアスが声を上げた。

「別に何かされた訳ではないんだが」

「でしたら、その態度はあんまりやと思います」

「私も同感」

 アレナリアもメリアスに同意し、ニラを睨み付ける。

「……悪かった。色々と失敗続きでイライラしてたんだ。これからは気を付ける様にする(今は一先ず謝っておこう)」

 謝罪はするものの、それはカズに対するものではなく、気分を害したメリアスとアレナリアに。

「私達じゃな…」

「おっと、もう時間か。報告は以上だ。もう明日からは仕事に出ても大丈夫。危険も無くなったから交代で来てた冒険者と兵士も、先程護衛を終えてもらった」

 ニラはそそくさと持ってきた書類の束をバッグに詰め込む。

「わたしはもう失礼する。カズは四日後ギルドに来ること。いいね」

 言いたい事だけを早口で言い終えたニラが、逃げるようにしてメリアスの家を出てギルドに戻って行く。
 あまりの事にアレナリアは開いた口が塞がらなくなった。

「アレナリアさん。口が開きっぱなしになっとりますよ」

「! もう、なんなの。あれでよくギルドに苦情が来ないわね。ギルマスがよっぽど信頼のおけるのかしら?」

「お世話になった人やから我慢しとりましたけど、うちの糸でぐるぐる巻きにして、外に吊るしてやろうかと思いましたわ」

「やっても良かったのに。抵抗するようなら、私も協力したわ」

「二人共物騒なことを言わないの。あれくらい俺はなんともないから。それよりパフさんの所に行かないか? メリアスさんとクルエルさんの無事な姿を見せれば安心するでしょ」

 ぷりぷりとする二人をなだめ、顔を見せに全員でパフ手芸店に行くことにした。
 クルエルが家を出るのを怖がり躊躇っていると、アレナリアとメリアスが外から呼びかけ、ビワとレラが手を引く。
 勇気を出しクルエルは外に出る。

 パフ手芸店に着く頃には外を歩くのにも慣れ、パフとグレーツとプフルの顔を見て、数日前まで通っていた仕事場だと喜ぶ。
 クルエルはパフに挨拶をすると、グレーツとプフルの居る奥の部屋に、ビワとレラと一緒に移動する。
 その間にアレナリアとメリアスが、ニラから聞いた内容をパフに話す。

 パフの店で一時間程過ごしてから、メリアスの家に戻った。
 クルエルの願いもあって、アレナリアとビワとレラは、もう少しメリアスの家に泊まることになった。


 それから毎日送り迎えはアレナリアとカズが付き添い、カズはパフ手芸店の近くで待機して護衛を続ける。
 アレナリアは今まで通り、一日で終わる依頼をギルドで受けていた。

 そして四日後パフ手芸店にビワとクルエルを送り、アレナリアをそのまま居させて、カズは重い足取りでギルドに向かった。
 まだ数回しか来てないバイアステッチの冒険者ギルドで、サブ・ギルドマスターのニラに呼ばれたと受付で言うと、三階に行くように指示され階段を上る。
 執務室の扉が開けたままにされ、中に居るサブ・ギルドマスターのニラがカズに気付き手招きをする。

「どうも(今度は何を言われるやら)」

「挨拶はいいから早く入りなさい。扉は閉めなくていい」

 更に重くなる足を(実際に重くはないのだが)一歩一歩進めカズは執務室に入る。

「あんたらのパーティー名の事だが、信じた…られないが確認が取れた。守護者の一人であるグリズの名を汚さぬように、疑われるような行動はこれからしないこと」

「はあ(そんな行動はしてなんだけど)」

「話は以上。もう行っていいぞ」

「そうですか。失礼します(突っ掛かっても面倒になるだけ。早く出て行こう)」

 ものの一分程で用件が終わり、ニラに厄介払いされる。
 バイアステッチでは冒険者ギルドとの付き合いを、アレナリアに任せてあったので、カズは依頼を受ける気にならなかった。
 ギルドを出たカズは、皆の居るパフ手芸店に戻って行く。

 数日閉めていた事で、パフ手芸店には常連のお客や、同業者が心配して毎日入れ替り立ち替り訪れていた。
 カズが冒険者ギルドからパフ手芸店に戻ると、三人の常連が来ており忙しそうだった。
 表から入るのは邪魔になると、カズは裏口から店に入る。

「忙しそうだな」

「カズ!? やけに早いけど、ニラは留守だったの?」

「いや、会ったよ。パーティー名の確認が取れたって」

「それだけ?」

「グリズさんの名前を汚さないように、疑われるような行動はするなってさ」

「は? 何それ? 私ちょっと行ってく…」

「待った!」

 喧嘩腰の姿勢で、裏口から出て行こうとするアレナリアをカズが阻止する。

「離してカズ。あのサブ・ギルドマスターバカサブに、一発撃ち込んでやる」

「落ち着けアレナリア。俺だってイラっとしたが、突っ掛かるとまた面倒になる。だから何も言わず黙ってたんだ」

「……ふぅ。そうね。カズが我慢してきたのに、私がやったら駄目ね」

「これで俺への疑いも晴れたろ」

「ええ。でももし、何かまだ言ってくるなら、問答無用で」

「気持ちはわかるが、とりあえずは話し合いで解決しよう」

「っ……今回は我慢する」

「今回は。かよ(俺じゃなくて、アレナリアが問題を起こしそうだ)」

 冒険者ギルドでの内容をアレナリアに話してる最中も、ビワとプフルは数日店を休んだのを挽回しようと、縫いの手を止めずに、せっせと働いていた。
 ビワとプフルは仕事に集中し、二人のやり取りが耳に入ってなかった。
 レラにいたっては、自分用に作ってもらったクッションを枕に、すやすやと気持ち良さそうに寝ていた。
 まだ昼前だというのに。
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