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四章 異世界旅行編 2 トカ国

365 とんだ運搬依頼 と お礼の一枚

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 ◇◆◇◆◇


「ちょっと寝相悪いわよレラ」

 自分の顔に足の裏を押し付け寝るレラを、アレナリアは押し退ける。

「まだ眠……じゃない! あれ? なんで馬車で? 確か歌が聞こえてそのまま……カズの声がする」

 飛び起き馬車から降りて甲板を見渡しすアレナリア。
 運搬船の隣に停まっている船の上で、カズと乗組員が話しているのが目に入った。
 アレナリアが起きたのに気付いたカズが、乗組員との話を終えて運搬船に移る。

「何があったの? 昨夜のゴーストは?」

「盗賊の仕業。もう全員縛り上げてあそこに。街に着いたら乗組員が国の兵士に突き出してくれるって」

「セイレーンは?」

「知ってたんだ」

「気付くのが遅くて、眠らされちゃった。ごめんなさい」

「大事にはならなかったから別にいいよ。それとそのセイレーンならもういないよ」

「逃げられたの?」

「違う違う」

 カズはアレナリアに昨夜の出来事を簡潔に話した。

「そういうことで、ローラは盗賊に捕まって、利用されてた被害者だったんだよ」

「ローラ?」

「言うの忘れたけど、捕まってたセイレーンの名前だよ。知ったのは今朝なんだけど」

「今朝? そのローラってセイレーンは、助けてくれたカズに感謝もせずにどっか行っちゃったんでしょ」

「その時はね。実は─」


 《 二時間前 》


 明け方になりカズが目を覚ますと、去って行ったセイレーンが船の近くに戻って来ていた。
  目を覚ましたカズは近付くその気配に気付き、沖に顔を向けた。
 すると捕まっていたセイレーンが、水面に顔を出した。

「わたし『ローラ』助けてくれたお礼言ってなかったから。あ…ありがとう」

「どういたしまして。わざわざそれを言いに戻ってきてくれたんだ」

「……うん」

「そうか、ありがとう。元気でな、もう捕まらないように気を付けて」

 優しくカズに微笑むと、ローラは握っていた物をカズに投げる。
 投げられそれを掴み取り、手の中の小さな物を見る。
 それは深い青色から浅い青色に、角度を変えると蒼色へと変化し、色彩見事な一枚の鱗。

「あげる。それ怪我した時に剥がれた、わたしの鱗」

 それだけを言うと湖に潜り、今度こそ本当に去って行った。


 《 そして今現在 》


「─と、まぁそんな感じ」

「きっと盗賊から暴力を受けた時に剥がれなたのね。セイレーンの鱗はとても貴重な物だから、とっさに隠したんだわ」

「そうなのか?」

「ええ。高価なアクセサリーに使われたりすることもあるそうよ。昔はセイレーンの鱗を手に入れるのに、権力者が腕の立つ人を雇って捕まえてたって、前に本で読んだことあるわ。セイレーンの鱗は、本人から剥がれると美しく輝くんですって」

「鱗目的で捕まえるのって、今でもあるのか?」

「どうかしら? ただ今回の盗賊は大したことない連中だったみたいね」

「ああ。Cランクの冒険者崩れだから、ヤクとアスチルの二人と同じくらいかな」

「だからね。セイレーンの鱗の価値を知ってれば、売り飛ばすか最悪の場合は、鱗を剥ぎ取ったら回復してまた剥ぎ取る。それを死ぬまで繰り返し……」

「酷いもんだな」

「昔の事よ。今はない……なんて言えるか分からないけど、そのローラってセイレーンはカズを信用したのは間違いないわよ。渡された鱗がその証拠」

「だな。大事にしないと。あ、ローラがどうやって捕まったのか聞いてないや」

「Cランク程度の盗賊に捕まるなんて、レラみたいに昼寝でもしてたのかしら」

「まさか、そんなわけないだろう。きっと友達を庇ったとかしたんだよ」

「ふ~ん。その優しさで、今度はセイレーンをたらし込むのね」

「込まねぇよ!」

「冗談よ。冗談」

「そういう冗談はよしてくれ(これ以上のハーレムフラグは必要ない。俺にそれを扱える度量もないんだから)」

「しかしとんだ運搬依頼ね。護衛どころか討伐依頼の間違いじゃない。今回は完全に一杯食わされたわね。カズからハイロの話を聞いて、そんな気がしてたのよね。ギルドに着いたらハイロの名前を出して、追加報酬を貰わないと」

「今回はたまたまこの船が狙われただけなんだから、そこまでしなくても」

「たまたま? 違うわね。グリズの手紙を読んた時から、この依頼を受けさせることを考えてたのよ」

「まさか」

「いいえ、そうに決まってる。パーティーランクが低いんだから、ギルド的には受けさせるわけないのに、サブマスの権限でトンネルを通るヒューケラの護衛依頼をさせたんだから」

「考え過ぎじゃないか? もしそうだとしても、こっちもそのつもりはあったろ。グリズさんの称号を知っても、付けられたパーティー名をそのまま使ってるんだから」

「それは……まあ、そうだけど」

「不満なら追加報酬の件はアレナリアに任せるよ。一応、幾つか盗品を回収しておいたから、それをギルドに渡せば嫌な顔はしないだろ」

「さすがねカズ。でももし渋るようだったら、その盗品は私達が報酬代わりに貰いましょう」

「それだと盗まれた側がかわいそうだろ」

「ギルドが渋ったらの話よ。ところで昨夜の霧とゴーストはなんだったの?」

「幽霊の正体は、盗賊の船にあったアーティファクト」

「あれはアーティファクトの効果だったの! なら納得。アーティファクトは不明な物が多いから」

「確かに(残留思念を見ることができるスゴい物なんて作ったのに、なんでそれが貝なんだ? 面白いけど)」

 全てが夢だったかのように思える幽霊騒ぎの一夜が明け、運搬船は島を離れ目的の港を目指す。
 昨夜騒ぎだし、アレナリアがスリープで寝かせた怪力千万の従業員は、全て夢だと思っていた。
 空気を読み他の人達も、昨夜の事はこと黙っていた。

 盗賊が乗っていた船は、運搬船の乗組員が操縦していくはずだったが、燃料魔力不足で目的の港まで持たないとのことだった。
 運搬船で引っ張っていくと、今度は運搬船が目的の港まで持たないと、話し合いの結果カズが盗賊の船を操縦して行くことになった。
 乗組員が船を調べると、蓄えられてた燃料が殆ど無く、運搬船と一緒に行くのであれば、燃料魔力を補充しながら船を動かすしかない、と。
 操縦席の舵に魔力を流せば、船の燃料推進力を作り出すことが出来る仕組だと、運搬船の乗組員に教えられた。
 ちなみに船を操縦する資格のようなものはなく、必要なのは経験と緊急時に動かせるための魔力量だと。
 船を操縦した経験のないカズは、運搬船から距離を取り動かし始めた。
 最初は蛇行しながらもゆっくりと動かした。
 徐々に慣れて、三十分もすれば動かすのは思いのまま。
 昼頃になると風が弱まり帆がたるむ。
 目的の港まであと少しだからと、カズの操縦する船で運搬船を牽引して行くことになった。
 承諾したカズだが、一人だけこんなに働かせられるのなら、やっぱり追加報酬をもらっても良いだろうと考えるようになった。
 アコヤ港を出てから四日目の夕方、色々とあったが、予定の日程と大差なく目的の港に到着。
 盗賊は港を警備する国の兵士に、運搬船の乗組員一人が知らせに向かい、怪力千万の従業員と依頼を受けてきたカズ達と、ヤクとアスチルの二人が荷物を運搬船から陸へと下ろし、港近くの倉庫に運ぶ。

 ギルドへの報告は翌日にして、この日は怪力千万が保有する倉庫で、ヤクとアスチルの二人と一緒に一夜を過ごすことになった。
 一応まだ依頼の最中ということで、二人に食事を出すという約束は継続していると考え、カズは二人にも遅い夕食を振る舞った。


 ◇◆◇◆◇


 翌朝、倉庫を出発する前に怪力千万のダンベが話があると顔を見せた。
 内容はアコヤ街の冒険者ギルドで、サブ・ギルドマスターのハイロから、幽霊が出る濃い霧に接触しそうな船に対処出来るだろうパーティーを行かせた、と連絡が来ていた事についてだった。
 問題の霧と接触する可能性が高いと知りながら、それを伝えなかったことをダンベは謝罪した。
 アレナリアは怒り文句を言う。
 カズも少しは文句言おうと思っていたが、アレナリアが代わりに言ってくれたことでスッキリして、ダンベの謝罪を受け入れてアレナリアを落ち着かせた。
 アレナリアはまだ言い足りなそうにしていたが、カズがもう黙らせた。
 それは話の内容が依頼内容を黙っていた文句から、カズと二人っきりになってキス出来るチャンスを潰されたことに、話が変ってただの愚痴になっていたから。
 そのゴツい体型が小さく見える程背中を丸め反省したダンベに声を掛け、アレナリアが言い過ぎたとカズがお詫びした。
 今回の功労者であるカズの言葉を聞き、少し元気を取り戻したダンベは、問題になっていた霧と幽霊の件を解決してくれた事に感謝をして別れた。
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