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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影
227 探し人は、彼女?
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適当にあるものを食べたカズは、レラの朝食の支度をしてから、ギルドへと向かった。
ギルドに着くと、貼り出されている依頼を確認する。
「近場の依頼をあまり受けるなよ。新人やランクの低い連中のできることが減るからね」
「イキシアさん! どうも(最近よく話し掛けてくるな)」
「なんだ、ワタシが声を掛けると迷惑か? まあ、以前のワタシがカズに対しての接し方を考えれば仕方ない事だろうけどね」
「正直言うと、まだ少し苦手意識があります」
「はっきり言うわね」
「すいません。ところで朝の混むこの時間帯に、ここに居て良いんですか? しかも一冒険者に過ぎない俺に話し掛けて、サブマスが贔屓してると思われますよ」
「昨日トレニアに注意した事をワタシに言うのね。それに何が一冒険者よ。あんな家に住んで、強力なモンスターまでテイムしておいて」
「ぅ……」
「まぁ良いわ。ワタシはただ初心に戻って、若い冒険者達と話をしたいから、ここに居るのよ。もちろん女性だけじゃなくて、男の冒険者にもよ」
「そうですか(丸くなったというか、人が変わったみたいだ)」
「それで今日は、何か依頼を受けるの?」
「期限がギリギリの依頼もないようですから、今日は帰ります」
「そう。また残ってる依頼を見つけたら、よろしく」
「はい。分かりました。それでは失礼します」
カズがギルドを出て行くと、イキシアは周りに居る冒険者達と気さくに話をしていた。
今日一日暇が出来たカズは、甘い物を食べたいと騒ぐであろうレラを、どうするものかと考えながら家に戻る。
「『カズが帰ってきた』」
「フジは今日も元気だね」
「『うん。僕、元気! 今からお母さんと狩り行くの』」
「そうか。昨日はあんまり獲れなかったようだしね。狩の時間も短かったから」
「『ええ。森の中で獲物を狩るのは、フジはまだ苦手みたい。慣れるまで森で狩をするのもいいけど、たまには獲物を獲らせないと、勘が鈍ってしまう。だから今日は、広く見渡しの良い所に行ってくるわ』」
「そうか。狩る獲物は食べれるだけにしとけよ。あと誰かが困ってたら助けてやってくれ」
「『毎回言わなくても分かってるわ。さぁフジ坊、行きますよ』」
「『は~い。行ってくるよ。カズ』」
「ああ、いってらっしゃい」
「『そうだわ。最近またここを、監視してる連中がいるから気を付けて』」
「分かった。ありがとうマイヒメ」
マイヒメとフジは翼を大きく羽ばたかせ、一気に上昇していく。
監視かぁ、侵入されたことを考えて、鍵となる本に記されてた効果を使用したり、対策の魔法を付与したから、ある程度は大丈夫だと思うけど、常時の魔力消費が多いからな。
この状態を維持するためには、たまに地下部屋の水晶に魔力を補充しないと、自動で吸収されてる分だけじゃ、少し足りないし。
吸収する魔力を俺だけに設定してるから、数日留守にするとかなり減るから、気を付けないとならないから。
色々と便利なようで、不便でもある。
確かに魔力量が多くないと、住みにくい家だよここは。
家の中に入ったカズは、地下にある部屋に転移して、鍵となる本に書いてある魔法に対する障壁を『3』から『4』に上げた。(最大5)
消費する魔力量が増えたので、一度魔力を補充するため、カズは台座にある水晶に手を触れ魔力を流した。
水晶に魔力が満たされたのを確認すると、地下の部屋から転移して出る。
「あ! 見つけた。どこに居たのよ。今、変な感じがしたんだけど、カズは気付かなかった?」
「地下で魔力を補充してたから。それで変な感じってどんな?」
「う~ん……周囲のマナが揺れるっていうか……ほんの一瞬だったから」
「レラ、酔ってる?」
「ムカッ! 酔ってなんかないもん!」
「冗談だよ。もしかしたら障壁を強化したから、その影響かも」
「でも今までそんな事ならなかった……障壁の強化? 何かあったの」
「最近また監視してる連中が居るみたいだから、念の為にね。だからレラも気を付けて。もし今みたいに少しでも気になった事があったら、なんでもいいから一応言って」
「ええ良いわ。でも気を配ると疲れるのよ。だから」
「おやつか?」
「分かってるわね。もちろんあま~いの」
「はいはい(このままだと本当に、その内に飛べなくなって、背中の羽が飾りになりそうだ)」
「あ~あ。キウイ達、今日来てくれないかな。せっかくクリームがあるのに、食べられないなんて」
チラチラとカズを見ながら、聞こえるように言うレラ。
「そんなに見ても、ダメだから」
「分かってますよ~だ! ふんッ。昼寝でもしよ」
「フジ達も出掛けたから、そうしな」
レラは頬を膨らせたまま、自分の部屋に戻っていった。
キッシュとアレナリアの二人は食いしん坊で、クリスパは酒好き、レラは甘い物専門の食いしん坊か。
そういえば新年にリアーデに行っただけで、最近ご無沙汰してるしな。
たまには顔を見せに、でもクリスパがまたお酒を要求してきそうだし、どうするかなぁ。
クリスパ……そうだクリスパだ!
「レラ。ちょっと出掛けてくるから(違うかも知れないけど、一応本人に聞いてみよう)」
「は~い。いってらっ」
そうだ、マイヒメ居なかったんだ。
仕方ない、久々にあれで行くか、その方が早いしな。
「〈ゲート〉」
リアーデ近くにある、長い草が生い茂った場所に転移したカズは町へと入り、冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると、受付に居ると思われるクリスパを探しが見当たらず、他の職員に尋ねた。
すると昼の休憩で出ていると聞き、カズはココット亭に向かった。
中央広場を通り抜け、ココット亭に入り食堂の扉を開けると、予想通りクリスパが昼食を取っていた。
「カズ兄ぃ!」
「やぁキッシュ」
「ふぁらカフはん」
「口の中のを飲み込んでから喋ろうよ」
クリスパはコップを口に運び、ゴクリと口の中に入ってるものを飲み込む。
「急にカズさんが入ってきたから」
「久しぶりだねカズ兄。遊びに来てくれたの? アレナリアさんは一緒じゃないんだ」
「今日はクリスパに用事があって来たから」
「私に?」
「ちょっと聞きたいことがあって。あ、食べながらでいいから」
クリスパの向かい側の椅子に座り、王都で会った老夫婦のことを話した。
「カズさんの話を聞いただけでは、確信は持てないわね。孤児を引き取り育ててる老夫婦ってだけではね」
「そうか。探し人の名前を覚えてればよかったんだけど」
「さて、私はそろそろギルドに戻らないと」
「じゃあ送ってくよ。またねキッシュ」
「うん。今度はゆっくりしていって」
ココット亭を出て、ギルドへと戻っていくクリスパにカズが付き添う。
「ねぇクリスパ」
「なぁに?」
「これから少し時間とれないかなぁ?」
「これから? 少しくらいなら大丈夫だけど」
「なら王都に行って、老夫婦に会ってみないか?」
「そうね……うん。会って確かめる方が確実よね。分かったわ。でも一度ギルドに行って、少し空けることを言ってこないと」
「じゃあ俺は、そこの広場で待ってるよ」
「ええ。ちょっと行ってくるわ」
ギルドに走って行き、少し出掛けると受付の職員に言伝すると、クリスパはすぐにカズの待つ広場に戻ってきた。
「じゃあ一旦、クリスパの家に行こう。そこから王都に」
「え! 私の家に」
「今日はマイヒメに乗って来たんじゃないんだ。だから人に見られないように、クリスパの家からゲートで」
「そ、そう」
クリスパの家に着き中に入ると、前に入ったときのような状態(散らかってる)になっていた。
「……またキッシュと片付けに来ないと」
「か、帰って来たら自分でやるからいいわよ! それより早く行きましょう」
「本当かな?」
「何よその目は? さぁ早く。そっちは見なくていいから!」
「……〈ゲート〉」
二人はゲートを通り、王都にあるカズの家に転移した。
「いつ来てもここは、広いし片付けられていて良いわねぇ」
「広いのはともかく、片付ければクリスパ家だって、住むには十分だと思うけど」
「どうも一人だとね。カズさんが転移で毎日送ってくれれば、私もここに住めるんだけどなぁ」
「ほら冗談言ってないで、早く行こう」
「分かったわ(ちょっとは本気なんどけど)」
カズが老夫婦に聞いた話をクリスパにしながら、二人が住む建物に案内をする。
「ここだよ」
「ちょ、ちょっと待って……」
先程までの表情とはうって変わり、クリスパは緊張していた。
ゆっくりと深呼吸をして、こわばった表情を和らげて、心を落ち着かせようとする。
「大丈夫?」
「……ええ、もう大丈夫よ」
いつもの表情に戻ったクリスパと共に、老夫婦が住む建物へと入る。
カズが老夫婦に、聞いていた話と同じ様な境遇のクリスパを紹介した。
三人は顔を合わせると、まさかという表情をしていた。
そのあと各々の知る事を話し照らし合わせることで、お互いが知る人物だと確証したようだ。
老夫婦は名前を聞いたときから、曖昧だった記憶の糸がほどけ、話をする度に思い出していった。
三人は再開を喜んだ。
ギルドの仕事があるクリスパは、すぐに戻らなければならなかったが、もうお互いの所在が分かったため、別れは悲しくなかった。
カズに頼めば、いつでもすぐに会えるのだから。
クリスパをリアーデに送るため、一旦カズの家に戻る。
「ありがとうカズさん。まさか会えるなんて」
「クリスパが話してた人達だと分かってれば、もっと早くに会わせることができたんだけど」
「ううん。再開できただけとっても嬉しいわ」
「会いたくなったら、いつでも迎えに行くから。クリスパの家になら転移しても目立たないからね」
「ありがとう」
カズの家に着く手前で、周囲のマナが一瞬揺らいだ。
「なんだ今の? レラが言っていたのはこれか。クリスパは感じた?」
「……」
「クリスパ?」
「え、だ……カズさん?」
「どうしたの?」
「なんでもない。ちょっと、もう大丈夫」
「そう(さっきのはなんだったんだ? レラは感じたか、あとで聞いてみよう)」
家に着いたカズは〈ゲート〉で、クリスパをリアーデに送る。
「カズさん。ちょっと耳かして」
「耳? 小声で話さなくても、別に誰にも聞こえないと思うけど」
カズはクリスパの方に右耳を向け、顔を少し傾ける。
するとクリスパは、カズの頬に軽くキスをした。
「な……」
「お礼よ。それとも口の方が良かったかしら?」
「く…ち…」
「うふふ、冗談よ。赤くなっちゃって、かわいい。今日はとても幸せな日だわ。本当にありがとう」
ギルドに着くと、貼り出されている依頼を確認する。
「近場の依頼をあまり受けるなよ。新人やランクの低い連中のできることが減るからね」
「イキシアさん! どうも(最近よく話し掛けてくるな)」
「なんだ、ワタシが声を掛けると迷惑か? まあ、以前のワタシがカズに対しての接し方を考えれば仕方ない事だろうけどね」
「正直言うと、まだ少し苦手意識があります」
「はっきり言うわね」
「すいません。ところで朝の混むこの時間帯に、ここに居て良いんですか? しかも一冒険者に過ぎない俺に話し掛けて、サブマスが贔屓してると思われますよ」
「昨日トレニアに注意した事をワタシに言うのね。それに何が一冒険者よ。あんな家に住んで、強力なモンスターまでテイムしておいて」
「ぅ……」
「まぁ良いわ。ワタシはただ初心に戻って、若い冒険者達と話をしたいから、ここに居るのよ。もちろん女性だけじゃなくて、男の冒険者にもよ」
「そうですか(丸くなったというか、人が変わったみたいだ)」
「それで今日は、何か依頼を受けるの?」
「期限がギリギリの依頼もないようですから、今日は帰ります」
「そう。また残ってる依頼を見つけたら、よろしく」
「はい。分かりました。それでは失礼します」
カズがギルドを出て行くと、イキシアは周りに居る冒険者達と気さくに話をしていた。
今日一日暇が出来たカズは、甘い物を食べたいと騒ぐであろうレラを、どうするものかと考えながら家に戻る。
「『カズが帰ってきた』」
「フジは今日も元気だね」
「『うん。僕、元気! 今からお母さんと狩り行くの』」
「そうか。昨日はあんまり獲れなかったようだしね。狩の時間も短かったから」
「『ええ。森の中で獲物を狩るのは、フジはまだ苦手みたい。慣れるまで森で狩をするのもいいけど、たまには獲物を獲らせないと、勘が鈍ってしまう。だから今日は、広く見渡しの良い所に行ってくるわ』」
「そうか。狩る獲物は食べれるだけにしとけよ。あと誰かが困ってたら助けてやってくれ」
「『毎回言わなくても分かってるわ。さぁフジ坊、行きますよ』」
「『は~い。行ってくるよ。カズ』」
「ああ、いってらっしゃい」
「『そうだわ。最近またここを、監視してる連中がいるから気を付けて』」
「分かった。ありがとうマイヒメ」
マイヒメとフジは翼を大きく羽ばたかせ、一気に上昇していく。
監視かぁ、侵入されたことを考えて、鍵となる本に記されてた効果を使用したり、対策の魔法を付与したから、ある程度は大丈夫だと思うけど、常時の魔力消費が多いからな。
この状態を維持するためには、たまに地下部屋の水晶に魔力を補充しないと、自動で吸収されてる分だけじゃ、少し足りないし。
吸収する魔力を俺だけに設定してるから、数日留守にするとかなり減るから、気を付けないとならないから。
色々と便利なようで、不便でもある。
確かに魔力量が多くないと、住みにくい家だよここは。
家の中に入ったカズは、地下にある部屋に転移して、鍵となる本に書いてある魔法に対する障壁を『3』から『4』に上げた。(最大5)
消費する魔力量が増えたので、一度魔力を補充するため、カズは台座にある水晶に手を触れ魔力を流した。
水晶に魔力が満たされたのを確認すると、地下の部屋から転移して出る。
「あ! 見つけた。どこに居たのよ。今、変な感じがしたんだけど、カズは気付かなかった?」
「地下で魔力を補充してたから。それで変な感じってどんな?」
「う~ん……周囲のマナが揺れるっていうか……ほんの一瞬だったから」
「レラ、酔ってる?」
「ムカッ! 酔ってなんかないもん!」
「冗談だよ。もしかしたら障壁を強化したから、その影響かも」
「でも今までそんな事ならなかった……障壁の強化? 何かあったの」
「最近また監視してる連中が居るみたいだから、念の為にね。だからレラも気を付けて。もし今みたいに少しでも気になった事があったら、なんでもいいから一応言って」
「ええ良いわ。でも気を配ると疲れるのよ。だから」
「おやつか?」
「分かってるわね。もちろんあま~いの」
「はいはい(このままだと本当に、その内に飛べなくなって、背中の羽が飾りになりそうだ)」
「あ~あ。キウイ達、今日来てくれないかな。せっかくクリームがあるのに、食べられないなんて」
チラチラとカズを見ながら、聞こえるように言うレラ。
「そんなに見ても、ダメだから」
「分かってますよ~だ! ふんッ。昼寝でもしよ」
「フジ達も出掛けたから、そうしな」
レラは頬を膨らせたまま、自分の部屋に戻っていった。
キッシュとアレナリアの二人は食いしん坊で、クリスパは酒好き、レラは甘い物専門の食いしん坊か。
そういえば新年にリアーデに行っただけで、最近ご無沙汰してるしな。
たまには顔を見せに、でもクリスパがまたお酒を要求してきそうだし、どうするかなぁ。
クリスパ……そうだクリスパだ!
「レラ。ちょっと出掛けてくるから(違うかも知れないけど、一応本人に聞いてみよう)」
「は~い。いってらっ」
そうだ、マイヒメ居なかったんだ。
仕方ない、久々にあれで行くか、その方が早いしな。
「〈ゲート〉」
リアーデ近くにある、長い草が生い茂った場所に転移したカズは町へと入り、冒険者ギルドに向かった。
ギルドに入ると、受付に居ると思われるクリスパを探しが見当たらず、他の職員に尋ねた。
すると昼の休憩で出ていると聞き、カズはココット亭に向かった。
中央広場を通り抜け、ココット亭に入り食堂の扉を開けると、予想通りクリスパが昼食を取っていた。
「カズ兄ぃ!」
「やぁキッシュ」
「ふぁらカフはん」
「口の中のを飲み込んでから喋ろうよ」
クリスパはコップを口に運び、ゴクリと口の中に入ってるものを飲み込む。
「急にカズさんが入ってきたから」
「久しぶりだねカズ兄。遊びに来てくれたの? アレナリアさんは一緒じゃないんだ」
「今日はクリスパに用事があって来たから」
「私に?」
「ちょっと聞きたいことがあって。あ、食べながらでいいから」
クリスパの向かい側の椅子に座り、王都で会った老夫婦のことを話した。
「カズさんの話を聞いただけでは、確信は持てないわね。孤児を引き取り育ててる老夫婦ってだけではね」
「そうか。探し人の名前を覚えてればよかったんだけど」
「さて、私はそろそろギルドに戻らないと」
「じゃあ送ってくよ。またねキッシュ」
「うん。今度はゆっくりしていって」
ココット亭を出て、ギルドへと戻っていくクリスパにカズが付き添う。
「ねぇクリスパ」
「なぁに?」
「これから少し時間とれないかなぁ?」
「これから? 少しくらいなら大丈夫だけど」
「なら王都に行って、老夫婦に会ってみないか?」
「そうね……うん。会って確かめる方が確実よね。分かったわ。でも一度ギルドに行って、少し空けることを言ってこないと」
「じゃあ俺は、そこの広場で待ってるよ」
「ええ。ちょっと行ってくるわ」
ギルドに走って行き、少し出掛けると受付の職員に言伝すると、クリスパはすぐにカズの待つ広場に戻ってきた。
「じゃあ一旦、クリスパの家に行こう。そこから王都に」
「え! 私の家に」
「今日はマイヒメに乗って来たんじゃないんだ。だから人に見られないように、クリスパの家からゲートで」
「そ、そう」
クリスパの家に着き中に入ると、前に入ったときのような状態(散らかってる)になっていた。
「……またキッシュと片付けに来ないと」
「か、帰って来たら自分でやるからいいわよ! それより早く行きましょう」
「本当かな?」
「何よその目は? さぁ早く。そっちは見なくていいから!」
「……〈ゲート〉」
二人はゲートを通り、王都にあるカズの家に転移した。
「いつ来てもここは、広いし片付けられていて良いわねぇ」
「広いのはともかく、片付ければクリスパ家だって、住むには十分だと思うけど」
「どうも一人だとね。カズさんが転移で毎日送ってくれれば、私もここに住めるんだけどなぁ」
「ほら冗談言ってないで、早く行こう」
「分かったわ(ちょっとは本気なんどけど)」
カズが老夫婦に聞いた話をクリスパにしながら、二人が住む建物に案内をする。
「ここだよ」
「ちょ、ちょっと待って……」
先程までの表情とはうって変わり、クリスパは緊張していた。
ゆっくりと深呼吸をして、こわばった表情を和らげて、心を落ち着かせようとする。
「大丈夫?」
「……ええ、もう大丈夫よ」
いつもの表情に戻ったクリスパと共に、老夫婦が住む建物へと入る。
カズが老夫婦に、聞いていた話と同じ様な境遇のクリスパを紹介した。
三人は顔を合わせると、まさかという表情をしていた。
そのあと各々の知る事を話し照らし合わせることで、お互いが知る人物だと確証したようだ。
老夫婦は名前を聞いたときから、曖昧だった記憶の糸がほどけ、話をする度に思い出していった。
三人は再開を喜んだ。
ギルドの仕事があるクリスパは、すぐに戻らなければならなかったが、もうお互いの所在が分かったため、別れは悲しくなかった。
カズに頼めば、いつでもすぐに会えるのだから。
クリスパをリアーデに送るため、一旦カズの家に戻る。
「ありがとうカズさん。まさか会えるなんて」
「クリスパが話してた人達だと分かってれば、もっと早くに会わせることができたんだけど」
「ううん。再開できただけとっても嬉しいわ」
「会いたくなったら、いつでも迎えに行くから。クリスパの家になら転移しても目立たないからね」
「ありがとう」
カズの家に着く手前で、周囲のマナが一瞬揺らいだ。
「なんだ今の? レラが言っていたのはこれか。クリスパは感じた?」
「……」
「クリスパ?」
「え、だ……カズさん?」
「どうしたの?」
「なんでもない。ちょっと、もう大丈夫」
「そう(さっきのはなんだったんだ? レラは感じたか、あとで聞いてみよう)」
家に着いたカズは〈ゲート〉で、クリスパをリアーデに送る。
「カズさん。ちょっと耳かして」
「耳? 小声で話さなくても、別に誰にも聞こえないと思うけど」
カズはクリスパの方に右耳を向け、顔を少し傾ける。
するとクリスパは、カズの頬に軽くキスをした。
「な……」
「お礼よ。それとも口の方が良かったかしら?」
「く…ち…」
「うふふ、冗談よ。赤くなっちゃって、かわいい。今日はとても幸せな日だわ。本当にありがとう」
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