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三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

226 仕入れ と 広がる名物

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 家に到着すると既にフジは起きており、庭をトコトコと歩き回っていた。

「『お母さん、カズ戻ってきたよ』」

「お待たせ。出発できそう?」

「『ええ。いつでも』」

「なら行こう。あと他に用事もできたから、途中にある村の近くで一度降りてくれ。荷物を届けるだけだから、大して時間はかからない」

「『分かったわ。さあフジ坊、行くわよ』」

「『は~い。あれ、レラは?』」

「レラは寝てる。昼過ぎまで起きないと思うから、置いてくよ(自分の部屋で寝かせてあるから、誰かが侵入してきても大丈夫だろう)」

 マイヒメに乗ったカズは、北へと向けて飛んでいく。
 王都の住人も慣れた様子で、マイヒメの影を見ても驚かなくなった。
 最初の頃は、マイヒメの影を見ただけで怖がる人も居たので、地上に降り立つときと飛び立つ際は、人の居る所に大きな影ができないようにしていた。
 今はテイムモンスターだと認知されてきたので、騒がれる事も殆どなくなっていた。
 王都の家を飛び立ってから、ほんの数十分程度で、ギルドで受けた依頼先の村に着いた。
 マイヒメを村から離れた所で待たせて、カズは頼まれた荷物を渡しにいく。
 何事も問題なく運搬依頼を済ませ、マイヒメに乗り目的地へと向かった。
 初めて来たときは数日かかっていたのに、寄り道したとはいえ、マイヒメに頼むと一時間程度で着いてしまう。
 他の者にはできないことだ。
 マイヒメとフジは狩りへと行き、カズは生クリームを仕入れにクリムの所に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 カズ達が目的の村に着いたその頃、レラが一人寝ている倉庫街の家に、隠れて様子を伺う二つの影があった。

「どうやら出掛けて居ないようだ。今の内に、中に入って調べようぜ」

「待て、あれはただの家じゃない。むやみに入ると、痛い仕打ちを受けるぞ」

「チッ」

「もう行くぞ。いつまでもここ居ると、怪しまれる」

「面倒な所に住みやがって……まぁ良い。もうすぐ『あれ』を起動するはずだ」

 二つの影は、倉庫街から離れていった。
 

ーーーーーーーーーーーーーー


 一方、生クリームを仕入れに来たカズは……。

「ほんれ。今あるのはそれだけだぁ。もう少し待ってくれりゃあ、次のが出来るが、それも持っていぐが?」

「ええ。待たせてもらいます」

「ほんなら出来たら、オラが呼びにいぐから待ってるだ」

「分かりました。今ある物は、先に貰います。代金は、今作ってるのが出来てからでいいですか?」

「んだぁ。あとで構わねぇ」

「じゃあ出来るまで、外で待たせてもらいます」

 カズは外に放牧されている、多くの牛を見ながら待つことにした。
 牛が放牧されている場所には、初めて来たときにはなかった柵があり、広く開けた土地を囲んでいた。
 ルータの資金提供で広げた土地と牛を増やし、村人を雇って生産量を上げたことで村に活気が出て、村人の暮らしも少しながら豊かになってきていた。
 ただこの牧場が出来たことで、牛を狙いに多くのモンスターが来るようになっていた。
 当初は冒険者を多くの雇い、村に常駐させて対処していたが、費用が掛かり過ぎていた。
 だかそれも、時折マイヒメがフジと狩に来るようになり、牛を狙いに来るモンスターは減り、常駐する冒険者も二人から多くても四人と少なくなっていた。
 初めはマイヒメの姿が見えるだけで、牛は怖がり暴れていたが、今は自分達が守られていると分かりおとなしくしている。
 牧場内の牛を見て回り、柵の外で見張りをしている冒険者を見かけると、カズ近寄りは挨拶をする。
  現在牧場を来るモンスターを追っ払っているのは、Cランクの冒険者が二人だけだった。
 だが最近現れるモンスターのレベルは低いため、Cランク二人でも十分であった。
 しかもこの日マイヒメが来たことで、恐れをなしたモンスターが、牧場から遠ざかり離れていった。
 そのためマイヒメとフジも、獲物を追い掛け、村からかなり離れた所まで移動していた。

「おーい! 出来たから持っていってぐれ」

「はい。今、行きます」

 クリムに呼ばれたカズは、そこに居た二人の冒険者に、王都で買った『タマゴサンド』を差し入れして、牧場にある建物に戻った。
 アヴァランチェの名物になっていたタマゴサンドが、今では王都の各地で売るようにもなっていた。
 シャルヴィネが本腰を入れて王都に店を構えてから、少しずつ口コミで広がり、今では結構な人気商品になっていた。
 この年の新年に、王都でシャルヴィネと再開したカズも、タマゴサンドを宣伝するのに一役買っていたのだった。

「こちらが品物の代金です」

「んだぁ。たすかに。ほんだら納品書の数とあっでるか、一応確認をたのむだ」

 カズは渡され納品書と、アイテムボックスに入れた生クリームの数を確かめた。

「はい、大丈夫です。それじゃあまた来ますので、よろしくお願いします」

「分がった。貴族様によろしく伝えでぐれ」

「はい」

 クリムと別れ、牧場にある建物から出たカズは、マイヒメに《念話》話し掛けながら、山を少し登った所にある開けた場所に向かった。(以前ロックバードを討伐した場所)
 開けた場所でマイヒメと合流したカズは、王都にある家へと戻っていった。
 フジは少し表情が暗かったが、それは狩りの成果が満足するものではなかったからだった。
 倉庫街にある家に戻り中へ入ると、起きていたレラが機嫌を損ねていた。

「なんであちしを置いてくのよ!」

「レラは二度寝すると、なかなか起きないじゃん」

「だったらせめて、食事の用意くらいしていきなさいよ! お腹空いたんだもん!」

「悪かったよ。昼頃には戻ってくるつもりだったんだけど、追加で作ってるっていうから待ってたんだよ」

「追加! じゃあいつもより多く仕入れてきたのね。ならお昼はいいから、あま~いおやつ出して! それで許してあげる(これでふわふわのクリームを、お腹一杯た…)」

「だーめ!」

「(…べれる)……えッ? えぇー! なんでよ!」

「一応依頼で行ってるんだから、先にルータさんに頼まれた分を渡して、それからじゃないと」

「だったらキウイでもビワでもいいから、早く来るよう連絡してよ!」

「明日か明後日には来ると思うから、それまで待ってなよ」

「そんなに待てないもんッ! 今すぐ食べたいの!」

「昨日あれだけお酒を呑んだんだから、二日くらい我慢して待ちなよ」

「嫌だッ! 食べたい食べたい、甘いもの一杯食べたいの!」

「『あれれ、レラどうしたの?』」

「うるさい! フジはあっちに行ってればいいの!」

「『レラが怒った』」

「レラ。フジに当たる事ないだろ。そういう娘(フェアリー)には、もうホイップクリームを作ってやらないからな」

「……ぅ…うぇ~ん…うわぁ~んわぁんわぁん」

「『! えっえっ? レラどうしたの? どっか痛いの?』」

 怒っていたレラが、カズに叱られた途端に大声で泣き始め、それを見ていたフジがおろおろとしだす。

「ちょ、ちょっとレラ。そんなに泣くなよ。ちゃんといつものように、レラの分を分けてもらうからさ。それにこれからギルドに依頼の報告に行くから、もしキウイか誰かが来たら、こっちに来てもらうように言っておくから(まったく、これなら起こして連れて行けば良かった)」

「……本当? またふわふわのクリーム作ってくれる?」

「作るから。ほら、プリンに乗っけるんだろ。好きなだけ乗っけていいからさ」

「うん。ならいい。少しくらい我慢する」

 顔を手で隠し泣いていたレラが、その手をどけると……。

「ん? レラお前、ウソ泣きか!」

「にっしし。もうカズと約束したもん。フジぃ、さっきはごめんね」

「『? よく分からないけど、レラが笑ってるからいいよ』」

「とりあえず今は、話題のタマゴ挟んだパン(タマゴサンド)を食べて、昼食を済ませることにするわ」

「ハァー……(小さくても女性ってことか。ああ、怖い怖い)」

 レラのウソ泣きに騙されて、プリンとホイップクリームを大量に用意することになったカズは、家を出て運搬依頼の報告のために、ギルドに向かった。
 ギルドで受付のトレニアに依頼の報告と、キウイ達メイドへの伝言を残し、出発する前に寄った老夫婦と孤児達が住む建物へと向かった。
 老夫婦に探し人の名前など、思い出したかを聞いたが、新たな情報は何もなかった。

 カズは家に戻る前に夕食の材料と、甘めのお菓子を買っていくことにした。
 今ではトマトを使ったケチャップがあるため、子供の好きそうな味の料理が作れるようになった。
 シャルヴィネの店で自家製のお酢(酸味が強い)を作ってるのを知ったカズは、トマトを大量に使ったケチャップの作り方を教える代わりに、いつでもお酢を分けてもらえることにしていた。
 これにより、このケチャップの作り方を、ラヴィオリ亭のガルガリッネに教えるという約束を果たせた。(もちろんこの事は、シャルヴィネに話してある)

 色々な店を周り食材を買っていたため、倉庫街の家に戻る頃には、長い影が足の下から伸びていた。
 夕食はレラが気に入ったオムライスを作った。
 甘いお菓子と騒いでいた本人は、そんな事などすっかりと忘れたように、夕食に出したオムライスを食べていた。
 様々な人が来て、久々に賑やかな一日だと思い返したカズは、自室にいきベッドで横になる。
 そして老夫婦の話していた探し人の事を思い出す。

「う~ん……なんだっけかなぁ。どこかで、どこか……」


ーーーーーーーーーーーーーーー

 ……夫…婦……違う……
 …怖…た……悪い……
 ……あ……子……
 …越………街………


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ◇◆◇◆◇


「ふわぁ~……誰だっけ?」

 探し人の事を考えている内に、いつの間にか眠ってしまったカズは、夢で見た話で何かを思い出しそうになっていた。
 だがあと一歩のところで出てこない。
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