上 下
237 / 793
三章 王都オリーブ編3 王国に潜むの影

226 仕入れ と 広がる名物

しおりを挟む
 家に到着すると既にフジは起きており、庭をトコトコと歩き回っていた。

「『お母さん、カズ戻ってきたよ』」

「お待たせ。出発できそう?」

「『ええ。いつでも』」

「なら行こう。あと他に用事もできたから、途中にある村の近くで一度降りてくれ。荷物を届けるだけだから、大して時間はかからない」

「『分かったわ。さあフジ坊、行くわよ』」

「『は~い。あれ、レラは?』」

「レラは寝てる。昼過ぎまで起きないと思うから、置いてくよ(自分の部屋で寝かせてあるから、誰かが侵入してきても大丈夫だろう)」

 マイヒメに乗ったカズは、北へと向けて飛んでいく。
 王都の住人も慣れた様子で、マイヒメの影を見ても驚かなくなった。
 最初の頃は、マイヒメの影を見ただけで怖がる人も居たので、地上に降り立つときと飛び立つ際は、人の居る所に大きな影ができないようにしていた。
 今はテイムモンスターだと認知されてきたので、騒がれる事も殆どなくなっていた。
 王都の家を飛び立ってから、ほんの数十分程度で、ギルドで受けた依頼先の村に着いた。
 マイヒメを村から離れた所で待たせて、カズは頼まれた荷物を渡しにいく。
 何事も問題なく運搬依頼を済ませ、マイヒメに乗り目的地へと向かった。
 初めて来たときは数日かかっていたのに、寄り道したとはいえ、マイヒメに頼むと一時間程度で着いてしまう。
 他の者にはできないことだ。
 マイヒメとフジは狩りへと行き、カズは生クリームを仕入れにクリムの所に向かった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


 カズ達が目的の村に着いたその頃、レラが一人寝ている倉庫街の家に、隠れて様子を伺う二つの影があった。

「どうやら出掛けて居ないようだ。今の内に、中に入って調べようぜ」

「待て、あれはただの家じゃない。むやみに入ると、痛い仕打ちを受けるぞ」

「チッ」

「もう行くぞ。いつまでもここ居ると、怪しまれる」

「面倒な所に住みやがって……まぁ良い。もうすぐ『あれ』を起動するはずだ」

 二つの影は、倉庫街から離れていった。
 

ーーーーーーーーーーーーーー


 一方、生クリームを仕入れに来たカズは……。

「ほんれ。今あるのはそれだけだぁ。もう少し待ってくれりゃあ、次のが出来るが、それも持っていぐが?」

「ええ。待たせてもらいます」

「ほんなら出来たら、オラが呼びにいぐから待ってるだ」

「分かりました。今ある物は、先に貰います。代金は、今作ってるのが出来てからでいいですか?」

「んだぁ。あとで構わねぇ」

「じゃあ出来るまで、外で待たせてもらいます」

 カズは外に放牧されている、多くの牛を見ながら待つことにした。
 牛が放牧されている場所には、初めて来たときにはなかった柵があり、広く開けた土地を囲んでいた。
 ルータの資金提供で広げた土地と牛を増やし、村人を雇って生産量を上げたことで村に活気が出て、村人の暮らしも少しながら豊かになってきていた。
 ただこの牧場が出来たことで、牛を狙いに多くのモンスターが来るようになっていた。
 当初は冒険者を多くの雇い、村に常駐させて対処していたが、費用が掛かり過ぎていた。
 だかそれも、時折マイヒメがフジと狩に来るようになり、牛を狙いに来るモンスターは減り、常駐する冒険者も二人から多くても四人と少なくなっていた。
 初めはマイヒメの姿が見えるだけで、牛は怖がり暴れていたが、今は自分達が守られていると分かりおとなしくしている。
 牧場内の牛を見て回り、柵の外で見張りをしている冒険者を見かけると、カズ近寄りは挨拶をする。
  現在牧場を来るモンスターを追っ払っているのは、Cランクの冒険者が二人だけだった。
 だが最近現れるモンスターのレベルは低いため、Cランク二人でも十分であった。
 しかもこの日マイヒメが来たことで、恐れをなしたモンスターが、牧場から遠ざかり離れていった。
 そのためマイヒメとフジも、獲物を追い掛け、村からかなり離れた所まで移動していた。

「おーい! 出来たから持っていってぐれ」

「はい。今、行きます」

 クリムに呼ばれたカズは、そこに居た二人の冒険者に、王都で買った『タマゴサンド』を差し入れして、牧場にある建物に戻った。
 アヴァランチェの名物になっていたタマゴサンドが、今では王都の各地で売るようにもなっていた。
 シャルヴィネが本腰を入れて王都に店を構えてから、少しずつ口コミで広がり、今では結構な人気商品になっていた。
 この年の新年に、王都でシャルヴィネと再開したカズも、タマゴサンドを宣伝するのに一役買っていたのだった。

「こちらが品物の代金です」

「んだぁ。たすかに。ほんだら納品書の数とあっでるか、一応確認をたのむだ」

 カズは渡され納品書と、アイテムボックスに入れた生クリームの数を確かめた。

「はい、大丈夫です。それじゃあまた来ますので、よろしくお願いします」

「分がった。貴族様によろしく伝えでぐれ」

「はい」

 クリムと別れ、牧場にある建物から出たカズは、マイヒメに《念話》話し掛けながら、山を少し登った所にある開けた場所に向かった。(以前ロックバードを討伐した場所)
 開けた場所でマイヒメと合流したカズは、王都にある家へと戻っていった。
 フジは少し表情が暗かったが、それは狩りの成果が満足するものではなかったからだった。
 倉庫街にある家に戻り中へ入ると、起きていたレラが機嫌を損ねていた。

「なんであちしを置いてくのよ!」

「レラは二度寝すると、なかなか起きないじゃん」

「だったらせめて、食事の用意くらいしていきなさいよ! お腹空いたんだもん!」

「悪かったよ。昼頃には戻ってくるつもりだったんだけど、追加で作ってるっていうから待ってたんだよ」

「追加! じゃあいつもより多く仕入れてきたのね。ならお昼はいいから、あま~いおやつ出して! それで許してあげる(これでふわふわのクリームを、お腹一杯た…)」

「だーめ!」

「(…べれる)……えッ? えぇー! なんでよ!」

「一応依頼で行ってるんだから、先にルータさんに頼まれた分を渡して、それからじゃないと」

「だったらキウイでもビワでもいいから、早く来るよう連絡してよ!」

「明日か明後日には来ると思うから、それまで待ってなよ」

「そんなに待てないもんッ! 今すぐ食べたいの!」

「昨日あれだけお酒を呑んだんだから、二日くらい我慢して待ちなよ」

「嫌だッ! 食べたい食べたい、甘いもの一杯食べたいの!」

「『あれれ、レラどうしたの?』」

「うるさい! フジはあっちに行ってればいいの!」

「『レラが怒った』」

「レラ。フジに当たる事ないだろ。そういう娘(フェアリー)には、もうホイップクリームを作ってやらないからな」

「……ぅ…うぇ~ん…うわぁ~んわぁんわぁん」

「『! えっえっ? レラどうしたの? どっか痛いの?』」

 怒っていたレラが、カズに叱られた途端に大声で泣き始め、それを見ていたフジがおろおろとしだす。

「ちょ、ちょっとレラ。そんなに泣くなよ。ちゃんといつものように、レラの分を分けてもらうからさ。それにこれからギルドに依頼の報告に行くから、もしキウイか誰かが来たら、こっちに来てもらうように言っておくから(まったく、これなら起こして連れて行けば良かった)」

「……本当? またふわふわのクリーム作ってくれる?」

「作るから。ほら、プリンに乗っけるんだろ。好きなだけ乗っけていいからさ」

「うん。ならいい。少しくらい我慢する」

 顔を手で隠し泣いていたレラが、その手をどけると……。

「ん? レラお前、ウソ泣きか!」

「にっしし。もうカズと約束したもん。フジぃ、さっきはごめんね」

「『? よく分からないけど、レラが笑ってるからいいよ』」

「とりあえず今は、話題のタマゴ挟んだパン(タマゴサンド)を食べて、昼食を済ませることにするわ」

「ハァー……(小さくても女性ってことか。ああ、怖い怖い)」

 レラのウソ泣きに騙されて、プリンとホイップクリームを大量に用意することになったカズは、家を出て運搬依頼の報告のために、ギルドに向かった。
 ギルドで受付のトレニアに依頼の報告と、キウイ達メイドへの伝言を残し、出発する前に寄った老夫婦と孤児達が住む建物へと向かった。
 老夫婦に探し人の名前など、思い出したかを聞いたが、新たな情報は何もなかった。

 カズは家に戻る前に夕食の材料と、甘めのお菓子を買っていくことにした。
 今ではトマトを使ったケチャップがあるため、子供の好きそうな味の料理が作れるようになった。
 シャルヴィネの店で自家製のお酢(酸味が強い)を作ってるのを知ったカズは、トマトを大量に使ったケチャップの作り方を教える代わりに、いつでもお酢を分けてもらえることにしていた。
 これにより、このケチャップの作り方を、ラヴィオリ亭のガルガリッネに教えるという約束を果たせた。(もちろんこの事は、シャルヴィネに話してある)

 色々な店を周り食材を買っていたため、倉庫街の家に戻る頃には、長い影が足の下から伸びていた。
 夕食はレラが気に入ったオムライスを作った。
 甘いお菓子と騒いでいた本人は、そんな事などすっかりと忘れたように、夕食に出したオムライスを食べていた。
 様々な人が来て、久々に賑やかな一日だと思い返したカズは、自室にいきベッドで横になる。
 そして老夫婦の話していた探し人の事を思い出す。

「う~ん……なんだっけかなぁ。どこかで、どこか……」


ーーーーーーーーーーーーーーー

 ……夫…婦……違う……
 …怖…た……悪い……
 ……あ……子……
 …越………街………


ーーーーーーーーーーーーーーー


 ◇◆◇◆◇


「ふわぁ~……誰だっけ?」

 探し人の事を考えている内に、いつの間にか眠ってしまったカズは、夢で見た話で何かを思い出しそうになっていた。
 だがあと一歩のところで出てこない。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

タブレット片手に異世界転移!〜元社畜、ダウンロード→インストールでチート強化しつつ温泉巡り始めます〜

夢・風魔
ファンタジー
一か月の平均残業時間130時間。残業代ゼロ。そんなブラック企業で働いていた葉月悠斗は、巨漢上司が眩暈を起こし倒れた所に居たため圧死した。 不真面目な天使のせいでデスルーラを繰り返すハメになった彼は、輪廻の女神によって1001回目にようやくまともな異世界転移を果たす。 その際、便利アイテムとしてタブレットを貰った。検索機能、収納機能を持ったタブレットで『ダウンロード』『インストール』で徐々に強化されていく悠斗。 彼を「勇者殿」と呼び慕うどうみても美少女な男装エルフと共に、彼は社畜時代に夢見た「温泉巡り」を異世界ですることにした。 異世界の温泉事情もあり、温泉地でいろいろな事件に巻き込まれつつも、彼は社畜時代には無かったポジティブ思考で事件を解決していく!? *小説家になろうでも公開しております。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界キャンパー~無敵テントで気ままなキャンプ飯スローライフ?

夢・風魔
ファンタジー
仕事の疲れを癒すためにソロキャンを始めた神楽拓海。 気づけばキャンプグッズ一式と一緒に、見知らぬ森の中へ。 落ち着くためにキャンプ飯を作っていると、そこへ四人の老人が現れた。 彼らはこの世界の神。 キャンプ飯と、見知らぬ老人にも親切にするタクミを気に入った神々は、彼に加護を授ける。 ここに──伝説のドラゴンをもぶん殴れるテントを手に、伝説のドラゴンの牙すら通さない最強の肉体を得たキャンパーが誕生する。 「せっかく異世界に来たんなら、仕事のことも忘れて世界中をキャンプしまくろう!」

処理中です...