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三章 王都オリーブ編2 周辺地域道中

222 変わった家の、おかしな住人

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 水晶玉が吸収していた魔力の勢いが次第に弱まり、完全に止まった。

「どうなったか、上に戻るわよ」

「そうし……どうやってこの部屋から出るの?」

「入る時と同じ。本よ」

「本ね。分かった」

 カズは台座の窪みに収まっている本に触れ、レラと共に転移した。
 本棚のある二階の部屋に転移した二人は、家の中を見て回り、その状態に驚いた。
 厚く積もったほこりは無くなり、薄汚れていた壁は嘘のようにキレイになっていた。
 まるで新築のようだった。
 長い雑草だらけだった庭は、一面柔らかい芝生が生えた庭へと変わっていた。

「ねぇ、どれだけの魔力を?」

 カズは現在の魔力値を確かめた。

【魔力】 : 3272/4500

「えっとねぇ……1200くらい(こんなに魔力が減ったの、いつ以来だ? 白真と戦った時かな)」

「はあ!? そんなに! カズ、あんた平気なの?」

「まぁこれくらいなら(ここまで一気に減った事ないけど)」

「呆れた。フローラが大丈夫って言ったのが分かったわ」

「あ! 本がない。あの部屋に置いてきちゃった」

「それなら大丈夫。この家の所有者がカズに確定したから、敷地内からなら、あの部屋に移動できるはずよ」

「そうなの? じゃあ試しにもう一度」

 カズは先程まで居た地下の部屋を思い浮かべて転移し、またすぐに戻ってきた。

「大丈夫だった(庭からは移動しない方がいいな)」

「だから言ったでしょ(良かったわ)」

「まだこの家のことはよく分からないけど、とりあえずよろしく。レラさん」

「レラでいいわ。同じ家に住むんだから、堅苦しいのは、なし」

「分かったよレラ(そういえば、俺の人見知りも、この世界に来てから良くなったなぁ。人じゃないのも多いけど)」

「フローラに見せたいから、あちし呼んでくる!」

「え、ちょ、ちょっと。行っちゃったよ。あんなんで、よく今まで見つからなかったもんだ」

 レラは興奮した様子で、第2ギルド方向に飛んでいった。
 一人になったカズは、もう一度全ての部屋を見て回った。
 どこの部屋も塵一つなく、見違えるようになっていた。
 地下の食料保存庫に使われていた部屋は、ひんやりとして、室温が他と比べて明らかに低かった。
 調べるとその理由はすぐに分かった。
 壁に埋め込まれている一つの小さな水晶に、生活魔法で使われる〈コールド〉が付与されていた。
 カズが魔力を補充したことにより、付与されていた魔法の効果が表れたようだ。
 冷蔵仕様になっているとは知らず、カズは少し驚いた。
 ほこりまみれで、実際よく分からなかった浴室も、隅々までカビもなくキレイな状態になっていた。
 この家に風呂があったため、住んでも良いかと思った理由の一つでもあった。
 長い雑草がなくなった事で見通しが良くなり、その広さを実感した。
 庭と建物を含めた物件の広さは、ざっと見てサッカー場の半分くらいはありそうだ。
 カズは一階のリビングにある椅子に座り、レラが戻って来るのを待つことにした。

「……ぉ…きるのカズ」

「……さん。カズさん」

「……! レラ?」

 いつの間にか寝入ってしまったカズは、戻ってきたレラとフローラに起こされた。

「やっと起きた」

「お疲れだったようね」

「フローラさん! す、すいません。ちょっと休憩してたら、うとうとして」

「あちしがフローラを呼びに行ってる間に、自分は寝てるなんて!」

「ん、あ、ごめん。……あれ? 確か、レラが自分からフローラさんを呼んで来るって、飛んでいったはずじゃあ?」

「そ、そうだっけ?」

「そうだよ。呼び止めたのに、聞かずに行っちゃったじゃん」

「過ぎた事だから、気にしない気にしない。それよりフローラが、話を聞きたいって」

「話し? なんですか」

「この状態を見ると、かなり魔力を補充したようだけど」

「1200くらいですかね」

「……そこまで補充しなくても」

「まずかったですか?」

「まずくはないど。水晶玉に魔力を補充するとき、勢いよく吸われなかった?」

「吸われました。レラに危険だと思ったら、水晶玉から手を離すようにって言われたんですが、なんだかんだそのまま。手を離す時には、全く魔力を吸収しなくなってました」

「今回はどうやって誤魔化そうかしら? あの状態だったのが、短時間でこれだから……(どうせ人なんて殆ど通らないから、今回は何もしなくていいかしら。マイヒメが居るようになったら、そっちに注目して気にも留めないわよね)」

「だったらもっと詳しく説明しといてくださいよ」

「あら私のせい?」

「別にそういうわけじゃ……(説明不足と言いたいが、調べなかった俺も悪いと言われそうだ)」

 カズは出てきそうになった言葉を、飲み込んだ。

「本来は十日くらいかけて、少しずつ住める状態にしてもらおうと思ったのだけど。まぁ良いわ。魔力を吸収する調整とかは、鍵の本に書いてあると思うから」

「分かりました。今度見ておきます」

「しかし本当キレイになったわね。私もここに住んじゃおうかしら。掃除もしなくて良さそうだし」

「それはダメです」

「あら、はっきり言うわね」

「そんなことになったら、俺が後ろから刺されます。特定の相手(イキシア)に」

「たまに来るのは良いでしょ。レラに会いに」

「それは構いませんが、レラのこと知ってるのは、俺以外にフローラさんだけなんですよねぇ?」

「ええ。常に私が付いて、レラを守れるわけじゃないから、誰にも話してないわ」

「じゃあ来るときは、何か言い訳を考えてから来てください」

「面倒ね。あ! そうだわ。私じゃ無理だけど、カズさんなら常にレラを守れるでしょ」

「ん?」

「だから……そう! カズさんが依頼で、フェアリーのレラを保護してるってことにすれば、王都に居ても不思議に思われないでしょ」

「は? (何を言ってるんだ、この人は)」

「依頼は『レラの故郷を探して帰るまでの護衛と世話』これで良いわね。決定」

「あの~もしもし。何勝手に決めてるんですか!」

「良いじゃないの。カズさんには強~い味方が居るんだから。白真さんとかマイヒメが」

「マイヒメはともかく、白真はここに呼べないでしょう」

「大丈夫。遠出の依頼に出るときは、私がレラと一緒に居るから」

「それなら始めっから、フローラさんがレラと一緒に居れば良かったじゃないですか」

「さすがにフェアリーを連れて、ギルドの会議や貴族の所には行けないわよ。物珍しさで狙われてしまうわ。特に質の悪い貴族とかには。カズさんなら、ただの冒険者だから、貴族の言うことに従う必要ないからね」

「聞いてると、あちしが迷惑かけるだけで、邪魔みたい」

 二人の会話を聞いていたレラがしょげる。

「そんなことないわよ。ただレラをもっと自由に行動できるには、常に一緒に居て守る人が必要でしょ。私はカズさんなら大丈夫と思って言ってるのよ。それにカズさんなら、迷惑だなんて全然思わないわよ。そうでしょ」

 フローラがカズを見る。

「俺は迷惑なんて思ってないない。それにさっき、遠慮はしないって言ったじゃないか。どちらかと言うと、身を以て体験させようとする、フローラさんに文句が言いたい(ああ、結局言っちゃった)」

「カズさんは経験不足だからよ。私なりの優しさよ」

「そうですか(厳しさじゃないのか)」

「あら、怒ったの?」

「怒ってません。ですがこれからは、依頼のように、きっちり説明してもらいたいです! (今言っておかなければ、またやられそうだ)」

「気を付けるわ。だから、レラのことよろしくね」

「分かりました! (結局は、フローラさんの手のひらか)」

「私はギルドに戻るわね。レラまたね」

「たまには来てよ」

「ええ」

 そしてこの日からカズは、フェアリーのレラと同じ家で共に暮らす事になった。
 便宜上は依頼で、レラの故郷を探し連れて帰るまでの護衛と世話、と言うことになっていた。
 それかは一ヶ月くらいは、落ち着かなかった。
 突如倉庫街にある、いわく付きの物件に住みだした冒険者が、巨大な鳥のモンスターをテイムしていたり、滅多に見ることのできない、フェアリーを連れていると噂になった。
 フェアリーのレラを狙う者も居たが、大抵はカズに蹴散らされるか、家まで追って来る奴は、マイヒメを見て逃げ出すなどしていた。(一応死人は出ていない)

 カズはアレナリアとの約束をできるだけ守るため、十日から二十日に一度はアヴァランチェに行った。
 その際はフローラに相談をして、許可を得てレラを連れていった。
 レラがカズと同居している事を知ったアレナリアが、機嫌を悪くすると思ったていたが、カズの予想に反して、二人は意気投合していた。(カズは首をかしげた)
 アヴァランチェに行く際に、転移(ゲート)はフローラに自粛するよう言われたので、遠出の移動はマイヒメに頼んで乗せてもらう事になっていた。
 数回に一度はアレナリアが付いて、王都のカズの家に泊まっていく事もあった。(最初はレラは頼みもあって)

 いわく付きの家に住む変わった冒険者、白い小さなエルフ、滅多に姿を現さないフェアリー、巨大な鳥のモンスター、獣人のメイドなど、おかしな者達が暮らし集まる家は、王都で少し噂になっていた。
 こうして暮らしている内に、元の世界に帰る手掛かりが一向に見つからないカズも、次第にこちらの世界で、このまま過ごしても良いかと思えるようになってきていたのだった。





 それから月日が経ったある日の午後、国中に冒険者カズの手配書が貼り出された。
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