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近くあり遠い理由
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二日後、再び日常に戻ったが。
この会合で示された事は当事者の耳に入る。その当事者は驚きはあったが大きなモノでもない、たかが継承の時期の話、程度の事ではある
「何?決定を延ばす?」
「定例会議の類でそう示されたと」
意外だったのは当事者の一人、長兄の泰斗である。ただ、内容を聞いた当人は「そうだろうな」とある程度納得はしていた
「退魔の一族なのだから単に年長だからと言って後継が決まる訳でもない退魔師としての力が強い晴海が優先して考える、そういう事もあるだろう」と
「あまり意味があるとも思えませんね…」
「現代ではそうかもしれんな。神宮寺は各家の纏め役でしかないし本家が武闘派である意味等もうありはしないが。本質で言えば退魔の出来ない退魔家というのも可笑しな話でもある」
「其れを再び昔に戻そうという事でしょうか?」
「さてね…だが、その観点で言えば退魔の力の強い次代で周囲に示すという側面もあろう」
「分からなくはありませんが…よろしいのですか?」
「不愉快な面は確かにあるが、理屈としては理解はできる。まあ何れにしろ「伸ばす」というだけの話だ」
「そうですね、実質なにも決まっていない」
「仮に晴海が次代と成っても、大した事は出来んよ、アレは子供だ」
「当人にそのつもりも無さそうですね…以前、そう交わされていました、統率者に適当とは思えませんね」
「うむ…」
そう空返事をして考慮の後、泰斗は一つ指示を出した
「桜子は居るか?」
「はい」
「私室に戻るので呼んでくれ」
そうして泰斗は一旦に自室に戻り、当事者を待った。
既に夜半であるが、呼ばれた桜子と言う女性は五分掛けずに泰斗の和室に入り深々と、しかし恐縮して頭を下げた
「ご、ご用命でしょうか?」
「ああ、まずオレの弟を知っているか?」
「へ?、プロフ上だけですが…」
「うむ…、先日の定例会合で次期当主指名を《熟考する》と父がされてな」
「そうする理由が?」
「弟は若年だが、生まれつき退魔の力が強いそうだ、それで実際、この一年半程、組織を作って前線で討伐に中っている、父は次代は強い者を、と考えているともとれる」
「そこでだが桜子。お前を晴海に預けようと思う」
「え…しかし、私は」
「本家とオレの警備任務はこの際、それ程重要ではない」
「いえ、それは」
「お前にとっては重要事だが、オレにはそうではない。分かるか?」
「はっ…はい、分かるつもりです」
「晴海は前線の士、お前の希望も半分適うだろう」
「それはそうですが、では、私の立場はどの様になるのでしょうか」
「晴海のお付き、という事では不満だろうが、オレとしては
今、向こうがどうなっているか、真意はどうなのかは知らん」
「つまり、近くに居て、それとなく見てこいと?」
「それもある」
「成程、承知するしか無いようですね」
「まあ、どちらでも構わんがな、無理強いは出来んだろうし、お前の判断でいい」
「いえ、分かりました。あまり自信はありませぬがやってみます」
「そうか。では詳細と用意は後日伝える、準備だけはしておいてくれ」
「はっ!」
そうして桜子はそのまま正座して次を待ったが、泰斗にはそれだけだ、三十秒程両者沈黙し先に桜子が声を掛けた
「御用はそれだけでしょうか?」
「ん?ああ、とりあえずな。下がっていい」
「は、はい」
とそこで彼女も退出するが、泰斗も側近に尋ねた
「桜子は何か含む所でもあるのか?どうも不承にも見えたが」
「さて…泰斗様と離れるのは嫌だとか?」
「ふむ…そういう側面もあるか」
「晴海様に預ける、という事であれば自動的に泰斗様からは解任とも取れますからね、同時に本家から離れる訳ですし」
「成程、しかし《御用はそれだけ?》とは?」
「夜半に泰斗様の私室に呼ばれたので何か勘違いしたのでは?今日の伽は自分の番だ、とか?」
「ふむ、それは悪い事をしたな。だが桜はまだ抱いておらんかったか?」
「ええ、来て一年程に成りますがまだ。泰斗様にその気があるかは知りませんが」
「多分無いな。ガキ臭いし勝気な女は嫌いだ」
「でしょうね、おそらく好まないとは思いました」
そこから二日。
事前の話の通り用意は整えられる。詳細を伝えられた桜子は予想通りではあるが消沈する中身ではあった
泰斗と神宮寺本家に充てられた桜の護衛任務の解除、並び、泰斗から晴海への所属の変更である
ただそれだけ、ではあるのだが彼女にとっては重大な事だ
会社組織で言えば左遷に近い感覚であるから。
調査目的に近い、一時的な事ではあるのだが当人にはそう感じなかったが、受けた以上、其れを軽視することも出来ず、桜子も用意を整え当日早朝には東京へ向かった
今日日国内を縦断しても移動の速さ、インフラの整備状況からそれ程時間も要せず
都に入り降りる。
用意は整える、の通り全ての手筈は既に終わっているが受ける側からすれば急な事ではあるので晴海側は連絡を受けてはいるのだが、こちらの用意が整わず、ECM本部ではなく、公宅。開発部で充てられたマンションの自室で彼女を迎えた
桜子も晴海の事は知っている、あくまでプロフ上、紙の記録で読んだ程度だが最初から誤解があった。 つまり最初のアヤネと同じように考えていたから
恐縮して平伏して挨拶したが、想像と逆の相手だったから
当然、先だって晴海に付いている、座に着いているいるアヤネも名雪も四家の令嬢なので一層、礼が大事な場面でもある
「お初にお目にかかります、獅童 桜子です」に対して
「あ、これはどうもご丁寧に」だった
それはアヤネや名雪の最初と同じだったが、彼からすれば慣れたというか、他人が自分にそういう態度なのも、前提と成る物を知っている。だからこれまでと同じ様に対応した
「あ、平伏はやめてくれる?僕が話にくいから」
「はっ」
そうして桜子も頭を上げて、正座して対面するが、これもアヤネの時の様に、思わず、目を伏せたままだがジロジロ見ざる得ない
「えーと、手紙というか…通知は泰斗兄さんから受けている、前線の希望て事でこちらに住むらしいけど」
「はい、今までその機会がありませんでしたが、晴海様は都で最前線組織を作り、公人と協力し積極的に討伐を行ってると、故に、こちらを希望し、承認された次第です」
「うん。ただこっちでも凄く事件が多いという程でもないね
何れにしても、まだ少し準備が掛かるので暫く待っててください」
「はっ」
「此処は公人社宅みたいなモノになってて僕らは間借りしているけど、ECMの本部にも個室がかなりある。彼方は入るのに身分証が必要になるので用意出来るまで数日掛かる、どっちにする?」
「数日でしたら、此方か、何処かに宿を取ります、組織本部に部屋があるならそちらで結構です」
「分かった。アヤネ、悪いんだけど」
「はい。では桜子さん、空いてる部屋に一時滞在してもらいましょう」
「はい」
として、特に反対することもなく、アヤネに従って退席し晴海の号室の空いている部屋に案内された
戻ったアヤネも加え、晴海らも今回の一件を話し合う、雑談ではあるが
「なんだかまた堅そうな人だなぁ…」
桜子は年齢は晴海の同年で、見た目はどちらかというと同年な感じはあまりない。
背は晴海、アヤネより低い一五五センチだし、どちらかと言えば小さいというか鍛えた締まった体型で、レイナや誠ともまた違う運動系だが、名雪とも違ってモデルの様な奇麗な感じでもない
名雪ともレイナともまた違うタイプの剣士系というか侍ぽい印象がある
実際、黒のストレートの長いポニテでデコ出しだが前髪を中分していて、頬まで垂らしていて、鉢がねみたいなはちまきをしているから余計だが
年齢が上に感じないのは顔の印象が強い、顔のパーツが大きく、目はハッキリとしていて、顔全体も丸っこい、どちらかと言えば厳しい顔つきで、やや睨み目のつり目で怒り眉なので睨まれる感じなのだが、童顔なので怖い印象は殆どない、子供が無理してキリっとしているという感じ
「堅そうな印象」と晴海が言うのも、他の子と違って桜子自身に業務的な、前提としての上下がかなり強く見える
それは印象なのだが、略、正解で。その後マンションの晴海の宅の小さい部屋に入った後、特に交流を持つでもなく、アヤネや晴海に何かを聞くでもなく、殆ど雑談もなく
「はい」「いいえ」みたいな感じで、壁の様な、事務的な印象を受ける
ただ、その辺りの事情は名雪の方が詳しいらしい
「獅童家は四家の下だからな、かなり昔から輪の中にあるが、立場自体も高くない。絶対的な上下、というのが一派にはある」
「と言うと?」
「代々、武闘派的な組織として存在していて、神宮寺本家周辺の警備をやっている、ウチ、睦とは遠縁ではある」
「成程、それである程度知ってると」
「うむ。純粋な剣術の家ではあるが、綾辻とは違い規模はでかくないし経済的に強いという事でもない。例えて言えば武芸の道場の一派がそのまま組織、家化し輪に加わったという感じだな」
「頼りには成りそうですね」
「それと、獅童は独特の退魔業があるので、裏の面でも頼りになるだろう、あくまで個体の武力と言う面ではだが」
「それで兄さんの専属に成っていたのか」
「それもある、少数での防衛、護衛では強い、だが同時に綾辻とは別の負債もある」
「それは?」
「如何に表でも裏でも強いと言っても其れはあくまで個人の範囲だし、家の格も規模も変わらん、唯一あるとすれば其れは神宮寺本家に依存する形にしかない」
「つまり昔的に言えば、桜子さんは、前線の士として結果か、護衛・警備として組織の有名、どっちかしか栄達みたいのは無いという事?」
「彼女が何を望んでいるかは知らんがな」
「でも名雪さん、どちらか有っても家には大きな影響はないのでは?」
「そうでもない、獅童の一族は状況があまり良くない、子宝に恵まれた時期もないし、元々少数の家だし、裕福という事もない、あくまで個々の範囲では強い、という程度だし求められるのがその個々の範囲の武力しかない」
「使われる事でしかアピール出来ないみたいな感じ?」
「その傾向は強いだろう」
「壁みたいのを感じるのもその為か」
「まあ、晴海様は絶対的な上下の常識はないだろうしな、だが、我々には此れは強い概念だ」
「うーん…それも何か極端な気がするな」
「晴海様がそう思うのは仕方ない。家から離れて育ったのだから」
「時代錯誤だなぁ、とは思う」
「まあ、何れにしろ、前線の希望なのだから使ってやればいい、その点もそこまで期待は出来ぬだろうが」
「?」
「残念ながら、獅童は今まで退魔で最前線に加わったという事もあまりないハズだ、四家があくまで主導し、獅童は下支家で露払いや残党討伐とか、そういう事が多い、そこまで頼りにされたり呼ばれたりという事も殆どないからな」
「そうなんだ…」
「うむ」
「何れにしても、もう少し直接聞いておきたいな、彼女が何を望んでいるのか、其れに寄っては積極的に前に加えて、活躍の場を作ってあげたい、ちょっと話にくい子だけど…」
そういう一連の事情を聞き、晴海も行動してみる事にした
晴海の晴海たる、所以というやつだろう
自ら一時彼女に入ってもらっている別室を一人で訪ね
さっそく、率直に聞いてみる
「は、晴海様!私めに態々どの様な御用でしょう」となんかまた平伏されたが
とりあえず其れは止めてもらって、いつも通り率直に聞いてみた。彼女の家の事、状況、実際の戦闘の経験等だが。
やはり、最初はカチーンと硬直したまま「はい」「はい」と聞いていたが次第にそれも和らいでくる
「じゃあ、実際の戦闘経験と言っても大したこと無い訳か」
「一応退魔でも戦える、というだけでそれ程ではないかと…」
「露払いとか、残党退治とも聞いたけど?」
「はい、本題は四家の方がやり、我々支家は斥候と掃討任しかありません、具体的には、現場周辺の本職退魔師が来るまでの現場の維持とか、打ち漏らした雑魚の追跡討伐程度です、私も小鬼を二度討ったという程度です、Eランクでも、かなり下層の相手でしか戦闘は許されていません」
「許されない?それって決まり事なの??」
「それも半分ありますが、獅童は業はあっても霊力がありません、我が家に伝わるこの業「金切りの一閃」と言う業ですが、それなりに霊力を使いますので」
「つまり参加出来ても、かなり短時間しか持たないからか」
「はい、それに私等が使っても大した威力もない。ランクの低さもありますが、それ故、雑用程度という扱いです」
「それは家の格の事もあるの?」
「それもありますが、獅童家は支家ですが、血族が少なく人員も多くないです、私と父と、ええと、別の縁者が二家族とかその程度ですし、弟子というか配下も二十人程度です」
「成程、だから自身でも前に出たいのか」
「武を持って示す、そういう形でしか輪の中では重用されませんので」
「じゃあ、名声が目的??」
「私個人がどうこうというのはありませんが…」
「あー…、家の評価が低いのがアレなのか」
「そ、そうハッキリ言われると」
「まあ、とりあえず希望は分かったから。なるべくそういう配分をしよう」
「よ、宜しいのですか⁈」
「え、うん。なるべくなら当人の希望通りにしてあげたいし…」
其れを聞いて桜子もかなり驚いた様だ。元々大きめな眼が三白眼になってた
「そんなに驚く様な事なのかな…」とも晴海も思ったが、実際、家側の常識だと彼女の反応のが普通なのだが
泰斗との関係もそうだが、あくまで桜子と泰斗との距離、差は大きい、軍で言えば、将と長くらいの差がある訳で。桜子がどう思っていようと、明確に泰斗や晴海に対して「主張」等出来る立場ではないからだ
ただ、それは「あちらの事情」であって晴海にはその概念自体が無い、だから「希望に沿うよ」と単純に言うのだが、受ける桜子からすれば「そんな簡単に⁈」と成る訳である 要望処か、本来なら意見すら出来ないのだから
獅童家の負債というのはもう一つあって、古くから輪に居り、長く現代まで、神宮寺に近く使われているが、其れは歴史の初期期に神宮寺と獅童のトップ同士の個人的な関りがあっての事だ
獅童は神宮寺二代目の晩年の知己でもあり、剣術を指導したこともある、つまり、個人的な友人の関係にあり、贔屓にされている部分もあるのだが。その後の代にも其れは引き継がれ、神宮寺本家周辺の警備、要人護衛を務める事が多い
その為、逆に現代の獅童は肩身が狭くもある。他四家の様に、退魔で活躍出来るという程でもなく、経済的に貢献しているという訳でもなく、名士を配して輪に貢献したという事も無く、集団しても雑用中心だから
だから桜子は獅童の直系、長女として「何からの形で見える成果を」と考えているのだが、其れは今まで全て頓挫している
一つが、泰斗から離された事
二つが、前線で戦う、退魔の貢献だが、これも護衛以上には見られなかった事だ
名雪も言った通りで「神宮寺に依存する貢献」つまり、泰斗に気に入られれば側室という形もあったが泰斗は彼女を女性として見る事もなく、今回スパイに近い事を命じた
意図はどうあれ、桜子からすれば、何重にも自身を否定されたに近い行いである。それが「消沈」した理由であるが。 ただ、今回の一件は実際は好転ではあるのだがそれに気づくのは先の話である
この会合で示された事は当事者の耳に入る。その当事者は驚きはあったが大きなモノでもない、たかが継承の時期の話、程度の事ではある
「何?決定を延ばす?」
「定例会議の類でそう示されたと」
意外だったのは当事者の一人、長兄の泰斗である。ただ、内容を聞いた当人は「そうだろうな」とある程度納得はしていた
「退魔の一族なのだから単に年長だからと言って後継が決まる訳でもない退魔師としての力が強い晴海が優先して考える、そういう事もあるだろう」と
「あまり意味があるとも思えませんね…」
「現代ではそうかもしれんな。神宮寺は各家の纏め役でしかないし本家が武闘派である意味等もうありはしないが。本質で言えば退魔の出来ない退魔家というのも可笑しな話でもある」
「其れを再び昔に戻そうという事でしょうか?」
「さてね…だが、その観点で言えば退魔の力の強い次代で周囲に示すという側面もあろう」
「分からなくはありませんが…よろしいのですか?」
「不愉快な面は確かにあるが、理屈としては理解はできる。まあ何れにしろ「伸ばす」というだけの話だ」
「そうですね、実質なにも決まっていない」
「仮に晴海が次代と成っても、大した事は出来んよ、アレは子供だ」
「当人にそのつもりも無さそうですね…以前、そう交わされていました、統率者に適当とは思えませんね」
「うむ…」
そう空返事をして考慮の後、泰斗は一つ指示を出した
「桜子は居るか?」
「はい」
「私室に戻るので呼んでくれ」
そうして泰斗は一旦に自室に戻り、当事者を待った。
既に夜半であるが、呼ばれた桜子と言う女性は五分掛けずに泰斗の和室に入り深々と、しかし恐縮して頭を下げた
「ご、ご用命でしょうか?」
「ああ、まずオレの弟を知っているか?」
「へ?、プロフ上だけですが…」
「うむ…、先日の定例会合で次期当主指名を《熟考する》と父がされてな」
「そうする理由が?」
「弟は若年だが、生まれつき退魔の力が強いそうだ、それで実際、この一年半程、組織を作って前線で討伐に中っている、父は次代は強い者を、と考えているともとれる」
「そこでだが桜子。お前を晴海に預けようと思う」
「え…しかし、私は」
「本家とオレの警備任務はこの際、それ程重要ではない」
「いえ、それは」
「お前にとっては重要事だが、オレにはそうではない。分かるか?」
「はっ…はい、分かるつもりです」
「晴海は前線の士、お前の希望も半分適うだろう」
「それはそうですが、では、私の立場はどの様になるのでしょうか」
「晴海のお付き、という事では不満だろうが、オレとしては
今、向こうがどうなっているか、真意はどうなのかは知らん」
「つまり、近くに居て、それとなく見てこいと?」
「それもある」
「成程、承知するしか無いようですね」
「まあ、どちらでも構わんがな、無理強いは出来んだろうし、お前の判断でいい」
「いえ、分かりました。あまり自信はありませぬがやってみます」
「そうか。では詳細と用意は後日伝える、準備だけはしておいてくれ」
「はっ!」
そうして桜子はそのまま正座して次を待ったが、泰斗にはそれだけだ、三十秒程両者沈黙し先に桜子が声を掛けた
「御用はそれだけでしょうか?」
「ん?ああ、とりあえずな。下がっていい」
「は、はい」
とそこで彼女も退出するが、泰斗も側近に尋ねた
「桜子は何か含む所でもあるのか?どうも不承にも見えたが」
「さて…泰斗様と離れるのは嫌だとか?」
「ふむ…そういう側面もあるか」
「晴海様に預ける、という事であれば自動的に泰斗様からは解任とも取れますからね、同時に本家から離れる訳ですし」
「成程、しかし《御用はそれだけ?》とは?」
「夜半に泰斗様の私室に呼ばれたので何か勘違いしたのでは?今日の伽は自分の番だ、とか?」
「ふむ、それは悪い事をしたな。だが桜はまだ抱いておらんかったか?」
「ええ、来て一年程に成りますがまだ。泰斗様にその気があるかは知りませんが」
「多分無いな。ガキ臭いし勝気な女は嫌いだ」
「でしょうね、おそらく好まないとは思いました」
そこから二日。
事前の話の通り用意は整えられる。詳細を伝えられた桜子は予想通りではあるが消沈する中身ではあった
泰斗と神宮寺本家に充てられた桜の護衛任務の解除、並び、泰斗から晴海への所属の変更である
ただそれだけ、ではあるのだが彼女にとっては重大な事だ
会社組織で言えば左遷に近い感覚であるから。
調査目的に近い、一時的な事ではあるのだが当人にはそう感じなかったが、受けた以上、其れを軽視することも出来ず、桜子も用意を整え当日早朝には東京へ向かった
今日日国内を縦断しても移動の速さ、インフラの整備状況からそれ程時間も要せず
都に入り降りる。
用意は整える、の通り全ての手筈は既に終わっているが受ける側からすれば急な事ではあるので晴海側は連絡を受けてはいるのだが、こちらの用意が整わず、ECM本部ではなく、公宅。開発部で充てられたマンションの自室で彼女を迎えた
桜子も晴海の事は知っている、あくまでプロフ上、紙の記録で読んだ程度だが最初から誤解があった。 つまり最初のアヤネと同じように考えていたから
恐縮して平伏して挨拶したが、想像と逆の相手だったから
当然、先だって晴海に付いている、座に着いているいるアヤネも名雪も四家の令嬢なので一層、礼が大事な場面でもある
「お初にお目にかかります、獅童 桜子です」に対して
「あ、これはどうもご丁寧に」だった
それはアヤネや名雪の最初と同じだったが、彼からすれば慣れたというか、他人が自分にそういう態度なのも、前提と成る物を知っている。だからこれまでと同じ様に対応した
「あ、平伏はやめてくれる?僕が話にくいから」
「はっ」
そうして桜子も頭を上げて、正座して対面するが、これもアヤネの時の様に、思わず、目を伏せたままだがジロジロ見ざる得ない
「えーと、手紙というか…通知は泰斗兄さんから受けている、前線の希望て事でこちらに住むらしいけど」
「はい、今までその機会がありませんでしたが、晴海様は都で最前線組織を作り、公人と協力し積極的に討伐を行ってると、故に、こちらを希望し、承認された次第です」
「うん。ただこっちでも凄く事件が多いという程でもないね
何れにしても、まだ少し準備が掛かるので暫く待っててください」
「はっ」
「此処は公人社宅みたいなモノになってて僕らは間借りしているけど、ECMの本部にも個室がかなりある。彼方は入るのに身分証が必要になるので用意出来るまで数日掛かる、どっちにする?」
「数日でしたら、此方か、何処かに宿を取ります、組織本部に部屋があるならそちらで結構です」
「分かった。アヤネ、悪いんだけど」
「はい。では桜子さん、空いてる部屋に一時滞在してもらいましょう」
「はい」
として、特に反対することもなく、アヤネに従って退席し晴海の号室の空いている部屋に案内された
戻ったアヤネも加え、晴海らも今回の一件を話し合う、雑談ではあるが
「なんだかまた堅そうな人だなぁ…」
桜子は年齢は晴海の同年で、見た目はどちらかというと同年な感じはあまりない。
背は晴海、アヤネより低い一五五センチだし、どちらかと言えば小さいというか鍛えた締まった体型で、レイナや誠ともまた違う運動系だが、名雪とも違ってモデルの様な奇麗な感じでもない
名雪ともレイナともまた違うタイプの剣士系というか侍ぽい印象がある
実際、黒のストレートの長いポニテでデコ出しだが前髪を中分していて、頬まで垂らしていて、鉢がねみたいなはちまきをしているから余計だが
年齢が上に感じないのは顔の印象が強い、顔のパーツが大きく、目はハッキリとしていて、顔全体も丸っこい、どちらかと言えば厳しい顔つきで、やや睨み目のつり目で怒り眉なので睨まれる感じなのだが、童顔なので怖い印象は殆どない、子供が無理してキリっとしているという感じ
「堅そうな印象」と晴海が言うのも、他の子と違って桜子自身に業務的な、前提としての上下がかなり強く見える
それは印象なのだが、略、正解で。その後マンションの晴海の宅の小さい部屋に入った後、特に交流を持つでもなく、アヤネや晴海に何かを聞くでもなく、殆ど雑談もなく
「はい」「いいえ」みたいな感じで、壁の様な、事務的な印象を受ける
ただ、その辺りの事情は名雪の方が詳しいらしい
「獅童家は四家の下だからな、かなり昔から輪の中にあるが、立場自体も高くない。絶対的な上下、というのが一派にはある」
「と言うと?」
「代々、武闘派的な組織として存在していて、神宮寺本家周辺の警備をやっている、ウチ、睦とは遠縁ではある」
「成程、それである程度知ってると」
「うむ。純粋な剣術の家ではあるが、綾辻とは違い規模はでかくないし経済的に強いという事でもない。例えて言えば武芸の道場の一派がそのまま組織、家化し輪に加わったという感じだな」
「頼りには成りそうですね」
「それと、獅童は独特の退魔業があるので、裏の面でも頼りになるだろう、あくまで個体の武力と言う面ではだが」
「それで兄さんの専属に成っていたのか」
「それもある、少数での防衛、護衛では強い、だが同時に綾辻とは別の負債もある」
「それは?」
「如何に表でも裏でも強いと言っても其れはあくまで個人の範囲だし、家の格も規模も変わらん、唯一あるとすれば其れは神宮寺本家に依存する形にしかない」
「つまり昔的に言えば、桜子さんは、前線の士として結果か、護衛・警備として組織の有名、どっちかしか栄達みたいのは無いという事?」
「彼女が何を望んでいるかは知らんがな」
「でも名雪さん、どちらか有っても家には大きな影響はないのでは?」
「そうでもない、獅童の一族は状況があまり良くない、子宝に恵まれた時期もないし、元々少数の家だし、裕福という事もない、あくまで個々の範囲では強い、という程度だし求められるのがその個々の範囲の武力しかない」
「使われる事でしかアピール出来ないみたいな感じ?」
「その傾向は強いだろう」
「壁みたいのを感じるのもその為か」
「まあ、晴海様は絶対的な上下の常識はないだろうしな、だが、我々には此れは強い概念だ」
「うーん…それも何か極端な気がするな」
「晴海様がそう思うのは仕方ない。家から離れて育ったのだから」
「時代錯誤だなぁ、とは思う」
「まあ、何れにしろ、前線の希望なのだから使ってやればいい、その点もそこまで期待は出来ぬだろうが」
「?」
「残念ながら、獅童は今まで退魔で最前線に加わったという事もあまりないハズだ、四家があくまで主導し、獅童は下支家で露払いや残党討伐とか、そういう事が多い、そこまで頼りにされたり呼ばれたりという事も殆どないからな」
「そうなんだ…」
「うむ」
「何れにしても、もう少し直接聞いておきたいな、彼女が何を望んでいるのか、其れに寄っては積極的に前に加えて、活躍の場を作ってあげたい、ちょっと話にくい子だけど…」
そういう一連の事情を聞き、晴海も行動してみる事にした
晴海の晴海たる、所以というやつだろう
自ら一時彼女に入ってもらっている別室を一人で訪ね
さっそく、率直に聞いてみる
「は、晴海様!私めに態々どの様な御用でしょう」となんかまた平伏されたが
とりあえず其れは止めてもらって、いつも通り率直に聞いてみた。彼女の家の事、状況、実際の戦闘の経験等だが。
やはり、最初はカチーンと硬直したまま「はい」「はい」と聞いていたが次第にそれも和らいでくる
「じゃあ、実際の戦闘経験と言っても大したこと無い訳か」
「一応退魔でも戦える、というだけでそれ程ではないかと…」
「露払いとか、残党退治とも聞いたけど?」
「はい、本題は四家の方がやり、我々支家は斥候と掃討任しかありません、具体的には、現場周辺の本職退魔師が来るまでの現場の維持とか、打ち漏らした雑魚の追跡討伐程度です、私も小鬼を二度討ったという程度です、Eランクでも、かなり下層の相手でしか戦闘は許されていません」
「許されない?それって決まり事なの??」
「それも半分ありますが、獅童は業はあっても霊力がありません、我が家に伝わるこの業「金切りの一閃」と言う業ですが、それなりに霊力を使いますので」
「つまり参加出来ても、かなり短時間しか持たないからか」
「はい、それに私等が使っても大した威力もない。ランクの低さもありますが、それ故、雑用程度という扱いです」
「それは家の格の事もあるの?」
「それもありますが、獅童家は支家ですが、血族が少なく人員も多くないです、私と父と、ええと、別の縁者が二家族とかその程度ですし、弟子というか配下も二十人程度です」
「成程、だから自身でも前に出たいのか」
「武を持って示す、そういう形でしか輪の中では重用されませんので」
「じゃあ、名声が目的??」
「私個人がどうこうというのはありませんが…」
「あー…、家の評価が低いのがアレなのか」
「そ、そうハッキリ言われると」
「まあ、とりあえず希望は分かったから。なるべくそういう配分をしよう」
「よ、宜しいのですか⁈」
「え、うん。なるべくなら当人の希望通りにしてあげたいし…」
其れを聞いて桜子もかなり驚いた様だ。元々大きめな眼が三白眼になってた
「そんなに驚く様な事なのかな…」とも晴海も思ったが、実際、家側の常識だと彼女の反応のが普通なのだが
泰斗との関係もそうだが、あくまで桜子と泰斗との距離、差は大きい、軍で言えば、将と長くらいの差がある訳で。桜子がどう思っていようと、明確に泰斗や晴海に対して「主張」等出来る立場ではないからだ
ただ、それは「あちらの事情」であって晴海にはその概念自体が無い、だから「希望に沿うよ」と単純に言うのだが、受ける桜子からすれば「そんな簡単に⁈」と成る訳である 要望処か、本来なら意見すら出来ないのだから
獅童家の負債というのはもう一つあって、古くから輪に居り、長く現代まで、神宮寺に近く使われているが、其れは歴史の初期期に神宮寺と獅童のトップ同士の個人的な関りがあっての事だ
獅童は神宮寺二代目の晩年の知己でもあり、剣術を指導したこともある、つまり、個人的な友人の関係にあり、贔屓にされている部分もあるのだが。その後の代にも其れは引き継がれ、神宮寺本家周辺の警備、要人護衛を務める事が多い
その為、逆に現代の獅童は肩身が狭くもある。他四家の様に、退魔で活躍出来るという程でもなく、経済的に貢献しているという訳でもなく、名士を配して輪に貢献したという事も無く、集団しても雑用中心だから
だから桜子は獅童の直系、長女として「何からの形で見える成果を」と考えているのだが、其れは今まで全て頓挫している
一つが、泰斗から離された事
二つが、前線で戦う、退魔の貢献だが、これも護衛以上には見られなかった事だ
名雪も言った通りで「神宮寺に依存する貢献」つまり、泰斗に気に入られれば側室という形もあったが泰斗は彼女を女性として見る事もなく、今回スパイに近い事を命じた
意図はどうあれ、桜子からすれば、何重にも自身を否定されたに近い行いである。それが「消沈」した理由であるが。 ただ、今回の一件は実際は好転ではあるのだがそれに気づくのは先の話である
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僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
関白の息子!
アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。
それが俺だ。
産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった!
関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。
絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り!
でも、忘れてはいけない。
その日は確実に近づいているのだから。
※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。
大分歴史改変が進んでおります。
苦手な方は読まれないことをお勧めします。
特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。
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