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野生
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そうして、三月の頭
いよいよ「実践」の機会が訪れる。これは偶然ではあった
実際問題、アヤネも本家神宮寺から「指示」は受けているし晴海を戦わせるつもりも無かったが、先の妖怪事件だろう案件に関わった事で、公人側から直接連絡を受けた事である
本来なら晴海らの様な半端者が現場に出るのも可笑しな話に見えるが様々な問題も抱えている。
一つに、単純に対魔に関しては前線に出られる人間が多い訳では無い事
二つに、神宮寺と分四家は重大な事件以外では出ない事、小さい事件、神隠しの類を「その様な細事はどうでもいい」或いは「一般人の命は軽い」と考えて居る節がある
三つに、昔からの立場もある。泥棒を捕まえるのに王族や近衛が出ないのと同じ理屈で神宮寺の一族は特別な立場であるという事、無論その家の関係者が望めば前線に出ても構わないのだが、現代で態々やる人間は多く無いだろう
晴海と共に現場。商業地のオフィス街から外の自然の多い河川敷の近くで中途で警察車両に案内されて到着。
直ぐに探査器を使ったが、かなり近かったので自分等が対応する事になった
内容は「神隠し」である。
数名の会社員の男性グループが街へ出て飲む、帰り掛け徒歩移動の際、仲間の一人が「急に居なくなった」らしい、最初は消えた一人が冗談か何かをしているのかと思ったが何処にも居ない、携帯も繋がらない。そこで通報し、警察経由で話しが晴海らに来た
アヤネも判断に迷ったが、これもルールがある
実際二人で広い河川敷に降りて、直ぐ対応するしかない
「晴海様、これは特殊な例ですので警戒してください」
「え?」
「この付近に「門」があります。簡単に言えばこちらとあちらが繋がり易い場所ですので、こっちから向こうへ侵入します」
「僕らだけで?!」
「残念ながら、これは「ルール」です。「不安定な場所に出現した門は無原則に魔が出て来る可能性がある、故、見つけたら即応せよ」という決まりがあります。具体的には封鎖か討伐ですが、今回は被害者が消えています」
「つまり、消えた人が中に居る、こちらから乗り込むしかない訳か‥」
「本来ならもっと上の専門家を呼ぶべきでしょうが、事件発生から一時間以内ですので確認は必要でしょうね‥、ですが晴海様は此処で待っていてください」
「いや、それはダメだ、危険なら尚更一人では行かせられない」
そう云われるとアヤネも拒否は出来ない
晴海の意思は何より優先されるし、実際その意思に従えという命を受けても居るから
双方頷いて、アヤネは術を展開、面前の空間に「穴」が空く
そして踏み込んだ。
鏡の世界、というお話もあるが実際それに近い、現実世界と同じ形なのだが、アチラ側では「時間」の概念がズレているとされている、見た目は現実と同じなのだが、色の無い様な灰色の空間だ
アヤネは札を数枚出して持ち先導して羅針盤をかざしながら
進む
10分くらい進んだだろうか、川の反対側に歩き
右側にある大きな公園の前で止まった
「この中に反応があります。私が行きますので晴海様は下がっていてください」
「し、しかし‥」
「貴方様が死ぬ事になれば、我らにとっても大きな痛手ですから、私が指示したら元の場所に逃げてください。」
「いや‥それは」
「私の代わり等幾らでもいますが、貴方の代わりは居ません」
「‥分った」
そうして公園内にアヤネがかなり前に出て侵入
三分歩いて丁度中央付近の広場で「現場」に遭遇した。現場という通りそれは晴海には、一般の人間には嘔吐するような光景だろう
相手は一匹、毛の無い白い熊の様な奴だが、そいつがこちらに背を向け屈んだ体勢で「捕食」している所だった、遠くからだが十分分った
屈んでソイツが浚って持ってきた人間を
惨殺しながら「食っている」場面
しかも相手は生きているらしい
「あが!」「ぐあぁ!」と断末魔の叫びを挙げながら体を千切られて食われているのだ、身動き取れず、地面に貼り付けにされて三メートルはあろうかという獣に意識があるなか食われる、これ以上ない悲惨な状況だ。晴海も遠くから見ながら、硬直して動けなかった
「‥なんだ、これ‥」
と、事前に知識があろうがなかろうがゲロる場面だ
一方アヤネもそう違い無いが、経験と知識はあるが討伐出来るかどうかというとかなり微妙だ、即、用意していた札の一枚を右手で自分の手前に投げる。これが形を作って紙の犬となって吠えた
おそらく魔物とやらもこれに気づいて立ち上がり、振り向き前屈みのまま威嚇する。見た目は相手も獣の通り大よそ知的生物とは言い難い、醜悪な怒り顔で、前に走った。
妖怪とか魔物とか言っても物理法則を無視するほど可笑しな動きをする訳でもない
弐足と四足の中間の様な走りでアヤネに向う、これを迎撃して飛び掛るのがアヤネの式神だが。残念ながら狩りで言えば、熊対柴犬一匹みたいな状況で紙の犬はサイズが違うし、そこまで強くはないらしい、周囲を飛び回って足元から噛み付く程度で相手に殆どダメージが通ってない
アヤネも札を投げて二匹目も呼び出すが残念ながら無駄だろう。とは言え、彼女はそもそも紙術は三つしか持ってない
自身でも「大した事はない」と言った通りである
その内、紙犬もあっさり相手の腕の横払いと爪で引き裂かれ
正に紙を破る様に消滅させられる、そうなると相手を規制する手段がなくアヤネも襲われる
相手の白熊の前に飛びつきながら爪の攻撃を横に転がってかわし、もう一つの術を使う。左手に残った札の一枚で「盾」を展開して相手の攻撃を防ぐ、丁度紙が左腕全体に撒きつようになり籠手盾の形を作る
要は彼女の戦法はこれで自身を守りつつ攻撃は犬に任せるというやり方らしい。だが攻撃面で、これが通じないと、ほぼ何も出来ないと言う事になる
そこいらの雑魚ならそれでも何とかなるんだろうが、不幸にも最初の実戦の相手としては不相応な相手、レベルの合ってない相手という事だ
ここで事前に言った通りアヤネも相手の猛攻を防ぎながら叫んだ
「晴海様!逃げて!」と。
だが、晴海もそれどころではなかった、こんな状況でまっとうな判断など出来ようハズもなく
硬直して動けなかった
どうにか後ずさりするように、体を引きずるように下がるのがやっとだ。
勿論、当人も分っては居る、だが
「に、逃げる?どこに。そうだ入って来た所から逃げろて‥」
「でもそれでいいのか?彼女は助からないぞ!?」
そういう相反した感情から躊躇いもあった
優先度のルールを尊重してアヤネは一連の行動と指示をしたのだがそれも間違いではない。単にマニュアル通りなだけだ
だが、晴海が迷ってそういう行動を取らなかったのは結果論で言えば正解ではある
そうこうしている間にもアヤネの籠手盾も次第に削られる、硬質化して防ぐ、と言っても紙は紙強烈な攻撃を受けて破られ、後方に吹き飛ばされた
おそらく、8メートルは飛ばされて転がっただろう
「うぅ‥」と小さな呻き声を挙げて体を起こすが実際は
絶叫する被弾だ。左肩から二の腕、肘まで爪で裂かれかなりの出血、幸いカスッた様な傷なので深くはない
勿論、相手の獣は走って襲い来る
向こうからすれば相手が誰だろうと「餌」でしかない
「アヤネは確実に殺される」
そう、思った途端、晴海も動いた。意思というより条件反射の様なモノだろう、頭の中は真っ白だったから考えての行動ではない
アヤネの前に飛び出し両者の間に立ちはだかって
刀を抜いて構え、刀身を発動する
ダッシュして袈裟切りに近い形で爪を斜め上から下に
振り下ろしてくる獣の一撃を身を屈めて横に飛び退きながら避けて同時に斬った
そのすれ違い様の一撃で血飛沫と「前足」が宙を舞った、左肘から手、獣の方だ
一瞬何が起きたか分らない風に相手も硬直したが、別に痛み等なく、左手を失ってもお構いなしに晴海に飛び掛って逆の右前足を振るうが、これもカウンターで合わせる様に爪の攻撃に刀を返した。そして右、前足というのだろうか、これも肘から先が無くなる
流石にこうなると相手も本能的に危険と思ったのだろう、晴海から飛び退いて離れて背を向けて逃げ出したが、背中を見せた瞬間。首の後ろ、延髄から喉に青い刀身が貫いた
そう、逃げた所を霊圧刀の刃を矢の様に飛ばしてトドメを刺した
晴海は奴に歩寄り、うつ伏せで倒れて暴れるソイツに新たな刀身を出して背中側から突き、刺し殺した
あまりの出来事にアヤネも呆然として見送るだけ
が、晴海は殺した後、冷静さを取り戻して自分で自分に驚いた
「え‥これは‥」
「は、晴海様‥」
晴海は武器を納めて周囲を確認
直ぐにアヤネに駆け寄り、怪我の様子を見るが事前に対処も聞いている、懐から金属ケースを出しアンプルを一本取り出すがアヤネはこれを制した
「え?」
「大丈夫です‥治癒術があります」
言って、札を一枚出して左腕の裂傷部に貼る
丁度全体を覆う様にこれが拡大し、一応流血は止まった
「すみません‥お役に立てず‥少し待っててください」
「いや‥これは?」
「自然治癒力を急速に高める札術です。時間は掛かりますが
これで治ります‥」
「そっか‥、僕に出来る事は?」
「えっと‥死体を見ても平気ですか?」
「え‥まあ、気持ち悪いけど‥なんとか」
「では、私の携帯で両方の写真を、被害者に遺留品があれば習得を」
「や、やってみる‥」
そうして晴海は携帯を受け取りカメラモードにして
両方の死体を撮影、「オエ‥」とは成りそうだが我慢してどうにかこなした
遺留品の回収も正直激グロではある
何しろ被害者のスーツ姿の男性だが、上半身の右半分を食われて棄損しているし辺りは血の海だ。
ただ幸いスラックスの左ポケットが膨らんでいるのでこれを指で摘む様に引っ張り出してサイフを取った、ここに身分証、運転免許証があるので身元は確認出来た
「これでいい?(オエ‥」
「もうし訳ありません‥」
「謝らなくていいよ、君が出来ない事は僕がやるから‥
一応責任者、なんだろ?」
「あ‥いえ」
それだけ言ってアヤネも携帯と遺留品を確認しそのまま五分休んだが、どうにか動けるまで治療、というか治癒が進んだので立ち上がった。
勿論事前に鎮痛剤は投与してるが痛くはある、一応動ける程度には緩和されたというだけの事で全然治ってはいないし、ただ、この場に長く居れば別な獣が来る可能性もある「門」が無くなる可能性もあるから
「これじゃあどっちが「補佐」か分ったものじゃありませんね‥」
晴海に支えれて出入り口に歩きつつ、そう沈んで言ったが
別に彼は気にしてない。勿論「知らないから」という事もあるが潜在的に優しいのだろう
同時にアヤネも知識では知っているが神宮寺の血統の者が何故四家のトップなのかという事もまざまざと見せつけられた気がする
晴海が特別なのかもしれないけど、初陣であれだけの強さを見せたのだから、畏敬、という感情を持ったのも事実ではある
そのまま入った穴から外に出て、出入り口を固めた私服警官に囲まれるがこれも制して、現場で回収した被害者の遺留品と携帯カメラで撮ったデータも移譲した
相手側もこれを受け取り、確認した後、晴海らも覆面車両に乗り、簡単な前後の聴取、そのまま家まで送り届けられた。
怪我はあるのだが、そもそも現代治療も進歩はしれているが
それでも札術の方が遥かに治りは早い、受けても仕方無いし拒否した為だ
アヤネは自室に下がって着替え血だらけに私服を破棄して拭い晴海の心配も制して寝る様に言った
「大丈夫ですから、明日があるのでお休みください」
と言って。
まあ、実際他人から見たら重傷だが当人にその感覚はない、大分痛みも引いているし怪我も塞がりかけな訳で
いよいよ「実践」の機会が訪れる。これは偶然ではあった
実際問題、アヤネも本家神宮寺から「指示」は受けているし晴海を戦わせるつもりも無かったが、先の妖怪事件だろう案件に関わった事で、公人側から直接連絡を受けた事である
本来なら晴海らの様な半端者が現場に出るのも可笑しな話に見えるが様々な問題も抱えている。
一つに、単純に対魔に関しては前線に出られる人間が多い訳では無い事
二つに、神宮寺と分四家は重大な事件以外では出ない事、小さい事件、神隠しの類を「その様な細事はどうでもいい」或いは「一般人の命は軽い」と考えて居る節がある
三つに、昔からの立場もある。泥棒を捕まえるのに王族や近衛が出ないのと同じ理屈で神宮寺の一族は特別な立場であるという事、無論その家の関係者が望めば前線に出ても構わないのだが、現代で態々やる人間は多く無いだろう
晴海と共に現場。商業地のオフィス街から外の自然の多い河川敷の近くで中途で警察車両に案内されて到着。
直ぐに探査器を使ったが、かなり近かったので自分等が対応する事になった
内容は「神隠し」である。
数名の会社員の男性グループが街へ出て飲む、帰り掛け徒歩移動の際、仲間の一人が「急に居なくなった」らしい、最初は消えた一人が冗談か何かをしているのかと思ったが何処にも居ない、携帯も繋がらない。そこで通報し、警察経由で話しが晴海らに来た
アヤネも判断に迷ったが、これもルールがある
実際二人で広い河川敷に降りて、直ぐ対応するしかない
「晴海様、これは特殊な例ですので警戒してください」
「え?」
「この付近に「門」があります。簡単に言えばこちらとあちらが繋がり易い場所ですので、こっちから向こうへ侵入します」
「僕らだけで?!」
「残念ながら、これは「ルール」です。「不安定な場所に出現した門は無原則に魔が出て来る可能性がある、故、見つけたら即応せよ」という決まりがあります。具体的には封鎖か討伐ですが、今回は被害者が消えています」
「つまり、消えた人が中に居る、こちらから乗り込むしかない訳か‥」
「本来ならもっと上の専門家を呼ぶべきでしょうが、事件発生から一時間以内ですので確認は必要でしょうね‥、ですが晴海様は此処で待っていてください」
「いや、それはダメだ、危険なら尚更一人では行かせられない」
そう云われるとアヤネも拒否は出来ない
晴海の意思は何より優先されるし、実際その意思に従えという命を受けても居るから
双方頷いて、アヤネは術を展開、面前の空間に「穴」が空く
そして踏み込んだ。
鏡の世界、というお話もあるが実際それに近い、現実世界と同じ形なのだが、アチラ側では「時間」の概念がズレているとされている、見た目は現実と同じなのだが、色の無い様な灰色の空間だ
アヤネは札を数枚出して持ち先導して羅針盤をかざしながら
進む
10分くらい進んだだろうか、川の反対側に歩き
右側にある大きな公園の前で止まった
「この中に反応があります。私が行きますので晴海様は下がっていてください」
「し、しかし‥」
「貴方様が死ぬ事になれば、我らにとっても大きな痛手ですから、私が指示したら元の場所に逃げてください。」
「いや‥それは」
「私の代わり等幾らでもいますが、貴方の代わりは居ません」
「‥分った」
そうして公園内にアヤネがかなり前に出て侵入
三分歩いて丁度中央付近の広場で「現場」に遭遇した。現場という通りそれは晴海には、一般の人間には嘔吐するような光景だろう
相手は一匹、毛の無い白い熊の様な奴だが、そいつがこちらに背を向け屈んだ体勢で「捕食」している所だった、遠くからだが十分分った
屈んでソイツが浚って持ってきた人間を
惨殺しながら「食っている」場面
しかも相手は生きているらしい
「あが!」「ぐあぁ!」と断末魔の叫びを挙げながら体を千切られて食われているのだ、身動き取れず、地面に貼り付けにされて三メートルはあろうかという獣に意識があるなか食われる、これ以上ない悲惨な状況だ。晴海も遠くから見ながら、硬直して動けなかった
「‥なんだ、これ‥」
と、事前に知識があろうがなかろうがゲロる場面だ
一方アヤネもそう違い無いが、経験と知識はあるが討伐出来るかどうかというとかなり微妙だ、即、用意していた札の一枚を右手で自分の手前に投げる。これが形を作って紙の犬となって吠えた
おそらく魔物とやらもこれに気づいて立ち上がり、振り向き前屈みのまま威嚇する。見た目は相手も獣の通り大よそ知的生物とは言い難い、醜悪な怒り顔で、前に走った。
妖怪とか魔物とか言っても物理法則を無視するほど可笑しな動きをする訳でもない
弐足と四足の中間の様な走りでアヤネに向う、これを迎撃して飛び掛るのがアヤネの式神だが。残念ながら狩りで言えば、熊対柴犬一匹みたいな状況で紙の犬はサイズが違うし、そこまで強くはないらしい、周囲を飛び回って足元から噛み付く程度で相手に殆どダメージが通ってない
アヤネも札を投げて二匹目も呼び出すが残念ながら無駄だろう。とは言え、彼女はそもそも紙術は三つしか持ってない
自身でも「大した事はない」と言った通りである
その内、紙犬もあっさり相手の腕の横払いと爪で引き裂かれ
正に紙を破る様に消滅させられる、そうなると相手を規制する手段がなくアヤネも襲われる
相手の白熊の前に飛びつきながら爪の攻撃を横に転がってかわし、もう一つの術を使う。左手に残った札の一枚で「盾」を展開して相手の攻撃を防ぐ、丁度紙が左腕全体に撒きつようになり籠手盾の形を作る
要は彼女の戦法はこれで自身を守りつつ攻撃は犬に任せるというやり方らしい。だが攻撃面で、これが通じないと、ほぼ何も出来ないと言う事になる
そこいらの雑魚ならそれでも何とかなるんだろうが、不幸にも最初の実戦の相手としては不相応な相手、レベルの合ってない相手という事だ
ここで事前に言った通りアヤネも相手の猛攻を防ぎながら叫んだ
「晴海様!逃げて!」と。
だが、晴海もそれどころではなかった、こんな状況でまっとうな判断など出来ようハズもなく
硬直して動けなかった
どうにか後ずさりするように、体を引きずるように下がるのがやっとだ。
勿論、当人も分っては居る、だが
「に、逃げる?どこに。そうだ入って来た所から逃げろて‥」
「でもそれでいいのか?彼女は助からないぞ!?」
そういう相反した感情から躊躇いもあった
優先度のルールを尊重してアヤネは一連の行動と指示をしたのだがそれも間違いではない。単にマニュアル通りなだけだ
だが、晴海が迷ってそういう行動を取らなかったのは結果論で言えば正解ではある
そうこうしている間にもアヤネの籠手盾も次第に削られる、硬質化して防ぐ、と言っても紙は紙強烈な攻撃を受けて破られ、後方に吹き飛ばされた
おそらく、8メートルは飛ばされて転がっただろう
「うぅ‥」と小さな呻き声を挙げて体を起こすが実際は
絶叫する被弾だ。左肩から二の腕、肘まで爪で裂かれかなりの出血、幸いカスッた様な傷なので深くはない
勿論、相手の獣は走って襲い来る
向こうからすれば相手が誰だろうと「餌」でしかない
「アヤネは確実に殺される」
そう、思った途端、晴海も動いた。意思というより条件反射の様なモノだろう、頭の中は真っ白だったから考えての行動ではない
アヤネの前に飛び出し両者の間に立ちはだかって
刀を抜いて構え、刀身を発動する
ダッシュして袈裟切りに近い形で爪を斜め上から下に
振り下ろしてくる獣の一撃を身を屈めて横に飛び退きながら避けて同時に斬った
そのすれ違い様の一撃で血飛沫と「前足」が宙を舞った、左肘から手、獣の方だ
一瞬何が起きたか分らない風に相手も硬直したが、別に痛み等なく、左手を失ってもお構いなしに晴海に飛び掛って逆の右前足を振るうが、これもカウンターで合わせる様に爪の攻撃に刀を返した。そして右、前足というのだろうか、これも肘から先が無くなる
流石にこうなると相手も本能的に危険と思ったのだろう、晴海から飛び退いて離れて背を向けて逃げ出したが、背中を見せた瞬間。首の後ろ、延髄から喉に青い刀身が貫いた
そう、逃げた所を霊圧刀の刃を矢の様に飛ばしてトドメを刺した
晴海は奴に歩寄り、うつ伏せで倒れて暴れるソイツに新たな刀身を出して背中側から突き、刺し殺した
あまりの出来事にアヤネも呆然として見送るだけ
が、晴海は殺した後、冷静さを取り戻して自分で自分に驚いた
「え‥これは‥」
「は、晴海様‥」
晴海は武器を納めて周囲を確認
直ぐにアヤネに駆け寄り、怪我の様子を見るが事前に対処も聞いている、懐から金属ケースを出しアンプルを一本取り出すがアヤネはこれを制した
「え?」
「大丈夫です‥治癒術があります」
言って、札を一枚出して左腕の裂傷部に貼る
丁度全体を覆う様にこれが拡大し、一応流血は止まった
「すみません‥お役に立てず‥少し待っててください」
「いや‥これは?」
「自然治癒力を急速に高める札術です。時間は掛かりますが
これで治ります‥」
「そっか‥、僕に出来る事は?」
「えっと‥死体を見ても平気ですか?」
「え‥まあ、気持ち悪いけど‥なんとか」
「では、私の携帯で両方の写真を、被害者に遺留品があれば習得を」
「や、やってみる‥」
そうして晴海は携帯を受け取りカメラモードにして
両方の死体を撮影、「オエ‥」とは成りそうだが我慢してどうにかこなした
遺留品の回収も正直激グロではある
何しろ被害者のスーツ姿の男性だが、上半身の右半分を食われて棄損しているし辺りは血の海だ。
ただ幸いスラックスの左ポケットが膨らんでいるのでこれを指で摘む様に引っ張り出してサイフを取った、ここに身分証、運転免許証があるので身元は確認出来た
「これでいい?(オエ‥」
「もうし訳ありません‥」
「謝らなくていいよ、君が出来ない事は僕がやるから‥
一応責任者、なんだろ?」
「あ‥いえ」
それだけ言ってアヤネも携帯と遺留品を確認しそのまま五分休んだが、どうにか動けるまで治療、というか治癒が進んだので立ち上がった。
勿論事前に鎮痛剤は投与してるが痛くはある、一応動ける程度には緩和されたというだけの事で全然治ってはいないし、ただ、この場に長く居れば別な獣が来る可能性もある「門」が無くなる可能性もあるから
「これじゃあどっちが「補佐」か分ったものじゃありませんね‥」
晴海に支えれて出入り口に歩きつつ、そう沈んで言ったが
別に彼は気にしてない。勿論「知らないから」という事もあるが潜在的に優しいのだろう
同時にアヤネも知識では知っているが神宮寺の血統の者が何故四家のトップなのかという事もまざまざと見せつけられた気がする
晴海が特別なのかもしれないけど、初陣であれだけの強さを見せたのだから、畏敬、という感情を持ったのも事実ではある
そのまま入った穴から外に出て、出入り口を固めた私服警官に囲まれるがこれも制して、現場で回収した被害者の遺留品と携帯カメラで撮ったデータも移譲した
相手側もこれを受け取り、確認した後、晴海らも覆面車両に乗り、簡単な前後の聴取、そのまま家まで送り届けられた。
怪我はあるのだが、そもそも現代治療も進歩はしれているが
それでも札術の方が遥かに治りは早い、受けても仕方無いし拒否した為だ
アヤネは自室に下がって着替え血だらけに私服を破棄して拭い晴海の心配も制して寝る様に言った
「大丈夫ですから、明日があるのでお休みください」
と言って。
まあ、実際他人から見たら重傷だが当人にその感覚はない、大分痛みも引いているし怪我も塞がりかけな訳で
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