晴海様の神通力

篠崎流

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冷えた家族

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翌日も、普通に学校に行き、更に翌日には日曜で休日であるがアヤネは何時も通りであった。祭日で有る事から午前中から彼女は出かける

あれから一ヶ月弱、本家に報告を入れる期間ではあるから、とは言え、日記の様な日報の様なモノを提出しただけで別に大した話は無いのだが、先日の「事件」の詳細は要る

「そういう訳で、事故的にではありますが討伐を行ないました」
「ふむ‥もう霊圧刀を使えるようになったのか」
「はい、前任者の教育が良かったのでしょう、私が被弾し晴海様に助けれました、実際討伐したのは晴海様です」

「他に気づいた事は?」
「ええと‥危険な状態に陥ったのですが、それまで歳相応の反応だった晴海様は急に恐怖や硬直が無くなりましたね‥」
「ああ‥それは珍しい事ではないのでいい」
「そうなんですか?」
「うむ、神宮寺の純血統の人間は危機対処状態に成ると逆に冷静さを取り戻す、野性に戻ると云ったらいいのか」
「なるほど、ではわたくしが聞く事ではありませんね」
「ああ」

「それとやはりわたくしでは、役不足と思いますので‥」
「それも継続で良い」
「はっ‥はい」
「問題は晴海様は思ったより前線向きなのが分った事だな‥
一度、本家に訪問願った方が良いのかもしれない‥」
「かもしれません‥殆ど実戦未経験でそれなりの相手を狩れたのですから」
「うむ、何れにしろ頭領に報告する、それから道具も増やすべきだろう引き続き、晴海様を守れ」
「ははっ」
とアヤネも平伏して礼をし屋敷を出た

そしてこの一連の事件の詳細も晴海の父に個室で報告される

「ふむ‥意外な拾い物、という事になるか。」
「丁度立場的にも微妙ですし、前線の指揮官は幾ら居てもいいかと」
「うむ、では調査の後武具を応じて与えよう」
「はっ」
「篭絡の力の方は?」
「まだです、時期的にはかなり早い様ですし安定はしてないかと継続調査で宜しいのでは」
「そうだな。何れにしろ調べてからだが」
「はい」

アヤネが戻って後、また日常と非日常の合間の生活が続いたが翌週の日曜には晴海と共に本家、神宮寺の屋敷へ訪問

別に家族に会いに来た訳ではなく特にそういう事も無く、離れにある蔵の様な場所に案内される、晴海自身も今更親が恋しい訳でもないし

中は密室で外界から遮断されている、精精二十畳くらいの狭暗い場所だが促され、奥にある祭壇に座らされる

「これは?」
「そこにあります玉に手を添えてください」
「ああ‥」

周囲の屋敷の世話の者二人に指示され座って丁度胸の高さ、目の前に置かれている四十センチくらいの三つの円形の玉に順番に手を置いた

一見するとただの水晶の様だが、晴海が触ると様々な色を強く発する。これを周囲の者が機械で測って記録する。声を挙げたりはしないが驚いてはいたようだ表情から読み取れる

たったそれだけの事なのだが、10分近く続けさせられたが
「もう、結構ですよ」と言われ蔵を出た。

そこで本家屋敷の客室に案内されてアヤネと合流、座った所でサッとお茶と菓子を出された
「お疲れ様です」と

「何なんだろう‥あれ」
「あれが探査器です」
「あー‥確かランク判定みたいのがあるのか」
「はい、当主や頭領といった方が受けるのは稀ですが晴海様は実戦の適正が高い様なので」
「うーん、そうなのか‥知っといたら楽は楽だと思うけど」
「自ら知りたいという方は確かに居ますが、逆に言えば知らない方はが良い事もありますので‥」
「例えば?」
「我々は仕える者ですので知る必要がありますが指揮官の能力を単に数字で判定して低かった場合、忠誠とか、指揮に影響する事もありますし」
「成る程、僕は現場で戦う事もあるから特例て事か」
「はい」

そうこうしている内に、晴海の結果をもって世話の者が部屋に訪問。ほぼ無言のまま封筒を置いて去った、どれどれ、と早速開けて見たが晴海には意味不明である、察してアヤネが読んだが予想通りでもあり意外でもあった

「はて‥?」
「どうしたんだ?」
「いえ、予想通りではありますが晴海様は霊力が極端に高い様です、心技体の心の部分ですね」
「他は?」
「普通ですね、一般的な人間の男性と戦闘力はそう違いはないです」
「そうか」
「ただ、これはあくまで「現在値」なので目安でしかないのであまり気にしなくて良いかと」
「ランクは?」
「Cですね、ただこれも晴海様に限っては参考になりません
極端に霊力だけ高いので‥」
「他が大した事無くても平均は高く成ってしまう、か」
「それに、残念ですが判定機と言っても数字が詳細に出る訳でもないので、あくまで大雑把にこの辺り、とかですから」

「うーん、態々調べたものの、あんまり面白く無い結果だね‥まあ、逆に言えば他を伸ばすという方向性は見えたけど」
「そうですね‥晴海様は専門訓練をあまり受けていないにも関わらずC判定な訳ですから、まだまだどうとでも伸びる、とは言えますね、羨ましくもありますし」
「そうなの?」
「ええ、専門の訓練をある程度受けて私はEですから‥」
「でもアヤネも当人の力に優れて無くても問題無いのでは?紙を使って攻防する訳だし」
「そうなんですが、私の霊力が元々高ければ同じ式神を使っても比例して強くなるので‥」
「そうだったのか‥」
「はい、今は、ですが式紙術と言っても実際種類が多く有りません、私が使う紙犬ですが、其れは一種です」
「どういうこと?」
「つまり、紙犬を私が使った場合と例えば晴海様が使ったとしても、元々の霊力の大きい人と小さい人が使った場合、同じ紙犬でも大きく強さが違います。私なら10+10、晴海様なら100+10という感じになります」
「ほほう‥紙犬という召喚?術は一つしかないけど、使い手が強いと全然違う訳か‥」
「はい、姿も強さも雲泥の差が出ます」
「そうか、この霊刀と同じか」
「そういうことです」

「もう一つ疑問もあるんだけど」
「はい?」
「ランク判定てどういう基準なの?」
「ええと、我々側の基準ではありませんね、今ままで登場、確認されている妖怪の側の基準です」
「?‥人間基準じゃなくて、相手側基準?」
「そうです、私はEですがEの妖怪と戦えますよ、という基準です、それも曖昧で実戦では何とも言えませんし、Eに部類されている妖怪とかもかなり幅が広いので」
「なるほど確かに。僕がCだとしても強い訳じゃないしね‥
まぐれ当たりとかミスとかで被弾して負ける事もあるし、道具に寄ってもかなり結果は変わるよね‥」
「ええ、玉をご覧に成った通り、あの判定機と呼ばれるモノは当人の現在の心技体の光の強さを測った物に過ぎません」
「アバウトだねぇ‥」
「それでも今はマシに成ったんですけどね‥大昔はそれすら無く戦った結果、戦績で後から称号が付いたらしいので」
「ふむ」

「それとランクが分ったとしてA~Eまで専門家が居るんだよね?そういう人、強い人が現場に出た方がいいのでは?」
「いえ、残念ながら我々、四家一族含めて前線に出られる者がそもそも多く無いです、家の直系の、例えば私なら京極家でも魔狩りの技術と能力を一定量備えている者は十人居ません」
「僕、神宮寺でもそうなのかな?かなり屋敷に人は居るみたいだけど‥」
「はい、殆どの者は魔に対しては無力です。武芸の訓練はしても技や術が使えるかと云えばかなり稀です、現代で言えば、格闘技の専門家を訓練で育成出来てもどうやっても虎や熊に勝てないのと同じ理屈ですね」
「成る程なぁ‥」
「それにランク判定はありますが一応水準として決まってあるだけで実際A以上の人も殆ど居ないハズです」
「こないだの熊は?」
「画像や羅針盤のデータから照会した後、分るでしょうがEでしょう」
「あれで一番雑魚なのか‥」
「はい‥ランクだけで言えばたぶんその範囲です」

「人間側に絶対数が足りない、従って対処もそう出来ないという事なのか」
「ええ‥残念ながら。事件は全国にありますし、それだけに晴海様の様な方が出るのは現場の者からすれば大変助かる、という事にもなりますね」
「でも弱いし‥」
「私よりはずっと頼りになりますよ。それに、言うは心苦しいですが神宮寺家の直系の方は判定ランク以上に実戦では強いですし今までの状況を変える力があります」
「うん?」
「我々の其々の家は社会状況に余り興味が無い、先日の事件もそうですが小さい事件の対処は政府側、公人側がやっています、簡単に言ってしまえば我々は事件に対しては非協力的です」
「なるほど、僕は身軽な立場でもあるけど、公人側からすれば影響力が強いという事か」
「私達、下っ端の対魔師からしても同時有り難い、とも言えますし」
「そう?」

「昔で言えば、戦場に出て指揮、統率する将軍とか殿様みたいなモノですから」
「それはそれで責任重大なんじゃ‥」
「ええまあ‥そうなんですが、晴海様はご存じない様ですから言い難いのですが」
「うん?」
「我々分家の者は基本的に兵卒なので‥命は軽い極端に言えば捨石と代わりありません」
「え?‥」
「なので、本家当主の直接的に現場に出て我々と共に隣で戦う、というのは心理的効果が高いでしょう」
「意味は分るけど‥理解はしたくないな‥」
「そうですか‥」フフ
「何か可笑しかったかな??」
「いえ、晴海様は本当にお優しいな、と」
「普通だと思うけど‥」

その後、そのまま客間で待たされ、夕方には食事を用意されて平らげ。終った後、荷物が運び込まれる、と云っても桐の長方形の箱一つで「持っていけ」という事らしい

一応開放して見てみるが、中身は白の羽織と小物数品である。羽織と言っても中世の様なモノでなく現代的なオーバーベストの様な洋風なモノだ

「現場に出る時はお持ちになる様にと特に羽織は防御と回復に有効だそうですので」
「あ、ああ」

ではそろそろ帰ろうかという所で晴海はアヤネを部屋に待たせて屋敷内を探した。「彼女はどうなったんだろう?」という事に懸念があったからだが、晴海はこの家の事はあまり知らない、何しろ今日来たのが憶えて居る範囲で3回だけだ

十五分歩き回って、正面大玄関の反対側から来る集団を見つけて声を掛けた

「父さん!」と

そう父親の慶であった。
「晴海か、来ていたのか」
「は‥はい。聞きたい事があるのですが」
「何だ?」
「あの‥蔡は何処に居るのですか?」
「蔡??」

とそう言ったが、惚けている訳ではなく本当に知らない風だった、そこで周囲の側近に耳打ちされようやく「ああ。」と認知したようだ

「アヤネの前任者か、アレなら確か解雇、破門されたハズだ」
「え?!出て行ったというか追い出したのですか?」
「当然だ、世話人が当主候補を襲うなど、あっては成らない事だそれに当人の望みでもある」
「そ、そうなんですか‥そ、それで今は?」
「追っている訳でも監視している訳もない、知らんな」
「‥」
「何故そんな事に拘るんだ?世話の女一人だろう」
「そ、それは‥」

「慶様‥」
「ん?ああ‥そうか。あの女が気に入ったのか?」
「そ、そういう事じゃないです」
「どうもお前の言ってる事は分らんな‥」
「いえ‥分らないならいいんです‥」
「そうか。」

そこで父親も自室へ戻り、晴海もそれ以上聞かずに戻った

父親の対応、もあるが一般の感覚とはかけ離れた常識があるのは確かだ「たかが世話の女一人」と思って実際言った通り
そう思っている、からこういう会話になる

それは特殊な家だからと云えばそれまでだが実社会でもあっても不思議ではない、例えて言えば、社員数千人を抱えた会社の社長とかみたいなモノなので一々覚えていられるかという事

つまり晴海にとっては重大な事だが、父親はこれを認知すらしていない、たかが末端のバイト一人みたいな感覚でしかないから

だから晴海は家が嫌いだった。嫌悪している訳ではなく、人とか情とかいう感覚が感じられない、全て事務的で、どちらかと言えば一般人に近い生活をしてきた晴海には苦手だったから

「たかが女てなんだよ」としか思わないからだ

彼、晴海は敢て口に出して云う事はしないが、母親も扱いが悪かった、正確には彼が会えたのは六歳までで母親もある時期から自分の家に帰り、それ以降は晴海も所在を知らない

だが、それは仕方無い事だ、昔の男尊女卑とか立場に寄る上下がこの家系では強く残っている。

実際兄もこちら側でなく、アチラ側の環境で育ったので近い感覚、相容れない部分が多い、それは育った環境が違うからであって当人のせいでもないから

晴海は無言のまま部屋に戻ってアヤネと共に家にも帰った。何れにしろ晴海には気分の良い場所ではない
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