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第一章 神生みの時代
武人コンプレックス
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スサノオはしばらく考えた後、静かに剣を地面から引き抜くと、そのまま鞘に収めた。
「俺は強い奴と戦いたいだけだ」
「……はあ?」
青年は呆れたような顔になる。
「今まで聞いた話の中で、ナミほど武勇に優れた戦士はいない。父であるナギによって国が統一されたかのように見えるが、人も土地も荒れていた大八洲を立て直したのは間違いなくナミの功績」
「大八洲の平定まで長い戦いだったからな」
「それを知っているなら、武人として手合わせしたいと思うのは当然の感情であろう?」
「……う~ん、分からないでもないが」
青年は顎を摩りながら考え込むと、仕方ねえなといった様子で遠くにある崖の上を指差した。
「あそこに高い崖があるだろ、あの天辺から矢を放ったのが彼女さ。あいつは恐ろしいほど強いから、一度戦ってみたらどうだ?」
「……な、なに?あそこから狙っただと」
その崖は、ここから1kmほど離れていた。
「肩に抱えてる俺の剣もそうだが、彼女の持つ弓具はちと特殊でね。余裕でここまで届くんだよ」
「先ほどもものけ姫と申したな、戦場での経験はあるのか?」
「村を襲った連中を100人ほど追っ払ったくらいだな」
「矢でか?」
「いんや、剣を手にして単独で突っ込んだ」
スサノオは納得した表情を浮かべると、青年の話に乗ることにした。
「では崖の上に向かうとしよう。名乗るのが遅れたが俺はナギの息子であるスサノオだ、おまえの名前を聞いておきたい」
「……カグで良いよ、彼女にその名を言えば伝わる。それから一人で行きなよ、真剣勝負がしたいんだろ?」
「分かった、そうしよう」
スサノオは部下をその場に残し、カグが指差した崖へと向かった。
「う~む、近くに来るとかなり高い崖だな」
崖の下まで来たスサノオは、口をポカンと開けながら頂上を見上げた。人を寄せ付けないほどの断崖絶壁である。
(……だが登れないことはない。手を掛ける場所もありそうだ)
スサノオは意を決して崖を登ろうとする。途中で何度も滑り落ちそうになるが、上手く壁の亀裂に手を掛けて落下を防いだ。そして息も絶え絶えの状態で頂上までたどり着くと、思わず地面に横たわって天を仰いだ。
「ふ~ん、ぬるま湯で育った割には根性あるじゃない」
スサノオは目を開けると、自分の顔を覗き込む女性の姿が見えた。慌てて体を起こし、剣の柄に手を掛ける。
「……そう警戒しなさんな、話はこの子から聞いてるよ。私と戦いたいんだって?」
見ると、その女性の腕に美しい鷹が止まっていた。
「おまえがもものけ姫なのか?」
「その名で呼ばれると背中がむず痒くなるから、モモで良いよ」
「100人を相手にして追い払ったと聞いているが」
「まあね、正確には70人くらいだとは思うけど。大袈裟に言っとけば山賊も怖がって村を襲おうなんて思わなくなるし」
「70人か……それを聞いて安心したぞ。俺の相手をするには十分な実力だ」
「へえ、随分と自信家なんだね」
「強くなければ王にはなれんからな。さあ剣を構えろ!」
スサノオは剣を鞘から抜いて正面に構えた。
「真剣を抜いたってことは、この場で死ぬ覚悟があるってことだよね?私、王族の連中から命を狙われるの嫌なんだけど」
「そんなことは勝ってから言え!俺に敵対した者はすべて罪人なのだ、今さら遅いわ」
「……なんとまあ自分勝手な言い分だね」
モモは拳に布を巻き付け、腕を上げてスサノオと同じく正面に構える。
「あんたにはこの拳で十分。その性根を叩き直してやるから掛かって来な!」
「俺は強い奴と戦いたいだけだ」
「……はあ?」
青年は呆れたような顔になる。
「今まで聞いた話の中で、ナミほど武勇に優れた戦士はいない。父であるナギによって国が統一されたかのように見えるが、人も土地も荒れていた大八洲を立て直したのは間違いなくナミの功績」
「大八洲の平定まで長い戦いだったからな」
「それを知っているなら、武人として手合わせしたいと思うのは当然の感情であろう?」
「……う~ん、分からないでもないが」
青年は顎を摩りながら考え込むと、仕方ねえなといった様子で遠くにある崖の上を指差した。
「あそこに高い崖があるだろ、あの天辺から矢を放ったのが彼女さ。あいつは恐ろしいほど強いから、一度戦ってみたらどうだ?」
「……な、なに?あそこから狙っただと」
その崖は、ここから1kmほど離れていた。
「肩に抱えてる俺の剣もそうだが、彼女の持つ弓具はちと特殊でね。余裕でここまで届くんだよ」
「先ほどもものけ姫と申したな、戦場での経験はあるのか?」
「村を襲った連中を100人ほど追っ払ったくらいだな」
「矢でか?」
「いんや、剣を手にして単独で突っ込んだ」
スサノオは納得した表情を浮かべると、青年の話に乗ることにした。
「では崖の上に向かうとしよう。名乗るのが遅れたが俺はナギの息子であるスサノオだ、おまえの名前を聞いておきたい」
「……カグで良いよ、彼女にその名を言えば伝わる。それから一人で行きなよ、真剣勝負がしたいんだろ?」
「分かった、そうしよう」
スサノオは部下をその場に残し、カグが指差した崖へと向かった。
「う~む、近くに来るとかなり高い崖だな」
崖の下まで来たスサノオは、口をポカンと開けながら頂上を見上げた。人を寄せ付けないほどの断崖絶壁である。
(……だが登れないことはない。手を掛ける場所もありそうだ)
スサノオは意を決して崖を登ろうとする。途中で何度も滑り落ちそうになるが、上手く壁の亀裂に手を掛けて落下を防いだ。そして息も絶え絶えの状態で頂上までたどり着くと、思わず地面に横たわって天を仰いだ。
「ふ~ん、ぬるま湯で育った割には根性あるじゃない」
スサノオは目を開けると、自分の顔を覗き込む女性の姿が見えた。慌てて体を起こし、剣の柄に手を掛ける。
「……そう警戒しなさんな、話はこの子から聞いてるよ。私と戦いたいんだって?」
見ると、その女性の腕に美しい鷹が止まっていた。
「おまえがもものけ姫なのか?」
「その名で呼ばれると背中がむず痒くなるから、モモで良いよ」
「100人を相手にして追い払ったと聞いているが」
「まあね、正確には70人くらいだとは思うけど。大袈裟に言っとけば山賊も怖がって村を襲おうなんて思わなくなるし」
「70人か……それを聞いて安心したぞ。俺の相手をするには十分な実力だ」
「へえ、随分と自信家なんだね」
「強くなければ王にはなれんからな。さあ剣を構えろ!」
スサノオは剣を鞘から抜いて正面に構えた。
「真剣を抜いたってことは、この場で死ぬ覚悟があるってことだよね?私、王族の連中から命を狙われるの嫌なんだけど」
「そんなことは勝ってから言え!俺に敵対した者はすべて罪人なのだ、今さら遅いわ」
「……なんとまあ自分勝手な言い分だね」
モモは拳に布を巻き付け、腕を上げてスサノオと同じく正面に構える。
「あんたにはこの拳で十分。その性根を叩き直してやるから掛かって来な!」
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