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第一章 神生みの時代
もものけ姫の矢
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スサノオは30人ほどの部下を引き連れ、黄泉平坂へと繋がっていると噂される洞窟へ向かっていた。目的はナミに会うためである。スサノオは洞窟でナミの亡霊を見た民がいると聞いており、彼女なら肉体を取り戻すことができるだろうと考えていた。
「険しい森だな、本当にこの先に巨大な洞窟があるのか?」
「噂では……しかし確証はありません。近くの村の連中も滅多にここに来ることはないそうで」
スサノオに付き添う兵士が質問に答えた。
「ふん、そんなに呪いが怖いか」
スサノオは憮然とした様子でフッと鼻を鳴らした。そしてしばらく進むと、道が開けて目の前に巨大な洞窟が姿を現す。
「あったぞ……」
「ありましたな、スサノオ様」
「まずおまえが先に洞窟へ入れ」
「ええ!?私が先にでございますか?」
「そうだ、なにか文句でもあるのか?」
「い、いえ……そうではありませんが」
「なら先に入るが良い」
スサノオの部下は渋々馬から下りて洞窟の入り口へと向かった。しかし、中に入る勇気が持てない部下は、洞窟の外からしばらく様子を伺う。
「なにをしておる!さっさと入れ」
スサノオの命令に、その場で足踏みしていた部下は意を決して中に入った。そして10分ほど経過した後、何もなかったかのようにスサノオのもとへ戻って来た。
「なんだ、もう戻って来たのか?」
「ええまあ……黄泉平坂へと繋がっていると言われておりますが、奥へと続く道も見つからず行き止まりでした。熊でも出そうな雰囲気でしたが、それらしき生き物も見つかりません」
「う~む、聞いていた話と違うではないか」
「なんだぁ、テメエらは!」
スサノオが腕組みをして考えていると、背後から恫喝するような男の声が聞こえた。兵士たちは声がした方向へ一斉に顔を向ける。そこには剣を肩に抱えた青年が一人立っていた。
「おまえらが来たせいで村の民が怯えているじゃねえか。しかも向かっている先がここと聞いて、すっ飛んで来たぞ。呪われた洞窟と知ってのことか、馬鹿野郎どもが」
青年の言葉に、スサノオの部下の一人が憤る。
「き、貴様……スサノオ様になんたる口を利くのだ。こちらの馬上におられるのは、国王であるナギ様の御子息であるぞ!」
「……ナギだって?」
その名前を聞くと、青年の表情が少しだけ曇った。
「はは~ん、読めたぜ。自分に王の資格があるのか試しに来たんだな」
「……王の資格だと?ふん、そんなものには興味がない」
スサノオは不敵な笑みを浮かべた。
「俺は生まれながらにして王だ。今さら試す必要もないわ」
「じゃあ、なにしにここへ来た?」
「この洞窟でナミの亡霊が出ると聞いた。ここならナミに会えると思って来たのだ」
「はあ?死んじまった者が蘇るワケねえだろ」
「巫女に頼めば肉体を取り戻せぬやもしれぬ」
「あんたさ、いつの時代の話をしてんだよ。人間は死んだら蘇ったりしないんだ」
「死は克服できる病だと俺は思っている。まして、武人として名を馳せたナミには肉体を取り戻せる力があるはず。俺はナミと戦うためにここへ来たのだ」
スサノオの話を聞くと、青年は大声で笑い出した。
「ぎゃははは!死んでる者を叩き起こして、しかも戦いたいと来たか。安心して眠ることもできやしねえな……仮にもおまえの義理の母親なんだからさ、ちったあ考えてやれよ」
スサノオはピクリと眉が動く。
「貴様……ナミが義理の母だとなぜ知っている」
スサノオが馬から下りて、腰に携えた剣を抜いた。
「貴様のような愚かな民が、王室の内情を知っているとは思えん。しかもその肩に抱えた剣……相当の業物と見た。盗人であればただでは帰さん」
「おう、あんた見る目があるな。一緒に良い酒が飲めそうだぜ」
「ふざけるな!この場で斬り捨ててやる」
スサノオは剣を構えて青年に襲い掛かろうとしたが、目に見えぬ速さで飛んで来た矢に手首を射抜かれ、スサノオの剣は宙を舞って地面に突き刺さった。
「ぐあっ!」
「スサノオ様!」
背後にいた兵士たちの殺気が一気に増す。しかし、青年は一向に動じなかった。
「あんたらが悪いんだぜ、とっととこの場から立ち去りな」
「貴様は馬鹿か!30人を相手にして勝てると思うのか?」
「……俺は1人じゃないぜ、正確には2人と他多数だけどな。おまえたちは囲まれてることに気が付かなかったのかよ」
その言葉を聞いたスサノオと部下たちは、ようやく周囲に漂う気配を感じ取った。人間ではない「獣」たちの気配を。
「やれやれ、兵隊さんは血の気が多くていけないな。頭の弱いおまえらでも、今の状況がどれくらいヤバいか分かるだろ」
青年は不敵な笑みを浮かべ、スサノオたちを挑発した。
「帰れよ阿保ども、もものけ姫の矢がおまえたちを貫くぞ」
「険しい森だな、本当にこの先に巨大な洞窟があるのか?」
「噂では……しかし確証はありません。近くの村の連中も滅多にここに来ることはないそうで」
スサノオに付き添う兵士が質問に答えた。
「ふん、そんなに呪いが怖いか」
スサノオは憮然とした様子でフッと鼻を鳴らした。そしてしばらく進むと、道が開けて目の前に巨大な洞窟が姿を現す。
「あったぞ……」
「ありましたな、スサノオ様」
「まずおまえが先に洞窟へ入れ」
「ええ!?私が先にでございますか?」
「そうだ、なにか文句でもあるのか?」
「い、いえ……そうではありませんが」
「なら先に入るが良い」
スサノオの部下は渋々馬から下りて洞窟の入り口へと向かった。しかし、中に入る勇気が持てない部下は、洞窟の外からしばらく様子を伺う。
「なにをしておる!さっさと入れ」
スサノオの命令に、その場で足踏みしていた部下は意を決して中に入った。そして10分ほど経過した後、何もなかったかのようにスサノオのもとへ戻って来た。
「なんだ、もう戻って来たのか?」
「ええまあ……黄泉平坂へと繋がっていると言われておりますが、奥へと続く道も見つからず行き止まりでした。熊でも出そうな雰囲気でしたが、それらしき生き物も見つかりません」
「う~む、聞いていた話と違うではないか」
「なんだぁ、テメエらは!」
スサノオが腕組みをして考えていると、背後から恫喝するような男の声が聞こえた。兵士たちは声がした方向へ一斉に顔を向ける。そこには剣を肩に抱えた青年が一人立っていた。
「おまえらが来たせいで村の民が怯えているじゃねえか。しかも向かっている先がここと聞いて、すっ飛んで来たぞ。呪われた洞窟と知ってのことか、馬鹿野郎どもが」
青年の言葉に、スサノオの部下の一人が憤る。
「き、貴様……スサノオ様になんたる口を利くのだ。こちらの馬上におられるのは、国王であるナギ様の御子息であるぞ!」
「……ナギだって?」
その名前を聞くと、青年の表情が少しだけ曇った。
「はは~ん、読めたぜ。自分に王の資格があるのか試しに来たんだな」
「……王の資格だと?ふん、そんなものには興味がない」
スサノオは不敵な笑みを浮かべた。
「俺は生まれながらにして王だ。今さら試す必要もないわ」
「じゃあ、なにしにここへ来た?」
「この洞窟でナミの亡霊が出ると聞いた。ここならナミに会えると思って来たのだ」
「はあ?死んじまった者が蘇るワケねえだろ」
「巫女に頼めば肉体を取り戻せぬやもしれぬ」
「あんたさ、いつの時代の話をしてんだよ。人間は死んだら蘇ったりしないんだ」
「死は克服できる病だと俺は思っている。まして、武人として名を馳せたナミには肉体を取り戻せる力があるはず。俺はナミと戦うためにここへ来たのだ」
スサノオの話を聞くと、青年は大声で笑い出した。
「ぎゃははは!死んでる者を叩き起こして、しかも戦いたいと来たか。安心して眠ることもできやしねえな……仮にもおまえの義理の母親なんだからさ、ちったあ考えてやれよ」
スサノオはピクリと眉が動く。
「貴様……ナミが義理の母だとなぜ知っている」
スサノオが馬から下りて、腰に携えた剣を抜いた。
「貴様のような愚かな民が、王室の内情を知っているとは思えん。しかもその肩に抱えた剣……相当の業物と見た。盗人であればただでは帰さん」
「おう、あんた見る目があるな。一緒に良い酒が飲めそうだぜ」
「ふざけるな!この場で斬り捨ててやる」
スサノオは剣を構えて青年に襲い掛かろうとしたが、目に見えぬ速さで飛んで来た矢に手首を射抜かれ、スサノオの剣は宙を舞って地面に突き刺さった。
「ぐあっ!」
「スサノオ様!」
背後にいた兵士たちの殺気が一気に増す。しかし、青年は一向に動じなかった。
「あんたらが悪いんだぜ、とっととこの場から立ち去りな」
「貴様は馬鹿か!30人を相手にして勝てると思うのか?」
「……俺は1人じゃないぜ、正確には2人と他多数だけどな。おまえたちは囲まれてることに気が付かなかったのかよ」
その言葉を聞いたスサノオと部下たちは、ようやく周囲に漂う気配を感じ取った。人間ではない「獣」たちの気配を。
「やれやれ、兵隊さんは血の気が多くていけないな。頭の弱いおまえらでも、今の状況がどれくらいヤバいか分かるだろ」
青年は不敵な笑みを浮かべ、スサノオたちを挑発した。
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