輪廻のモモ姫

園田健人(MIFUMI24)

文字の大きさ
上 下
6 / 17
第一章 神生みの時代

もものけ姫の矢

しおりを挟む
 スサノオは30人ほどの部下を引き連れ、黄泉平坂へと繋がっていると噂される洞窟へ向かっていた。目的はナミに会うためである。スサノオは洞窟でナミの亡霊を見た民がいると聞いており、彼女なら肉体を取り戻すことができるだろうと考えていた。
「険しい森だな、本当にこの先に巨大な洞窟があるのか?」
「噂では……しかし確証はありません。近くの村の連中も滅多にここに来ることはないそうで」
 スサノオに付き添う兵士が質問に答えた。
「ふん、そんなに呪いが怖いか」
 スサノオは憮然とした様子でフッと鼻を鳴らした。そしてしばらく進むと、道が開けて目の前に巨大な洞窟が姿を現す。

「あったぞ……」
「ありましたな、スサノオ様」
「まずおまえが先に洞窟へ入れ」
「ええ!?私が先にでございますか?」
「そうだ、なにか文句でもあるのか?」
「い、いえ……そうではありませんが」
「なら先に入るが良い」
 スサノオの部下は渋々馬から下りて洞窟の入り口へと向かった。しかし、中に入る勇気が持てない部下は、洞窟の外からしばらく様子を伺う。
「なにをしておる!さっさと入れ」
 スサノオの命令に、その場で足踏みしていた部下は意を決して中に入った。そして10分ほど経過した後、何もなかったかのようにスサノオのもとへ戻って来た。
「なんだ、もう戻って来たのか?」
「ええまあ……黄泉平坂へと繋がっていると言われておりますが、奥へと続く道も見つからず行き止まりでした。熊でも出そうな雰囲気でしたが、それらしき生き物も見つかりません」
「う~む、聞いていた話と違うではないか」
「なんだぁ、テメエらは!」
 スサノオが腕組みをして考えていると、背後から恫喝するような男の声が聞こえた。兵士たちは声がした方向へ一斉に顔を向ける。そこには剣を肩に抱えた青年が一人立っていた。
「おまえらが来たせいで村の民が怯えているじゃねえか。しかも向かっている先がここと聞いて、すっ飛んで来たぞ。呪われた洞窟と知ってのことか、馬鹿野郎どもが」
 青年の言葉に、スサノオの部下の一人が憤る。
「き、貴様……スサノオ様になんたる口を利くのだ。こちらの馬上におられるのは、国王であるナギ様の御子息であるぞ!」
「……ナギだって?」
 その名前を聞くと、青年の表情が少しだけ曇った。
「はは~ん、読めたぜ。自分に王の資格があるのか試しに来たんだな」
「……王の資格だと?ふん、そんなものには興味がない」
 スサノオは不敵な笑みを浮かべた。
「俺は生まれながらにして王だ。今さら試す必要もないわ」
「じゃあ、なにしにここへ来た?」
「この洞窟でナミの亡霊が出ると聞いた。ここならナミに会えると思って来たのだ」
「はあ?死んじまった者が蘇るワケねえだろ」
「巫女に頼めば肉体を取り戻せぬやもしれぬ」
「あんたさ、いつの時代の話をしてんだよ。人間は死んだら蘇ったりしないんだ」
「死は克服できる病だと俺は思っている。まして、武人として名を馳せたナミには肉体を取り戻せる力があるはず。俺はナミと戦うためにここへ来たのだ」
 スサノオの話を聞くと、青年は大声で笑い出した。
「ぎゃははは!死んでる者を叩き起こして、しかも戦いたいと来たか。安心して眠ることもできやしねえな……仮にもおまえの義理の母親なんだからさ、ちったあ考えてやれよ」
 スサノオはピクリと眉が動く。
「貴様……ナミが義理の母だとなぜ知っている」
 スサノオが馬から下りて、腰に携えた剣を抜いた。
「貴様のような愚かな民が、王室の内情を知っているとは思えん。しかもその肩に抱えた剣……相当の業物と見た。盗人であればただでは帰さん」
「おう、あんた見る目があるな。一緒に良い酒が飲めそうだぜ」
「ふざけるな!この場で斬り捨ててやる」
 スサノオは剣を構えて青年に襲い掛かろうとしたが、目に見えぬ速さで飛んで来た矢に手首を射抜かれ、スサノオの剣は宙を舞って地面に突き刺さった。
「ぐあっ!」
「スサノオ様!」
 背後にいた兵士たちの殺気が一気に増す。しかし、青年は一向に動じなかった。
「あんたらが悪いんだぜ、とっととこの場から立ち去りな」
「貴様は馬鹿か!30人を相手にして勝てると思うのか?」
「……俺は1人じゃないぜ、正確には2人と他多数だけどな。おまえたちは囲まれてることに気が付かなかったのかよ」
 その言葉を聞いたスサノオと部下たちは、ようやく周囲に漂う気配を感じ取った。人間ではない「獣」たちの気配を。
「やれやれ、兵隊さんは血の気が多くていけないな。頭の弱いおまえらでも、今の状況がどれくらいヤバいか分かるだろ」
 青年は不敵な笑みを浮かべ、スサノオたちを挑発した。
「帰れよ阿保ども、もものけ姫の矢がおまえたちを貫くぞ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

独裁者・武田信玄

いずもカリーシ
歴史・時代
歴史の本とは別の視点で武田信玄という人間を描きます! 平和な時代に、戦争の素人が娯楽[エンターテイメント]の一貫で歴史の本を書いたことで、歴史はただ暗記するだけの詰まらないものと化してしまいました。 『事実は小説よりも奇なり』 この言葉の通り、事実の方が好奇心をそそるものであるのに…… 歴史の本が単純で薄い内容であるせいで、フィクションの方が面白く、深い内容になっていることが残念でなりません。 過去の出来事ではありますが、独裁国家が民主国家を数で上回り、戦争が相次いで起こる『現代』だからこそ、この歴史物語はどこかに通じるものがあるかもしれません。 【第壱章 独裁者への階段】 国を一つにできない弱く愚かな支配者は、必ず滅ぶのが戦国乱世の習い 【第弐章 川中島合戦】 戦争の勝利に必要な条件は第一に補給、第二に地形 【第参章 戦いの黒幕】 人の持つ欲を煽って争いの種を撒き、愚かな者を操って戦争へと発展させる武器商人 【第肆章 織田信長の愛娘】 人間の生きる価値は、誰かの役に立つ生き方のみにこそある 【最終章 西上作戦】 人々を一つにするには、敵が絶対に必要である この小説は『大罪人の娘』を補完するものでもあります。 (前編が執筆終了していますが、後編の執筆に向けて修正中です)

朱元璋

片山洋一
歴史・時代
明を建国した太祖洪武帝・朱元璋と、その妻・馬皇后の物語。 紅巾の乱から始まる動乱の中、朱元璋と馬皇后・鈴陶の波乱に満ちた物語。全二十話。

楽将伝

九情承太郎
歴史・時代
三人の天下人と、最も遊んだ楽将・金森長近(ながちか)のスチャラカ戦国物語 織田信長の親衛隊は 気楽な稼業と きたもんだ(嘘) 戦国史上、最もブラックな職場 「織田信長の親衛隊」 そこで働きながらも、マイペースを貫く、趣味の人がいた 金森可近(ありちか)、後の長近(ながちか) 天下人さえ遊びに来る、趣味の達人の物語を、ご賞味ください!!

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

狩野岑信 元禄二刀流絵巻

仁獅寺永雪
歴史・時代
 狩野岑信は、江戸中期の幕府御用絵師である。竹川町狩野家の次男に生まれながら、特に分家を許された上、父や兄を差し置いて江戸画壇の頂点となる狩野派総上席の地位を与えられた。さらに、狩野派最初の奥絵師ともなった。  特筆すべき代表作もないことから、従来、時の将軍に気に入られて出世しただけの男と見られてきた。  しかし、彼は、主君が将軍になったその年に死んでいるのである。これはどういうことなのか。  彼の特異な点は、「松本友盛」という主君から賜った別名(むしろ本名)があったことだ。この名前で、土圭之間詰め番士という武官職をも務めていた。  舞台は、赤穂事件のあった元禄時代、生類憐れみの令に支配された江戸の町。主人公は、様々な歴史上の事件や人物とも関りながら成長して行く。  これは、絵師と武士、二つの名前と二つの役職を持ち、張り巡らされた陰謀から主君を守り、遂に六代将軍に押し上げた謎の男・狩野岑信の一生を読み解く物語である。  投稿二作目、最後までお楽しみいただければ幸いです。

永艦の戦い

みたろ
歴史・時代
時に1936年。日本はロンドン海軍軍縮条約の失効を2年後を控え、対英米海軍が建造するであろう新型戦艦に対抗するために50cm砲の戦艦と45cm砲のW超巨大戦艦を作ろうとした。その設計を担当した話である。 (フィクションです。)

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

処理中です...