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第二章

91ーお父様とお母様

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「私は、本心ではやっと助かったと思いました。しかし、それでは終わらなかったのです」

 執事は悲壮な表情で話を続ける。シャーロットの魅了の話も領地に伝わった。執事はそうだったんだと、納得したそうだ。
 しかし、いつまでたっても解呪される事はなく、どんどん領地は荒んでいったという。

「死ぬ思いで守られていた亡くなられた奥様に申し訳なく。城に解呪の嘆願書を出してもなんの答えもなく、しかし私共にはどうする事もできず。もう終わりだと諦めていたところに、従者の方々がいらっしゃって、解呪して下さると。やっと一筋の光が射したと。公爵様は分かっておられたのだと……」

 執事はお父様の前に膝をついて泣き崩れました。

「王家が不甲斐なく、其方には苦労をかけた。私がもっと早く訪れていれば」

 お父様が声を掛けられました。

「公爵様、とんでも御座いません。勿体ないお言葉で御座います。従者のお二人は直ぐに邸の者を全て解呪して下さいました。また、別の方は領民に食べ物を無料で奉仕して下さって、領民は今まで食べた事のない美味しい食べ物だと、涙を流しておりました。それで命を取り留めた者もおります。どんなに御礼を申し上げても、足らない位で御座います」
「あなた、炊き出しを致しましょう」

 お母様……。

「私達が今炊き出しをしても、一時的なものでしかありませんが、せめて少しでもお腹いっぱい食べて頂きましょう」
「ああ、そうだな。ルルどれ位ある?」
「お父様、イワカムが大量に持たせてくれました。バーガーであれば、足りるかと。それに道中、隊員達が討伐した角兎やボアもあります。シチューを作りましょう」
「厨房に料理人は残っているのかしら?」
「はい、公爵夫人。数人ですが残ってくれております。公爵様、公爵夫人、有難うございます!」
「私達は王都へ向かう。先に王都の父上にこの状況を報告しよう。まだ領主が決まっていないだろうから、暫くは辛抱してもらう事になるだろう。何かあれば直ぐにティシュトリアに来るんだ。いいな? 早まるんじゃないぞ。領民全ての者にその旨を伝えてくれ」
「有難うございます! 有難うございます!」

 さて、それから大忙しです。隊員達は、領地の端から順に全てクリーンを掛けて周りました。領地内も領民達もとんでもなく不衛生になっていたからです。そして軒下に倒れている者、親がいなくて泣いている子供、全て保護されてきました。ラウ兄様がティシュトリアから残っている隊員を呼び寄せる様です。次の領主が決まり、落ち着くまで定期的に炊き出しをし見廻る事になりました。そして、親を亡くした子供達です。

「領地に連れて行きます! 子供は宝です! ティシュトリアで育てます!」

 と、お母様が宣言されました。リルとノトスが隣街まで洋服を買いに走り、クリーン魔法を掛けて食事をさせ、ティシュトリアから隊員達がやって来るまで領主邸で保護してもらう事になりました。
 保護された時は虚ろな目をしていた子供達が嬉しそうに食事をしています。お母様が一人一人に名前を聞き、ティシュトリアに行く事を説明し待っててねと声を掛けていかれると泣き出す子達もいて、皆やっと目に光が戻ってきました。中には赤ちゃんを抱いた子供もいました。

「よく頑張ったわね、守ってくれて有難う」

 と、しっかりと抱き締められます。抱き締められた子供は声をあげて泣きお母様に抱きつきました。保護された時は反抗的な目をしていた子達も、お母様に抱き締められ声を掛けられると涙を流し出します。子供達はどんな思いをしていたのか。
 お父様は街で保護された大人達の話を聞かれます。皆、仕事がなく畑も取り上げられ生きて行く手段がないと訴えます。お父様はお父様で大人達を放っておけない様です。
 畑は返して貰える様にする。もしティシュトリアに来たいのなら仕事はある。しかし、油断して領地の外に出ると魔物が出る。選択するがいい。と話されています。

「ルル、よく見ておかないとな。これが領主たる者の姿だ」
「はい、レオン様」

 此処まで酷くなる迄にどうして……

「ルル、違う。魅了の怖さだ。それでいいと、それが当たり前だと思わせるんだ。シャーロットの為にとな。正に邪神の仕業と言ってもおかしくないな。こんな領民達から絞りとった金でドレスを買うんだ。自分達だけ美味いものを食うんだ。どんな神経してんだよ。公爵が乗り出さなかったら、ティシュトリア領以外の王国全土がそうなっていたかも知れないんだ。ゾッとするよ」

 隊員達がマジックバッグに入れていた道中で討伐した魔物を調理場に出していきます。数人しかいない料理人達は手分けをしてどんどん料理していきます。
 ジュード兄様とノトス、レオン様にケイと私はそれを持って街に出ます。街の広場で炊き出しを始めると、領民達が集まってきます。

「皆さん、お腹いっぱい食べて下さい。たくさんありますからね」

 器に入れながら声を掛けます。

「ここにいない者達にも知らせてくれ、食べに出てくる様に言ってくれ!」

 レオン様も私も声を掛けます。領民がケイに声を掛けてきました。

 ――あんた昨日肉まんくれた人だろ? 有難う! 生き返ったよ!
 ――あれを食べさせたら、うちのが正気に戻ったよ! 有難う!

 小さい子が空の器を持ってきました。

「おねーちゃん、おかわりちょうだい!」
「たくさん食べてね! お父さんとお母さんは? 食べてる?」
「うん! 食べてる! すっごく美味しいよ!」
「兄さん達はティシュトリアの人達なのか?」
「ああ、そうだ」
「うちの裏に住んでる若いのが、まだ様子がおかしいんだ。見てもらえないか?」
「どこだ? 案内してくれるか?」
「ああ! 頼むよ!」
「他に様子がおかしい者はいないか? いたら教えてくれ!」
「レオン殿下、私が」
「ああ、ケイ頼む。肉まんはまだ足りるか? 俺が持ってるのを渡しておくか?」
「殿下、お願いします」

 レオン様が肉まんの入ったマジックバッグをそのままケイに渡します。

「兄さん、こっちだ!」
「行ってきます」
「頼む!」

 もう大騒ぎでした。こんなに沢山の人が飢えている。しかも魅了の影響でシャーロットの為に当たり前だと思っている。そんな異常な状態で放っておける訳がない。こんなの許せない!
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