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第一章

18ー保護しました。

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 そして王都へ向けて出立の日の朝です。

「ルル様、お洋服はどうなさいます?」
「そうね、討伐に出る時の物にするわ。武装は持って行くわ」

 リアンカとエポナは、私達の準備を全部してくれてました。
 流石にドレスを着て行くのは面倒なので、私はいつもの討伐ルックです。ちょっとフリルの付いたシャツとベストのパンツルックに網網のロングブーツよ。武装する時は、この上に防具をつけて腰の剣帯ベルトに双剣とマジックバッグをつけます。
 リアンカもいつものメイド服ではなくて、動きやすそうなワンピースにロングブーツです。リアンカの武器は暗器なので、私もハッキリ見た事がないのよ。ちょっと興味あるんだけど。

 準備万端、王都へ向けて出発ですよ。
 うちの領地から王都まで馬車で普通に行って10日は掛かります。急いで8日。王都で証拠集め出来るのは、正味12日位しかないわ。
 やると決まったら、やりますよ! 我が家は皆、精鋭揃いですからね。なんせ魔物討伐が当たり前の領地ですから、小さい頃から鍛えてます。勿論、お母様も戦力よ。
 お父様達は軽い武装をしています。そして、お邸の前庭から馬車で出発よ。

 お父様、お母様、お兄様達と順に其々の馬車に侍従や侍女をつれて乗り込みます。
 いつも馬車には我が家の紋章が付いているのに、今回は外されているわ。どの家の馬車か分からない様にね。
 いつも出掛ける時の馬車より少し大きめです。旅用とでも言うのかしら。馬車の中で寝られる仕様になっているの。真っ黒にシルバーの縁取りのされた立派な馬車が続きます。
 レオン様ですが、急遽お父様のもう一台の馬車をレオン様用に用意しました。
 私もリアンカやモモと一緒に乗り込みます。私の馬車の後ろに、リアンカの兄姉が乗る馬車が続きます。
 列の一番前にお父様のセイバー0の隊員2人が先導し、殿はラウ兄様のセイバー1の隊員2人です。残りの隊員は均等に馬車の横や馬車と馬車の間についてくれています。さぁ、王都へ向けて出発よ!

 領都を抜けて、さらに領地を出て暫く行くと森に沿って街道に出ます。丸1日森に沿って走るのだけど、出るのよね……魔物が。
 だって森の直ぐ横を街道が走っているんだもの、そりゃあ出るわよ。魔物が。
 うちの領地じゃないから、魔物避けもしっかり設置してないんだよなー。
 うちの領地はめっちゃしっかり魔物対策をしてますよ。魔物避けもバッチリです。みんなが通る街道なのに、ここの領主はなんで魔物避けを設置しないんだろ? 通る度に思うわ。ほら、今も魔物を見つけた隊員が列を離れて討伐に行ったわ。
 辺境の森程大きいのは出ないから、うちの領主隊員だと1人2人でアッと言う間に片付けちゃう。本当、優秀。

「わふっ……」

 モモちゃん足元で寝ていたのに、何かに反応したみたい。

『ルル、少し先の森に何かいるわ』
『魔物じゃなくて?』
『違うわね、泣いているみたいなの』
『モモ、気になるの?』
『うん。知ってる気配の様な気がするのよ』
『行ってみたいの? お父様に確認してみる?』
『そうね。行くにしても、なるべく時間を取らないようにしなくちゃね。でも、悪い感じではないのよ』

 お昼休憩です。主な食料は、私とレオン様の無限収納に分けて入れてます。万が一どちらか片方が逸れても大丈夫な様にね。其々のマジックバッグにも軽食は入れているのよ。

「ルル嬢! これハンバーガーじゃん!! セットのポテトもあるじゃん!!」

 セットって……またレオン様がキラッキラの眼で言ってきました。

「そうね。でも野営だと食べやすいでしょ? だからうちの領地では普通よ」
「マジかぁー! コーラが飲みてー! 炭酸が欲しくなる!」
『ルル、少し出るわ』
『待って、モモ。私も行くからお父様に話してくるわ!』

 モモはさっきの気配が気になるみたいね。泣いてるみたい、て言ってたもんね。

「お父様! モモが気になる気配があるそうなので、少し森に入ってきます! 悪い気配じゃないそうなので、大丈夫です! 直ぐ戻ります!」
「待て、ルル! 一人で行くな!」
「公爵殿! 私も行きます!」
「父上、俺も!」

 レオン様とジュード兄様が一緒に行く事になりました。

「モモ、場所は分かるの?」
「少し森の中央へ向かったところに水場があるみたい。そこに居ると思う」
「レオン様、ジュード兄様、モモと先に行きます! レオン様、マップで確認して!」
「分かった! 気をつけろ!」

 私はモモに乗って、森の中を駆け抜けます。ほんの少し森の中央へ向かって行くと、確かに森の木々が少しだけ開けていて光がさしている小さな水場がありました。水場の中央に小さい島の様な盛り上がったところがあって、そこにその子はいたの。1人で泣いていたのよ。

「モモ、あの子ね」
「そうね、私も来てみて本当に驚いているわ」

 モモと二人で、暫く見つめてしまったわ。

『シクシク……シクシク……あなたたちはだぁれ?』
「モモ、これは念話?」
「そうね……」
『私はフェンリルのモモ。神の眷属よ。一緒にいるのはルル。私が守護している人間よ』
『フェンリル……人間を……? シクシク……』
『どうして泣いているの? あなたは人の世界には姿を見せないんじゃないの?』
『シクシク……お母様と一緒だったの。突然、黒いリザードマンに襲われて……お母様はわたしを庇ってやられてしまったの。その時にわたしも怪我をしてしまったの……シクシク……』
『怪我をしているの! モモあそこに行けない?』
『そっちに行くけど、逃げないでね。あなたの怪我を治したいの』
『シクシク……わかったの』

 モモがフワッとひとっ飛びで水場の中央へ渡ります。

『大丈夫よ。怖かったわね。1人で心細かったでしょう? 抱っこしてもいいかしら?』
『シクシク……うん……』

 私はそぅっと、抱きあげて見ると、背中の尻尾寄りのところに引っ掻かれた様な傷があったわ。可哀想に。

「ヒール」
『もう大丈夫よ。痛くないでしょ?』
『うん、痛くないの。ありがとう』
『モモ、この子って……』
『そうね、カーバンクル。伝説の生物ね。普通は人間には姿を見せないから伝説になっているのね』

 私の腕の中にいる子は、子猫の様な大きさで白に淡いブルー掛かった長毛、額にルビーの様な真っ赤な宝石があります。パッチリとした大きな目からポロポロ涙を流してるわ。

『まだ子供よ』
『可哀想に……ね、あなた帰れる?』
『シクシク……お母様がいなくなったから、帰れるところがないの……シクシク』
『泣かないで、私達と一緒に来る? 人間の世界だけど、ルルも私も一緒にいるから大丈夫よ』
『シクシク……ほんとう?』
『ええ、本当よ。モモと私と一緒よ』
『ありがとう。じゃあ一緒に行くの……スゥ……』
『ルル、寝ちゃったみたいよ』
『安心してくれたのかしら? 本当にまだ小さい子供なのね』
『ルル、でもカーバンクルがリザードマンにやられるなんてあり得ないわ。何かおかしいわ。早く戻りましょう』
『分かったわ』

 カーバンクルを抱えながらモモに乗って水場を出ると、レオン様とジュード兄様が直ぐにやってきました。

「「ルル!」」
「大きい声出さないで。眠っているの」
「ルル、これは……」

 ジュード兄様が、私の腕の中で寝ている子を見て固まっちゃったわ。

「カーバンクルの子供なの。怪我をしていたのよ」
「カーバンクル……本当にいるんだな。伝説だと思っていたよ」

 レオン様も驚いています。

「普通は人の世界には姿を見せないわ。だから伝説になっているのね」

 モモが説明してくれてます。

「ルル。レオンと魔道具で位置を確認して向かっていたんだが、辿り着けなかったんだ。結界だろうか? これ以上入れない感じがあった」
「この子、小さいのに結界を張っていたのね。ルルは私に乗っていたから一緒に辿り着けたのね」
「そんな事があるのか……」
「ジュード兄様、レオン様、とにかく戻りましょう。モモがまだ警戒しているのです」
「分かった」


「ルルー!!」
『ピェッ……!?』

 皆がいる休憩地に戻るとお父様の大声で、カーバンクルが起きてしまったわ。

「お父様、声が大きいです」
「お、おぉ、悪い。ルル、それは……」

 私の腕の中でプルプル震えている子を、お父様が覗き込んでいます。

「お父様、説明はユックリ夜にでも。時間を取ってしまいました。出発しましょう」
「お? おお。分かった。夜に話を聞かせてくれ。今夜は野営になるぞ」

 バタバタと隊員達や執事達が動いて、出発になりました。
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