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第一章

12ーユリウス

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 おはようございます。皆で朝食食べてます。今朝はスープと、厚めのベーコンにお野菜もたっぷり入ったホットベーコンエッグサンドと何かのお肉を挟んだホットビーフサンドの2種類と果物です。
 相変わらずレオン様は眼をキラッキラさせて食べてます。お兄様二人はもうおかわりしてます。

『モモ美味しい?』
「わふっ『美味しいわ!』」

 昨日、あれだけ考えたのに、考えてもどうする事もできないので、少し頭の隅に置いておく事にしました。

「父上、今日はジュードとレオンと森に少し討伐に出ようと思います」
「ラウ兄様、私もです!」
「ルル……少しはおとなしくしなさい」

 あら、お母様に注意されちゃいました。

「森か……いや、ラウアース。討伐なら森より港の外れの海岸の方へ行ってくれ」
「父上、海岸ですか?」
「ああ。砂丘の様になっている場所があるだろう? あそこに最近、サンドキングクラブの被害が出ている。港に近づいているものがいるのだろう」
「サンドキングクラブですか」

 サンドキングクラブて……サンドキングクラブて……大きな……

「「カニ!!」」

 レオン様と二人で叫んでしまったわ。だってね、松葉蟹て「Red King Crab」て言うでしょ。サンドキングクラブも蟹です。とんでもなく大きな蟹。砂場にも海にも出現する魔物です。

「まあ、ルル、殿下まで。なんですか?」
「お母様、ごめんなさい。でも、サンドキングクラブなら私も是非行きたいです」
「だな、サンドキングクラブなら美味しいな」

 レオン様、美味しいって言っちゃった。でも元日本人なら蟹には目がないですよねー。

「「「「美味しい!?」」」」
「レオン、サンドキングクラブを食べるのか? アレは砂場の虫と言われていて、今まで討伐しても捨てるしかない魔物だったぞ」

 ラウ兄様の疑問は当然ね。

「サンドキングクラブは食べられますよ。きっと美味いです。酒が進みますね」
「なんだと!?」

 酒と言う言葉にお父様食い付きました。

「今迄サンドキングクラブを食べようと思った事もないな」
「だって父上、兄貴。あの大きさで、あの見た目ですよ。誰が美味いと思いますか?」

 ジュード兄様もそう思いますよねー。でもね……

「大丈夫です。レオン様の仰る様にきっと美味しいですわ。是非、討伐しましょう!! 今日は蟹鍋ですね!!」
「ブフッ!!」

 レオン様が吹き出してますが、気にしない。蟹鍋パーティだわ! 焼き蟹もいいわ! 久しぶりの蟹だわ!! 
 久しぶりどころじゃないわ。この世界で蟹は食べた事ないもの。あれ? 私、前世でも食べた事あったっけ?

「昼までは港も漁や市でバタついているから、行くなら人が少なくなる午後にしなさい」

 お父様の言葉で、蟹いえサンドキングクラブ討伐は午後になったので、私はそれまでユリウスに会いに行く事にしました。

「リアンカ、ユリウスの研究室に行くわ」
「はい、兄様の所ですか?」

 ユリウスはリアンカのお兄様で、うちのお抱え魔導師です。

「わう『モモも一緒?』」
「モモも一緒に行きましょうね。モモ、午後は港に行ってサンドキングクラブ討伐よ!」
「わふっ!『わかったわ! 楽しみね!』」
「ルル様、また討伐ですか? もう本当に無茶しないで下さいね」
「大丈夫よ、お兄様達もレオン様も一緒だし、モモも一緒だもの」


 ディアナの研究室のある棟の3階にユリウスの研究室があります。

「おや、ルル様。如何なさいました?」

 リアンカとモモと一緒に、来てます。

「ユリウスに教えてほしい事があるの」
「私に分かる事ならなんなりと。お座り下さい。紅茶でもお淹れしましょう」
「兄様、紅茶は私が」
「リアンカ、有難う」
「それで? 何でしょう?」
「ユリウス、マジックバッグなんだけど」
「あぁ、作れますよ」

 とっても話が早いわ。

「え? 私にも作れるの?」
「ルル様、何を仰っているんですか。ルル様程、魔法を使える方が作れない訳がありませんよ」

 そうなの? 私、そんなに魔法使えるかしら? 普通じゃない?

「不思議そうなお顔ですね」
「だって、私そんなに魔法使えるかしら?」
「はぁ……ルル様」

 あら? ユリウスがため息ついちゃった。

「ルル様は無自覚すぎますね。討伐の際に、いつも隊員全員に強化魔法と防御魔法を重ね掛けされるでしょう?」

 うん、確かにいつもね。いつの頃からか、私の役目になっているわね。

「そうね、いつもそうしているわ」
「それです」

 何が、それかしら?

「いくら魔法に長けていても、隊員全員に強化と防御を重ねがけできる魔術師はなかなかいませんよ。一人や二人なら可能でしょうが。ルル様は隊員全員ですからね。しかも重ね掛けです。とんでもないです。魔力量も膨大です」

 マジですか!?

「知らなかったわ……」
「そうですね、ルル様ですから」

 ニコッて、何故かしら? 全く嬉しくないわ。

「今回はまた何故マジックバッグを作ろうと思われたのですか?」
「私ね、無限収納を持っているの」
「……ルル様!! まさか、あの!! 無限収納ですか!?」

 あら、ユリウスが食い付いてきたわ。

「そうよ。あの無限収納なの」
「それは……そうですか。マジックバッグで誤魔化そうとお考えですね」

 あらやだ、速攻で読まれちゃったわ。

「そうなの。無限収納は出来るだけ隠しなさいと、お父様にも言われたから」
「それは賢明なお考えですね。では、私も協力致しましょう」

 で、ユリウスに教えてもらったのだけど、これがまたサクッと簡単に出来ちゃいました。
 空間魔法に耐えられる様に、元になるバッグは魔物の素材を使った物に強化をして、討伐の時に邪魔にならない様に、剣帯に着けられる小さなバッグです。
 作成者が込めた魔力によって、容量が変わるらしい。

「さすがルル様ですね。こうも簡単にされると、私が教えなくても作れたのではないですか?」
「ユリウス、そんな事はないわ。ユリウスは私の師匠みたいなものだから頼りにしているのよ」

 あれれ? ユリウスの目がウルウルしてきたわ。

「ルル様!!」

 ガシッと抱きしめられました!
 フグッ!!

「兄様! ルル様が苦しんでます! 離して下さい!」
「おや、申し訳ありません」

 あー、ユリウスとディアナ、紛れもなく兄妹だわ。

「そうだ、ルル様。こちらのフェンリルがモモちゃんですか?」

 ユリウスはモモが大きくなってから会うのは初めてだったわね。

「そうなの。モモよ」
「わふ」

 ユリウスのこの冷静な対応、嬉しいわー。

「モモちゃんがフェンリルになったと聞いていたので、モモちゃんにこちらを」

 ユリウスが出してきたのは、赤い革の首輪にうちの家の紋章が入ったコイン型の飾りを付けたものです。

 うちの紋章は貴族家には珍しく、大剣と長剣を表したものです。代々この辺境地を武力で魔物から守り治めてきたからだとか。
 やだ、モモちゃんかっこいいわ!

「さ、これで誰が見ても領主家のフェンリルだと分かります。軽くですが、盗難防止と結界の機能も付与してあります。モモちゃんお似合いですよ」
「わふぅ!『似合ってるかしら!?』」
「うん、モモかっこいいわ!」

 ふふ、モモも気に入ったみたいね。

「ルル様、もしかしてモモちゃんと会話が出来るのではないですか?」

 あら、バレちゃったかしら?

「ユリウスはどうしてそう思うのかしら?」

 と、一応聞いてみる。

「フェンリルの中でもシルバーフェンリルは神の眷属だと伝わっております。それが真実だとすれば、眷属はご自分が守護している者と意思疎通が出来ると文献で読んだ覚えがあります。ですからモモちゃんも、そうなのかと」
「ユリウス凄いわ。その通りよ。私はモモとお話できるわ。でもね、お話出来るのは私だけじゃないのよ。本当はモモ、喋れるのよ」
「「……喋れる……!?」」
「ね、モモ。喋っていいわよ」
「喋れる様になったのよ。よろしくね」
「「モモちゃん!!」」

 ――ボフッ!! 

 ユリウスとリアンカの二人が、同時にモモに抱きつきました。
 うん、紛れもなく兄妹だわ。

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