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第9章 蒼太、決意の時

第165話 ちゃんさまさま

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 そうこうしている内に、次第に放課後の喧騒が聞こえてくる。

 体育館を使う部活の部員たちが集まってきたようだ。
 いつまでもずっとキスをしていたかったけど、仕方ない。

「とりあえず、学校を出ようか」
 抱きしめていた手を離すと、

「そうだね」
 優香はそう言って俺の身体から手を離した。
 その代わりとでも言うように、俺の手を握ってくる。

 指の間に、スルリと優香の指が入ってきた。
 指と指を絡めて手を繋ぐ、いわゆる恋人繋ぎってやつだ。

「積極的なんだな」
「キスしておいて、それ言う?」
「優香がおねだりしたくせに」

 俺がちょっとだけ意地悪っぽく言うと、

「おねだりなんて、そんなはしたないこと、してませんもん!」

 優香がちょっと怒ったような、照れ隠しのような、焦ったような、もろもろ全部入り混じった様子で、早口で抗議してくる。

「はいはい、俺がしたかったんだよ」
「そうだよ、蒼太くんがしたかったんだからね」

 俺はできる男なので『してませんもん』という謎日本語はスルーしてあげた。

 そのまま俺と優香は手を繋ぎながら、学校の敷地を抜け、学校最寄りのバス停へと歩いていく。

 すれ違う生徒が皆、学園のアイドル優香と、そんな優香と手を繋いでいる俺を見て驚いたような顔を見せる。

 俺としてはなんとも居心地が悪かったものの、だからといって変に隠すのも嫌だしな。

 別に悪いことをしているわけじゃない。
 俺と優香は気持ちを伝えあって正式にカップルになったから、こうして手を繋いでいるのだから。

「そう言えば、優香はいつのタイミングで俺の机にラブレターを入れたんだ?」
 話のついでに、俺は少しだけ気になっていたことを聞いてみた。

「私は4時間目の移動教室に行く時に、忘れ物をした振りをして教室に戻って、蒼太くんの机にラブレターを入れたの。そういう蒼太くんはいつ入れたの?」

「俺は4時間目が終わってすぐにダッシュで教室に戻って、優香の机にラブレターを入れたんだ」

「あ、あの時ね。服部くんと話してたの見てたよ?」
「げっ、俺の下手くそな演技を見られていたのか」

 ラブレターを入れるためだったとはいえ、おしっこが漏れそうな演技をしていたのをバッチリ見られていたってのは、かなり恥ずかしい。

「全然そんなことなかったって。迫真の演技だったもん」
「そうか?」

「まさかラブレターを入れに行くための嘘だったなんて、全然思わなかったし」
「まぁ普通は思わないよな」

「美月と一緒に3人でおままごとをした経験がいきたのかもね?」
「それはあったかもな。なにせあのおままごとは、思っても見なかったロールプレイで大変だったし」

 まさか姉妹との不倫三角関係おままごとをするとは、思いもよらなかった。
 優香と仲良くなってすぐくらいのことで、まだ優香との距離感もつかめてなかった頃だ。
 なんか懐かしいな。

「ふふっ、美月には感謝しないとだね」
「美月ちゃん様様さまさまだな」

「ちゃん様様って、なにそれ。ふふっ」
 優香がおかしそうに笑う。

 ああ、可愛いなぁ。
 優香の笑顔を見ているだけで、心が天にも上っちゃいそうだよ。

「だけど、まさかラブレターを2人同時に出しちゃうなんてな」
「ある意味、気が合う証拠かも?」
「ポジティブ・シンキングだな」
「ネガティブよりはいいでしょ? でもおかしいよね、ふふっ」

「今となっては、だけどな。真実が分かるまでは本当にドキドキだったから。神様はなんて意地悪なんだって思ったもんだ」

「あ、それ私も思ってたよ? ラブレターを出した日にラブレターを貰って、しかも指定された場所と時間まで同じでしょ? こんなことする恋愛の神様って、絶対に性格が悪いよねって、思っちゃってました」

「なにも悪くなかった神様には、謝っておかないとだな」
「本当にね。せっかく蒼太くんとお付き合いできたのに、へそを曲げられちゃったら大変だし」

 俺と優香はそろって、冤罪えんざいをかけてしまった神様にごめんなさいと謝罪した。

 その後、バスに乗って、肩を寄せ合って座りながらおしゃべりをして。
 俺は優香と一緒に姫宮家へとやってきた。
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