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法相と打ち合せた後、儂は地下牢に連行されてマルコの向かいの牢に入れられる。
「入れ」
法相はそう儂に一言言って早々に立ち去った。
「よう、兄ちゃん、何やったんだよ」
マルコはニヤニヤと笑い儂に声をかける。
儂は出来る限り面倒臭そうにマルコに言った。
「傷害だ」
「兄ちゃん腕が立つのか?」
「そこそこな。そういうあんたは何をやったんだ?」
興味無さげに言ってみる。
「俺ぁ密輸だよ」
「ほう。儲かるか?」
ここで少しずつ興味のある様に振る舞う。
「ああ、儲かるぜ?真っ当に働くのが馬鹿らしくなるくらいな」
「…………一枚噛ませろ」
「何が出来るんだ?」
「剣が使える事と、明日の夜半にここを抜け出す。連れて行ってやろう」
「……っ! 本当か⁈」
「あぁ。それまで時間はたっぷりある。慌てる事はない」
儂は牢のベッドに寝転んで、マルコに言う。
「のんびり委細を聞くとしよう」
「詳しい事はここを出て、仲間になってからじゃなきゃ話せねえ」
「……では、次の仕事の算段は着いてるのか?」
マルコは自分のベッドの縁に座り足を組んだ。
そして儂の問いに勿体ぶって答える。
「ああ、次はロロテアの港に入る船があってな。その船から荷を下ろす」
「ほう。ロロテアか……。俺の仕事は回収した荷の護衛と言った所か?」
「ああ。今回も腕の立つ護衛がいりゃ、こんなヘマはしなかったんだよ」
「情報が漏れていたのではないのか?」
「いや、今回は本当に運がなかった。巡回中の海軍の船と出会しちまったんだ」
グリムヒルトの海軍も舐められたものだ。
護衛が一人いたくらいで切り抜けられると思われているとは、実に間抜けな話だ。
ロロテアは王都の中心部からは少し外れた所にある港町だ。そんな所で荷受けがなされているとは盲点だろう。
「大型の船がそんなところに停泊していたら怪しまれるだろう?」
「小型船で荷受けしたら漁船に潜り込ませるんだよ」
マルコはニヤニヤと笑いながら身振りを加えて言った。
「……大型船の船員は?」
「……まぁ、そんな心配要らねえよ、兄ちゃん。詳しくはここを出たら教えてやるからさ」
マルコはまだ警戒心があるようでこれ以上は話そうとはしなかった。
「……いいだろう」
「で?兄ちゃんは……」
牢に入る部屋の扉が開く音が聞こえる。ギィギィと木の擦れる音が低く鳴り響く。
3人ほどの足音が牢内に反響した。衛士二人が一人の男を連行する。
そして儂の横にある牢に新しく入ってきた男は入れられた。
衛士は男に声をかける。
「大人しくしていろよ?」
衛士二人が去って行くと、見覚えのある赤毛がゆらりとこちらを振り返った。
「アナバス様」
「テームか」
テームは如何にも無頼と言った格好をしていて、それらしく剣呑な目つきをしていた。いつもは町人の様に愛想よく小綺麗にしているが、本来のこの男に近いのはこちらの様な気がする。
「なんだ? あんたら知り合いか?」
「ああ。俺の手下と思ってくれればいい。テーム、明日の夜でいいか?」
「へい、問題ないです」
テームが錠前の鍵を開ける事になる。もちろん、簡易な鍵にわざと変えてあるのだが、それでもテームの鍵開けの手際は見事なものだ。
「おいおい、これ以上人が増えても分前はやれねえぜ? 一人くらいなら俺一人の裁量でも構わんが、そう人数がいるとなると…」
「こいつが錠を開ける。こいつがいなければ、ここを出る事は出来んがいいのか? これ以上は増えん」
「そうは言ってもな……。だが背に腹は変えられねえか。わかった。俺が口利きしてやるよ。
……なぁ、なんでまたわざわざ牢破りなんかしようって事になってるんだ?あんたら」
マルコが儂達の周到さを訝しんでいる様だ。
「なに、仕事だ。依頼主がいる。これ以上は言えん」
「いいじゃねえか、仲間になるんだ。教えてくれよ」
「……城内部の構造を知りたいと言うのが依頼だ。ここまで来れれば俺の目的は達成だ」
「あんたこの城の構造覚えちまったのか?」
「ああ」
覚えているのかとは愚問だ。この城の事なら細部まで掴んでいる。誰に何を訊かれてもこの城の事だけは流石に全て答えられると言う自負はある。
「逃げる時には俺が役に立ってやろう。警備の配置も大体覚えたのでな」
それもさっき入念に法相と打ち合わせた。
ここを出るのに問題ない程度の警備になっているだろう。
儂はマルコに訊ねた。
「……所であんたは結構な裁量を与えられてるんだな。雇われてると言う訳ではなさそうだが」
「まぁな。……俺ぁ、大元の身内なんだよ」マルコは声を潜めて儂に言った。
なるほど。血縁者に密輸の手引きをさせてる訳か。それでこの男を放置する事も殺す事もせず、小細工を図ってまで救い出そうと血眼になっている訳か。
さて、法相から聞き及んだ密輸品から考えると相当大きな商会が絡んでいそうだ。
さぞや大物が釣れる事だろう、楽しみだな。
「入れ」
法相はそう儂に一言言って早々に立ち去った。
「よう、兄ちゃん、何やったんだよ」
マルコはニヤニヤと笑い儂に声をかける。
儂は出来る限り面倒臭そうにマルコに言った。
「傷害だ」
「兄ちゃん腕が立つのか?」
「そこそこな。そういうあんたは何をやったんだ?」
興味無さげに言ってみる。
「俺ぁ密輸だよ」
「ほう。儲かるか?」
ここで少しずつ興味のある様に振る舞う。
「ああ、儲かるぜ?真っ当に働くのが馬鹿らしくなるくらいな」
「…………一枚噛ませろ」
「何が出来るんだ?」
「剣が使える事と、明日の夜半にここを抜け出す。連れて行ってやろう」
「……っ! 本当か⁈」
「あぁ。それまで時間はたっぷりある。慌てる事はない」
儂は牢のベッドに寝転んで、マルコに言う。
「のんびり委細を聞くとしよう」
「詳しい事はここを出て、仲間になってからじゃなきゃ話せねえ」
「……では、次の仕事の算段は着いてるのか?」
マルコは自分のベッドの縁に座り足を組んだ。
そして儂の問いに勿体ぶって答える。
「ああ、次はロロテアの港に入る船があってな。その船から荷を下ろす」
「ほう。ロロテアか……。俺の仕事は回収した荷の護衛と言った所か?」
「ああ。今回も腕の立つ護衛がいりゃ、こんなヘマはしなかったんだよ」
「情報が漏れていたのではないのか?」
「いや、今回は本当に運がなかった。巡回中の海軍の船と出会しちまったんだ」
グリムヒルトの海軍も舐められたものだ。
護衛が一人いたくらいで切り抜けられると思われているとは、実に間抜けな話だ。
ロロテアは王都の中心部からは少し外れた所にある港町だ。そんな所で荷受けがなされているとは盲点だろう。
「大型の船がそんなところに停泊していたら怪しまれるだろう?」
「小型船で荷受けしたら漁船に潜り込ませるんだよ」
マルコはニヤニヤと笑いながら身振りを加えて言った。
「……大型船の船員は?」
「……まぁ、そんな心配要らねえよ、兄ちゃん。詳しくはここを出たら教えてやるからさ」
マルコはまだ警戒心があるようでこれ以上は話そうとはしなかった。
「……いいだろう」
「で?兄ちゃんは……」
牢に入る部屋の扉が開く音が聞こえる。ギィギィと木の擦れる音が低く鳴り響く。
3人ほどの足音が牢内に反響した。衛士二人が一人の男を連行する。
そして儂の横にある牢に新しく入ってきた男は入れられた。
衛士は男に声をかける。
「大人しくしていろよ?」
衛士二人が去って行くと、見覚えのある赤毛がゆらりとこちらを振り返った。
「アナバス様」
「テームか」
テームは如何にも無頼と言った格好をしていて、それらしく剣呑な目つきをしていた。いつもは町人の様に愛想よく小綺麗にしているが、本来のこの男に近いのはこちらの様な気がする。
「なんだ? あんたら知り合いか?」
「ああ。俺の手下と思ってくれればいい。テーム、明日の夜でいいか?」
「へい、問題ないです」
テームが錠前の鍵を開ける事になる。もちろん、簡易な鍵にわざと変えてあるのだが、それでもテームの鍵開けの手際は見事なものだ。
「おいおい、これ以上人が増えても分前はやれねえぜ? 一人くらいなら俺一人の裁量でも構わんが、そう人数がいるとなると…」
「こいつが錠を開ける。こいつがいなければ、ここを出る事は出来んがいいのか? これ以上は増えん」
「そうは言ってもな……。だが背に腹は変えられねえか。わかった。俺が口利きしてやるよ。
……なぁ、なんでまたわざわざ牢破りなんかしようって事になってるんだ?あんたら」
マルコが儂達の周到さを訝しんでいる様だ。
「なに、仕事だ。依頼主がいる。これ以上は言えん」
「いいじゃねえか、仲間になるんだ。教えてくれよ」
「……城内部の構造を知りたいと言うのが依頼だ。ここまで来れれば俺の目的は達成だ」
「あんたこの城の構造覚えちまったのか?」
「ああ」
覚えているのかとは愚問だ。この城の事なら細部まで掴んでいる。誰に何を訊かれてもこの城の事だけは流石に全て答えられると言う自負はある。
「逃げる時には俺が役に立ってやろう。警備の配置も大体覚えたのでな」
それもさっき入念に法相と打ち合わせた。
ここを出るのに問題ない程度の警備になっているだろう。
儂はマルコに訊ねた。
「……所であんたは結構な裁量を与えられてるんだな。雇われてると言う訳ではなさそうだが」
「まぁな。……俺ぁ、大元の身内なんだよ」マルコは声を潜めて儂に言った。
なるほど。血縁者に密輸の手引きをさせてる訳か。それでこの男を放置する事も殺す事もせず、小細工を図ってまで救い出そうと血眼になっている訳か。
さて、法相から聞き及んだ密輸品から考えると相当大きな商会が絡んでいそうだ。
さぞや大物が釣れる事だろう、楽しみだな。
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