人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 軍師様と別れて私は再び自分の部屋に戻った。
 そして、そのまま抜け道を使って再び城下に降りる。
 今の私の探れる唯一の手がかりを掴みにいかなきゃ。
 大きな商会が絡んでるなら、その密輸の規模も相当なものだろう。
 もしまたアガターシェの様な良くないモノが出回ってしまう様な事があったら大事だ。
 これだけ大胆な事をする人達なら、これに乗じて国にもっと脅しをかけてくるかもしれない。この機に絶対に取り締まっておきたい組織だ。
 私は足速に『風見鶏』を目指す。

 アイラには何か隠し事がある。それを聞き出さない事には何も前に進まないし、あの調子だときっとまた狙われてしまう。
 彼女の身の安全も守らなきゃ。
 宰相様は暗部をつけると言ったけど、それが彼女の命を守るという意味かどうかはわからない。単に内状を探らせるだけで、護衛まで命じて下さったかどうかわからない。
 私が側にいれば少なくとも私が命を守ってあげられる。
 それに本人も思い詰めていたし、きっと話してくれると思う。
 こんな事をウダウダと考えながら、駆けていると、やがて『風見鶏』の店の前に着いた。
 軽く弾んでいる息を整えながら、店に入るか、ここで見張るか悩んでいると、アイラがお店の勝手口から出てきた。
 きっとお酒が入っていた樽だろう。大きな樽を抱えて戸口の脇にやる。
 彼女はふぅと一つため息を吐いて、そして浮かない顔をしていた。ぼんやりと空を眺めてる。
 空はちょうど逢魔が時で西の空だけが太陽の残滓を抱えている。
 もう幾つもの星が空に我先にと輝いていた。

「……アイラさん?」
 私はアイラに声をかける。アイラは弾かれた様に私の方を見た。
「あなた……昼間の……」
「あのね、あんまりにも浮かない顔してたし……事情もありそうだったから、何か力になれないかと思って、来ちゃった」
 私はにこりと笑う。
「……ありがとう……でも……」
「言いにくい事なんだろうけど……アイラさん、一人じゃ抱え切れないって顔してるわよ? こんな小娘一人で何か出来るとは思えないけど、話してみれば少し心が軽くなるかもしれないでしょ?」
 アイラは呆然とこちらを見て、そしてしばらくして大粒の涙を流し始めた。
「……あ……あの……わたし……」
「うん、何があったの?」
 私は泣き咽ぶアイラの肩に手を乗せた。そしてもう片方の手で背中を摩った。
「……私は……本当は……御物をわざと壊したの……」
「わざと? どうして?」
「遠方に航海に出た恋人が人質に取られて……、無事に返して欲しければ御物を壊せって……言われたの」
「誰に?」
「それが……わからないの……」
「わからない人の言う事を信じたの?」
「もちろん、証拠って言って、私が彼に渡した珠の御守りを見せられたわ」
 なるほど……。御物の破損、その強奪、そしてマルコの釈放の請求は全部計画されたモノだったって事なのね……
「おいおい姉ちゃん、それ言っちゃもう見逃せねえなぁ~~」
 振り返ると、昼間の3人の男達が私達に近寄ってくる。
 私は魔法を使える様に身構える。
 もちろん過信なんかしてない。きっと時間稼ぎ程度のことしか出来ないだろうから、どうにかアイラだけでも逃せないか、考えなきゃ。
「あら? 昼間懲りたんじゃないの? 何の用?」
 私は敢えてニヤリと笑ってやった。
「あんたの旦那さえいなきゃ懲りるもクソもないんだよ」
「……いないなんて、誰が言ったの? もうちょっとしたら来るわよ?」
「じゃあ旦那が出てくる前について来てもらおうか!」
 一人の男が私の腕を掴もうと襲い掛かってきた。
 私は私の作れる一番大きな炎の弾を作った。
 それを男に目掛けて投げつける。
 男は突然現れた炎に慄いて身を庇って伏せた。
「アイラさんはお兄さんの所にいなさい!」
 この時間なら呑み客がたくさんいる時間だろう。呑み客の中にはきっとウルリッカ様の部下の方だったり、軍人さんの様な腕の立つ人がいるかもしれない。そんな所にはわざわざ突っ込んで行かないだろう。
 私はアイラの肩を押して店の勝手口の戸口に無理矢理押し込めて扉を閉める。
 他の二人の男も襲い掛かってきたから、私は大きな水の弾を作ってそれを思い切りぶつけた。
 男達は急に冷や水を浴びせられて驚いて怯んだ。
 その隙に私は全速力で六辻の方へ向かって走る。
 海へ出て、海軍の軍人さんがいる期待を込めて。
「待て!」
「あの女、純血の地の民だ! ありゃ魔法だ!」
「アイラは後だ! 先ずはあの女を捕まえろ!」
 標的は私になった。狙い通りだけど、こんな時にやっぱり剣術が出来ていたら……と思う。本当に教わっておけばよかった。今からでも教わろう、短剣でも使える方がいいに決まってるもの。
 私は必死に走る。脚にも体力にも自信はある。大丈夫、きっと海に行けばまだ港に海軍が作業をしてるはず。
 よく見てみると男達の内の一人しか追って来ていない。
 しまった、回り込まれてるかもしれない。どうにかして海のほうに出なくちゃ!
 私は一番近い海までの道を行くのをやめて敢えて迂回する道を選んだ。
 出来るだけ追ってくる男との距離を稼いで細い路地に入る。
 土地勘があまりないから唯一知ってるこの迂回路に賭けるしかない。
 必死に駆ける私の背後から男達の声が上がっている。
「こっちだぞ!」
 次の路地だったと思う。これ間違ってません様にっ!祈りを込めてまた細い路地に入った。
 私の祈りは通じなかった様で、そこは行き止まりだった。
 追って来た男が私に追いつく。
 私は肩で息をして、でも身構える。どうやれば切り抜けられるか、必死で考えるけど、いいアイデアなんて出そうにない。
 私は男を睨みつける。
「なぁ、姉ちゃん。大人しくしてりゃ、あんたいい商品になるだろうから手荒にはしねえ」
「冗談じゃないわ! 誰が売られるとわかってて大人しく捕まるのよ!」
「気の強い姉ちゃんだ」
 そんな会話をしてる間に他の私が水浸しにした男達二人もやって来た。
 私は炎を作って手のひらの上に浮かせる。
 ジリジリと男達が私に迫る。
「お困りか?」
 男達の背後から凛とした声が降る。
 私はその聞き覚えのある声にホッとした。
「はい。大変困ってます! へリュ様!」
 男達はその声の主の方を振り返る。
 スラリとしたシルエットがゆらりと揺れる。

 へリュ様が双剣を抜刀する。
「へリュ様、その方達を生捕りにして下さい!」
「承知」
 へリュ様のカトラスがチャキリと音を立てる。その瞬間、男の一人はもう既に峰打ちされてパタリと倒れる。
 こんな夜陰の中、へリュ様の動きを捉えられる人なんて、私の知る限り陛下位なんじゃないかしら?
 男達は突然の事に戸惑う。
「お、おい、なんなんだ?」
「その双剣……、女の剣士って言ったら……もしかして、『セイレーン』か⁈」
「主命だ。捕らえる」

 二人のうちの一人が私の方へ向かって走ってくる。
 私は炎を男に向かって投げつける。
 その隙にへリュ様が呆然としていた男の鳩尾に峰を一刀入れて気絶させ、私に向かって来た男が炎にたじろいでる隙に柄で後頭部を打って倒してしまう。
 私はホッと胸を撫で下ろして、へリュ様を見た。
「助かりました。ありがとうございます、へリュ様。いいタイミングでいらして下さいましたね」
 互いに歩み寄ってやっとへリュ様の顔が見える位置に近づけた。
「宰相から要請を受けた。『風見鶏』という店の付近で騒ぎが起こるだろうから、王妃をお助けしてくれと」
 どうやら宰相様に行動を読まれてしまってる様だ。とっても恥ずかしい。
「あの男からの伝言だ。『城でじっとしていろ』」
 どうやら陛下にまで行動を読まれているらしい……。本当に穴があったら入りたい位に恥ずかしい……。
「……わかりました。私、縄借りて来ます」

 男達を連行して、証言を取らなきゃ。
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