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第33幕 恒星との任務③

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 「桃童の子待てー!」
ベータは恒星から離れ、真幌を追う。
ベータの嗅覚は鋭く、真幌から漂う桃童特有の匂いを追ってすぐに真幌とアリサの跡を追い彼らの目の前に姿を出す。
「見つけた! 僕と一緒に来てよ」
「!」
ベータを見て、真幌は驚く。彼を庇ったのはアリサだった。
「真幌くん、ここは私が」
「アリサさん!」
アリサはベータの前に出る。
「邪魔だっての! 僕はその子連れて帰りたいのに!」
ベータは刀でアリサを斬ろうとする。しかし、
―—カキンっ!
「!?」
アリサの右手には薄く黄色いバリアが発動し、ベータの刀を止める。
「うわ、連星拳の奴だ」
ベータはアリサが連星拳の使い手だと気付く。
アリサの発動したバリアは連星拳の上級技。ベータは手練れだと見た。
「でも邪魔しないでよ! 僕はその桃童を連れて帰るんだよ」
「させません」
アリサはバリアを前に押し、ベータに抵抗する。
「真幌くん逃げてください!」
「ええ!? アリサさんは!?」
「私のことは気にせずに!」
真幌はアリサにそう言われ、再び逃げ出す。
(あの人はボクを狙ってるの? お母さん達みたいなことされるの……?)
走りながらそう考えてしまう真幌。
しばらく走っていると、見覚えのある風景があった。鏑木街の入り口だった。
「ここは……」
鏑木街の奥のほうに小空の自宅があるのは聞いている。匿ってもらえないかと真幌は鏑木街の中に入ろうとした。その時だった。
「やっと追いついたぁ! あのおばさんから逃げてよかったぜ」
真幌の背後には急いできたベータがいた。
「!」
「おいでよ。僕の大好きな人にその血、ちょうだい」
ベータはじっと真幌を見る。
「! 来ないで!」
腕を掴まれそうになるが真幌はベータから逃げる。
「待ってよ」
鏑木町に入り込み、人混みの中に紛れる真幌をベータは見失いかける。真幌は人混みの中を歩いていく。しばらく歩くと以前美翔から聞いた小空の自宅らしき建物を見つける。その扉から小空が出てきた。
「あら真幌くんじゃないの」
「小空ちゃん! ちょっと匿わせて」
「どうしたのよ」
「こわい人に追いかけられてるんだよ!」
「は?」
小空は真幌の言っている意味がわからなかった。そして、真幌はまたベータから逃げられなかった。
「見つけたー」
「ああああ!!」
真幌は背後まで来たベータに気付き、小空の自宅を離れて走る。
「真幌くん!?」
走っていく真幌とそれを追うベータがどんどん小さくなっていくのを小空は見ているしかなかった。
「なんなのあれ……」

 ※

 「小僧、そこをどけ」
大亜嵐寺の敷地内。リュシオルの視界の前にいたのは美翔だった。美翔は両腕を広げてナガレと住職を庇う。
「お前が何しとうヤツかは知らんけど、ナガレの師匠殺すんは許さへんで!」
前のめりの美翔の前にナガレが出る。
「旦那、俺らは別に大丈夫だ」
「ナガレ?」
ナガレはリュシオルを見る。
「あんた、本当は……別にお師匠さんを殺しに来たわけじゃないんだろ?」
ナガレにはリュシオルが本気で住職を殺そうとしているように見えなかった。
「ただ挨拶しに来たんだろ」
「……」
ナガレの言葉にリュシオルは黙る。
「意味のない殺生はできない癖はその男に植え付けられてしまったからな。お前もそうだろう」
「坊さんの本業は殺生じゃねえからなぁ」
ナガレは冷や汗を流しながら少し微笑む。
「……もうやる気が失せてしまった。帰るか」
「は!?」
リュシオルの先程までの殺気が無くなったことに美翔は驚く。
そしてリュシオルは瞬間移動のように姿を消した。
「消えた!?」
「ああアレ俺の宗派の技だよ。俺はまだ使えないけど」
消えたリュシオルに驚く美翔となぜ消えたのかを説明するナガレ。
「美翔さーん! ナガレくーん! 住職さん! 大丈夫だったかー!」
ボロボロになりながらも太志郎が走ってきた。
「タイシ!」
太志郎に美翔は駆け寄る。
「あいつは?」
「なんかおらんくなった。逃してもた……」
美翔は俯く。
「あー、逃したかぁ。さすがにあいつは諦めとくしかないな」
太志郎は確保対象だったリュシオルを諦める。シティナイツの人間として叱責を受けるのは既に覚悟している。
「名谷さん、さっきのアイツなんですけど」
ナガレが入る。
「……アイツのことは俺達僧兵に任せていただけませんか?」
「え?」
ナガレは太志郎にリュシオルについて申し出る。
「破門したとはいえアイツはうちの宗派の人間です。アイツを刑務所に戻すのは俺達にさせてください」
「……そうか。それは一応上に報告しとくよ。多分隊長は任せるって言うと思う」
太志郎は聞き入れる。
「なあ、刑務所から逃げたんってもう一人おった言うてたやん。最後の一人ってどんななん?」
美翔は気を取り直すように三人目の脱獄囚について太志郎に問う。
「あ、ああ。かなり厄介な奴らしい。名前は確か……」
太志郎も気を取り直す。
「β(ベータ)だったな。顔の半分くらいが紫色の男らしい」
「顔が紫?」
美翔はベータという男の特徴にピンと来なかった。

 ※

 「真幌、一体どこにいるんだ?」
ラビリンスモーメントを出ると恒星はその周辺を走って真幌を探す。連絡しようとしても連絡先を知らないので出来ない。
「まさかもうアイツに捕まっているんじゃ……それに確かあのベータって奴は」
恒星は通信機を出し空中ディスプレイを出す。そこには警察から渡された脱獄囚のリストがあった。
その中に、ベータの顔があった。
「やっぱりコイツか。コイツなら……」
恒星は通信機でGPSアプリを開く。脱獄囚の体内には脱走してもすぐ見つかるように発信機が埋め込まれている。地図にあるベータの居場所はまだ遠くないと見る。
「少し危険だがコイツにかけるしかない」
恒星はベータのいる場所に向かって走り出した。
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