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第32幕 太志郎との任務③

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 美翔と太志郎、ナガレは扉の締め切った寺の前にいた。
「お前以外の坊(ぼん)さんは?」
「出かけてて俺以外いねえよ」
美翔はナガレのほうを見る。
「ご住職! 大丈夫ですか?!」
太志郎は扉の向こうにいる住職に呼びかける。
「……」
寺の中からは物音ひとつしない。
「なんや怖いな!」
「大丈夫かよお師匠さんは!」
美翔とナガレも異常性を感じる。
「……突入するぞ。入ってすぐ住職を確保だ」
「ええで!」
「はい!」
太志郎はドライビンググローブをした拳で扉を殴り壊す。
「『ブレイクアタック』!!」
―—ドカアァァ!!
硬い扉が砕かれ寺の中がようやく見える。太志郎のパンチが決まると美翔とナガレが中に入る。
三人の目の前には、大きく凛々しい仏像がある。その膝元に、ナガレの師匠である老いた老人、住職が座禅の姿勢で座っていた。
「お師匠さん!!」
ナガレは住職に駆け寄る。
「ナガレ……」
「怪我はなかったか?! 立てるか?」
ナガレは住職を立たせて寺から出そうとする。
「動くな」
「……!」
太志郎と美翔は住職の隣で着物を着た金色の長髪の男が座禅を組んでいた。
「……あ、ああやっぱり来たか。シティナイツ」
男は立ち上がる。彼がかなり大柄だとわかる。
「リュシオル……」
住職は男の名を呼んだ。
「お師匠さん、あの男は一体誰だよ?」
ナガレは男を睨む。
「彼はリュシオル。かつてここの僧兵だった者だ」
住職は男、リュシオルを見る。
「師匠、こいつを呼んだのですね」
リュシオルは住職を見る。
「お前のかつてやったことは永遠に許されないぞ」
「?」
リュシオルと住職をナガレは交互に見る。
「そこの少年は今いる弟子ですね」
リュシオルはナガレを見る。
「……あんたが何者かはわからないけど、お師匠さんに手出すなよ!」
リュシオルと住職の間に入るナガレ。しかしリュシオルはナガレを払いのける。
――ドン!!
「ぐぁ!」
「ナガレ!」
木の壁に叩きつけられるナガレ。しかし彼は痛がりながらも立ち上がり走り、またリュシオルと住職に近づく。
「く、ふ……」
「邪魔だ小僧」
リュシオルはナガレを睨む。そして住職も。
「住職、あなたのことはお慕いしていますが私は今ある私のために、あなたを殺さなければいけません。そこの弟子共々終わっていただきます」
リュシオルは右手で拳を作り殴ろうとする。しかしその拳を受けたのは、住職でもナガレでもなかった。
「タイシ!!」
リュシオルの拳を即座に割って入った太志郎は右手で受け止める。
「……っ、やらさねえよ。車庫に戻ってもらうぞ」
「ほう?」
太志郎とリュシオルは睨み合う。
「ナガレ! ご住職と逃げろ!」
「は、はい!」
太志郎はそのままナガレに呼びかける。ナガレは住職を連れて歩き寺から出る。
「美翔さんも離れてろ」
「お、おう!」
美翔もナガレと住職を追って寺を出る。リュシオルと太志郎は離れ距離を取る。そして太志郎は前髪をかきあげ、目付きを鋭くさせる。
「大人しくしてもらうぜ。『運転停止(エンジンストップ)』!」
太志郎は近づきリュシオルの心臓に向けて殴る。
――ゴッ!!
拳が命中したがリュシオルの動きは止まらなかった。
「そんなもので止まるか」
リュシオルの肉体は見た目より硬く拳は効かなかった。
「車乗り私の邪魔をするな」
「!? が!」
リュシオルは太志郎の首を右手で掴み彼を持ち上げる。
「んぐ、」
太志郎はもがき、両手でリュシオルの右手を掴み握り潰そうとする。その前にリュシオルは太志郎を投げるように床に叩きつける。
――バジン!!
「がは!」
太志郎は仰向けになり、ダメージを受ける。
リュシオルはそれを見て寺を出る。
「! ……おい待て!」
太志郎は起き上がる。
「……この寺も住職も、ここの信仰も『ガーゴイル』には邪魔なんでな」
リュシオルはそう呟いてナガレ達を追うのだった。
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