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【運命に抵抗したいのは私だけじゃない】
違和感の正体
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アウレウスは、クレアの側にいるとき、他の人間がいる時には口数が少なかった。それは魅了の魔力を漏れさせないためでもあったが、その方がクレアの観察が捗ったからだ。クレアの行動は、時折アウレウスの理解できない点があった。
最初の違和感は、編入初日にかつらを被ってきたことだ。何度か会ったクレアは、腰ほどまである亜麻色の髪を垂らしたスタイルだった。地毛はくせ毛なのか、フワフワとした髪であったが、長さもボリュームもかつらの下に押し込めるは辛かろう。
「なぜ、かつらを?」
当然の疑問であろうその質問に対して、クレアは苦笑いをした。
「どうしても必要なのよ」
「校則にかつらを使ってはいけないなどとはありませんが、そのスタイルで通すのにはいささか無理があるのでは? 実技の授業等で邪魔になりますよ」
そう忠告したが、クレアは譲らなかった。
「うん、そうなんだけどね」
そう言って、クレアはかつらを外さない。おしゃれというつもりでもなさそうなのに、どういうつもりなのだろうとアウレウスは思った。
そうして学園に到着し、馬車を降りた時、迎えに出ていた3名を見て、クレアはぎょっとした顔を一瞬していた。恐らく何気ないふりをしていたつもりであろうその顔を、アウレウスは見落とさなかった。クレアは何故か、初対面の筈の王太子を、とても警戒していた。
王族との関わりが恐れおおい風でもない。それならば侯爵家息女のテレンシアときさくに話したりはしないだろう。男性不信なのかと言えばそうでもない。アウレウスに対しては普通だったし、クラスメイトの男子学生が話しかけてきた時にも、普通に接していた。
決定的だったのは、お茶会である。バシレイオスが明らかにクレアに対して、興味を示していたのは、アウレウスも判っていた。しかし、クレアはそれに対して不遜な態度で、『お前は恋愛対象外だ』と伝えたのである。
不思議だったのは、そのお茶会以降、クレアのバシレイオスに対する態度が軟化したことだ。ついでに、バシレイオスが憑き物でも落ちたかのようにクレアに対する関心を失っていた。クレアから侮辱されたからと言って、バシレイオスがクレアに腹を立てたような素振りではなかった。単純にクラスメイトとして接しているように見える。
まるで、魅了の魔法を受けていた人間が、その効力を解かれた後のようだった。もちろん魅了の魔力などではない。洗礼の時に、クレアは聖属性魔力しか保有していないことは判っている。
まるで、そういう風になることが運命として判っていたかのように、クレアは出会いからお茶会までだけ、徹底してバシレイオスを避けていたのだ。
彼女が異常な態度を見せたのは、バイレイオスだけではなかった。グランツ・ゲムマに対してもだ。グランツのクレアに対する態度はアウレウスも気に入らなかったが、それ以上にクレアは避けようとしていた。それに、放課後の補習授業にグランツが来ることが判っていたかのように、クレアはアビゲイルを連れていっていた。
それら一つ一つは取るに足らない違和感だったが、クレアには人に明かせない事情があるのは察していた。
だからこそ、クレアが転生していて、ゲームとしてのシナリオを知っていたのだと言う話には、納得がいった。しかし、クレアの顔には、『何で信じたの?』という気持ちがありありと出ている。
「でもこれで納得しました。今までの貴女の行動について」
そうアウレウスが告げると、クレアはますます不可解そうな顔をした。自分が思っていることが、顔に全て出てしまっていることを、クレアは気付いていないのだろうと思うと、アウレウスは面白かった。
「話を伺う限り、バシレイオス殿下やグランツさんと親しくなることを避けていたのは、アビゲイル嬢やテレンシア嬢をモンスター化させないためだったんですね。彼女たち以外にも、モンスター化する危険のある女生徒……攻略対象、ですか。そういう男性はいるんですか?」
「……ラン・ルーナ先生が、最後の攻略対象者なの」
「ルーナ先生、ですか」
ふむ、と呟いてアウレウスは少し考える。ラン・ルーナと言えば、編入日当日に会って以降、関わりあいになっていなかった筈である。確かあの時、クレアはラン・ルーナに対して怯えていた風だったことをアウレウスは思い出す。
「変に避けると、強制的にイベントが始まっちゃうことが判ったから、ゲームシナリオに沿って、恋愛フラグを折った方がいいんだけど、それだけだとルーナ先生の婚約者がモンスター化しちゃうから……」
「なるほど。その婚約者の方の命を救うためには、何かしらの対策が必要な訳ですね」
アウレウスの言葉にクレアは頷く。
「アビゲイルみたいに、モンスター化する前に聖魔法で無力化できればいいのかもしれないけど」
「だめです」
言下にアウレウスはクレアの案を却下した。
「昨日はたまたまうまくいきましたが、失敗したらどうするんですか。危険です」
「……うん、失敗したら、その子死んじゃうかもしれないもんね……」
クレアが困ったように言うのに、アウレウスは溜め息を吐いた。昨日、クレアの身の危険について説教した筈だが、やはりクレアは何も判っていなかったらしい。
アウレウスからしたら、クレアはこの先の運命を回避するために、自分自信をないがしろにしているとしか思えなかった。
「そもそも、何故もっと早く私に相談しなかったのです。グランツ・ゲムマの件やバシレイオス殿下の件ももっとやりようがいくらでもありましたよ。モンスター化の件だって、事前にその兆候について調べることもできたでしょう。何故危険があると判っていて、私を頼らなかったんですか」
アウレウスの声は、自分でも思っている以上に、怒りが籠っていた。
最初の違和感は、編入初日にかつらを被ってきたことだ。何度か会ったクレアは、腰ほどまである亜麻色の髪を垂らしたスタイルだった。地毛はくせ毛なのか、フワフワとした髪であったが、長さもボリュームもかつらの下に押し込めるは辛かろう。
「なぜ、かつらを?」
当然の疑問であろうその質問に対して、クレアは苦笑いをした。
「どうしても必要なのよ」
「校則にかつらを使ってはいけないなどとはありませんが、そのスタイルで通すのにはいささか無理があるのでは? 実技の授業等で邪魔になりますよ」
そう忠告したが、クレアは譲らなかった。
「うん、そうなんだけどね」
そう言って、クレアはかつらを外さない。おしゃれというつもりでもなさそうなのに、どういうつもりなのだろうとアウレウスは思った。
そうして学園に到着し、馬車を降りた時、迎えに出ていた3名を見て、クレアはぎょっとした顔を一瞬していた。恐らく何気ないふりをしていたつもりであろうその顔を、アウレウスは見落とさなかった。クレアは何故か、初対面の筈の王太子を、とても警戒していた。
王族との関わりが恐れおおい風でもない。それならば侯爵家息女のテレンシアときさくに話したりはしないだろう。男性不信なのかと言えばそうでもない。アウレウスに対しては普通だったし、クラスメイトの男子学生が話しかけてきた時にも、普通に接していた。
決定的だったのは、お茶会である。バシレイオスが明らかにクレアに対して、興味を示していたのは、アウレウスも判っていた。しかし、クレアはそれに対して不遜な態度で、『お前は恋愛対象外だ』と伝えたのである。
不思議だったのは、そのお茶会以降、クレアのバシレイオスに対する態度が軟化したことだ。ついでに、バシレイオスが憑き物でも落ちたかのようにクレアに対する関心を失っていた。クレアから侮辱されたからと言って、バシレイオスがクレアに腹を立てたような素振りではなかった。単純にクラスメイトとして接しているように見える。
まるで、魅了の魔法を受けていた人間が、その効力を解かれた後のようだった。もちろん魅了の魔力などではない。洗礼の時に、クレアは聖属性魔力しか保有していないことは判っている。
まるで、そういう風になることが運命として判っていたかのように、クレアは出会いからお茶会までだけ、徹底してバシレイオスを避けていたのだ。
彼女が異常な態度を見せたのは、バイレイオスだけではなかった。グランツ・ゲムマに対してもだ。グランツのクレアに対する態度はアウレウスも気に入らなかったが、それ以上にクレアは避けようとしていた。それに、放課後の補習授業にグランツが来ることが判っていたかのように、クレアはアビゲイルを連れていっていた。
それら一つ一つは取るに足らない違和感だったが、クレアには人に明かせない事情があるのは察していた。
だからこそ、クレアが転生していて、ゲームとしてのシナリオを知っていたのだと言う話には、納得がいった。しかし、クレアの顔には、『何で信じたの?』という気持ちがありありと出ている。
「でもこれで納得しました。今までの貴女の行動について」
そうアウレウスが告げると、クレアはますます不可解そうな顔をした。自分が思っていることが、顔に全て出てしまっていることを、クレアは気付いていないのだろうと思うと、アウレウスは面白かった。
「話を伺う限り、バシレイオス殿下やグランツさんと親しくなることを避けていたのは、アビゲイル嬢やテレンシア嬢をモンスター化させないためだったんですね。彼女たち以外にも、モンスター化する危険のある女生徒……攻略対象、ですか。そういう男性はいるんですか?」
「……ラン・ルーナ先生が、最後の攻略対象者なの」
「ルーナ先生、ですか」
ふむ、と呟いてアウレウスは少し考える。ラン・ルーナと言えば、編入日当日に会って以降、関わりあいになっていなかった筈である。確かあの時、クレアはラン・ルーナに対して怯えていた風だったことをアウレウスは思い出す。
「変に避けると、強制的にイベントが始まっちゃうことが判ったから、ゲームシナリオに沿って、恋愛フラグを折った方がいいんだけど、それだけだとルーナ先生の婚約者がモンスター化しちゃうから……」
「なるほど。その婚約者の方の命を救うためには、何かしらの対策が必要な訳ですね」
アウレウスの言葉にクレアは頷く。
「アビゲイルみたいに、モンスター化する前に聖魔法で無力化できればいいのかもしれないけど」
「だめです」
言下にアウレウスはクレアの案を却下した。
「昨日はたまたまうまくいきましたが、失敗したらどうするんですか。危険です」
「……うん、失敗したら、その子死んじゃうかもしれないもんね……」
クレアが困ったように言うのに、アウレウスは溜め息を吐いた。昨日、クレアの身の危険について説教した筈だが、やはりクレアは何も判っていなかったらしい。
アウレウスからしたら、クレアはこの先の運命を回避するために、自分自信をないがしろにしているとしか思えなかった。
「そもそも、何故もっと早く私に相談しなかったのです。グランツ・ゲムマの件やバシレイオス殿下の件ももっとやりようがいくらでもありましたよ。モンスター化の件だって、事前にその兆候について調べることもできたでしょう。何故危険があると判っていて、私を頼らなかったんですか」
アウレウスの声は、自分でも思っている以上に、怒りが籠っていた。
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