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【運命に抵抗したいのは私だけじゃない】
信じてくれるかは判らないけど
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翌日、私は学園を休んだ。一晩寝て起きて見ると、力の入らなかった身体は、僅かに動かせるようになっていた。ただ病み上がりみたいに、動かすのはしんどい。医者の見立て通り、あと2日くらいは安静にした方がいいんだろうな。
ベッドで食事を済ませたりして、うとうとしていると、いつの間にか夕方近くになっていた。ノックの音で目が覚めて、入室を許可すると、メイドのリーンが入ってきた。
「クレア様、お客様がいらっしゃってますが……いかがなさいますか?」
「誰が来たの?」
「アウレウス様がいらっしゃいました」
ゆっくりと身体を起こして、私はリーンを見る。うーん、今から着替えて応接室に行くのは、流石にしんどいな。貴族の中じゃ、訪問後に会うまでに時間をかけるのは珍しいことじゃないから、アウレウスも待たされるのも判ってるだろうけど……。
「じゃあ、この部屋に」
「クレア様、ヒラルド様からの伝言をお伝えしますね」
「うん?」
リーンはにっこりと笑う。
「『淑女は寝間着で人前に出るものではない。着替えができないほど疲れているのであれば、誰にも会わずに安静にしなさい』とのことですよ」
「それって……」
「言葉通りの意味でございましょう?」
にこにこと笑ってはいるが、リーンは多分怒っている。
「私もヒラルド様のご意見に賛成です。未婚のお嬢様が補佐とは言え、家族以外の男性に寝間着姿を見せるのはいかがなものでしょう。それとも、将来の結婚を誓ってでもいらっしゃるのですか?」
まさかそんな訳ないでしょう? というリーンの言葉が聞こえてくるようだ。昨日、アウレウスが寝室に入ったことを、リーンもヒラルドお兄様も気に入らなかったんだね……。うん、未婚の女の寝室に入るっていうのがだめなのは判るけど。
「……判った。アウレウスには話したいことがあるから、応接室で待ってもらって。それから着替えを手伝ってくれる?」
本当は会うの自体をやめてほしかったのかもしれない。リーンは、「かしこまりました」とは言ったものの、張り付いた笑顔のまま一度下がっていった。リーンって本当に慇懃無礼だよね。
そうして、戻ってきたリーンに着替えを手伝ってもらってから、私は応接室に移動した。部屋に入ると、既に出されたお茶をすすっていたアウレウスが立ち上がって近寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
私の手を取ると、そのままソファまでエスコートしてくれ、座らせてくれる。そして自分は正面のソファに座りなおす。リーンは、私がソファに座ったのを見届けると、私の分のお茶を用意しに部屋の外に出て行った。
「顔色が良くないですよ。ご無理をさせてしまいすみません。まさか応接室にいらっしゃるとは」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
「そうですか……?」
寝間着で男に会うな、と釘を刺されたなんて言えないしね。それを伝えると、アウレウスを異性として意識してるみたいでなんか嫌だ。
「うん。今日はどうして来たの?」
まずはアウレウスの用件を片付けてしまおう。
「一番はお見舞いですよ。……しかし、明日か明後日にした方が良かったですね。かえって疲れさせてしまい、すみません」
「大丈夫だよ」
困ったように微笑むアウレウスにそう答えるが、アウレウスは曖昧に笑っただけで答える。
「一番ってことは他の用事もある?」
「ええ……ですが、お疲れの様子ですし、また日を改めましょう。……できれば、次の登校よりも前にお話をできれば、と思っていますが……」
「話すだけなら昨日も大丈夫だったでしょう? 今話して?」
私が言うと、アウレウスは軽く息を吐いてから、決心を固めたように組み合わせた手の力をぐっと強めた。
「では……お聞きします。昨日、アビゲイル嬢がモンスターになりそうだったとき、貴女が言っていた『運命』とは何ですか?」
アウレウスは昨日から話してもらう、と言っていたから、覚悟はしていた。それに、どうせ私も話そうと思っていたことではある。
「失礼します」
どういう切り口から応えていいか悩んでいると、リーンが戻ってきた。私の前に茶器をセットして、お茶を注いでくれる。
「ありがとう、リーン。……少し、アウレウスと話があるから席を外していてくれる?」
「……かしこまりました」
ちら、とアウレウスに目を向けたが、リーンは素直に部屋を下がる。本当は長時間、未婚の男女が密室にいるのも良くないんだろうけど、そこは目をつむってくれるらしい。さっきの寝間着の話からだと反対されるかと思ったのに。……よく考えると、毎日の学園の送迎は馬車でふたりきりだから、同じなのかな? 判断基準がよく判らないけど、下がってくれるのはありがたい。
リーンが部屋を出て、廊下から足音が遠ざかったのを確認して、私はアウレウスに目を向ける。
「アウレウス、今からアビゲイルのことも含めて、私の話を聞いてくれる?」
「そのために私はここに参りました」
アウレウスは頷く。『運命はある』とアウレウスは前に言った。だから、私の話を信じてくれるかは判らないけど、話してみよう。
「ありがとう。……アウレウスは、『転生』って知ってる?」
アウレウスが頷いたので、ほっとする。転生の概念はこの世界にも、あるんだね。
「私はね、ここじゃない、別の世界から転生したの。そして、前の記憶を持ってる」
そこから私の話を、アウレウスは黙って聞いてくれた。この世界が、以前プレイした乙女ゲームに酷似してること。ゲーム内のイベントを避けようとしたら、運命のような強制力が働いてイベントが発生したこと、そして、アビゲイルのモンスター化もゲームのイベントに沿った『運命』なのかもしれないと思ったこと。
「……なるほど」
アビゲイルのモンスター化を運命だと思ったという話まで聞いて、考え込むようにしていたアウレウスは、一言そう言った。
「……信じられないかもしれないけど」
「いいえ、事実なのでしょう」
私の言葉を遮って、アウレウスはそう言い切る。
「信じて、くれるの?」
正直に言って、自分でも頭がおかしいと思う。『私は転生者で、他の世界からやってきました、この世界はゲームです』だなんて言われたとして、私なら信じられない。
「前に申し上げたように、私は運命はあると思っています。……それが異なる世界のゲームに定められたもの、と言われると少し不思議……いえ、驚いていないというと嘘になりますが」
言葉を選ぶようにアウスレウスは言う。
「でもこれで納得しました。今までの貴女の行動について」
アウレウスの言葉に、私は首を傾げる。私が一体何をしたって言うんだ。
ベッドで食事を済ませたりして、うとうとしていると、いつの間にか夕方近くになっていた。ノックの音で目が覚めて、入室を許可すると、メイドのリーンが入ってきた。
「クレア様、お客様がいらっしゃってますが……いかがなさいますか?」
「誰が来たの?」
「アウレウス様がいらっしゃいました」
ゆっくりと身体を起こして、私はリーンを見る。うーん、今から着替えて応接室に行くのは、流石にしんどいな。貴族の中じゃ、訪問後に会うまでに時間をかけるのは珍しいことじゃないから、アウレウスも待たされるのも判ってるだろうけど……。
「じゃあ、この部屋に」
「クレア様、ヒラルド様からの伝言をお伝えしますね」
「うん?」
リーンはにっこりと笑う。
「『淑女は寝間着で人前に出るものではない。着替えができないほど疲れているのであれば、誰にも会わずに安静にしなさい』とのことですよ」
「それって……」
「言葉通りの意味でございましょう?」
にこにこと笑ってはいるが、リーンは多分怒っている。
「私もヒラルド様のご意見に賛成です。未婚のお嬢様が補佐とは言え、家族以外の男性に寝間着姿を見せるのはいかがなものでしょう。それとも、将来の結婚を誓ってでもいらっしゃるのですか?」
まさかそんな訳ないでしょう? というリーンの言葉が聞こえてくるようだ。昨日、アウレウスが寝室に入ったことを、リーンもヒラルドお兄様も気に入らなかったんだね……。うん、未婚の女の寝室に入るっていうのがだめなのは判るけど。
「……判った。アウレウスには話したいことがあるから、応接室で待ってもらって。それから着替えを手伝ってくれる?」
本当は会うの自体をやめてほしかったのかもしれない。リーンは、「かしこまりました」とは言ったものの、張り付いた笑顔のまま一度下がっていった。リーンって本当に慇懃無礼だよね。
そうして、戻ってきたリーンに着替えを手伝ってもらってから、私は応接室に移動した。部屋に入ると、既に出されたお茶をすすっていたアウレウスが立ち上がって近寄ってくる。
「大丈夫ですか?」
私の手を取ると、そのままソファまでエスコートしてくれ、座らせてくれる。そして自分は正面のソファに座りなおす。リーンは、私がソファに座ったのを見届けると、私の分のお茶を用意しに部屋の外に出て行った。
「顔色が良くないですよ。ご無理をさせてしまいすみません。まさか応接室にいらっしゃるとは」
「ううん、大丈夫。ありがとう」
「そうですか……?」
寝間着で男に会うな、と釘を刺されたなんて言えないしね。それを伝えると、アウレウスを異性として意識してるみたいでなんか嫌だ。
「うん。今日はどうして来たの?」
まずはアウレウスの用件を片付けてしまおう。
「一番はお見舞いですよ。……しかし、明日か明後日にした方が良かったですね。かえって疲れさせてしまい、すみません」
「大丈夫だよ」
困ったように微笑むアウレウスにそう答えるが、アウレウスは曖昧に笑っただけで答える。
「一番ってことは他の用事もある?」
「ええ……ですが、お疲れの様子ですし、また日を改めましょう。……できれば、次の登校よりも前にお話をできれば、と思っていますが……」
「話すだけなら昨日も大丈夫だったでしょう? 今話して?」
私が言うと、アウレウスは軽く息を吐いてから、決心を固めたように組み合わせた手の力をぐっと強めた。
「では……お聞きします。昨日、アビゲイル嬢がモンスターになりそうだったとき、貴女が言っていた『運命』とは何ですか?」
アウレウスは昨日から話してもらう、と言っていたから、覚悟はしていた。それに、どうせ私も話そうと思っていたことではある。
「失礼します」
どういう切り口から応えていいか悩んでいると、リーンが戻ってきた。私の前に茶器をセットして、お茶を注いでくれる。
「ありがとう、リーン。……少し、アウレウスと話があるから席を外していてくれる?」
「……かしこまりました」
ちら、とアウレウスに目を向けたが、リーンは素直に部屋を下がる。本当は長時間、未婚の男女が密室にいるのも良くないんだろうけど、そこは目をつむってくれるらしい。さっきの寝間着の話からだと反対されるかと思ったのに。……よく考えると、毎日の学園の送迎は馬車でふたりきりだから、同じなのかな? 判断基準がよく判らないけど、下がってくれるのはありがたい。
リーンが部屋を出て、廊下から足音が遠ざかったのを確認して、私はアウレウスに目を向ける。
「アウレウス、今からアビゲイルのことも含めて、私の話を聞いてくれる?」
「そのために私はここに参りました」
アウレウスは頷く。『運命はある』とアウレウスは前に言った。だから、私の話を信じてくれるかは判らないけど、話してみよう。
「ありがとう。……アウレウスは、『転生』って知ってる?」
アウレウスが頷いたので、ほっとする。転生の概念はこの世界にも、あるんだね。
「私はね、ここじゃない、別の世界から転生したの。そして、前の記憶を持ってる」
そこから私の話を、アウレウスは黙って聞いてくれた。この世界が、以前プレイした乙女ゲームに酷似してること。ゲーム内のイベントを避けようとしたら、運命のような強制力が働いてイベントが発生したこと、そして、アビゲイルのモンスター化もゲームのイベントに沿った『運命』なのかもしれないと思ったこと。
「……なるほど」
アビゲイルのモンスター化を運命だと思ったという話まで聞いて、考え込むようにしていたアウレウスは、一言そう言った。
「……信じられないかもしれないけど」
「いいえ、事実なのでしょう」
私の言葉を遮って、アウレウスはそう言い切る。
「信じて、くれるの?」
正直に言って、自分でも頭がおかしいと思う。『私は転生者で、他の世界からやってきました、この世界はゲームです』だなんて言われたとして、私なら信じられない。
「前に申し上げたように、私は運命はあると思っています。……それが異なる世界のゲームに定められたもの、と言われると少し不思議……いえ、驚いていないというと嘘になりますが」
言葉を選ぶようにアウスレウスは言う。
「でもこれで納得しました。今までの貴女の行動について」
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