IT学園○学部

阿井上男

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第一話

私立IT学園・説明会4

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「ここか?」

「うん、そうみたい」

石山兄妹とは別の道の最深部が、俺達が招待された部屋であった。

この部屋だけ扉が大きいのは、特別な要件で使われる部屋だからなのだろうか。今までセキュリティが掛かった部屋ばかりだったが、ここにはない。

ドアをノックする。

「遅れて申し訳ありません。伊藤巧、伊藤真姫、到着しました」

扉越しの挨拶だったので聞こえたか不安だったが、中からカチャッという音が聞こえた。中から鍵を外したようだ。

入っても良いものか、開けられるのを待つか。迷いつつノブに手をかけたとき。

巧兄たくにぃッ!!」

「えッ」

大きく扉が開く音が響き、次いでドアの向こう側から人影が現れた。その陰は一目散に俺の身体へと飛びかかり、俺の胸板にしがみつく。

ぽよん、と何かが柔らかく弾んだ。

巧兄たくにぃ巧兄たくにぃッ!! 巧兄たくにぃだぁッ! やぁん、会いたかったよぅッ」

「な……」

「一年も会えないだなんて思ってなかったッ! 寂しかったよぉ!!」

「そ、その声は」

巧兄たくにぃ……ッ!」

俺の戸惑いをよそに、俺の胸に顔を埋めた少女が高い声でまくしたてる。

ゆいか?」

「うんッ」

俺の背中に手を回し、ぐいぐいと頭を俺の胸板に押し付けてきた少女……それは、もう一人の俺の妹だった。

「結だよ、巧兄たくにぃ

伊藤家の三女、真姫の妹、そして俺の妹である伊藤結が、顔をあげて俺を見上げていた。少しだけ成長したが、その愛らしい笑顔は少しも色あせていない。

子供っぽさを多く残す瞳はユラユラと揺らぎ、もっちりとした白い頬は肌触りがよさそうだ。ふさふさと頭の上で左右に伸びるツインテールが、幼さを強調していた。

「結、お前……茨城のおばさんのところで暮らしているハズじゃ」

「本物の巧兄たくにぃだぁ……ずっと会いたかったの、会いたかったよぉ」

「……」

「ワガママ言ったらいけないから、ガマンしてたの。巧兄たくにぃに迷惑かけたくないもん。けど、けどぉ」

俺をまっすぐに見上げる結は、最後に会った時よりも数段、成長していた。

ここまで感動してくれているのだ。余計な事を言って妹の感動を遮るのも野暮というものだろう。とりあえず、結の好きなように甘えさせることにした。

昔から結は俺に甘えまくる子だった。一年前、最後に会ったときはまだまだ小さくて子供っぽい印象で、手足も細く背は低い。そのあたりは、今もあまり変わっていないようだ。

たった今、その印象はだいぶ女らしく上書きされたものの、芯はあまり変わらなっていないようだった。

姉妹らしく真姫に似てスッキリ整った目鼻立ちだが、ツインテールの髪型と、黒の襟付きのドレスっぽいトップス、同じく黒の膝丈の短いミニスカートという服装は、アニメや漫画のヒロインのようだ。

美しいというよりも可愛い。未熟な少女の初々しさ、独特の愛くるしさに満ち満ちていた。

「結」

「なぁに?」

「元気そうだな」

「うん! いつも元気だけど、巧兄たくにぃにあったらすっごく元気が出たの!」

「ありがとう。俺も元気な結に会えて嬉しいよ」

巧兄たくにぃも? 喜んでくれてるの?」

「当たり前じゃないか。再会が急すぎてびっくりしたけどな」

「あはは、そうだよね。いきなりごめんね」

「謝ることなんかない。言っただろ? 結に会えて嬉しいって」

「やだぁ……巧兄たくにぃったらぁ」

俺が胸元に顔をうずめる結の頬を手で包むと、結はふにゃっと表情を緩めた。昔から結は俺に抱き着くと、撫でられたりムニムニとしてもらいたがる子だった。


「それにしても成長した。前よりも大人っぽくなった」

「ホント?」

「本当だよ。嘘つくわけがないだろ?」

「わあぁ、嬉しい」

ぱぁ、と表情を輝かせ、俺のことを間近から見上げる結は、純粋そうな笑顔をきらめかせている。

が、身をよじるようにして体を密着させてくる結の体の感触は、明らかに昔とは違う。骨っぽい硬さよりふんわりとした柔らかさの方が顕著になった。

俺の胸元の下、鳩尾あたりに伝わってくる2つのたわわな膨らみは、昔と違って無視出来ないほどにボリュームアップしていた。ぽよんぽよんとたわみ、俺の腹部に、喜んでいいものか悩ましくなるようなしっかりとした弾力を伝えてくる。

真姫もそうだが、時間が経ったらどうなるかということを否応なしに実感する。

「巧兄もかっこよくなったよ。大人っぽい感じ、ステキ」

瞳にはやや涙が浮かんでいたが、弾けるような笑顔は濁りなく輝いていた。俺を見上げる目は、見とれるように大きく見開かれている。

俺は、喜びと照れの入り混じった感情が胸の奥からこみあげるのを実感していた。

まだまだ甘えたい年頃とは言え、これだけの美少女が、こんなにも懐いてくれている。兄貴冥利に尽きるというものではあるが、身に余る光栄というべきか。

実妹でなければ勘違いしてしまいそうな喜びように、俺の胸に温かい感情がなだれ込んでくる。胸に顔を埋める結の頭を撫でながら、俺は言い知れぬ感動を覚えていた。

巧兄たくにぃ、これからはいつでも会えるね」

「ん? いつでも?」

「そッ!」

自信ありげに結はうなずく。おかしい。そんなはずはない。俺たち家族は、俺の行動のせいで散り散りになったのだけれども……

「こっちに引っ越でもしてきたのか?」

「うん!」

「いきなりじゃないか?」

俺がそう尋ねた時。

「そろそろ離れなさい」

「そろそろ離れましょ、結ちゃん」

ほぼ同時に2つの声が重なった。

背後から聞こえてきたのは真姫の声だ。ややむすっとした声だったが、何か気に障ったのだろうか。

そして、部屋の奥から聞こえてきたのは……?

「感動の再会のところに悪いけど」

聞き覚えのある声だ。少しだけふくれたような、それでいてしっとりとした、大人のお姉さんの声……これは、まさか。

「私も巧くんと会うのは久しぶりなのよね」

「あ……」

長髪をかきあげながら俺を流し目で見つめる女性が、こちらへと近づいてくる。

その美貌、忘れるはずもない。

俺は、意識が白濁していくような困惑に染め上げられていくのを感じていた。まさか、紡姉さんと、また会うことができるだなんて。

「姉さん……つむぎ姉さん」

「1年ぶり?」

「そう、だね。それくらい会ってなかった」

「背、伸びたのね。体つきもがっしりした気がする」

「そうかな」

紡姉さんはウェーブのかかった髪を指に絡めつつ、小さくうなずく。

俺の身体にしがみついていた結に、前かがみの格好で

「今度は私の番」

と、小さく耳打ちする。

「むぅ」

少しだけむくれたが、結は素直に俺の身体から離れた。ちょっとだけ身軽になる。

「やっぱり男の子ね。少し見ないうちにすぐに大きくなる」

おっとりとした声が、顎のあたりから聞こえる。

前かがみの状態から俺の顔の高さへと顔を持ち上げた姉の整った顔が、真正面に広がった。

美しい、などというありふれた言葉では表しきれないほどの美貌だ。

「紡姉さんも、大人っぽくなった」

「そう? ありがと」

口元に指をあてがい、桃色の唇に笑みを浮かべる。

伊藤紡は俺の姉であり、伊藤家の長女だ。優しく物静かではあるが、凛とした性格をしている。

何事もテキパキと行えるため常に余裕を持った立ち振る舞いだが、見えない部分で誰よりも努力している事を、俺は知っていた。

そのうえ地頭がよく、物事の選択を常に冷静沈着に行える女性でもあった。

紡姉さんは、おっとりした口調で俺に語りかける。昔と変わらない。常に華麗、流麗なる美貌だった。

その双眸はやや糸目がちで、アイラインは主張しすぎない程度にひいてあり、薄く開いた瞳は限りなく透き通っている。背中まで伸びた栗毛の長髪はウェーブがかかっていて、大人の色気を感じる。

ピンクの形良い唇が目立つ顔立ちは奇跡のようなバランスで、まるでなにかの芸術作品であるかのようだ。そもそもの体型が、モデルのように完璧である。

女性にしては背が高めで、俺より気持ち低身長なほどだ。小さい顔、しなやかなボディラインの外郭は計算され尽くしたような理想系である。

頭身が高くアンバランスな感じは全くないのは、足がかなり長いからだ。そうした流線形の体躯が描き出す、女らしくくびれた腰周りのラインがいやでも目を引く。

それらを最大限に引き出すファッションセンスもまた抜群だった。白のノースリーブのトップス、紺色のデニムパンツは、紡姉さんのイメージにはぴたりとハマる。

レース生地の布に覆われたひときわ大きいバストが、少し動くたびにゆさゆさ揺れて、目のやり場に困るほどだ。

姉の流線形の肢体に一切の油断がないのは衣服ごしにも分かる。出るべき箇所は十二分に出ていて、締めるべき部分は見事に引き締まっている。

女らしく張り詰めた臀部と、すらっとした細長い足、足先を飾る靴までが一筋に流れるようなデザインだった。

奇跡のような美しさ。

そこまでの表現をしても足りないほどの姉である。

俺が、過ちを犯してしまうほどの……

「紡姉さんまで、こんな遠いところに来たのか?」

「そうよ」

「……よかったのか?」

紡姉さんは無言のまま、顔にかかる前髪をかき上げつつ靴音を立てて俺の背後へ回り込む。

そして俺の首に両手を巻き付けた。

思わず声が出そうになった。

「巧くんとこうして会うのに、理由なんかいらないわ」

紡姉さんは頬と頬がくっつきそうなほどの距離まで顔を近づけ、俺の目を覗き込む。

近い。近すぎる。

実の姉とは思えないほどの女のフェロモンが、俺の鼻腔に流れ込んでい来る。

頭がくらくらしそうなほどの色気だ。

「紡姉さんは東京で働いてるんじゃ」

「ええ」

「遠かったんじゃないか?」

「そうね。だけど」

と、口元に含むように囁く姉は、俺の肩に手を置く。端正な顔が俺の顔のすぐそばに近づき、そして。

「ようやく好きな時に巧くんと会えるようになるんだもの」

ふわりと漂う、ひときわ甘い香りが、俺の鼻腔をくすぐる。何かの香水だろうか? 姉さんの美貌が、目の前でゆらいで、女神めいた輝きを放っているような気がした。

「どんなに引き離されても関係ないわ」

「……」

「ふふッ」

色っぽい吐息とともに微笑む声が、しっとりと響く。

「愛する弟が、どれほどカッコいい男に成長しているのか、期待してた」

「……」

期待外れではなかっただろうか。俺はどこにでもいるような平凡なヤツだ。姉は常人離れした美人である。姉のような美貌の人にとって、俺のような凡人は、道端に生える雑草のようなものでしかないのではないか。

俺は姉から目をそらす。

姉は、俺の肩に細い顎を乗せた。不意の行動に、心臓が一度、大きくはねる。

「期待以上だった」

「!」

「想像していたよりもずっと男らしくなったわ。入ってきた巧くんを見て、うっとりしちゃった」

「そんな大げさな」

「うぅん。大げさじゃない。素直な感想よ」

不意に、頬に暖かい感触が広がる。紡姉さんが、自らの頬を俺の頬へとくっつけてきたのだ。

かすかにひんやりした肌が擦れあい、さらりとした感触が走る。

もっちりとした肌が俺の顔に吸い付いてくる。

「思ったとおり」

「……?」

「巧くんの身体、去年より逞しくなった。ステキ」

紡姉さんは俺の胸板へと腕を伸ばし、手のひらでまさぐるように撫でる。

姉の手は柔らかく、滑らせるような触りかたなのでくすぐったい。

「そうかな」

「ええ。男らしいわ」

吐息のような声を漏らしつつ、紡姉さんは一度、俺の身体から顔を離す。名残惜しさは一瞬だ。

俺の真正面に移動した姉は、少しだけ顎をあげて俺を見つめてくる。

「巧くん」

潤んだ瞳がまっすぐ俺の目をのぞき込み、何事かを訴えかけようとしている。

ゆるく開いたピンクの唇は潤いを増して、俺の視線をひきつける。

「姉さん……?」

姉は緩やかな笑みを口元に湛え、俺の目を見つめ続ける。姉の瞳は、吸い込まれそうになるほど澄んでいる。こんな目で見つめられたら、目が離せなくなってしまう。

思わず見とれていると、紡姉さんがいきなり俺に体重を預けてきた。

「う」

慌てて抱きとめると、胸元の姉がつま先立ちのような形で顔を上向きに近づけてきた。

姉は、小首を傾げるようにしつつ、俺の顔へ自らの顔を徐々に近づける。

その瞳は涙がこぼれそうなほどに潤んでいた。

桃色の唇が、お互いの吐息が絡み合うほどまでに接近する。

姉は近寄る速度を落とさぬまま、ゆっくりと目を閉じた。
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