IT学園○学部

阿井上男

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第一話

私立IT学園・説明会2

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校門をくぐり、通路を経た先には校舎の入口があった。

暗くてよく見えないが、ガラス張りの向こうには下駄箱が見える。

ありふれた風景も周りが暗いと無気味だ。

「こんな時間に空いてるのか?」

「時間の指定をしたのはあっちなんだし、空けてあるハズだよ」

建物の周辺の照明はところどころついている。

時間的に部活の生徒が帰る時間帯なのかもしれないが、声も物音もしない。

「うーん」

ここに至るまでの経緯を考慮すれば、なにがあっても可笑しくはない。

俺はいったん妹の手を離し、入口の横開きのドアに手を掛けた。

ぐ、ぐッと力を思い切り込めるが、びくともしない。

「鍵がかかってる。開かない」

真姫も俺にならってドアを開けようとする。当然だが開かない。

「兄さんは別に入口があるって聞いた覚えある?」

「いや。この校舎に来るようにしか聞いてない」

渡された紙を取り出して見てみる。やはりこの校舎の中の一室に来るように書いてあるだけだ。

「困ったな」

顔を見合わせるものの答えなどわかるはずもない。

どうしようかと困っていると、真姫のスマホから軽快な電子音が流れた。

「あ、加奈ちゃん」

「ん? 友達か?」

「うん。出てもいい?」

「もちろん」

真姫は軽く微笑み、通話ボタンを押して電話に出る。

そして俺に半身を見せるような形に体勢を変えてから電話をはじめた。

「もしもし。うん、私。うん、そうなの」

「……」

「もう着いてるんだけど、入口がわからなくて。加奈ちゃんはもう中に入ってるの?」

どうやらその子もこの学校に来てるらしい。

「え、そんなの貰った覚えはないけど……あ、待って」

何かを思い出したように、真姫はごそごそとポーチの中身を探り始める。なかなか目的のものは見つからないようだ。

改めて電話に口を寄せた真姫は、きゅっと引き締まった形のいい唇を困惑げにゆがませる。

「書類と一緒に渡されたの? あ、じゃあ持ってきてるハズ」

真姫が電話の向こうの友達と会話する間、何もすることがない俺は、その様子を眺めていた。

改めてこうして見てみると、実感する。

真姫は成長した。

当たり前だが、前に会った時より背が伸びた。数年前は、話をする際に屈まないと視線の高さが合わなかった。今では俺の肩ら辺の高さから軽く見上げられる程度である。

「うーん、おいてきたのかな」

妹のひとりごちる口調も、昔のような舌っ足らずさはなく、流暢だ。

それらの要因のためか、ぱっと見の感想も違ってくる。

「ねぇ、兄さん」

そんなふうに考えていたら真姫が俺とほぼ真正面に向き合うような形に体をひねった。心臓が軽く跳ねてしまう。

真姫が電話の通話口を手で押さえ、小声で俺に話しかけてきた。

「兄さんはカード持ってきた?」

「カード?」

「定期券くらいのサイズのカード。渡されてるはずなんだけど」

「もらったかな……」

努めて平静を装いつつ、カバンの中に入れてきた書類の中を探る。書類は契約関係のものが多く、項目が多すぎてしっかり読んでいない。

中にはまだ開けていない封筒もあったから、その中に入っているのかもしれない。

「もしもし、まだ見つからないの」

真姫は再び俺と斜めになるような形で通話に戻った。

さっき、考え事をしている最中に急にこちらを振り向かれて、胸の奥が跳ね上がるように感じたのは、こんな何気ない仕草の中に隠された真姫への感情が鋭く揺らいだからだ。

改めて近くで見て再認する。真姫は美少女だ。それもとびきりレベルが高い。これほどの美少女はそうそう居ない。

最後に真姫とあったのはだいぶ前だったから、印象が変わるのは当然ではある。

小さくてひ弱、か細い見た目に、素直だがやや強気な性格というのが真姫の幼少期の印象だった。

それから数年たち、面影が残っているものの、今の真姫は子供のころとは別人のようだ。

俺と久しぶりに再会して話すようになってから思ったのは、落ち着いた態度、表情が増えたことだった。

子供の頃の真姫は、今よりもっと朗らかで素直に感情表現をする子だった。

今ではあまり満面の笑みというのは見られない。顔立ちが変わったからそう感じるのかもしれない。

はっきりした目鼻立ちに薄めで主張し過ぎない程度の化粧がマッチしていて、女らしい艶をほんのりと漂わせている。

やや釣り目勝ちながら大きい目を、長めのまつげが鮮やかに縁どっていて、誰が見ても第一印象は良好だろう。

形の良い唇に薄い桃色のルージュがぬられていて、照明の照り返しのせいもありやたらと艶めいている。

電話しているときの仕草も、なんというか一つ一つが女っぽい

頬にかかる髪の毛を指で払い除けたり、色づいた唇に憂いを含ませたように歪めながら困り声を漏らすときなど、ドキッとさせられてしまう。

ファッションセンスもいい。

ボーダーのシャツにニット、水色のスカートはスレンダーな妹にはよく似あってる。

スカートはひざ下が見えるほどの短すぎない程度の丈で、タイツで足を覆っていた。

なかなかのセンスだと思う。個人的には、どストライクな外見だ。兄の欲目もあるだろうが、文句なしに超美少女な妹だ。

「入口みたいな扉とかが見当たらないの。うん、下駄箱が見えるんだけど、ここでいいの?」

話に熱が入ったのか、真姫が困ったように身をよじる。

スカートの裾がふわりと広がり、すらりとした太ももが覗く。まばゆいくらいの白い肌が覗く。しなやかな足は、さすが水泳部員だ。動物めいた美脚である。

そして、無視しきれないほどに膨らんでいる二つの丘が、ふよん、と胸元で揺れた。

思わず目をそらす。

いくら相手が妹でも、無造作に見ていいものではないだろう。

妹は理想的で健康的な体躯に成長していた。

上半身と下半身のバランスが絶妙によく、一流の芸術家でも描き出すのが難しそうな流線型の縁どりをした体型である。

肩幅、腰は驚く程細いのに貧相さを感じさせないのは、ボリュームがあって欲しい場所には十二分に備わっているから、だと思う。

そのフォルムにあつらえられたような細い手、すらりとした指、長くしなやかな足。

そして何より、必要十分なくらいに膨らみ揺れる胸元……形が整い、多少揺れた程度では整った形を崩さない胸が、美しさを際立たせていた。

おおよその女性にとって理想的な姿だろう。男性にとっては、何をかいわんやである。

妹は兄の俺が知らぬ間に、全てにおいて年相応の大人っぽさを感じさせる美少女になっていた。

嬉しくもあり、困惑もある。ただひとつ言えるのは、そんな彼女が俺にとって何よりの自慢だということだ。

「あぁ、そうだったんだ」

真姫が一オクターブ高い声を上げ、俺ははっと我に返る。まずい、さっきから真姫のことばかり考えている。

「あったよ」

妹はスマホから耳を離し、俺にポーチから取り出したものを見せる。茶色のレザーケースに入った薄い金属製のカードだ。

「なんだそれ」

「認証キーカードだって」

「認証?」

「このカードがアクセスキーになってて」

と指をさす。指さした先の壁には何も無いように見える。

が、よく見れば正方形の金属製のプレートのようなものが縦に連なって2枚、壁に埋め込まれているのがわかった。

「あのカードリーダーにかざすんだって」

「あれってカードリーダーになってるのか」

「機密保持のために分からなくしてるみたい」

機密? と訝しむ俺をよそに、妹は通話を再開する。

「うん、わかった。もう少しで着くと思うよ」

そろそろ通話も終わるようだ。

「私のことは心配しないで。兄さんが一緒だから安心。加奈ちゃんもそうでしょ?」

その子も兄妹で来てるらしい。

「うん。うん、じゃあ、またね」

ぴ、と電子音が響き、通話が完了したのがわかった。

「仲が良さそうだな」

「うちの水泳部って人数が少なかったから、みんな仲良しなの」

「男女併せても少ないのか?」

「うん。私の学校の水泳部は男女両方、5人くらい。完全に別れて活動してたから、男子は男子、女子は女子で友達になってたの」

「そうなのか」

少し安心した。兄バカといわれるかもしれないが、かわいい妹の素肌をやたらと男の目に晒したくない。

「いい子なんだけどね。少し変わってる子なの」

「今日はその子も来てるのか?」

「そうみたい。一日何組かずつ説明するみたいなの」

「説明、ね」

しっかり者の妹と、とある筋からの説得があるから信頼はしている。とはいえ、万一のことも考えられる。

警戒するに越したことはない。

「常識はずれのことに何度も巻き込まれるのはごめんだな」

「同感」

肩をすくめる真姫は、それでも表情だけはやや明るくなった気がする。友達と会話して緊張感がほぐれたようだ。

俺は改めてカバンを探ってみた。カードはすぐに見つかった。

「で、どうすれば入れるんだ?」

「あ、そうだったよね。こっち」

真姫がカードリーダーまで歩いていく。

カードリーダーは上下に二つの長方形の金属板が配置されている単純な見た目だった。ぱっと見、それとは分からない。

「下の方がセンサーで、この上にカードをかざすんだって」

「なるほど」

俺は自分のカードをかざす。無反応だったカードリーダーが発光し、縦に走る一条の光がカードをスキャンする。直後、スキャン完了したような電子音が響いた。

すると、上部の長方形が発光し、メッセージが表示される。

『顔認証を行います。しばらくそのままでお待ちください』

「顔認証?」

「カメラになってるの」

「そうなのか」

俺は上部のプレートを覗き込む。すると、またもやピピっという音が流れ、そして画面が暗転した。

そして、何が起こるのか待つ間もなく、『了承しました』とのメッセージが。

直後、電車のドアが開閉するときのような空気が吹き出る音が響く。

「!?」

プレートの隣の空間に自動ドアほどの大きさの四角い光の枠が浮かび上がった。そしてその枠の部分が前方にせり出し、横滑りするように移動する。
開いたその部分の先には照明の点いた通路が続いていた。奥までは見えない。

「さ、いきましょ」

真姫がいつのまにか俺の隣に立っていて、肩ごしにこちらを見上げてくる。

「驚かされることが多い学園だ」

「同感。私もそうだったよ」

「過去形なんだな」

「まあね」

「こういうのが日常茶飯事なのか?」

「機密を守るためだから、まぁ色々ね」

真姫は俺よりも先に様々な事情を聞かされたといっていた。果たしてどんな内容なんだろうな。

「早く行きましょ。待たせちゃいけないものね」

「あ、ああ」

真姫が俺の腕を取る。

ここまで来たらもう引き返せない。俺は真姫の手を取り、通路の奥へと歩き始めた。
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