元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん

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2巻

2-3

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『パパだ! ねえ見てママ! 治療院の傍にパパもいるよ!』
『あら、本当ね!』

 白鷲竜しらわしりゅうのピピュオの目は、人間なんかより遥かに遠くの物がしっかりと見える。
 私にはまだほんの小さくしか見えないアレクの姿も、はっきりと見えているのだろう。
 嬉しそうに大きく翼を羽ばたかせる。

『ピピュオったら、本当にパパのことが好きなのね』
『うん! 大好き!』

 森の中にある開けた場所に作られた治療院、そのすぐ傍にピピュオは見事に舞い降りる。
 そして、私たちを乗せたままアレクのもとに駆け寄った。

『パパ!』
「ピピュオ、ルナと一緒だったのだな」
『うん! お姉ちゃんたちと一緒に薬草を取ってきたんだ』

 白鷲竜しらわしりゅうのピピュオは賢くて、もう人が話す言葉を覚えてしまった。
 だからアレクの言っていることもしっかりと伝わっている。
 体は大きいけれど、アレクと私にとっては大事な息子だ。
 ルークさんを連れてここにやってきたアレクに、私は尋ねる。

「早かったのね、アレク。もうお仕事は終わったの?」
「ああ、明日は俺たちの婚姻の儀がある。婚姻を結べば、しばらくはお前もここには顔を出せなくなる。その前に、仕事の引継ぎをしなくてはならないとは思ったが、皆すっかり準備はできている様子だった」

 ルークさんの傍にいる動物の治療師たちのおさが口を開いた。

「聖女様が妃殿下になられましたら、今までのように足しげくここに通っていただくこともできなくなるでしょうから、人員の増強など私たちも前から準備をしていたのです」

 アレクと治療師長の言葉に私は口をとがらせる。

「別にいいじゃない。王太子妃になったからって、王宮の中に閉じこもっているなんて退屈だわ」
「駄目だ。まったく、どこの世界にドラゴンの背中に乗って大空を駆け回る王太子妃がいる?」
「何よ、そんな私がよくて結婚するんでしょ?」

 私たちのやり取りを見て、ルークさんがこらえ切れない様子で笑った。

「ご安心を、ルナさん。なるべくここにも来られるようにいたします。ただ妃殿下としての公務もございますから、少しだけお控えいただければ」
「そう、ルークさんが言うなら」

 青い髪の穏やかな貴公子、ルークさんに言われるとつい納得してしまう。
 確かに正式に王太子妃になれば、色々仕事も増えるだろう。
 でも、獣医は私の天職だから、やっぱりここには足を向けたい。
 ピピュオがそんな私の耳元でささやく。

『大丈夫だよ、ママがここに来たくなったら僕が内緒で連れてきてあげる。パパだってお空まではついてこれないでしょ?』
『そうね! ピピュオ、うるさいパパは置いていきましょう』

 顔を見合わせて笑う私とピピュオの姿を見て、いぶかしげな顔をするアレク。

「何か企んでいる顔だな、ルナ。今のうちに正直に話しておけ」
「さあ? なんのことだか」

 私とピピュオはソッポを向いて誤魔化した。
 ドラゴンに乗って世界を駆け巡る王太子妃が一人ぐらいいたって、別にいいじゃない。
 そんなことを考えていると、治療院の中から侍女のミーナが姿を現す。
 手には大きな蒸し器を持っていて、その中からとてもいい香りがここまで漂ってきた。

「ルナ様、お帰りになってたんですね。お言いつけ通り、準備して待っていたんですよ」
「ありがとう、ミーナ! 助かるわ」

 そう言って、治療院の前に置かれた大きな机の上にその蒸し器を置いて、ふたを開けるミーナ。
 そこにはサツマイモに似た美味しそうな芋が、しっかりとかされて並んでいる。
 私の胸元のバッグから顔を出して鼻をひくひくさせて、スーとルーは言った。

『美味しそうな匂い!』
『ほんとだね、ルー』

 私はそんな羊うさぎたちの頭を撫でた後、バッグから出すと腕まくりをする。

「さあ、ミーナ始めましょう! すぐに匂いにつられてあの子たちがやってくると思うから」
「ええ、ルナ様!」

 私とミーナは手分けして、よく蒸された芋をしっかりとすりつぶして裏ごしする。
 そして、仲間たちと一緒に取ってきた薬草をすりばちですった後に、よく芋と混ぜ合わせていった。
 そんな作業をしていると、近くで遊んでいた小さないのししの子供たちがこちらにやってくる。
 あっという間に私の足元に集まってきた可愛いうり坊たちは、こちらをつぶらな瞳で見上げるとおねだりする。

『ルナのお団子の時間だ!』
『うわぁ! 早く食べたいよ』

 私はそんな子供たちに、まるで幼稚園の先生にでもなったかのように言った。

『はい、みんな並んで!』

 私がそう言うと、目の前にうり坊たちが並んでいく。
 先頭に立って私を見上げているのは、一番小さな女の子のうり坊で名前はモモ。

『ルナぁ、モモちゃんと並んだよ。だから、いつものお団子頂戴!』

 うり坊って言っても、普通のいのししの子供ではない。大人になれば、とっても大きくなるいのしし型の魔獣ジャイアントボアの子供たちだ。
 だけどまだ子犬ほどの大きさで、すごく可愛い。

『偉いわね、モモ。はい、じゃあこれ今日のお薬』

 私はそう言って、右手に載せた黄色いお団子をモモに差し出す。
 ジャイアントボアの大好物のココル芋をしっかりと蒸して裏ごしした後、いくつかの薬草を混ぜて作った特製のお団子だ。
 私は今、とある治療を行っている。
 このお団子はモモたちにとって美味しいご馳走でもあるし、薬でもあるのだ。

『うわぁあい! ルナ、ありがとう』

 モモはそう言って、私の手の上のお団子を食べる。その鼻先が私の手のひらに当たってくすぐったい。
 お芋の団子をぺろりと平らげて、つぶらな瞳で私を見つめる。

『美味しいよルナ! ……でも、もうなくなっちゃった』

 そう言ってしょんぼりとするモモは、とっても可愛らしい。
 私はそんなモモの頭を撫でながら笑った。

『すっかり食欲も戻ったわね。これならもう大丈夫』
『えへへ、だってルナのお薬とっても美味しいんだもん!』

 私の足元に体をすり寄せて嬉しそうに笑うモモの姿は、周囲を和ませてくれる。
 私はその場にしゃがむと、モモを抱き上げて他の子供たちにもお団子を配った。
 皆夢中になって食べている。
 青斑熱せいはんねつという流行はやり病にかかっていたジャイアントボアの子供たち。
 この病の特徴は、肌にできる青い斑点はんてんと微熱、そして食欲不振だ。
 免疫力の弱い子供たちの間で感染して広がっていく、この世界のいのしし系の動物に多く見られる病だ。
 放っておくと、重症化して高熱を出して苦しむこともある。モモのような小さな子供の場合には、命に関わることもあるのだ。
 なんとか薬草を食べさせようとしたのだが、それだけだと苦くて吐いてしまう。
 そこで考えたのがこのお団子作戦だ。

『ルナ、ありがとう!』
『とっても美味しいよ!』

 可愛いうり坊たちに囲まれていると、ふと前世のことを思い出す。
 茜の家の牧場でも、こんな風に羊たちに囲まれていたっけ。
 そんなことを考えていると、さっき崖のところで別れたシルヴァンがジンと一緒に戻ってきた。

『まったく、こいつらすっかり元気になってさ。目を離すとウロチョロと動き回るから、時々誰かがいなくなったりして探すのが大変なんだからな』
『ありがとう、シルヴァン! いつもご苦労様』

 リンが元気よく地面に飛び降りると、モモの頭の上に駆け上がる。

『ルナ、この間リンが集めたクコルの実も役に立った?』
『ええ、リン。お団子の中にしっかり入ってるわよ。みんな、リンにもお礼を言ってね』

 モモたちは、短い尻尾を揺らしながら、リンにお礼を言った。

『ありがとう! リンお姉ちゃん』
『えへへ、みんな元気になってよかったね』

 木の実を集めるのが得意なリン。そんな彼女が探してくれた木の実も、砕いて、中身を芋と蒸して練り込んである。
 そんな話をしていると、森の奥から大きないのししが姿を現した。
 この森の主であるジャイアントボアのバルロンだ。
 モモはその姿を見て、嬉しそうに駆け寄っていく。

『じいじ! モモ、ルナにお団子貰ってたんだよ』
『おうおう、そうかモモ。すっかり元気になって、じいじも嬉しいぞ』

 いつもは威厳たっぷりの森の主も、孫娘の前ではすっかり気のいいおじいさんだ。
 バルロンは私に頭を下げる。

『ルナ、すまんのう。モモたちの治療をしてくれて感謝するぞ』
『いいのよバルロン。安心して、もうみんなすっかりよくなったわ』

 私はモモたちを眺めながら続けた。

『この子たちの免疫力を高めるには、クコルの実とマルーラ草の葉が一番。モモたちが大好きなココル芋をかして、一緒にお団子にすれば、薬剤の苦みも消えるしみんなも食べてくれるんじゃないかって』

 それを聞いてバルロンは顔をしかめる。

『なんじゃ。わしの治療の時はえらく苦い丸薬をこしらえたくせに。そんなことができるのなら、わしの時にもしてくれればよかったではないか』
贅沢ぜいたく言わないで。あの時は貴方を狙う密猟者たちが、すぐ傍に迫ってたでしょう? そんな大きな体をしてだらしないんだから』

 私はぺちんとバルロンの大きな鼻を叩く。
 それを見て、モモが楽しそうに笑った。

『じいじ、ルナに怒られた!』
『がはは! まったく、ルナにはかなわんのう』

 そう、バルロンとは密猟者たちと初めて対決した時に出会った。
 私が今いる獣人の王国エディファンでは、魔獣たちは保護されているのだけれど、その貴重な角や牙などを求めて密猟者が後を絶たない。
 そんな密猟者に傷を負わされたバルロンの治療をし、一緒に戦ったのが、彼との初めての出会い。
 私はバルロンに笑みを向ける。

『バルロン、ありがとう! この森を、傷つけられた動物たちの保護に使わせてくれて』
『わしは人間は嫌いだが、ルナよ、お主は違うからな。遠慮はいらん、存分に使ってくれ』

 この森はエディファンの都エディファルリアからも近く、保護区として使うにはとても便利だ。
 バルロンが私たちを仲間だと認めてくれたおかげで、今、ここには沢山の動物たちが保護されている。

『そういえば明日だな、あの男との婚儀は。まさかあの時は、お前とあの男が結婚するなどとは考えもしなかったわい!』

 そう言って豪快に笑うバルロン。
 私も思わずつられて笑う。

『私も。覚えてるでしょ? あの時、彼ったら私のことを密猟者だって勘違いして捕まえようとしたのよ』
『がはは! そうじゃったそうじゃった。それでリンたちも憤慨して、都について行くと言い始めたんじゃったな』

 その言葉に、私はふと昔のことを思い出した。そう、彼と出会ったのもこの森だった。
 リンも、その時のことを思い出したように頷いた。

『だって、ルナを連れて行こうとしたんだもん! 初めはリン、アレクのこと大っ嫌いだったんだから』
『リンったら』
『えへへ、でも今は大好きだよ。ルナのこと守ってくれたし、ルナが大好きな人だもんね!』

 リンの言葉に私は、頬に熱が集まるのを感じた。
 ルークさんが申し訳なさそうに私に言う。

「ルナさん、彼らとお話しのところ申し訳ありませんが、そろそろ王宮に戻らなくては」
「あら、もうそんな時間?」

 ルークさんが私に頷く。

「ええ、少し余裕を持って戻った方がいいでしょう。夕方からは、明日の式典の前夜祭も始まりますから」
「ああ、衣装合わせもあるだろうからな」

 アレクの言葉にミーナが大きく頷いた。

「ええ、そうです! まったく、ルナ様ときたらいつまでも旅姿を好まれて。今日こそビシッとドレスを合わせていただきますよ。妃殿下となられる方の衣装ですから、私の侍女としての沽券こけんにも関わります!」

 半分冗談めかしながら、腰に手を当てて私を見るミーナ。
 前世が前世だけに、ドレス姿は苦手なのよね。ジャージとは言わないけど、ラフな格好が性に合っている。
 だけど、ミーナの様子を見るに、衣装合わせは逃れられそうもない。

「ふぅ、そうね。分かったわ」

 観念した私はバルロンやモモたちに別れを告げる。

『それじゃあ、バルロン、モモ。それにみんな、またね!』
『うん! ルナ、ありがとう』
『またいつでも来い。今度は獣人の国の王太子妃としてな』
『ええ、バルロン』

 私たちはバルロンたちに手を振って、森の治療院を後にする。
 少し開けた場所に出ると、そこには沢山の動物たちの姿が見えた。
 この保護区で暮らす動物たちだ。私は馬車が停めてあるはずの森の外れの街道に向かいながら、アレクに尋ねる。

「やっぱりまだ密猟者たちはいるのね」

 以前より密猟者に傷つけられた動物たちの数は減ったものの、やはりまだここに運ばれてくる。

「ああ、バロフェルドの死で連中の動きも収まってきたと思ったのだがな」
「確かに妙な話です。バロフェルドが死んだことで、完全に後ろ盾を失い、すべてを素直に吐くと思ったのですが……奴が捕らえられてかなり経つというのに、多くの者は何かを恐れるように口をつぐんでいる」

 私は首を傾げながら尋ねた。

「ルークさん。恐れるって何を?」
「それは分かりません。私の考えすぎかもしれませんが……」

 変な話ね。この国で暗躍する密猟者を陰で操っていたのは、バロフェルドのはずだ。
 仲間やアレクたちと一緒にあの男を捕えた今、他に密猟者たちの口をつぐませるような人物はいないと思うけど……
 私が眉をひそめていると、シルヴァンの背中に乗っているジンが、胸をドンと叩いた。

『なぁにへっちゃらさ! どんな悪党が出てきたって、このジン様がバロフェルドの時みたいに退治してやるぜ』

 それを聞いて、スーとルーが呆れ顔になる。

『ジンはあいつに捕まってたでしょ?』
『そうだよ。ルナに助けてもらってたもん』
『ちぇ! そう言うなって、俺だってあいつの顔をひっかいてやったんだからさ』

 私はクスクスと笑いながらジンの頭を撫でた。

『そうね! あの時のジンは勇ましかったわ』
『へへ、だろ?』

 そう言って胸を張るジンを見て、私たちは顔を見合わせながら笑った。頼もしい私の仲間たちに、自然と心も軽くなる。
 私はアレクに提案する。

「ねえ、アレク。私にできることがあったらいつでも言ってね?」

 ぐっと拳を固めて詰め寄る私を見て、アレクはため息を吐いた。

「まったく、相変わらずだな。明日にはこの国の王太子妃になるというのに、お前にそんな危険なことをさせられるわけないだろう?」
「何よ、いいじゃない。あの時だって一緒にバロフェルドをやっつけたんだから」
「駄目だ。少しは王太子妃らしくなってくれ」

 アレクは額に手を当てて、首を横に振った。私がそんな彼に向かって小さく舌を出すと、ルークさんが大笑いする。

「殿下の負けですね。ルナさんのことですから、どうせじっとしてはおられないでしょう」
「仕方のない奴だ。保護区の動物たちの治療ぐらいであれば、いつでも自由にできるように手配しよう」
「ほんとに?」

 王太子妃になったからって、王宮の中にずっといるのは私の性分に合わない。
 そんなの退屈だし、これは私の大切な仕事だ。
 傷ついている動物がいるのなら、いやしてあげたい。
 私たちは森を出て、近くの街道に停めてある馬車に乗り込んだ。
 そして、エディファンの都のエディファルリアへと向かう。
 体が大きくて馬車に乗れないピピュオは、私たちが乗った馬車に並走して駆けていく。
 そのまましばらく走ると、高い城壁に囲まれた都が近づいてくる。
 その城門の前に大勢の人だかりができていた。

「何かしら? ずいぶん人が集まっている様子だけど」

 私の問いにルークさんが答えてくれる。

「殿下とルナさんがお出かけになられたと知って、戻られるのを待っているのだと思います。前夜祭が行われる王宮の中には、民の多くは入れませんから、祝いの言葉を伝えたい者は多いでしょう」

 その言葉に私とアレクは顔を見合わせる。程なくして私たちの馬車が城門に着くと、多くの人々がそれを出迎えてくれた。

「アレクファート殿下! ルナ様、おめでとうございます」
「王太子妃となられる聖女ルナ様に栄光あれ!」

 もの凄い数の人だ。私とアレクの結婚を、こんなに心待ちにしてくれる人たちがいるなんて。
 なんだか胸が熱くなってくる。
 中には見知った顔もあった。城壁に私とアレク、そして一角獣たちとの友好を表す壁画を描いてくれた絵描きのアンナさん。
 それにそのご主人で、大工の棟梁とうりょうのダンさん。
 二人は大きな声でこちらに呼びかける。

「殿下! ルナ様! どうかお幸せに‼」
「二人でお出かけなんて相変わらず仲睦なかむつまじいことで。二人の子供が早く見たいね!」

 もう、アンナさんたら気が早い。
 馬車の中から手を振りながら、思わず私は顔を赤くする。
 城壁に描かれた絵は、今ではすっかり観光名所になっているようだ。観光客らしい人たちの姿も辺りに見える。
 そんな中、私の肩の上に小さな黄色いインコがとまった。
 額に特徴的な白い星がある、白星インコだ。

『あら? ピィヨじゃない。もしかして貴方もお祝いに来てくれたの?』
『へへ、俺だけじゃないぜ! あそこを見てみなよ』

 ピィヨとは、密猟者のアジトになっていた孤児院の子たちとの出会いの中で知り合った。
 ユウとミウという、幼い兄妹が大事にしているインコだ。
 ピィヨが翼で指さした方を見ると、そこにはユウとミウの姿があった。
 私は手を振りながらアレクに願い出る。

「ねえアレク! 少しだけ外に出ても構わない? 孤児院の子たちが来てくれてるの!」

 私の言葉に、アレクとルークさんは顔を見合わせると笑顔で頷いた。

「そうだな、せっかくの歓迎だ。ルーク、まだ少しぐらいはいいだろう?」
「ええ、殿下。きっと民も喜ぶことでしょう。護衛はお任せください」

 そう言って、ルークさんは先に馬車を降りると、城門に詰める衛兵たちに周囲の警備を命じる。
 そんな中、私とアレクは馬車を降りて皆に手を振った。

「祝福してくれてありがとう、みんな!」

 私の声に大歓声が沸き起こる。そしてルークさんの許しを得て、二人の幼い獣人の子供たちがこちらに駆けてくる。
 大きな耳を揺らして尻尾を左右に振っている姿が、とても可愛い。

「ルナお姉ちゃん!」
「ルナ姉ちゃん! おめでとう」

 ぎゅっと私に抱きつく二人。私は二人を抱きしめてお礼を言った。

「ありがとう、ユウ、ミウ。嬉しいわ!」

 ミウは少し恥ずかしそうに、手に持っていた物を私に差し出した。

「えへへ、お姉ちゃんにプレゼント持ってきたの」

 それは、白い花で作られたかんむりだった。
 きっとミウが一生懸命作ってくれたのだろう。
 まだ幼いミウにとっては、難しかったに違いない。
 でもとても丁寧に、心を込めて作ってくれたのが伝わってくる。
 ちょっと不安げに私を見つめるミウ。お兄ちゃんのユウが、妹をたしなめるように言った。

「ミウ、ルナ姉ちゃんは王太子様の奥さんになるんだぞ。もっともっとすっごく立派な髪飾りを贈ってもらえるんだ。ミウが作った花冠はなかんむりなんて着ける身分じゃなくなるんだ」
「でも……ミウ、お姉ちゃんに何かお祝いがしたかったの」

 ユウの言葉にミウはちょっと涙ぐむ。

「ミウ……」

 うつむくミウに私が言葉をかけようとした、その時――
 彼女の前に、アレクが膝をついて目線を合わせた。
 観衆は思わず一瞬静まり返った。当然だろう、一国の王太子が孤児たちの前に膝をつくなど、普通では考えられないことだから。
 アレクはミウの頬に触れて、その顔を見つめるとしっかりとした口調で言う。

「ミウといったな。このかんむりをもらえるか? ルナにとっては、何よりも嬉しい贈り物になるだろう」

 その言葉にミウの顔がぱぁっと明るくなる。

「うん! 王太子様!」

 嬉しそうにアレクに花冠はなかんむりを手渡すミウ。アレクはそれを大事そうに受け取ると、立ち上がってこちらに向き直り、私の頭の上にそれを飾った。
 優しい彼の瞳に、心がじんわりと温かくなっていく。口は悪いけれど、この人の本当の優しさを私はよく知っている。

「アレク」

 アレクはきっと誰よりも素晴らしい王になる。こうして身分にかかわらず、人に心を尽くすことができるのだから。
 この人の妻になろうって改めて強く思える。


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