元獣医の令嬢は婚約破棄されましたが、もふもふたちに大人気です!

園宮りおん

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101、空から来るもの

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「ルナ、俺を許してくれ。やはりお前を連れてはいけぬ」

 アレクはルナのブロンドをそっと撫でた。
 そして、もう一度強くルナを抱き締める。
 ルークは二人を見つめながら言った。

「ルナさんはきっと怒るでしょうね」

「ああ、怒るだろう。それでも俺はルナに生きていて欲しい」

「殿下……」

 そして、シルヴァンとエルトに声をかける。

「シルヴァン、エルト、ルナのことを頼む」

『アレク……お前』

「殿下!」

 一緒に戦いたいと口に出しかけるエルトの肩を、リカルドが掴んだ。

「お前は剣の腕は確かだがまだひよっこだ。戦場では足手まといになりかねん」

「どうして僕なんです? 僕はひよっこなんかじゃない! 隊長だって、僕の剣の腕は知っているはずじゃないか!」

 船の下には白い馬車が用意されている。
 周囲にいる衛兵隊はルークが手配した者達だ。
 ルナを守り彼らと一緒に行けと言うのだろう。
 エルトの言葉を聞いて、一番隊のメンバーたちは笑う。

「お前は死ぬには若すぎる、隊長はそう言ってるんだ」

「エルト、お前を信じてルナ様を託すとな」

「我らの女神を頼んだぞ、エルト」

 エルトはリカルドを見つめた。
 ずっと憧れてきた相手だ。
 強く何ものにも怯むことがない赤獅子騎士団の一番隊隊長。

「もう時間がない。行け、エルト」

 短いその言葉に込められた思いに、エルトは拳を握りしめると深々と頭を下げた。

「隊長、僕の命に代えてもルナ様をお守りします!」

 エルトはそう言うと、アレクやルークに一礼してルナを腕に抱きかかえる。
 そして、甲板を横切りシルヴァンと共に船を下りた。
 船の傍につけられた馬車にルナが乗せられると、ゆっくりと走り出す。
 町の方では、多くの人々が避難を始めているのが見える。
 アレクは腰から提げた剣を抜き放つ。
 そして、それを空に掲げると号令をかけた。

「全ての民が逃れるまで、一兵たりともロシェルリアの地を踏ませてはならぬ! すまぬが、お前たちの命を俺にくれ!!」

 圧倒的な戦力差に敗北すると分かっている戦い。
 それでもその先頭に立つ獣人の王子に兵士たちは皆、剣を抜き空に掲げた。

「こんな時に詫びなど水臭い」

「アレクファート殿下! 我らが命、殿下にお預け致します!!」

「美しきこのロシェルリアの為に!」

「愛する家族を守るために!!」

 アレクは彼らの声に頷くと、水平線を睨んで号令をかける。
 美しい真紅の髪が風に雄々しく靡いた。

「行くぞ!!」

「「「おおおおおお!!」」」

 アレクの号令に答える兵士たちの声とともに、ロシェルリアの船は港を次々に離れていく。
 エルトはルナが乗る馬車を守りながら、それを眺めていた。

「殿下、リカルド隊長……みんなどうかご無事で」

 ルナが乗る白い馬車を引いているのは一角獣たちだ。
 エルトが乗る白馬も。
 そして、聖獣であるオルゼルスはルナとアレクの頼みを受けて既に伝令を乗せエディファンの都に向かっているはずだ。

(だけど、援軍はとても間に合わない)

 仲間の無事を祈りながらも、絶望感を感じるエルト。
 それを振り払うかのように首を横に振る。

「今はそんなことを考えている時じゃない。ルナ様を一刻も早く安全な場所に……」

 馬車を護衛しながら、港の出口に向かうエルトたち一行。
 同行する衛兵の一人がその先にいる、女性の姿に気が付く。
 赤い髪を靡かせた美しい女性だ。

「エルザ様!」

「何故こんなところに?」

 衛兵たちは首を傾げる。
 衛兵隊長ブライアンが町の人々を避難させるとともに、そろそろ彼女を安全なところに誘導しているはずだ。
 それが何故、まだ危険な港にいるのか。
 エルトも馬を止める。

(どうしてエルザ様が? ルナ様を避難させることは、アレク殿下から聞いているはずだ。もしかして迎えにこられたのだろうか)

 エルトはエルザの方に駆け寄ると問いかける。

「エルザ様! どうしてここに?」

「エルト……」

「とにかく馬車に乗って下さい! ルナ様と一緒に僕がエディファルリアにお連れします」

 そう言って手を差し伸べるエルト。
 だが、エルザはその手を振り払う。

「駄目! 私はここに置いていって。それよりも早くここから逃げて! あの男が来るわ、感じるの!!」

 苦し気に右手で胸を押さえるとその場にひざまずくエルザ。
 エルトは驚いて大公令嬢の傍に膝を付く。

「エルザ様! どうしたんですか? あの男って一体!?」

「以前よりも遥かに強い力が私を……ああ、早くルナさんを安全な場所に!」

 エルトは見た。
 エルザの髪の先が黒く染まっていくのを。
 そして、その一房が小さな蛇の形に変わっていく。

「こ、これは!」

 エルトは思わず声を上げる。
 その蛇は、口を開くと笑みを浮かべた。

「ふふ、もう遅い。聖女は貰ったぞ!」

 エルトは立ち上がると腰から提げた剣を抜く。
 その時、馬車の傍でルナを守っているシルヴァンが大きく吠えるのをエルトは聞いた。
 エルトへ警鐘を鳴らすように空を見上げている。

『エルト! 気を付けろ、空から何かくるぞ!!』
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