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100、水平線の向こうに
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今、アレクの傍を離れたらきっともう二度と会えなくなる。
そんな気がして体が震えた。
(絶対に離れない! アレクの傍にいるわ)
アレクは私の肩をそっと抱き寄せた。
「馬鹿を言うな、生きて帰れる保証などない戦いだ。ルナ、お前を連れていくことなど出来ない」
「分かってるわ! だから……だから一緒に行きたいの」
私はアレクが腕に嵌めてくれた腕輪を左手で握りしめる。
そして、涙を拭くとアレクを真っすぐに見つめた。
「約束したじゃない! 聖王妃リディアがそうしたように、私はいつだってアレクの傍にいるって」
涙なんか流してはいられない。
アレクが心配するだけだもの。
ルークさんが私に言う。
「いけません、ルナさん! どうか、殿下の仰る通りになさってください」
「ごめんなさいルークさん、でも私はもう決めたの。止めても無駄よ」
私の固い決意を感じたのだろう。
ルークさんが思わずたじろぐ。
アレクは静かに私を見つめると言った。
「……分かった。一緒に来い、ルナ」
「殿下!」
驚いた顔をするルークさんにアレクは言った。
「ルーク、こいつは言い出したら聞かぬ。それはお前も良く知っているだろう?」
「ですが……」
「ここで言い争っている時間は無い。行くぞ!」
私はアレクの言葉に頷いた。
「ええ、アレク!」
私はリトたちにお礼を伝える。
『リト、みんな、ありがとう! でもここはもうすぐ戦場になるわ、巻き込まれないように逃げて。貴方たちの仲間たちにもそう伝えて頂戴!』
私の言葉に顔を見合わせるリトたち。
『せ、戦場って戦争が本当に始まるのかよ』
『やっぱり、カモメの長老が心配してた通りだ。行こうぜリト!』
リトは私をジッと見つめる。
『ルナ、お前はどうするんだよ?』
『私はここに残るわ。お別れね、リト』
私の言葉を聞いて大きく翼を広げるリト。
『ああ……俺さ、何だかあんたのことが気に入っちまったんだ。死ぬなよ、ルナ!』
『ええ、ありがとう』
力強く翼を羽ばたかせて空に舞い上がる海猫たち。
彼らを見送った後、私たちは急いで階下に降りると大公に事態を伝えた。
衝撃を受けた様子の大公とエルザさん。
「馬鹿な……ジェーレントの軍艦だと! そのような無法が」
「お父様!!」
アレクは大公に言う。
「叔父上、もう時間がありません」
「……分かった、アレクファート! ワシも供に行く、そしてロシェルリアの海軍の全権をお前に託そう。エルザ、お前はブライアンと共に衛兵隊を指揮して住民たちを避難させるのだ!」
「分かりました、お父様!!」
それからは、先程までの穏やかな朝が嘘のような喧騒。
町には警鐘が鳴らされ、人々にジェーレントの軍勢の来襲が知らされていく。
そんな混乱の中、私たちは港に向かった。
アレクたちと共に海軍の船に乗り込む。
これから戦争が始まるという緊張感。
覚悟はしたつもりだったけど、体がガクガクと震える。
戦争なんて、映画や物語の中だけの話だと思っていた。
ルークさんがそんな私に、温かい飲み物を渡してくれた。
「ルナさん、兵士でもない貴方が怯えるのは当たり前です。これを飲めば少し気分が落ち着くでしょう」
「ルークさん……ありがとう」
私はそれを飲んで長い息を吐く。
少しでも自分を落ち着かせようと試みながら。
その時──
私たちが乗る白いロシェルリアの旗艦のマストの上で、水平線を監視していた兵士が叫んだ。
「殿下! ジェーレントの軍勢が見えました……くそっ! 凄い数だ!!」
その声に船上に緊張感が走る。
「アレク!」
私はアレクの傍に立って彼の横顔を見つめた。
彼はこちらを見て、そっと私の頬に手を当てる。
覚悟を決めたその眼差し。
「ルナ、許してくれ」
「アレク、どうして謝るの? 最後まで一緒だって、私が決めたのよ」
私は彼の言葉に首を横に振った。
アレクが謝る必要なんてない。
(あれ……どうしたのかしら)
目の前が霞んでいく。
こんな時にどうして?
しっかりしないと。
ルークさんが目を伏せると私に言った。
「ルナさん、ここでお別れです。どうかご無事で」
何を言ってるのルークさん?
私も一緒に行くわ、そう言ったでしょう?
私の手から、ルークさんが手渡してくれた飲み物のカップが零れ落ちて甲板に落ちて砕け散る。
(アレク……)
薄れていく意識の中で、私はアレクの体に身を埋めた。
アレクが強く私を抱き締めているのが分かる。
「ルナ、俺を許してくれ。やはりお前を連れてはいけぬ」
そんな気がして体が震えた。
(絶対に離れない! アレクの傍にいるわ)
アレクは私の肩をそっと抱き寄せた。
「馬鹿を言うな、生きて帰れる保証などない戦いだ。ルナ、お前を連れていくことなど出来ない」
「分かってるわ! だから……だから一緒に行きたいの」
私はアレクが腕に嵌めてくれた腕輪を左手で握りしめる。
そして、涙を拭くとアレクを真っすぐに見つめた。
「約束したじゃない! 聖王妃リディアがそうしたように、私はいつだってアレクの傍にいるって」
涙なんか流してはいられない。
アレクが心配するだけだもの。
ルークさんが私に言う。
「いけません、ルナさん! どうか、殿下の仰る通りになさってください」
「ごめんなさいルークさん、でも私はもう決めたの。止めても無駄よ」
私の固い決意を感じたのだろう。
ルークさんが思わずたじろぐ。
アレクは静かに私を見つめると言った。
「……分かった。一緒に来い、ルナ」
「殿下!」
驚いた顔をするルークさんにアレクは言った。
「ルーク、こいつは言い出したら聞かぬ。それはお前も良く知っているだろう?」
「ですが……」
「ここで言い争っている時間は無い。行くぞ!」
私はアレクの言葉に頷いた。
「ええ、アレク!」
私はリトたちにお礼を伝える。
『リト、みんな、ありがとう! でもここはもうすぐ戦場になるわ、巻き込まれないように逃げて。貴方たちの仲間たちにもそう伝えて頂戴!』
私の言葉に顔を見合わせるリトたち。
『せ、戦場って戦争が本当に始まるのかよ』
『やっぱり、カモメの長老が心配してた通りだ。行こうぜリト!』
リトは私をジッと見つめる。
『ルナ、お前はどうするんだよ?』
『私はここに残るわ。お別れね、リト』
私の言葉を聞いて大きく翼を広げるリト。
『ああ……俺さ、何だかあんたのことが気に入っちまったんだ。死ぬなよ、ルナ!』
『ええ、ありがとう』
力強く翼を羽ばたかせて空に舞い上がる海猫たち。
彼らを見送った後、私たちは急いで階下に降りると大公に事態を伝えた。
衝撃を受けた様子の大公とエルザさん。
「馬鹿な……ジェーレントの軍艦だと! そのような無法が」
「お父様!!」
アレクは大公に言う。
「叔父上、もう時間がありません」
「……分かった、アレクファート! ワシも供に行く、そしてロシェルリアの海軍の全権をお前に託そう。エルザ、お前はブライアンと共に衛兵隊を指揮して住民たちを避難させるのだ!」
「分かりました、お父様!!」
それからは、先程までの穏やかな朝が嘘のような喧騒。
町には警鐘が鳴らされ、人々にジェーレントの軍勢の来襲が知らされていく。
そんな混乱の中、私たちは港に向かった。
アレクたちと共に海軍の船に乗り込む。
これから戦争が始まるという緊張感。
覚悟はしたつもりだったけど、体がガクガクと震える。
戦争なんて、映画や物語の中だけの話だと思っていた。
ルークさんがそんな私に、温かい飲み物を渡してくれた。
「ルナさん、兵士でもない貴方が怯えるのは当たり前です。これを飲めば少し気分が落ち着くでしょう」
「ルークさん……ありがとう」
私はそれを飲んで長い息を吐く。
少しでも自分を落ち着かせようと試みながら。
その時──
私たちが乗る白いロシェルリアの旗艦のマストの上で、水平線を監視していた兵士が叫んだ。
「殿下! ジェーレントの軍勢が見えました……くそっ! 凄い数だ!!」
その声に船上に緊張感が走る。
「アレク!」
私はアレクの傍に立って彼の横顔を見つめた。
彼はこちらを見て、そっと私の頬に手を当てる。
覚悟を決めたその眼差し。
「ルナ、許してくれ」
「アレク、どうして謝るの? 最後まで一緒だって、私が決めたのよ」
私は彼の言葉に首を横に振った。
アレクが謝る必要なんてない。
(あれ……どうしたのかしら)
目の前が霞んでいく。
こんな時にどうして?
しっかりしないと。
ルークさんが目を伏せると私に言った。
「ルナさん、ここでお別れです。どうかご無事で」
何を言ってるのルークさん?
私も一緒に行くわ、そう言ったでしょう?
私の手から、ルークさんが手渡してくれた飲み物のカップが零れ落ちて甲板に落ちて砕け散る。
(アレク……)
薄れていく意識の中で、私はアレクの体に身を埋めた。
アレクが強く私を抱き締めているのが分かる。
「ルナ、俺を許してくれ。やはりお前を連れてはいけぬ」
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