前代未聞のダンジョンメーカー

黛 ちまた

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第二章 マレビト

035-5

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「…………ギドは王位継承権を剥奪の上、王族籍からも抜かれた。貴人専用の塔に移される事が決まっている。生涯出て来る事は叶わない。
第二妃は…………杯を王から賜るだろう」

 杯を賜るの意味は分からないけど、沈黙が罰の重さを教えてくれた。第二妃はきっと、遠くないうちに、ここではない、二度と戻って来れない遠い遠い所に行くんだろうと思う。

「侯爵とそれに類する者たちの咎は、解毒剤確保の為に侯爵邸に押し入った際に諸々発見された。
係累は須く処罰の対象となり、侯爵とその妻子は極刑が言い渡された」

 そこまで言って、殿下は俯いて何も言わなかった。

 王都に毒をまき、関係のない人たちをまきこんだ。
 そんなつもりがなかったとしても、王様の命を狙ったと同じことになって。
 お屋敷で北の国と手を組んで戦争を起こす為の何かが出てきたのだとしたら、それは重い罪で、厳しい罰が与えられるんだろうと思う。

 自分の弟が、自分の命を狙っていた事に怒る事なく、諦めて死を待っていた殿下は、きっと、とても優しい人だ。
 賢くて、でも優しい殿下は王様になってからも沢山傷付くんだと思う。

「今日の夜は、ミルクたっぷり、野菜たっぷりのスープなんです」

「え」

「それと、平パンです。
温かくて、きっと美味しいと思います」

 顔を上げた殿下は、困ったように眉が下がってて、何て言っていいのか分からない、って顔をしていた。

 僕は口下手だから、慰めるとかは出来なくて、申し訳ない。

「ダンジョンの中に、今度香辛料の木を植えようと言う話になっているんです。
もっと、美味しいものが作れるようになると、嬉しいです」

 僕の作った料理を美味しいと思ってもらえたら嬉しいし、身体が健やかになって欲しいって思う。

 心の傷は、時間でしか治せなかったり、誰かの何気ない言葉で癒されたり、自分自身でしかどうしようもないものがあるって、パフィが教えてくれた。
 殿下の傷も、そうだと思う。

「僕、これからも殿下に食事を作っても良いですか?」

 殿下の少し後ろにいたトキア様と騎士団長が頷いた。

「……これからも、楽しみにしているよ、アシュリー」

 ぽろりと殿下の目から涙がこぼれて、僕は頷いた。

「はい。いっぱい食べて下さい」

 たくさん嫌なことがあって、悲しいことがあって、逃げたくても逃げられないことはいっぱいある。
 僕でもあるんだから、殿下やトキア様、騎士団長やクリフさん、ノエルさんもティール様も、ラズロさんもナインさんも、たくさんたくさん抱えているんだと思う。
 明日なんて来ないで欲しいって思っても、明日はきてしまう。

 おなかが空くと、心が寂しくなる。
 温かくて、美味しいものを食べると、ちょっと気持ちが和らぐ気がする。
 おなかが満たされると、ちょっとだけ頑張れる気がしてくるのは、不思議だと思う。
 ……僕の作る料理が、みんなの助けになれたら良いなって、思う。
 あともうちょっと頑張ろうって、思ってもらえたら、嬉しい。



 みんながいなくなった後、カウンターに座ったラズロさんが僕をじっと見る。

「オレの中でアシュリー、年齢詐称疑惑が再燃してる」

 思いもしなかった言葉に笑ってしまった。

「ほら、それだよそれ。その達観しちゃった態度だよ、アシュリーさん」

「なんですか? 笑わせないで下さい、ラズロさん」

 もう、ラズロさんときたらそんな事ばっかり言って僕を笑わせる。

「……被害は王都中に広がったものの、重体を負った人間はいないようだぞ」

 あぁ、そうなんだ。
 良かった、本当に。

「デカイ一派だったし、北の国とのやりとりもあるからな、しばらくはゴタつくだろうが、なんとかなんだろ」

「良かったです」

「一時はどうなるかと思ったけどなぁ」

「そうですね」

 殿下の事が頭に浮かんだ。
 一番の被害にあった人。
 心も身体も。たくさん傷付けられた優しい人。

 それからちょっとの沈黙があって、ラズロさんがコーヒーを飲んで言った。

「……大丈夫だ。
前とは違って今は沢山の人間が側にいるんだから、孤独に潰される事も、諦める事もないだろうよ」

 ラズロさんも殿下の事を思い出していたみたいで、その言葉はじんわりと僕の胸にしみこんでいった。

 寂しく感じたり、食べることが嫌になることがないと良いな。

「明けない夜は、ねぇんだよ」

 僕は頷いて、扉の隙間から差し込む西陽に目をやった。

 太陽が沈んでいく前の強い光の西陽。
 夜はすっぽりと全てをおおって、あたりを見えなくして、音も消してしまうように感じる。
 でも、夜は癒しもくれる。
 長い夜が明ければ、眩しい朝陽が降り注ぐ。
 どんな夜も、必ず明ける。
 明日は今日とは違う。
 
 みんなの明日が、今日よりもより良い日となると良い、そう、強く思った一日だった。
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