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*WEB連載版
第48話 もう一つの仕事
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私たちは揃って食堂に行くとそれぞれキッチンに飲み物を頼み、そして席に着いた。
そしてそれぞれ運ばれてきた飲み物を堪能する。
私は当然コーヒーで、クライヴくんは紅茶だ。
うん、美味しい。これは私の好みの味である。ロゼッタさんが淹れてくれたものではなくて別のメイドさんが淹れてくれたものだけど、それでも美味しいものはおいしいのだ。
「……はぁ~。染みる……」
思わずため息が出てしまう。イリーナが来てからというものずっと緊張状態が続いていたものから、こういうほっとする時間は本当にありがたい。
そんな私を見ていたクライヴくんが、にっこりと微笑みを浮かべた。
「アデライザ先生は本当にコーヒーがお好きなんですね」
「もちろん大好きですよ。毎日飲んでいますし」
「眠れなくなりませんか?」
「私くらいになるともう眠気覚ましにすらならないんです。カフェインへの耐性がつきまくってますからね」
「うわ、なんかさすがアデライザ先生って感じがします」
「ふっ……。それほどでもあります」
私はニヤリとした笑みを見せた。それから彼の前のティーポットを見ながら言う。
「クライヴくんは紅茶党なんですね」
「え? ……ああ、そうですね。コーヒーも好きですけど、どちらかというと紅茶の方が飲み慣れてるんでしょうかね」
「まあ、そういう人もいるでしょう」
「あと、甘いものが好きっていうのがありますね。紅茶の方が甘いものには合いますから。……と、これは僕の個人的な感覚ですけど」
「甘いものがお好きなんですか。それじゃあクッキーとかロゼッタさんから差し入れとかあったらたまらないですね!」
「そ、そうですね。そんなことがあったらいいんですが、どうもなかなか……」
……あ、もしかしてマズいこと言っちゃったかもしれない。
今のクライヴくんとロゼッタさんって勝負して勝てたら付き合うとかそういう宙ぶらりんな状態なわけだし……。
私は慌ててフォローを入れた。
「ごめんなさい、余計なこと言っちゃって」
「いえ。大丈夫ですよ。お気になさらず」
「あの、ちなみに私をここに呼び出してしたい話って、もしかして恋愛相談ですか? それなら喜んで聞いちゃいますよー!」
ロゼッタさんに無茶なこと言われて青春男子のクライヴくんが悩んでしまってどうしようとか、そういうことなのかもしれない。
どうもうまく勝てないみたいだし……。
確か付き合う条件は、素手でロゼッタさんに勝つこと、だ。
素手で戦うのが本職の専属メイドであるロゼッタさんに、剣で戦うのが本職の騎士であるクライヴくんが素手で勝つ……というのもなかなかに難しいだろう。
ああ、それにしても。
『私に勝ったら付き合ってもいい』だなんて、ちょっといいわよね。いかにも青春って感じ! でもやられた方としては溜まったもんじゃないか……。すぐに付き合いたいっていうのに条件出されちゃったんですものね……。
だが、クライヴくんは苦笑したのだった。
「はは、まあ、それもあるかもしれませんね」
「?」
あれ、違うのかしら。私は首を傾げた。すると、クライヴくんは自分のカップに口をつけてから言った。
「実は、お話というのは……。きのう王都に行ってきまして、そのときにマティアス殿下に拝謁してきたんです」
「マティアス殿下に……」
マティアス殿下といえばノイルブルク王国の第一王子、つまりはルベルド殿下のお兄さんだ。それってつまり、私の義理のお兄さんになる人ってこと。なんだか不思議だなぁ。
それに、私とルベルド殿下が出会う切っ掛けを与えてくれた恩人でもある。もしマティアス殿下から家庭教師の仕事を貰わなければ、私は未だにブレジアン王立魔術研究所で安い肉から霜降り肉を作る研究をしていただろう。
「アデライザ先生にマティアス殿下からの言伝を預かっております。ご婚約おめでとうございます、とのことです」
「まあ、ありがとうございます」
マティアス殿下も結婚を祝福してくれてるってことよね。社交辞令ではあるだろうけど、とにかく反対はされてない、ってことが重要だわ。
「それで、マティアス殿下のお言葉にはまだ続きがありまして……」
ん? まだ続くの? 私はちょっと眉を寄せた。
するとクライヴくんは真面目な顔になった。
「例の件はどうなりましたか、とのことです」
「例の件?」
「ルベルド殿下の……」
クライヴくんは言いかけて、声を潜めた。
「ルベルド殿下の、研究です」
「あ……」
そうだ、そうだったわ。
家庭教師の仕事を頼まれたときに、もう一つの仕事をなにか裏があるような感じでいわれたんだった……。
私の脳裏に、マティアス殿下との面接の光景がはっきりと蘇ってきた。
『先生に期待するのは、本当に家庭教師としての仕事と、それから……スパイとしての仕事なんです』
『スパイについては家庭教師代とは別にあなたの望む額を成功報酬としてご用意いたします』
あくまでも、『弟王子の将来のためを想って』みたいな感じでマティアス殿下は言ってたけど、まさかそれだけのためにスパイの成功報酬に言い値を出したりしないわよね。
そうなのよ。なんとなく胡散臭い人だったわ、マティアス殿下って……。
そしてそれぞれ運ばれてきた飲み物を堪能する。
私は当然コーヒーで、クライヴくんは紅茶だ。
うん、美味しい。これは私の好みの味である。ロゼッタさんが淹れてくれたものではなくて別のメイドさんが淹れてくれたものだけど、それでも美味しいものはおいしいのだ。
「……はぁ~。染みる……」
思わずため息が出てしまう。イリーナが来てからというものずっと緊張状態が続いていたものから、こういうほっとする時間は本当にありがたい。
そんな私を見ていたクライヴくんが、にっこりと微笑みを浮かべた。
「アデライザ先生は本当にコーヒーがお好きなんですね」
「もちろん大好きですよ。毎日飲んでいますし」
「眠れなくなりませんか?」
「私くらいになるともう眠気覚ましにすらならないんです。カフェインへの耐性がつきまくってますからね」
「うわ、なんかさすがアデライザ先生って感じがします」
「ふっ……。それほどでもあります」
私はニヤリとした笑みを見せた。それから彼の前のティーポットを見ながら言う。
「クライヴくんは紅茶党なんですね」
「え? ……ああ、そうですね。コーヒーも好きですけど、どちらかというと紅茶の方が飲み慣れてるんでしょうかね」
「まあ、そういう人もいるでしょう」
「あと、甘いものが好きっていうのがありますね。紅茶の方が甘いものには合いますから。……と、これは僕の個人的な感覚ですけど」
「甘いものがお好きなんですか。それじゃあクッキーとかロゼッタさんから差し入れとかあったらたまらないですね!」
「そ、そうですね。そんなことがあったらいいんですが、どうもなかなか……」
……あ、もしかしてマズいこと言っちゃったかもしれない。
今のクライヴくんとロゼッタさんって勝負して勝てたら付き合うとかそういう宙ぶらりんな状態なわけだし……。
私は慌ててフォローを入れた。
「ごめんなさい、余計なこと言っちゃって」
「いえ。大丈夫ですよ。お気になさらず」
「あの、ちなみに私をここに呼び出してしたい話って、もしかして恋愛相談ですか? それなら喜んで聞いちゃいますよー!」
ロゼッタさんに無茶なこと言われて青春男子のクライヴくんが悩んでしまってどうしようとか、そういうことなのかもしれない。
どうもうまく勝てないみたいだし……。
確か付き合う条件は、素手でロゼッタさんに勝つこと、だ。
素手で戦うのが本職の専属メイドであるロゼッタさんに、剣で戦うのが本職の騎士であるクライヴくんが素手で勝つ……というのもなかなかに難しいだろう。
ああ、それにしても。
『私に勝ったら付き合ってもいい』だなんて、ちょっといいわよね。いかにも青春って感じ! でもやられた方としては溜まったもんじゃないか……。すぐに付き合いたいっていうのに条件出されちゃったんですものね……。
だが、クライヴくんは苦笑したのだった。
「はは、まあ、それもあるかもしれませんね」
「?」
あれ、違うのかしら。私は首を傾げた。すると、クライヴくんは自分のカップに口をつけてから言った。
「実は、お話というのは……。きのう王都に行ってきまして、そのときにマティアス殿下に拝謁してきたんです」
「マティアス殿下に……」
マティアス殿下といえばノイルブルク王国の第一王子、つまりはルベルド殿下のお兄さんだ。それってつまり、私の義理のお兄さんになる人ってこと。なんだか不思議だなぁ。
それに、私とルベルド殿下が出会う切っ掛けを与えてくれた恩人でもある。もしマティアス殿下から家庭教師の仕事を貰わなければ、私は未だにブレジアン王立魔術研究所で安い肉から霜降り肉を作る研究をしていただろう。
「アデライザ先生にマティアス殿下からの言伝を預かっております。ご婚約おめでとうございます、とのことです」
「まあ、ありがとうございます」
マティアス殿下も結婚を祝福してくれてるってことよね。社交辞令ではあるだろうけど、とにかく反対はされてない、ってことが重要だわ。
「それで、マティアス殿下のお言葉にはまだ続きがありまして……」
ん? まだ続くの? 私はちょっと眉を寄せた。
するとクライヴくんは真面目な顔になった。
「例の件はどうなりましたか、とのことです」
「例の件?」
「ルベルド殿下の……」
クライヴくんは言いかけて、声を潜めた。
「ルベルド殿下の、研究です」
「あ……」
そうだ、そうだったわ。
家庭教師の仕事を頼まれたときに、もう一つの仕事をなにか裏があるような感じでいわれたんだった……。
私の脳裏に、マティアス殿下との面接の光景がはっきりと蘇ってきた。
『先生に期待するのは、本当に家庭教師としての仕事と、それから……スパイとしての仕事なんです』
『スパイについては家庭教師代とは別にあなたの望む額を成功報酬としてご用意いたします』
あくまでも、『弟王子の将来のためを想って』みたいな感じでマティアス殿下は言ってたけど、まさかそれだけのためにスパイの成功報酬に言い値を出したりしないわよね。
そうなのよ。なんとなく胡散臭い人だったわ、マティアス殿下って……。
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