チェスクリミナル

ハザマダアガサ

文字の大きさ
上 下
64 / 84
ジャスターズ編

勘違いの偶然

しおりを挟む
「これ、クロークからです」
「クローク様ですね。承知しました」
 受付に紙を渡すと、すんなりと受け取った。
 予想では宛名を聞かれたり、本人じゃないと貰えない。みたいな事を言われるかと思って、色んなパターンの返答を考えていたけど、無駄だったな。
 折角時間があったのに。
 まあ、これはこれでいいか。
 俺は3階に行こうと、踵を返そうとする。
「そうだ、ミラエラ・モンドという人物はいるか?」
 俺は受付に駄目元で聞いてみる。
「モンド様……は、申し訳ございません。お教えする事は出来ません」
「教えられない? いないとかじゃなくて?」
「はい。レベルB以上の権限をお持ちでなくては、お教えする事は出来ません」
「レベルB? 俺のレベルは分かるのか?」
「身分証明書をお持ちでしょうか」
「身分証明書? ああ、これの事か」
 俺はナインバースから貰った紙を見せる。
「頂戴します。……これは! 失礼致しました。貴方様は、現在レベルBの権限を持っております。誠に恐れ入りますが、お名前をお聞かせ願いますか?」
 よく分からないが、どうやら上手く事が運んでる様だな。
 俺は貰ったペンで、名前を付け足す。
「チェイサー・ストリート様ですね。承知しました。ミラエラ様は、現在Cの2階におられます」
「し、Cの2階? 誰か案内って出来る?」
「はい。直ちに」
「どうも」
「うおっ」
 突然、俺の左に男が現れる。
 男は俺と同じくらいの身長で、20代くらいの顔立ちをしている。
 不自然な程機械的な笑顔を見せ、どこか不気味な奴だ。
「ご案内致しますね」
「お、おう。頼む」
 男は普通に歩き出し、角を左に曲がる。
 そして近くの「移動室」と書かれた扉を開けた。
「お先にどうぞ」
「ここに入っていいのか?」
「もちのろんです」
「えぁ?」
「もちろんです」
「ああ」
 案内されるがまま、俺は部屋に入る。
「少し失礼」
 そう言われ、肩を掴まれる。
「もういいっすよ」
「はやっ」
 1秒もしない内にそう言われ、俺は思った事を口に出してしまう。
「どうぞ」
 そして扉を開けられ、外へ出る。
 するとそこは、さっきの廊下とは違かった。
「ここは?」
「Cの2です」
「マジか」
 これが瞬間移動ってやつか。正直なんにも感じなかったな。
「あそこの部屋にいます。後はご勝手に」
「おお、せんきゅ」
 指が向けられた方向には、1つの部屋があった。
 後ろを向くと既に男の姿は無く、代わりに1枚の紙が落ちていた。
「忘れ物ですよって……、勝手に書くなよ」
 俺は身分証明書代りの紙を拾い、立ち上がる。
「あそこにミラエラが」
 部屋には何も書かれてないが、中には気配がある。
 1人か2人、何か話している。もしかしてナインハーズか?
 俺はドアノブに手をかけ、回して開ける。
「ミラちゃ——」
 俺は全てを言う前に、その口をつむいだ。
「え、あ、す、ストリート?」
 中にはこれまで以上にない程驚いたナインハーズと。
「あれ? あなたこの前の」
「あ、綺麗なお姉さん」
 が向かい合い座っていた。
「なんだ知り合いなのか? それならよかった。いやよくねえな」
 依然焦ってるナインハーズは置いといて、このお姉さんは見覚えがある。
 確か俺が喉にペンをブッ刺した人。
「あの時はよくペンを刺してくれたね」
 お姉さんは立ち上がり、俺の背中をポンポンと叩く。
 覚えてたのね……。まあ普通、喉にペン刺されれば嫌でも覚えてるか。
「マジすんません。まさかこんな所で会うとは」
「いやいや褒めてるんだよ。あの攻撃は見事だったな」
「あ、あざっす」
 なんか思ってたよりいい人だな。そして意外とラフ。
「それで? よくここに来れたね」
「あ、そうそう。これ見せたら、なんか大丈夫だった」
 俺はナインハーズから貰った紙を見せる。
「これって……オーダーさんのじゃない? ねえ、ナインハーズ!」
「やべえやっちった。あ? ああ、本当だ。間違ったの渡しちまった」
「やっぱり間違えね。だってこの子、ガイド使ってたもの」
 ガイド? ああ、あの機械みたいな奴か。
 ってか、そんなにヤバい事なのか? 俺がここに来ちゃった事。
「ガイドか。俺もたまに使うな」
「あ、そうなの。意外と馬鹿なのね、あなた」
 俺、今遠回しに馬鹿にされたよね。
「まあ一旦、ストリートがここに来た事は置いとこう。それより、どうやって来たんだ? 第一、モンドの名前も知らないだろ」
 置いといちゃうのね。
「そうね。どうして私の名前を?」
「俺はお前……、あー、あなた、君?」
「ニーズでいいわよ」
「俺はニーズの名前なんて、一言も言ってないぞ」
「尚更どうして?」
「俺はただ、ミラエラ・モンドって言っただけだ」
「ミラエラ? 私の妹じゃない」
「妹? へー、い、妹⁉︎ 本気かそれ」
「本気も本気よ。それより、あなたってミラエラの知り合いだったのね」
「いやまあ、そうだけど。ミラエラに姉がいたとは……」
「言ってないからね」
「言ってないの、すか」
「タメでいいわよ。変に気を遣わないで」
「あざす。それより、言ってないのか。理由は聞いても?」
「色々とね。私今、スパイしてるから」
「スパイ……。道理であの時いた訳だ」
「そうね。あれは私も予想外だったけど」
 あの時応援が早く来たのは、ニーズのお陰だったのかもな。
「ありがとな。スパイでいてくれて」
「変な感謝ね。まあ、どういたしまして」
「スパイって言っちゃった。まあ今更隠せないか。それより、君は段々と機密情報を抱えていくな」
「好きでやってる訳じゃない」
「それもそうだな。3割くらい俺の所為か」
「9な」
「きゅ、きゅ、9も? 9もか。……7?」
「9だ」
「9ね。分かった。俺がほとんど悪い」
「あなた凄いわね。ナインハーズと話すのに、全然緊張してない」
「緊張はしないだろ。こんな奴に」
「そうね」
「嫌なカードが2人揃った……」
 ジャスターズ内でも、ナインハーズにこんな態度を取れるのは、俺を抜いてニーズだけなのだろう。
 そういう意味では、ナインハーズは災難だな。
「そう言えば名前は? ストリート?」
「チェイサー・ストリート。よろしくニーズ」
「よろしくチェイサー。ニーズ・モンドだ」
 ニーズはにっこりと笑いながらそう言う。
 あ、あれ? なんだろう。可愛いな。
 俺は差し伸べられた手に、数秒握手を躊躇った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

刻録の予兆――誰も読まない小説が、世界を変える鍵でした。

ミシマ
ファンタジー
「え、こんなの誰も読まないでしょ?」 ネットの片隅に埋もれた長大なWeb小説『Echoes of Oath』。 しかし平凡な大学生・堀川ユウは、その途方もない文字数を半年かけて完読してしまう。 そこに描かれていたのは――「異能が広がり、世界が滅亡寸前に陥る未来」の物語。 そんなの、ただの作り話…のはずだった。 ところが現実世界では突然、人々が奇妙な力“Trait”を得はじめ、社会はパニックに。 ユウもまた、自分の目や耳で得た情報を“再現”できる能力「刻録(こくろく)」に目覚めてしまう。 同級生の水瀬アヤは「逢魔(おうま)」の闇を制御できず、不安な瞳を隠せない。 政府は特務管理局を立ち上げ、闇組織“ReGenesis”はPhase-4やPhase-5の超能力者を集め、 まるで“小説そのまま”の戦乱が広がり始める――。 ビル街を焼き尽くす砲撃“護甲”、都市を圧倒する衝撃“闘威”、そして物を創り出す“創造”……。 多彩な才能が激突する中、ユウの“刻録”が示す未来は本当に滅亡しかないのか? 「書かれた結末」を覆すため、彼と仲間たちの長い戦いが幕を開ける。 日常を失いかけた若者たちが、世界の運命を塗り替えるまでの物語。 誰も読みとおせなかった無名小説が今、唯一の希望の書となる――。

鎌倉最後の日

もず りょう
歴史・時代
かつて源頼朝や北条政子・義時らが多くの血を流して築き上げた武家政権・鎌倉幕府。承久の乱や元寇など幾多の困難を乗り越えてきた幕府も、悪名高き執権北条高時の治政下で頽廃を極めていた。京では後醍醐天皇による倒幕計画が持ち上がり、世に動乱の兆しが見え始める中にあって、北条一門の武将金澤貞将は危機感を募らせていく。ふとしたきっかけで交流を深めることとなった御家人新田義貞らは、貞将にならば鎌倉の未来を託すことができると彼に「決断」を迫るが――。鎌倉幕府の最後を華々しく彩った若き名将の清冽な生きざまを活写する歴史小説、ここに開幕!

「メジャー・インフラトン」序章2/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節FIRE!FIRE!FIRE! No1. ) 

あおっち
SF
敵の帝国、AXISがいよいよ日本へ攻めて来たのだ。その島嶼攻撃、すなわち敵の第1次目標は対馬だった。  この序章2/7は主人公、椎葉きよしの少年時代の物語です。女子高校の修学旅行中にAXIS兵士に襲われる女子高生達。かろうじて逃げ出した少女が1人。そこで出会った少年、椎葉きよしと布村愛子、そして少女達との出会い。  パンダ隊長と少女達に名付けられたきよしの活躍はいかに!少女達の運命は!  ジャンプ血清保持者(ゼロ・スターター)椎葉きよしを助ける人々。そして、初めての恋人ジェシカ。札幌、定山渓温泉に集まった対馬島嶼防衛戦で関係を持った家族との絆のストーリー。  彼らに関連する人々の生き様を、笑いと涙で送る物語。疲れたあなたに贈る微妙なSF物語です。  是非、ご覧あれ。 ※加筆や修正が予告なしにあります。

No One's Glory -もうひとりの物語-

はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `) よろしくお願い申し上げます 男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。 医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。 男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく…… 手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。 採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。 各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した…… 申し訳ございませんm(_ _)m 不定期投稿になります。 本業多忙のため、しばらく連載休止します。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...