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いじめられっ子

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 「ふーん、それで王子様のプロポーズを断って、これからどうするつもりなの?珍獣ハンターに狙われる心配はないと思うけどね。」

 「だって、まだ18歳よ!初対面の相手にプロポーズするなんて正気の沙汰と思えないもの。これから旅に出ようと思っているのよ。そうか、異世界通販を利用して商売したいと思っているんだけど、王子様のプロポーズ断わったから、もうあのダンベーゼ国に居づらい。」

 「なるほどね。でも、異世界で18歳と言えば、もう立派な適齢期なのよ。ニッポンとは違うものよ。だれか、アナタを支えるような人を付けてあげるわ。危なっかしくて、みていられないから。あのベルソ村の村長でもいいんだけど、少々お年を召していらっしゃるからね。」

 「それではできれば、お金持ちで、男前の人、お酒の趣味が合う人をお願いします。」

 「ずいぶん贅沢言うのね。ま、いいわ。アナタは無理に私が異世界へ送ったようなものだからね。それにアナタが作るご飯はどれも、とても美味しいから。ベテラン商人か大手の商会の息子当たりを付けてあげるわ。その人に見習って、商売の勉強をしなさい。」

 「はーい。」

 次の日、アテレック村に、大きな荷馬車で移動中の行商人がやってきたのである。

 「昨夜、女神様が夢枕にお立ちになられて、ダンベーゼのアテレック村にいらっしゃる聖女様のお力になるように、とのお告げがございまして……本当に、この村に聖女様はいらっしゃるのでしょうか?」

 「なんと!女神様のお告げで来られましたか?この村に聖女様がいらっしゃることは、他言無用で願いたいのです。聖女様を呼んでまいります。しばらく、お待ちを。」

 アテレックの村長は、なぜ行商人のところに女神様のお告げがあったのか不思議に思うも、カトレーヌを呼びに行く。

 「はじめまして。聖女様、私は隣国ベルゾーラ国の行商人で商会を営んでおります。ロッキー・ベンジャミンと申すものでございます。昨夜、女神様が夢枕に立たれ、聖女様のお力になれとのお告げがあり、やってまいりました。聞くところによると、聖女様は、隣国の公爵令嬢であらせられ、ダンベーゼの王子様との縁談をお断りになられたとか、それでこの国を出たいと、言うことでよろしいでしょうか?」

 「お世話をかけます。わたくしはカトレーヌ・ジャネット、元はアルバン国の公爵令嬢でございます。聖女に覚醒してから、記憶があいまいになりまして、気づけば、アテレック村長のお兄様のベルソ村長のところに滞在していたところ、突然、見ず知らずの王子様から縁談をいただきまして、お断りいたした次第でございます。この村にいつまでもいると、村長様他、村の方々にご迷惑をおかけするのでは、と困っておりました。」

 「聖女様になられると当然のごとく、王族の方からの縁談が舞い込みますから、さぞかしご心痛でしたでしょう。わかりました。とにかく、この国から脱出いたしましょう。通行手形には、私の娘と言うことで、申請を出します。」

 「隠蔽魔法が使えるので、手形などなくても行けると思います。」

 「なんと!それでは、ひょっとしてアイテムカバンなどもお持ちでございますか?」

 「異空間収納なら、あります。」

 「聖女様、持ちつ持たれつで参りませんか?私どもは、聖女様を安全かつ合法的に出国していただくことをお約束します。聖女様はその代わり、異空間収納をはじめとする魔法を私どものために使っていただくことは可能でございましょうか?」

 「ギブアンドテイクですわね。構いませんことよ。」

 何をやらされるかは、わからないけど、女神様から頂いた創造魔法と言うスキルが、何でも叶えてくれるだろう。

 行商人とともに、すぐ出発することにしたのである。通行手形は付記するだけで良いとされたから、カトレーヌ・ベンジャミンと言う名で登録できたのである。

 行商人ロッキーは、袖の下を使ったかもしれないが、今はそんなことに目くじらは立てない。鬱陶しいエリオット王子から逃れるためだから。

 数日かけ、無事、ダンベーゼ国から出国できた。ロッキーは、その間、ダンベーゼで商いができなかったが、商い以上の成果を手に入れたのだ。

 それが聖女様。聖女様の異空間収納は、荷馬車3台分を入れてもなお余りある大きさであったのだ。それに魔物や盗賊が現れても、聖女様の力で何とかなるが、転移魔法で安全な場所にすぐ逃げられる。

 ロッキー・ベンジャミンは思いがけない拾い物をしたとほくそ笑む。普段から女神様を信仰していたおかげとは、思わない。

 聖女様を行く行くは、ベルゾーラ国に売り渡してもいいが、自分の倅と結婚させてもいいだろう。と胸算用をする。

 倅のトーマスはどうもイマイチ頼りがないが、この聖女様を嫁にできたら化けるだろう。

 嫁さんとは、そういうものだ。イイ女を妻に迎えれば、男は必然的に変わる。女によって、男は育てられ、その価値が変わるのである。

 だから、どこの国も王子の妻にと望まれるのだが、聖女様は嫌いな男、好きでもない男とは結婚したくないらしい。

 ベルゾーラ国の王都にある我が商会へ聖女様をお連れしたら、案の定、倅は聖女様に一目惚れをしてしまったらしい。

 どこへ行くのも、何をするのも、聖女様の後を金魚のフンよろしく付いて回る。

 そして嬉しそうに聖女様と話している姿はもう、案外、お似合いのカップルかもしれない。

 「この商品は、お父様が世界各国を回ってきて、仕入れられているのですか?それと、この商品を扱うには、何か許可や許認可などが必要でしょうか?売り上げに対して、税がかかるのですか?それとも利益に応じて税が徴収されるのでしょうか?原価率は?」

 カトレーヌは、商会の息子さんクラークに矢継ぎ早に質問しているのだが、何を聞かれても嬉しそうに答えるクラーク。楽しそうにしゃべっているとしか、はた目には見えない。

 
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