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いじめられっ子

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 しばらく必死こいて、マウンテンバイクを漕いでいると、ふと電動ならもっと楽に進めるのでは?本当のオートバイなら?でも原油価格が高騰している上に、異世界にガソリンスタンドなんてない!

 電動マウンテンバイクなら、マンションから電源を取れるかもしれないけど??

 隣国王都を目指しているけど、王都なら、余計にヤバくない?

 次の集落が見えてきたところで、その集落の中には入らず、いったん女神様のところへ戻ることにした。

 肉体ブティックには、お客様がいらした。爆撃で被爆して亡くなられたみたいな方。

 その方もずいぶん悩まれて、結局成仏を選ばれて、三途の川を渡って行かれた。

 そうね、焼け野原になったニッポンで誰かのカラダに転生しても意味がないわね。

 女神様はさみしそうな顔をされて、三途の川を渡った人を見ている。そして振り返るや否や

 「あら、来てたの?これからお昼ご飯にしようと思ってたから、ちょうどいいわ。」

 妙子は、異世界で自分が指名手配されていること、隣国で立ち寄ったベルソ村でランチタイムに誰か来て、面会しなければならないことを言う。処刑かもしれないと思い、それで逃げ出したことまで。

 途中、立派な馬車と騎馬隊を見かけすれ違ったことを言うのを忘れた。

 「ええ?あの国、カトレーヌちゃんにまだそんなひどいことしているの?でも、大丈夫よ、カトレーヌちゃんを失ってしまったら、あの王国は亡ぶの。それは決定事項だから大丈夫、安心してよ。で、隣国ですぐ処刑ってことないと思うよ。でも、心配なら、様子見に行ってあげてもいいよ。」

 「本当?お願いします。」

 「その代わりお昼ご飯頼むわね。」

 「任せてください!何が好物ですか?」

 「なんでもいいわよ。」

 妙子は、その間にホットケーキを焼いた。卵と牛乳を入れて、トッピングはフルーツ、イチゴにみかん、リンゴとアイスクリームを添える。

 ジャムも作ろうかと思ったけど、時間内かかるから、また今度作り置きしたときにしよう。

 バターを上に乗せ、お好みでメープルシロップをかけたら、出来上がり。と言う所で、女神様が帰っていらしたわ。

 「カトレーヌが姿を消して、大変な騒ぎになっているわよ。隣国の王家からお迎えが来て、ぜひ王子様と結婚してほしいというつもりだったらしい。それであの村、え……とベルソ村長は、責任を追及されてかわいそうだったわ。すぐ戻ったほうがいいわよ。」

 「え?そうなの?わかった。あの部屋に転移で戻るわ。お食事、お先にどうぞ。」

 「ほっほー、美味しそうね。いただきます。」

 女神様がホットケーキにパク付いている姿を尻目にベルソ村へ戻り、村長に謝る。

 「聖女様がお戻りになられた。」

 「ごめんなさい、ちょっと女神様と話し込んでしまって。」

 「戻ってきてくださっただけでいいのです。さ、さ、こちらへ。着替えをご用意しておりますゆえ。」

 「いいわよ、このままで。」

 村長と押し問答をしていると、身なりの良い若い男性が、カトレーヌの前に進み出て、

 「はじめまして。聖女様、私はエリオット・ダンベーゼ、今日は聖女様にお願いの儀があり、やってまいりました。聖女様、どうか私の妻になっていただけないでしょうか?そしてできれば、私とともに城へ。」

 「お断りします。初対面の人間に結婚を申し込むとは、正気の沙汰とは思えません。結婚って、そういうものではありません。わたくしも経験したことがございませんが、少なくともわたくしは、好きな殿方と結婚したいと思います。」

 「その通り。」

 拍手をしている村長、いいの?あとで怒られるかもよ?

 案の定、王子様はキっと、村長を睨んでいる。すごい目力である。なんて感心している場合ではない。食事の途中に抜け出してきたのだ。

 「どうぞ、お引き取りくださいませ。あなた様がここにいられると、皆委縮してしまいますわ。」

 カトレーヌだけが肉体ブティックに戻っても良かったのだろうけど、その後、村長が折檻でもされたら、可哀そうだから、出て行くまで見届ける。

 「ちっ!また来る。」

 「来ていただかなくて、けっこうですわ。」

 もう村長は大喜びしている。自分では、なかなか言い出せない言葉をカトレーヌがバンバン代弁してくれるから。

 エリオットは、もうグサグサにプライドを傷つけられ、立ち直れないほど。でも、
今まであんな女性に出会ったことがなく、惹かれる。

 今までは、王子と言う身分を出した途端、掌を返したようにどの女もみんな落ちる。みんな自分に媚びへつらうのが当たり前だと思っていた。

 だが、カトレーヌは違った。自分の意見をまっすぐ言い、正面切って断ってきた。だからこそ、本気で手に入れたいと願うようになる。

 王子様はやっと帰ってくれたので、女神様のところへ戻ろうとしたら

 「いやぁ、すっとしました。あの王子様、いつも辺境の村長だからとバカにしよって。でも、いいんですか?一国の王子様との縁談を蹴ってしまって。玉の輿ですよ。」

 「いいのよ。戻ってきたのは、村長のために戻ってきたのだから。アナタがわたくしのために怒鳴られる筋合いはございませんもの。」

 「なんと……!聖女様と言うのは、真の聖女様だったのですね!こんなお優しい聖女様は初めてみました。」

 「じゃ、そろそろ行くわね。」

 「聖女様、どちらへ?」

 「街道沿いの隣の集落まではたどり着いたのよ。」

 「ああ、アテレック村ですか!あそこは、弟が村長をやっております。紹介状を持っていきなさい。さすれば悪いようには致しません。」

 「ありがとう。村長さんもお元気で。」

 手を振って、送り出してくれたが、街道の先にまだ、あの王子がいたのだ。それで、いったんまたベルソ村に引き返し、様子見することにする。

 「なに、あの王子がやってきたら、隣国の祖国へお戻りになったと言うさ。儂らのことなど、気になさらずとも好い。」

 「では、転移魔法で、アテレックまで飛びますわね。」

 村長の目の前で転移魔法を使い、そのままアテレックの集落の入り口まで飛ぶ。

 最後に見た村長の顔と言ったら、口と目を大きく開けてビックリしたような表情をされていたわ。

 そして、アテレック村長にベルソ村から預かってきた紹介状を出す。

 「よくわかりました。聖女様、このアテレックが責任を持ち、聖女様を匿いましょう。」

 「ありがとう存じます。」

 そして、また部屋を用意してもらい、クローゼットの中に自室のマンションを出すのである。

 お昼ご飯を食べ損ねたから、今朝、ベルソ村で出された朝食をチンして食べることにしたのだ。

 アテレック村長は匿うとは言ってくれたものの、カトレーヌはいつまでも、この村に、というかダンベーゼ国に留まる気はない。

 この世界でのしきたりや慣習を覚えてから、旅に出るつもりなのだ。誰もかれもカトレーヌが聖女だと言った途端に目の色をかけて、追いかけられるのは、うんざりしている。

 聖女様って、珍獣かなんかと勘違いされている?前世、珍獣ハンターなるテレビ番組があったような気がする。

 ということは、珍獣ならば、いずれハンターされるってこと?あーいやだ、いやだ。

 でも聖女様の魔法は便利だからね。これを捨てる気など、さらさらない。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 その頃、やっぱりベルソ村に戻ってきたエリオット王子は、すでに聖女様が祖国へ向けて発たれたと聞き、後を追いかけるべく、馬を走らせる。

 そして、国境まで行っても、カトレーヌの姿は見当たらなく、ガッカリ肩を落としながら、ベルソ村に引き返し、アテレック村を素通りして王都へ戻っていく。

 「あのベルソ村長、聖女様が祖国で婚約者がいると言っていたな。昨夜の親父の話では、カトレーヌ・ジャネット公爵令嬢は、その時確かに婚約破棄されたと聞いたが、その後、すぐアルバートが破棄の破棄をした?とかしていないとか?空耳だったとか?なんか、あのアルバートも卑怯者だから、アルバートよりは、俺のほうがイイ男なのに。」

 いずれにせよ、しばらく様子見を決め込む。親父の話では、カトレーヌが持ってきたお酒はたいそう上等で、美味い酒だった。と言っている。親父も呑兵衛だから、あまり深酒をし過ぎるな。と注意しておこう。



-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-*-



 アルバート王太子殿下もイラついている。婚約者の行方がわからないまま午後に突入したからである。

 「まさか?隣国へ行ってしまったのではなかろうか?まさかな。昨夜、ダンベーゼの親父が息子の王子の嫁にしたいとほざきやがったから、あのまま連れ去ったかもしれない。」

 急に心配になったアルバートは、隣国ダンベーゼとの国境付近まで見に行かせたら、ダンベーゼの王子らしき人物を見かけたとの報告がある。

 「エリオットの奴め、カトレーヌを迎えに来たのかもしれん。ということは、カトレーヌはまだ国内にいるはずだ。探せ!なんとしても探し出すのだ。」

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