ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

文字の大きさ
上 下
37 / 40

答えは

しおりを挟む

「……答えは、半分くらいは出てたんです」

 体の関係の事は、最後の確認だった。
 隆晴りゅうせい直柾なおまさも、優斗ゆうとが嫌だと言えばしないでいてくれる。そう信じられる。
 だがそれでは、二人に我慢ばかりさせてしまう。それなのに自分ばかり好きでいて貰うのはあまりに酷いのでは……。

「出来ないから断るとか無しな?」
「っ……心、読みました……?」
「なんでだよ。お前、顔に出過ぎな」

 苦笑する隆晴に、優斗は頬に手を当てて“そうです?”と視線を彷徨わせた。

「そんな優くんも可愛いよ?」
「アンタは言葉にも出過ぎですよ」

 空気読んでください、と溜め息をつくが、直柾はニコニコと優斗を見つめた。

「優くん。答えは今すぐ出さなくていいよ。いつまででも待ってるからね」

 柔らかな声音でそう言う直柾に、フルフルと緩く首を横に振る。今答えないと、いつまでも優しさに甘えてしまう。

「どちらかを選んだら、どちらかを失うってことですよね」

 答えの半分は、もう出ていたのだ。

「俺にとっては、二人とも大事な人なので……出来ればこのまま、今まで通りでいられたらと……」
「今まで通り、は、無理かな」

 そう答えたのは直柾だった。

「君のお願いなら何だって聞いてあげたいけど、この想いを殺すことだけは出来そうにないよ」

 そう言って立ち上がり、悲しそうに眉を下げる。

「俺は君の恋人として、君のそばにいて、抱き締めたいんだ」

 恋人として、そばにいたい。
 それが叶わなくとも、この気持ちをなかった事にはしないで。
 腕を伸ばし、カウンター越しに優斗の頬に触れようとして……悲しげに笑い、そっとその手を下げた。

「ごめん。困らせたいわけじゃないんだ」

「ごめん、なさい……」

 優斗の口から震えた声が零れる。

 これが卑怯な答えだと分かっている。どちらも失わずに、想いにも応えずに、このままそばにいて欲しいだなんて。あまりにも虫が良すぎる。
 大事にして貰って好きでいて貰って、それなのに傷付けてばかりで。それでも、どちらかを選ぶ事が出来ない。

 俯き、グッと拳を握る優斗の耳に、隆晴の立ち上がる音が聞こえた。 


「優斗。選ぶ必要はないだろ?」
「先輩……。でも俺、先輩のことも直柾さんのことも大事で……ごめんなさい」

 俯いたまま声を絞り出す。すると、コツンと何かが頭に触れた。

「先輩……? っわ!」

 おずおずと顔を上げれば、今度は額を指で弾かれる。

「落ち着けって。前に言ったろ? お前が両方選ぶなら、それでいいって」
「あ……」

 優斗は目を見開いた。

 忘れていた。すっかり。
 いつの間にかどちらかを選ばなければと、そう思い込んでいた。いや、本当は選ぶべきなのだろうが。

「そんだけ悩むなら、一回付き合ってみればいいだろ。お試し期間ってことでさ」
「その手があったね」

 直柾がハッとした顔をする。

「どっちかを選ぶんじゃなくてさ、恋人として付き合えるかどうかを試す期間な」
「付き合えるかどうかを……」
「そうだね。優くんはもう、選べないって答えは出てるんだから」

 隆晴の言葉と、穏やかに笑う直柾。
 本当に、良いのだろうか。本当に、どちらも選んで良いのだろうか。どちらも失わずにいられるのだろうか。

「本当に、それでもいいんですか……? あっ、でも、倫理的に」
「それは交際中の相手がいる場合だよね。優くんはまだ誰とも恋人関係にないよ?」
「それは、そうですね」

「それに、倫理的に悪いなんてないと思うよ? どちらも大切ならそれは優くんが愛情深い証拠で、どちらも純粋で尊い愛だよ」
「そう、ですよね……」
「俺たちのどちらかに隠れて付き合うわけじゃないし、俺たちもそれがいいと思ってるから、これはみんなが幸せになる方法だよね」
「そう、ですよね」

 優斗はコクリと頷いた。そして自分の中で消化するように直柾の言葉を反芻する。

 隆晴は小声で直柾に話し掛けた。

「アンタ、今すぐ詐欺師になれますね」
「教師向きだって言ってよ」

 こんな教師がいてたまるか。と声には出さなかったが直柾には分かったらしく、今度教師役のオーディション受けてみようかな、と口の端を上げた。


 自分の中で整理が出来たのか顔を上げた優斗に、直柾は柔らかな笑顔を向ける。

「これから恋人として、よろしくね、優くん」
「よろしくな、優斗」
「は、はい、よろしくお願いします」

 カウンター越しに笑顔を向ける二人に、優斗はパッと花が咲くように笑った。

しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

からかわれていると思ってたら本気だった?!

雨宮里玖
BL
御曹司カリスマ冷静沈着クール美形高校生×貧乏で平凡な高校生 《あらすじ》 ヒカルに告白をされ、まさか俺なんかを好きになるはずないだろと疑いながらも付き合うことにした。 ある日、「あいつ間に受けてやんの」「身の程知らずだな」とヒカルが友人と話しているところを聞いてしまい、やっぱりからかわれていただけだったと知り、ショックを受ける弦。騙された怒りをヒカルにぶつけて、ヒカルに別れを告げる——。 葛葉ヒカル(18)高校三年生。財閥次男。完璧。カリスマ。 弦(18)高校三年生。父子家庭。貧乏。 葛葉一真(20)財閥長男。爽やかイケメン。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

俺の推し♂が路頭に迷っていたので

木野 章
BL
️アフターストーリーは中途半端ですが、本編は完結しております(何処かでまた書き直すつもりです) どこにでも居る冴えない男 左江内 巨輝(さえない おおき)は 地下アイドルグループ『wedge stone』のメンバーである琥珀の熱烈なファンであった。 しかしある日、グループのメンバー数人が大炎上してしまい、その流れで解散となってしまった… 推しを失ってしまった左江内は抜け殻のように日々を過ごしていたのだが…???

イケメンに惚れられた俺の話

モブです(病み期)
BL
歌うことが好きな俺三嶋裕人(みしまゆうと)は、匿名動画投稿サイトでユートとして活躍していた。 こんな俺を芸能事務所のお偉いさんがみつけてくれて俺はさらに活動の幅がひろがった。 そんなある日、最近人気の歌い手である大斗(だいと)とユニットを組んでみないかと社長に言われる。 どんなやつかと思い、会ってみると……

弟、異世界転移する。

ツキコ
BL
兄依存の弟が突然異世界転移して可愛がられるお話。たぶん。 のんびり進行なゆるBL

処理中です...