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顔面偏差値
しおりを挟むあの後、どうやって帰って来たか曖昧だ。
ふらつく優斗を心配した隆晴が送り届けてくれた事は覚えているが、何を話したか覚えていない。話もしていないかもしれない。
ベッドに倒れ込み、ぼんやりと天井を眺める。そのうちにまた正輝たちが帰ってきて、何かあったのかと心配した母にわりと強めにドアを殴ら……ノックされて、現実に引き戻された。母は昔から綺麗な見た目に反して色々と強い。
翌日。隆晴に言われた通り、告白をされた事と隆晴が話をしたがっている事を直柾にメールで連絡すると、マンションに来れる日にちと時間、滞在可能時間までが書かれた一覧が送られて来た。
更にはすぐに電話が掛かってきて慌てて出ると、もう返事はしたの!? と直柾にしては慌てた声が聞こえて、少し可愛いな、と思ってしまった。
そして、その二日後。
「お久しぶりです、“お兄さん”」
「久しぶりだね。君にそんな呼び方をされる覚えはないけどね」
ソファから立ち上がった隆晴とリビングへと入って来た直柾は、にこやかな笑顔で挨拶を交わした。……顔、は。優斗は少し離れた場所で小さく身を震わせた。
全員の都合が付いて長く話せる日が今日だったとはいえ、まだ少しも心の準備が出来ていない。返事どころか現実を受け入れられてもいなかった。
今なら分かる。二人は今、視線で喧嘩している。
お茶淹れますね、と言って何とかその場を離れたが、オープンなアイランドキッチンと二人が席についたダイニングテーブルはすぐそばだ。
――どうしよう……。
気まずい、と思う優斗とは違い、二人は向かい合って座り早速会話を始める。
「ひとつ確認しておきたいんだけど、高校の頃から“そのつもり”で優くんに近付いたのかな?」
にっこりと笑う。強調された部分の意味に気付き、隆晴は肩を竦めた。
「あの頃は下心なんてなかったですよ」
「あの頃は?」
「あの頃は、ですね。優斗を安心して預けられる相手が現れて結婚するまで、見守ろうと思ってましたよ。男同士ですし。でも同じ男に横取りされるってなら、黙って見てるわけにはいかないじゃないですか」
その言葉に今度は直柾が肩を竦めた。
「横取り、という表現はどうだろうね? 俺の方が先に優くんに出逢ってるけど?」
「最初はそうかもしれませんけど、その後ずっと一緒にいたのは俺ですし」
バチッ、と火花が散ったように見えた。もう急須にお湯を入れてしまったが、これを持って行くタイミングがない。湯呑みを掴んだまま優斗は息を潜めた。
「……俺の方がずっと優くんのことを好きなんだからね?」
「想いは長さじゃありませんよ。強さです」
「強さでも負けないよ? 俺の方が優くんのこと、好きだから」
「俺には負けるでしょ」
「負けるわけないだろ」
「待って!? 待って!! 俺なんかのどこがいいんです!?」
ガタッと立ち上がる二人に、思わず声を上げてしまった。
いや、だって、二人に釣り合うような絶世の美女でもない。美女どころか女でもない。これといった取り柄もない自分が、こんな取り合いをされる理由が分からない。
湯呑みを持ったまま慌てる優斗に、直柾は眉を下げた。
「優くん。俺の大好きな優くんを、俺なんかって言うと悲しいな」
「えっ、あっ、ごめんなさい」
「責めてるみたいでごめんね。でも、優くんは素敵な人だよって、優くん自身にも知って貰いたいんだ」
「直柾さん……」
思わず涙が出そうになった。彼はいつでも、勿体ないくらいに好きでいてくれる。こんな自分でも……と言ったら、また悲しい顔をされてしまうのだろう。そのくらい、本気で。
「優斗。俺はお前のこと、ずっといい奴だって言ってるだろ」
「えっ……、はい、そう、ですね。その、俺は何もしてないですけど……ありがとうございます」
「お前がそんなだから、好きなんだよ」
ヒュッ、と喉が鳴った。そのまま項垂れるように両手で顔を覆い、呻く。
「この……とんでもなく顔面偏差値が高くて何でも出来て有名人なお二人から……そんなに想われて……その対象が、俺。…………いやいやいや、信じろって方が無理ですから……!」
いっそ罰ゲームの方が信憑性がある! 優斗はそのまましゃがみ込んだ。
「どうして信じてくれないの? 好きだよ、優くん」
「優斗。好きだ」
キッチンへと回り込んでそばへと駆け寄る二人に、優斗は反射的に立ち上がり後退った。
一歩下がれば二人は一歩近付き、そのうちに壁際に追い詰められてしまう。右へ逃げようとすれば隆晴が壁に手を付き退路を塞がれ、左へ逃げようとすれば直柾が同じように手を付いた。
下へ、とチラリと視線を向ければ長い脚に引っ掛かりそう。退路は完全に塞がれた。
「あ……あの……」
「優くん、君のことが、好きだよ」
「優斗」
身長差の所為で高い位置から見つめられて、窓から射し込む太陽の所為で影の出来た顔はますます男らしく、色気すらあって……。
……もう、限界だった。
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