ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき

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青天の霹靂2

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「兄貴と何かあった?」
「えっ?」
「何があったんだよ」
「べ、別に何も……?」
「いや、無理があるだろ」

 空き教室内の白板や窓へとしきりに視線を彷徨わせる優斗ゆうとに苦笑した。一日一度は兄の話が出るのに、今日はわざと避けているのがバレバレだ。

 優斗は引きつった顔で固まる。これは、言ってはいけないやつ……。いや、まさかここまで真似しては来ないだろうが。
 それに隆晴りゅうせい直柾なおまさの事を“好意的”と感じていないような気がして、この話をするのは憚られた。

 優斗はその理由を、直柾が隆晴をからかう為だと勘違いしていたが。

「兄貴のことなら今更何聞いても驚かないからさ、ほら、言ってみろよ」

 と言う隆晴は、話すまで帰さない、そんな顔をしていた。
 確かに隆晴は直柾の驚くべき言動の数々を知っている。今更といえば今更だ。それに隆晴なら口も固いし、こんな事を相談出来るのも彼しかいない。

 優斗は何度か口を開いたり閉じたりを繰り返し、ようやく口を開いた。

「え、えっと、ですね……その…………、………………恋愛的な告白、を、されまして……」
「…………は?」
「やっぱりそうなりますよね!?」

 今更だ、と言っている隆晴でさえ驚いてしまうのだから、優斗はもっと驚いた。

 あの後マネージャーからの連絡で直柾は帰って行ったのだが、感情がついていかずソファに沈み込んでいるうちに正輝たちが帰ってきていた。夕飯も喉を通らず、一睡も出来なかったのだ。

「ずっと、ただのスキンシップの激しい兄だと思っていたのですが……」

 クォーターだから、海外に住んでいたから、俳優だから、特殊な出逢い方をしたものだから……。

 優斗はテーブルへと視線を落とす。
 ……それなのに、ずっとあんなに想ってくれていたのに、その想いに少しも気付かなかった。その間、どんな気持ちで接していたのだろう。どれだけ傷付けただろう。

「……意外と度胸あるじゃん」
「え?」
「あの人のこと、ちょっと舐めてたわ」

 優斗に距離を置かれる事が怖くてまだ黙っているかと思ったのだが。
 首を傾げている優斗へと向き直り、真っ直ぐに見据える。

「俺も、お前のこと好き」
「え……?」
「だから、俺もお前のことが好きなの。恋愛の意味で」
「………………え、っと……?」

 もはや優斗の思考は機能していないのか、目をぱちぱちとさせて隆晴を見つめている。その仕草が可愛くて、告白を理解されていない事も気にならなかった。

「お前、前になんで仲良くしてくれるのかって言ってただろ? その理由、お前のことが好きだから」

 恋愛感情だと認めたのは最近だが、想いを抱いていたのはもう随分昔からだ。

「好きな子が困ってたら世話くらい焼きたくなるだろ」
「す、きな、こ……」

 たどたどしく呟くところも幼い子供のようで、隆晴はそっと目を細めた。もう優斗が何をしても可愛く見えて仕方がない。

「こんなことなら、さっさと言っとけば良かった」

 優斗の反応を見る限りまだ返事はしていないようだが、もしその場で頷くような事になっていたら、と思うと悔やんでも悔やみきれない。

「………………いつ、から……」
「自覚したのは、お前の兄に会ってからだな」

 直柾さん……!!
 ようやく思考が回り始めた優斗は、心の中で叫んだ。
 そうだ。思い起こせば、直柾の話題を出し始めてから隆晴のスキンシップも激しくなった。引き金は、兄。

 ますます理解の追いつかない出来事が起こり、隆晴から視線を反らしてテーブルを見つめる。どうしよう。どうして。どうしたら。
 混乱しているというのに顎に手が掛かり、強制的に隆晴の方を向かされてしまう。

「優斗。好きだ」

 飾り気のない言葉は直接胸に届いて、優斗の頬を紅く染めた。そのままじわじわと耳まで紅くなる。
 顎を掴む手がするりと頬へと滑り、男らしい大きな手のひらが頬と耳まで包み込んだ。

「俺を選べよ。後悔はさせないから」

 真っ直ぐ、射抜くように見つめられて……。思考はまた、機能しなくなってしまった。



 隆晴を見つめたまま固まる優斗から、そっと手を離す。
 可哀想なくらい真っ赤になり、その熱の所為で涙まで浮かんで来たからだ。

「驚かせて悪かった」

 最後にポンと頭を撫で、優斗から離れた。
 時期を待ち過ぎたかと焦りもしたが、効果はあった。赤くなると言う事は、嫌悪感ではなく好感だという事。
 それに、すぐに断らないなら希望はある。

「返事は、いくらでも待つからさ」
「は……ぃ……」
「その前に、お前の兄と話す機会、作って欲しいんだけど」
「は、……あ、えっ?」
「可愛いな」

 うっかり口に出してしまった。また優斗は真っ赤になって俯くものだから、つい腕を伸ばしかけて……、今は駄目だとグッと堪えた。

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