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大学の友人
しおりを挟むこの大学には学食がいくつもある。隆晴とはちょっとした空き時間が多い為、軽食メインでテラス席のあるカフェに行く事が多い。
昼食に同じ学部の友人と行くのは、本館に近い、丼物や定食のある学食だ。今日は早い時間に訪れた為、さほど混んでいない。
すぐに埋まる二階席の窓際を陣取った友人は上機嫌だった。
彼は、笹山 耀。
明るめの茶髪とキラキラした焦げ茶色の瞳に、両耳に空いた三つのピアス。ダメージジーンズにロングTシャツの、いわゆる“陽キャ”と言われる人物だ。
大学に入ったばかりの頃、隆晴と同じ講義を受けていた時に隣の席になり、話しかけてくれたのが彼だ。戸惑う優斗と彼の間を、隆晴が取り持ってくれた。
「なんか、元気なくない?」
「え、そう?」
優斗は目を瞬かせる。確かに直柾の事で落ち込んではいたが、顔に出しているつもりはなかったのに。
「あ。あれだろ。さっきの講義、レポート多過ぎ!」
「あ、うん、それ」
「やっぱなー。マジでレポート多いよな。てきとーに書いたらバレるし」
「だね」
優斗は笑った。いつでもテンションの高い彼といると、こちらまで楽しくなる。
「ってか橘さ、丼物食いそうにないのに」
「え? なんで?」
「だってなー、丼物よりパスタとかオシャレ系のイメージなのに、カツ丼って」
優斗はまた、何で? と首を傾げた。今日はジーンズにパーカーにスニーカーというラフもラフな格好。たまにジャケットも着るが、オシャレとは程遠い筈。
「背もちっさいのに、カツ丼」
「ちっ……小さくないからな!? って、笹山もあまり変わらないし!」
4cmしか変わらない。
昔から食生活はしっかりしていたのに、それは身長には回らなかった。いや、これから伸びる予定だが。だがそのおかげで風邪も滅多に引かないし、肌ツヤも良くてニキビが出来た事もなく、医療費はほぼゼロで経済的だった。
「いやー、初対面の時があれだったからさ。竹之内先輩と並んだら、ほら、その時のイメージ?」
「先輩と比べられても」
確かに隆晴と並ぶと身長も体格も貧相に見えるだろうが。頬を膨らませると、彼はまた楽しそうに笑った。
「笹山って、なんで俺と仲良くしてくれるの?」
「ん? んん? 橘って、大学デビュー的なあれ?」
「え、違うけど……」
しまった、と視線を反らす。卑屈だったかもしれない。
だが耀は気にした様子もなく、んー、と首を傾げた。
「そんなの考えたことないなー。話したいと思ったから話しかけただけだし」
さも当然のように言う。話したいから話しかけて、話したいから同じ講義ではいつも隣に座って、昼食にも誘う。
「橘ってほんと真面目なのな。俺とか、肉一切れ貰っただけでもコイツいい奴! 一生ついてく! って思うけど」
「あはは。これどうぞ」
「マジか! いい奴ー!」
チラッチラッとあからさまにカツ丼を見る彼の皿に、カツをふた切れ乗せる。お返しに、と唐揚げが丼の上に乗せられた。
「橘って、いい奴で勉強も出来るし落ち着いてておとなしそーなのにちゃんと主張も出来るし、ノリもいいしなんか色々すごい奴なのに、めちゃめちゃ謙虚だよな」
「それは褒めすぎ……」
「ははっ、赤くなった」
「そりゃなるよ」
こんなに真っ直ぐな目で褒められたら。熱くなった顔をパタパタと手で扇ぐ。
「それに、話しやすくて和むなー」
「和む、かな?」
「和む~。声の感じ? 話し方? なんかさ、自然体ってか……あっ、保育園の先生みたいな?」
「あはは。それは笹山が幼稚園児ってことかな」
「あーっ、いや、でもそういう塩対応もなんかいい!」
「え、笹山ってそういう……?」
「違うわ! 橘がFカップ美女だったら大歓迎だったけど!」
巨乳の彼女ほしー! と素直過ぎる嘆きをする耀に、優斗はクスクスと笑った。
「う~っ、竹之内先輩みたいな顔に生まれたかった……。先輩の彼女とか絶対絶世の美女だろ……」
「先輩、彼女いないって言ってたよ?」
「なん、だと……。イケメンの無駄遣いじゃん……選び放題のくせに……」
クッ、と悔しげにテーブルを叩く彼に苦笑した。彼もイケメンの部類に入る筈が、この言動の所為でお笑い枠に分類されている、と別の友人から聞いた事がある。
「笹山もかっこいいよ?」
「ほんとに? 俺、かっこいい?」
「うん。それに、一緒にいると楽しくて元気が出るよ?」
「橘いい奴……! なんでお前は俺の彼女じゃないんだ……! でも癒されるわ~」
そんな事を言う耀に、優斗はまた楽しそうに笑った。
「お、噂をすれば! 先輩~!」
耀がブンブンと手を振る。その先には、優斗と同じくカツ丼をトレーに乗せた隆晴がいた。
「笹山、今日も無駄に元気だな」
「はい! 無駄は余計ですけど元気です!」
元気に返事を返すと、隆晴は楽しげに目を細めた。耀の目がキラキラと輝く。隆晴は耀にとっても憧れらしい。
「ここどうぞ! 俺、次の講義あるんで」
「そうか? 悪いな」
「いえ! イケメンに恩を売ってご利益得たいので!」
「いっそ清々しいな」
素直過ぎる耀に苦笑して、ご利益な、と耀の頭をポンと撫でた。後輩を撫でるのは隆晴の癖なのかもしれない。
――……? なんだろう、今の?
何とも言えない気持ちになり、優斗は胸元を押さえた。だが耀に“またな”と明るい笑顔を向けられ、優斗も笑顔で返した。耀こそいい奴、と思いながら。
「噂って?」
「え?」
「笹山が言ってたやつ」
「……あ。先輩の彼女は絶対絶世の美女だって話です」
そう言うと、隆晴は微妙な顔をした。
「彼女いないし、作る気もないけどな」
「笹山も言ってましたけど、イケメンの無駄遣いですよね」
「何だそれ。イケメンだろうが誰でもいいわけじゃないし、好きな奴に好きになって貰えるとは限らないだろ」
呆れた溜め息をつく隆晴に、優斗は目を瞬かせた。
「先輩、好きな人いるんですか?」
「は?」
「そういえば、俺を実験台にもしてましたし」
「……そのうち出来た時の、な」
「あ、なるほど」
いや、お前だよ。口から出かけた言葉は呑み込んだ。鈍いにも程がある。
「先輩、昨日まで、ありがとうございました」
「こっちこそ。結構あっと言う間だったな」
「ですね。今日も泊まります?」
「歓迎は嬉しいけど、最初から長期間泊まるのはさすがに図々しいだろ」
そんな事ない、と優斗は言うが、隆晴の気持ちとしては初お泊まりでそれはあまり良くない気がした。
だが、本音を言えば泊まりどころか一緒に暮らすのも良いなと思う。とは、優斗には言えないが。
「次はもっと泊まらせて貰うな?」
「! はい!」
嬉しそうに返事をする優斗の頭をポンと撫でる。そのままポンポンと撫で、わしゃわしゃと撫で回した。
「もー、何ですか先輩」
「いや、なんか、犬みたいで」
「また犬~」
優斗はガクリと項垂れた。また犬扱い。だが、優斗を撫でる隆晴の顔がとても優しくて、もう犬でもいいかな……と思ってしまうのだった。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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