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6巻
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魔導を極めるべく、タイムリープの魔導で少年時代へと遡ったワシ――ゼフ=アインシュタインは、首都プロレアの郊外にあるイエラの家に来ていた。
イエラは、空系統魔導を極めた「ウインドオブウインド」で、前世でのワシの師匠であるセルベリエの母でもある。
セルベリエは反抗心からイエラに戦いを挑み、「ウインドオブウインド」の称号を奪おうとした。
だがイエラの実力は凄まじく、力と戦略を尽くしたにもかかわらずセルベリエは惨敗してしまったのだ。
それでも、すれ違っていた二人の心は、この出来事を通して少しは近づいた……そんな気がする。
イエラに呼び出されたワシらはこの家を修業の拠点として使って欲しいと言われ、ついでにもう一つお願いをされた。
それが、セルベリエを一緒に連れていくこと。
最初は素直になれず文句を言っていたセルベリエだったが、イエラに諭され、結局ワシらと行動を共にすることになった。
「セルベリエ、だ……よろしく、頼む」
ガチガチに固まったセルベリエは、皆にぎこちなく頭を下げる。
緊張しすぎだろう、セルベリエ。
「私ミリィっ! 改めてよろしくねっ! セルベリエっ!」
「クロードです」
「レディアだよ~」
「あのえと……シルシュと申します」
テーブルを囲んだギルドメンバーが、改めて挨拶する。
すでに互いの名くらいは知っているが、こういうのはやっておくに越したことはない。
特にセルベリエは人の名前を忘れやすいからな。
「えへへ、仲良くしましょうね」
「あ、あぁ……」
ミリィに手を握られて戸惑うセルベリエだが、その顔はほんの少しだけ緩んでいた。
……ま、心配はいらないかな。
「不束な娘じゃが、仲良くしてやってくれるとうれしい」
イエラが深々と頭を下げる。
風の五天魔、イエラ=シューゲル。
セルベリエの母でエルフの少女――とはいえ、少女なのは見た目だけで実年齢は結構なものだが。
「ほれ、お前も頭を下げるのじゃ」
「ばっ……そういうのはやめろと何度も言っただろっ!」
「はて、何度もと言うが……そのようなことをいつ聞いたやら……」
「私が五歳くらいの頃、近所の子と遊んでる時に似たようなことをしただろっ! あれのせいで私は皆にからかわれたんだからなっ!」
「……お主、よくそんなことを覚えておるの~」
感心するイエラと憤慨するセルベリエ。
そんな大昔のことまで引っ張り出してくるとは、セルベリエはかなり恨みっぽい性格だな。
構ってくれなかった親のイエラに反抗して、「ウインドオブウインド」の号奪戦をやらかすだけのことはある。
まぁ友人の前に親が出てくるのは恥ずかしい、というのはわからんでもないが。
「イエラ。セルベリエが心配なのはわかるが、子供でもないんだし放っておいてやってもいいのではないか?」
ワシがそう言うと、イエラは茶を一口飲んで頷いた。
「それもそうじゃの、すまぬすまぬ。それでは我は塔に帰るから後は若い者同士で……」
席を立ち、あっさりと部屋から去るイエラ。
セルベリエはイエラの出ていった扉を、憎々しげに睨みつけている。
「まったく……」
そう吐き捨てるセルベリエの顔は赤く、目を瞑り眉を寄せている。
余程恥ずかしかったらしい。
「ねぇ、セルベリエっ!」
「な、なんだ……ミ……リィ……」
小さな声でだが、ミリィの名を呼ぶセルベリエ。
ミリィは満足したように頷き、笑う。
「私、さっきイエラさんに、セルベリエの小さな頃とそっくりとか言われちゃったの」
そういえば、塔からここに来る道中でそんなことを言っていたな。
とはいえ似ているのは釣り目なところくらいで、性格はそうでもない気がするが。
いや、セルベリエも小さな頃はミリィみたいなタイプだったのかもしれない。
……それはそれで……なんだか想像すると笑えてくるな。
「それは……ご愁傷様だな」
「ううん、そんなことないよ! 私もセルベリエみたいにかっこよくなれたらいいなって思ってるから!」
「……私もミリィのように素直になれれば……なんてな、ふふ」
聞こえるか聞こえないかくらいの声で、呟くセルベリエ。
ミリィの笑顔が眩しいのだろう。目を細めている。
「ねぇ! 私を弟子にしてっ!」
「ぶっ!!」
いきなりのミリィの言葉に、口に含んでいた茶を噴き出してしまった。
ゲホゲホと咳き込むワシの背を、クロードが擦ってくれる。
それを見て、不満そうにワシを睨むミリィ。
「な、何よゼフってば……」
「セルベリエさんはゼフ君の師匠なんですよ」
「「ええっ??」」
セルベリエを含む皆が、変な声を上げて驚く。
完全に忘れていたが、クロードには以前にそんなことを言っていたかもしれないな。
セルベリエがじろりとこちらに視線を向け、念話を送ってくる。
《……聞いていないぞ》
《クロードたちを説得するための方便だったのだ……話を合わせてもらえると助かる》
《まったく、本当に勝手な奴だなゼフは》
額に手を当て溜息を吐くセルベリエは、ミリィに向き直る。
「やれやれ。私に何が教えられるかはわからないが、弟子の一人や二人構いやしないさ」
「ほんとっ!?」
目を輝かせるミリィに、あぁと小さく笑いかけたセルベリエの表情は、ミリィと初めて顔を合わせた時よりも随分と柔らかくなっていた。
あのセルベリエに心を開かせるとはな。
やるではないか、ミリィ。
◆ ◆ ◆
夕食を終えると、各自に部屋を割り振ることになった。
散らかしそうなミリィと、それでも構わないから広い部屋がいいと言ったレディアが、二階の大広間を一緒に使い、どこでもいいと言ったクロードとシルシュは一階の物置を掃除して自分たちの部屋にするという。
ワシは三階……というか、屋根裏部屋を貰うことにした。
皆には何故そんなところにと言われたが、深夜一人で抜け出すことを考えると、目立たぬ場所のほうが都合がよいのだ。
そしてセルベリエは……いつの間にか姿を消していた。
「あれ? セルベリエはどこに行ったの?」
ミリィの問いに、シルシュが答える。
「部屋から出ていくのが見えたので声をかけたら、用があるとか言っていましたが……」
「……ワシが念話で聞いてみよう」
ちょっと目を離すと、すぐこれである。
これだからコミュ障は。
《おいセルベリエ、どこに行ったのだ》
《ちょっと外の空気を吸いに……》
やはりそうだったか。
大方、長時間人と一緒にいたから疲れたのだろう。
相変わらず、皆の輪に入るのが苦手なんだな。
窓の外を見ると、セルベリエは庭の樹に所在なさそうに寄りかかっていた。
ワシと目が合うと、こそこそと逃げ出し始める。
「まったく……」
仕方ない人だ。
捕まえるために外へ出ようとすると、どたばたと争うような音が庭から聞こえてきた。
イエラだ。イエラがセルベリエに関節技を決め、地面に組み伏している。
「まったく……心配して見に来てみれば、やはりこんなことじゃったか……」
「くっ……放せババア……っ!」
「んがっ! 誰がババアじゃっ! お母様と呼べお母様とっ!」
……相変わらずの親子である。
呆れて見ていると、イエラがこちらに気づいた。
「おおっ! ゼフではないか」
「……イエラ、帰ったのではなかったのか?」
「心配で樹の陰から様子を窺っておったら、逃げようとするこの子が見えたのでな。この通り、ひっ捕まえたというわけじゃ」
からからと笑うイエラ。
帰ると言っていたくせに……案外過保護である。
というか、ずっと見てたのかよ。暇人め。
「やはり、こういう場に馴染めぬのは変わっておらぬのう。人見知りなのは、エルフの血が関係してるのかもしれんが……」
森に住むエルフは人間嫌いで、迷い込んだ人を見かけると凄まじい速度で逃げ出すらしい。
ワシはそんな状況に出くわしたことはないが、セルベリエのコミュ障は確かにエルフの本能が関係しているのかもしれないな。
エルフの中には、イエラのようにやたらと馴れ馴れしい者もいるが。
「まぁいい。そんなことより愛する娘にいい知らせがあるのじゃよ」
「いい知らせ……?」
「うむ。皆が仲良くなるのに、丁度よいイベントじゃ」
イエラはにやりと笑うと、セルベリエを解放する。
といっても上に乗るのをやめただけで、腕を組み逃がさないようにはしているが。
ごそごそと懐から取り出したのは、一枚の紙だ。
「依頼書、か」
「うむ、一緒に仕事の一つでもやれば、少しは仲良うできるじゃろうと思ってな。のうセルベリエ、会話はムリでも戦闘ならそこそここなせるじゃろ?」
「……いらん世話を」
そう言いつつも、セルベリエは満更でもない様子だった。
流石母親、わかっているな。
セルベリエをギルドハウスに連れ戻し、具体的な話を聞くとするか。
部屋に戻ると、ミリィが駆け寄ってきた。
「セルベリエっ! どこ行ってたのよ、も~」
「少し野暮用でな……」
ミリィを除く皆は、そんなセルベリエに生暖かい視線を送っている。
セルベリエのコミュ障は、もはや完全に看破されていた。
「イエっち~、何か忘れ物でもしたの?」
「れ、レディアさん……こちら五天魔の方ですよ!? 失礼ですってば!」
慌てるクロードに、イエラは手を振った。
「いやいや、かまわんよ。しかしふむ、イエっちか……セルベリエ、ちょっと呼んでみてくれぬか?」
「ババアで十分だろ……つぅ~!?」
セルベリエの尻を、笑顔で思いきり抓るイエラ。
そのままワシらの方を向き、依頼書をテーブルの上に広げた。
「話が逸れたの。こいつを見てほしい」
「依頼書……ですね。イエラさんの印があります」
「うむ、わらわが見繕ってきたものじゃ」
クロードの言葉に、イエラは頷いた。
こういった依頼は、通常であれば冒険者ギルドを通して受けるものだ。
しかし五天魔ともなると、わざわざ冒険者ギルドを介することなく、自身の配下の者に仕事として命じることもある。
ただ、ワシらはイエラの部下ではなく、実力としても未だ駆け出しといったところ。
わざわざ正式な依頼書を用意したのは、そういったワシらの状況と周りの目を考慮してのことだろう。
ちなみに依頼内容は特殊な魔術紙に刻まれており、違約した場合にはペナルティもある。
五天魔からの依頼――流石に皆も緊張しているようだ。
「ほれミリア、読んでみるとよい」
「ミリィですからっ!」
ミリィはイエラから依頼書を受け取ると、たどたどしく読み上げていく。
「えと……現在サザン島にて魔物が大量に発生中。速やかに魔物の群れを殲滅すること。対象はスティビートル。期間は一ヵ月、報酬は百五十万ルピ」
スティビートルとは、黒い甲虫が巨大化したような魔物だ。
動きが素早く、地面に落ちたアイテムを拾って身に蓄える習性がある。
向こうから襲ってくることも少なく大した強さではないが、繁殖力が高くてドロップアイテムに一斉に集まってくるため、非常にウザったい。
年中、どこかしらの冒険者ギルドが出している討伐依頼である。
初心者でもパーティを組めば難なくこなせる依頼で、達成難易度はDといったところだ。
イエラにしては、温い任務である。
皆もそう思ったのか、場の緊張感が緩んだ。
「意外と楽な依頼ですね。スティビートルなら以前、教会の仕事でよく倒していました」
「油断大敵ですよ、シルシュさん。五天魔の方からの依頼ですから、何があるかわかりませんしね」
ぽわんとした意見を言ったシルシュを、クロードが窘める。
イエラとしては、ワシらに親睦を深めさせるためにあえて緩い依頼にしたのだろうが、クロードに疑われて微妙な顔をしていた。
「……でさ、セっちんは何で後ろ向いてるの?」
「……」
レディアがソファーに腕を回して振り返ると、セルベリエが背を向け、こそこそと逃げようとしている。
「いや、少し外の空気を吸いに……」
「今吸ってきたばかりだろうが。逃がさぬぞ」
ワシがコートの裾を掴み、ぐいと引っ張ると、セルベリエはバランスを崩して後ろによろけた。
背中側からワシらの座るソファーに倒れてきたセルベリエ。
ごちん、という音を立てて、セルベリエの後頭部がミリィの頭にぶつかった。
「いったぁ~~っ!?」
「……すまない」
「謝るくらいなら、最初から逃げなければよかろうに……ほら、ちゃんと座れ」
なおも身体をよじって逃げようとするセルベリエを捕まえたワシは、膝の上に座らせて、強制的に話を聞かせようとした。
もぞもぞして落ち着かない様子だ。……まぁ逃げ出したくなるのもしょうがないか。スティビートルはセルベリエが苦手とする魔物だからな。
イエラも同じことを思ったらしく、大きな溜息を吐いた。
「まったく……相変わらず虫嫌いは直っておらぬようだのう」
「ばっ……言うなっ!」
赤い顔でじたばたと暴れるセルベリエを、ワシは両腕で押さえつける。
そう、この人は虫がとてつもなく嫌いなのだ。
前世でも虫型の魔物が苦手で、そういった魔物が出るところへは一切近づこうとしなかった。
どうしても戦わねばならない時は、いつもワシが倒していた気がする。
なるほど、普通の魔物退治であればセルベリエが無双してしまうが、苦手とする魔物であればワシらと協力する必要がある……か。
イエラめ、考えたではないか。
「何か共に仕事を成し遂げれば、この子も打ち解けやすかろう。色々と勝手を言ってすまぬが、引き受けてもらえるか?」
ぺこりと頭を下げたイエラに、ワシらは顔を見合わせる。
「どうしよっか? 受けちゃう?」
「そうですね。特に断る理由もないですし」
ミリィの問いかけに頷くクロード。
「サザン島ってバカンスで有名な場所だよね。泳げるところもあるらしいよ~」
「美味しいモノとか、あるんでしょうかっ! 楽しみですっ!」
レディアとシルシュは、すっかり遊びにいく気分だな。
「……ちっ」
セルベリエは不本意そうに舌打ちするが、それ以上文句を言うこともなかった。
皆もやる気のようだし、ワシとしても大量の雑魚を乱獲するのは嫌いではない。
うずうずしながらワシの言葉を待つミリィに、頷く。
「いいんじゃあないか?」
「よ~しそれじゃあ……その依頼を受けるってことで、けってーっ!」
ミリィが依頼書にさらさらとサインをすると、紙は薄い光を放ち、契約が完了する。
ふむふむと満足げに頷くイエラ。
「それでは、頼んだぞい」
「はいっ!」
というわけで、ワシらの次の冒険の舞台はサザン島に決まったのであった。
「とりあえずさ、明日水着買いに行きましょうよ! 私泳ぎたいっ!」
「おおっ! いいねぇ~ミリィちゃん」
ミリィの意見に、レディアは超乗り気だ。
なんか目がエロ親父みたいになっている……皆の水着が楽しみで仕方ないといった感じだ。
シルシュもうれしそうに尻尾をぱたぱたと動かしている。
「私、泳ぐのは得意なんですよ!」
そう言ってシルシュは両手で水をかくような仕草を見せる。
犬かき……やはり獣人だからだろうか。
「あの、一応依頼なので遊び半分なのはどうかと……」
「まぁ硬いことは言わないの、クロちゃんは~」
「もぅ、レディアさんたら……ゼフ君も何か言ってくださいよ」
「……まぁいいんじゃないか?」
浮かれる皆を見て不満げに呟くクロードだが、たまには息抜きも必要だ。
修業、修業の毎日は、慣れているワシはともかく、皆にとってはハードな生活だったからな。
たまには休ませておかねば、いざというときに動けなくなってしまう。
このバカンスが終わったら、またハードな狩りに付き合ってもらわねばならん。
セルベリエも加わったし、かなり上級の狩場に行けるだろうな……楽しみである。くっくっ。
「な、何でうれしそうなんですかゼフ君……」
呆れ顔のクロードの横から、ミリィが顔を覗かせる。
「ふふーん♪ きっと私のせくしーな水着姿が楽しみなのよ♪」
「誰がセクシーだ、このぺったんこめ」
「はぁっ!? あるわよほらっ! それに成長期だし! あと一年もしたらレディアくらいになるんだからっ!」
ミリィが堂々と張る薄い胸と、レディアの胸を見比べるが……絶対にないな。それだけは断言できる。
ワシの考えたことに気づいたのか、ミリィは頬を膨らませていた。
それを察したクロードは、慌てて話題を変える。
「そ、そういえばサザン島には、珍しい果実が沢山なっているらしいですよ」
「パフェってのがあるらしいよ~。甘くて美味しいんだって~」
「わぁ、美味しそうっ!」
クロードとレディアが上手いことミリィを釣ってくれたな。
わいわいと騒ぐ皆を遠くから見ながら、セルベリエはつまらなそうな顔をしていた。
ふむ、すぐに打ち解けるのは無理だとしても、少しは慣れてきたかと思ったのだが。それに、ミリィには多少は心を開いていたのではなかったか?
「セルベリエ、そんなに皆と一緒にいるのが嫌なのか?」
「……そういうわけじゃない」
「ならば何故?」
「私は……派遣魔導師に追われる身だ。ゼフたちと一緒にいては迷惑をかけてしまうだろう。だから……」
そういえばセルベリエは、自身の能力成長を促進する魔導グロウスのスクロールを魔導師協会からパクって追われているのだったな。覚えるために借りただけのつもりが、返すタイミングを逸してしまったと言っていた。
スクロールはワシが代わりに返しておいたのだが、「盗人」と認定されたセルベリエの罪が消えたわけではない。
ワシから目を逸らしたセルベリエは、少し落ち込んでいるようだ。
「あぁ、そうそう。言い忘れておったがの」
そんなセルベリエの様子に気づいたのか、イエラが何かを思い出して声をかけてくる。
「セルベリエはもう協会に追われることはないぞ。五天魔である、わらわの部下として申請しておいたし、この家の家主としても登録しておるから、逃げ出すと逆に疑われることになるじゃろうな」
「……随分と気が利くことだな」
「はっはっは、風の五天魔を舐めるでないぞ」
イエラの言葉に、セルベリエは安堵半分うんざり半分といった感じだ。
セルベリエの性格をよくわかっているイエラなりの配慮なのだろうが、少々やりすぎな気がしないでもない。これでは家出されても不思議ではないな。
「ところでさ、セっちんはどこの部屋がいい?」
「……私はどこでも構わない。何なら外でもな」
「セルベリエさんは昔、ここに住んでいたんですよね? なら、自分の部屋があるのでは?」
「あるにはあるが……」
クロードの問いかけに、セルベリエはミリィの方を見て言葉を濁す。
恐らくミリィとレディアが使うと言っていた二階の部屋なのだろう。
ミリィもそれに気づいたのか、髪の毛をくるくると指で巻いている。
「えっと……私たち下に移ろうか?」
「気にするな。本当にどこでもいいんだ。それにあそこは子供部屋だし、今の私にはちょっと恥ずかしい」
子供部屋か。
そういえばあの部屋にはぬいぐるみやおもちゃがたくさんあったし、壁に動物などが描かれていたっけ。
ミリィは気に入っているようだったが。
「……何でこっち見て笑ってるのよ、ゼフ……」
「くっくっ、気にするな」
「では、私たちの部屋の隣はどうでしょう?」
そういえばシルシュとクロードの部屋の隣に、小さな部屋があったか。
恐らくシルシュ達の部屋と同じく物置なのだろうが、片付ければ十分に使えるはずである。
狭い部屋のほうが、セルベリエの場合は落ち着くだろうしな。
「わかった、ではそうしよう」
「何かあったら遠慮せず言ってねっ!」
「あぁ、そうさせてもらう」
ミリィの言葉に、セルベリエは僅かに表情を緩めて頷いた。
「では、セルベリエさんの部屋を作りましょうか」
クロードの呼びかけのもとに皆で物置を片付けると、何とか一人なら生活できそうなスペースが確保できた。
これでやることは大体終わったかな。
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