効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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325 精霊の森へ⑥

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 タイタニアから降りたワシとクロードは、荒野をくるりと見渡す。
 広い荒野に動くモノは、風になびく草くらいだ。

「うーん……魔物がどこに居るのかわかりませんね。シルシュさんがいれば、ニオイで探れたのですが」
「ワシが魔力の気配を探ろう。……少し待っていろ」

 シルシュ程ではないが、ある程度ならばワシでも魔力の気配を探知できる。
 目を瞑り、魔力を集中させていくと北の方に魔力の気配を察知した。

「あっちだ。行くぞクロード」
「わかりました」

 クロードの手を取り、テレポートを念じる。
 テレポートは視界範囲内に移動する魔導、見晴らしの良い荒野なので、一気に移動出来る。
 確かこの辺りから……気配の場所に辿り着いたワシはクロードと周囲を見渡す。

「ゼフ君、あれを見て下さい」

 クロードの声に振り向くと、岩陰に隠れ震えるウサギの姿が見えた。
 ワシが探り当てたのはアレだったのか?

「ふふ、こっちにもウサギがいるんですね」

 ふやけた顔で、兎に近づこうとするクロード。
 どうもこちらの大陸の魔物は、魔力の形が独特なので気配を探りにくい。動物のものと勘違いしたのだろうか……いや、違う。

「待て! クロード、それに近づくな!」
「へ?」

 クロードの手を掴み、思い切り引いた瞬間である。
 地面が盛り上がり、足元が崩れていく。

「わわっ!? じ、地面が……っ!?」
「ちっ!」

 即座にテレポートで地割れから離脱する。
 崩れゆく地裂の底にワシらが見たものは、岩肌を思わせるような模様のサメ。
 サメへ向かい、スカウトスコープを念じる。

 メガロドロン
 レベル80
 魔力値26734/26734

 ギョロリと大きな目をこちらに向け、地面を削りながら穴を這い出てくるメガロドロン。
 大きな口の中には鋭い歯が幾つも生えており、本来舌があるであろう場所には先刻のウサギがいた。
 ウサギを餌に、近づいた獲物を地面から狙うという算段か。

「危ない所でした……ありがとうございます。ゼフ君」
「くっくっ、食べようとしたが逆に食べられるところだったな」
「ち、違いますし! 朝ごはんに丁度いいななんて、思ってないですし!」

 慌てて手を振るクロード。……今のは冗談だったのだが、本当に朝飯にするつもりだったのか。
 クロードは誤魔化すように、メガロドロンへ剣を向け、構える。

「行きますよ! ゼフ君っ!」
「わかったわかった」

 クロードがメガロドロンへと斬りかかる。
 しかし、見た目通り硬い肌を持つメガロドロンには全く効いていないようで、身体を高速回転させクロードを弾き飛ばした。
 ――――が、その間にワシが後ろに回り込んでいる。
 無防備なメガロドロンの横っ腹に手を当て、タイムスクエアを念じる。
 時間停止中に念じるのはグリーンクラッシュとホワイトクラッシュ。
 ――――二重合成魔導、ビートクラッシュ。

 分厚い岩肌を衝撃が突き抜ける。
 みし、みしと内部の肉を揺さぶる音が聞こえ、メガロドロンは口から血を吐いた。

(っと、しまったな)

 硬い相手だったので思わずビートクラッシュを使ってしまった。
 緋の魔導レベルを上げたかったのだが……癖というのは恐ろしい。
 まぁ次から出来るだけ緋の魔導を使っていけばいい話。
 転がるメガロドロンが白い腹を見せ、そこへクロードが剣を振り下ろす。

「はあああああっ!」

 突き立った刃はメガロドロンの腹を走り、裂いた。
 クロードの持つ剣先からは、緑色の魔力光が淡く灯っている。
 メガロドロンの皮膚は生半可な硬さではない。恐らく何らかの魔導を剣に纏わせたのだろう。
 ――――白閃華、スクリーンポイントを纏わせた斬撃のように。
 クロードの剣を受けたメガロドロンへ追撃のビートクラッシュを撃ち込むと、巨大な身体が粒子となり消えていく。

「今のはグリーンクラッシュを纏わせたのか」
「はい。あまり多くは出来ないですが、近接攻撃で有効な緋と翠くらいは何とか」
「緑の魔導を纏わせた一閃……さしずめ翠閃華といったところか?」
「えぇと……一応翠崩斬と名前を……って何笑ってるんですか! ゼフ君っ!」
「くっくっ、いや、別に? ……カッコいい名前だと思うぞ……ふははっ」
「うぅ……」

 クロードは見る見るうちに赤い顔になり、俯くのだった。
 いかんいかん、あまり時間もないしクロードを苛めるのはこのくらいにしておこう。

「次々行くぞ、クロード」
「んもう、ゼフ君のせいなんですからね!」

 文句を言いながらも、クロードはワシについてくるのだった。

「次はこの川の辺りから気配がするな」
「ゼフ君、鳥が溺れています!」
「うむ。しかしこれは……」
「罠……ですね」

 クロードも流石に二度目は引っかからないようだ。
 暴れる小鳥をよく見ると、作りは少々荒いし水中に向けて管のようなものが伸びている。
 管を伝った先、水底でこちらの様子をじっと窺う不細工な巨大魚に、スカウトスコープを念じる。

 デログライギョ
 レベル77
 魔力値24528/24528

 こいつも先刻の魔物と同じく、エサを使い獲物を捉える類の魔物なのだろう。
 水面に映るワシらに気づくと、疑似餌の小鳥を引っ込めて逃げていった。
 亜人の多く住む地には、こういった知能の高い魔物が多く生息する。
 複雑なマナの流れがそうしているのだろうか。
 面白いといえば面白いのだが……

「これでは大して稼げないな」

 一体一体に時間をかけていては、効率が悪い。

「じゃあもう少し遠くに行きませんか?」

 ふむ、とはいえあまり遅くなっても皆が心配するかもしれない。
 だがまだ消化不良だな……考え込んでいると、クロードがワシの腕を抱きついてくる。

「まだ日が昇るには時間がありますし、あとちょっとだけ……ね、ゼフ君」

 クロードもまだ物足りないのだろう。
 いつになく積極的である。
 後ろをちらりと見ると、岩陰に佇むタイタニアの姿が見える。
 大分遠くに来たつもりだったが、まだそう離れていないようだ。
 あれを目印にすれば、そう迷いはしないか。見晴らしの良い荒野だし。

「……そうだな。もう少し遠くへ行ってみるか」
「やったぁ! では行きましょう!」

 ぴょんと飛び跳ねるクロードと腕を組んだまま、ワシはテレポートを念じるのだった。
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