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322 精霊の森へ③
しおりを挟む皆と別れたワシは、一人気ままに街をぶらついていた。
無論、目当てはこの街特産の石製品である。
店には石を加工した様々なものが売っており、特に石屋と呼ばれる店には多種多様な石材が置かれている。
ワシはその中で比較的人の少ない所を選んで入って、店主に話しかけた。
暇をしている店ならば、色々な話を聞かせて貰えるかもしれない。
「よう、お邪魔するぞ」
「らっしゃい! ……お、あんたはメアちゃんの連れてきた外人じゃねえか」
「ソトビト?」
「あぁ、あんたら島の外から来たんだろ? たまに来るんだ。見りゃあわかるよ」
ソトビトか。確かにワシらの見た目は、彼らからすれば変わっているだろう。
ともあれ、主人はどうやらメアの知り合いのようである。
なら話も早い。
「あぁ、ここが初めての街でな。色々と珍しいものも多い」
「なら見ていきねぇ!」
もとよりそうさせて貰うつもりである。
気になる石を手にとっては、店主の前に持って行く。
「この石は何というものなのだ?」
「エンゴ石っていうのさ。強く打ち合わせると、火を吹くんだ」
「火打ち石のようなものか?」
「馬鹿言っちゃいけねぇよ。そんなチンケなもんと比べられては困るぜ……見てみな」
店主がエンゴ石とやらを勢いよく打ち合わせると、爆発したかのように勢い良く炎が吹き出した。
おおう、確かに火打ち石なんてレベルではないな。
下手な魔導師のレッドクラッシュほどの威力はあるだろうか。
無論ワシの程ではないが。
「こいつはナルカミ石。打ち合わせると雷を起こせるんだ。……んでこれはミオル石、水にブチ込むと溶けて大量の水を生み出すんだ」
「ほうほう、興味深いな」
本当に色々な効果があるようである。
他にも非常に軽くて丈夫な石や、弾性を持つ石など、建築に使えそうな石も多数あった。
タイタニアもこれらの組み合わせで作られているらしい。
なるほどこれらを上手く使えば、あれほどの巨人を動くようにも出来るのだろう。
……とはいえ、尋常な膂力では不可能だろうが。
「……でよ、そろそろ何か買っていかねぇか?」
「そうだな……」
石屋に置いてある石は不思議なものが多く、使い方次第では戦い方のバリエーションも増えそうだ。
だがレディアもかなり買い込んでいるだろうし、ワシが買うのは自分の分だけで十分だろうな。
「ではこのエンゴ石と、さっき言ってたナルカミ石……ミオル石を幾つか貰おうか」
「へへっ毎度あり」
この辺りは魔導と組み合わせて使えそうである。
とりあえず、袋の空きに詰め込めるだけ買い込んでおいた。
「さて、大体見て回ったし戻るとするか……ん?」
店を出たワシの目に映ったのは人ごみの中、不安そうに立ち尽くすミリィであった。
きょろきょろと、あたりを見渡している。
何をやっているのだアイツは……呆れるワシに気付いたのか、すごい勢いで駆け寄ってきた。
「あーっ! やっと見つけたわ、ゼフーっ!」
「おいおい、皆と一緒ではなかったのかよ。何故一人なのだ」
「えっとね……歩いてたらゼフを見つけて、追いかけてたらいつの間にかはぐれちゃった……えへ♪」
誤魔化すようにぺろりと舌を出すミリィ。えへではないわ馬鹿者。
クロードにはもっとしっかり見ておくように言っておこう。
「……まぁいい。ワシも帰ろうとしていたところだ。今度は迷子になるなよ」
「わ、わかってるわよ……」
「本当にわかっているのか? 何度も何度も迷子になりおって……」
「あだだだだっ! 頭が割れるぅ~っ!」
能天気なミリィの頭に拳をぐりぐりと押し付けながら、ワシらはメアの家を目指す。
街の中心を流れる川を渡ろうとした時である、陸の少し出っ張った部分にメアの姿が見えた。
一緒にいるのは耳の長い老人である。
「メアちゃんだ。一緒にいるのは、さっき言ってたおじいちゃまかな」
「ふむ、何を話しているか気になるな」
「ちょっとゼフ、盗み聞きはいけな……むぐっ!?」
「しっ、静かにしていろ」
ワシはミリィの口を押さえ、近くの木陰に隠れた。
正直言って、メアの事は完全に信用しているわけではない。
あれはワシらの前での演技かもしれない。
ワシらの前では言えなかった本音が、今なら聞けるかもしれないからな。……それに、何か面白い話が聞けるかも。
指先をメアの方へ振るうと、空気中に魔力の糸が走る。
――――空系統魔導、ウィスパーポート。
空気を伝わせて、遠くの会話を探る魔導である。使用の際は風の流れる場所で、かつ風下でなければならないが、諜報活動などで重宝する。
ちなみに協会の持つ固有魔導の一つで、これを含めた幾つかをエリスがこっそり見せてくれたのだ。
別にワシの為ではないから、と言っていたが、全く持って素直でない奴である。
耳を澄ませば、風に乗って二人の会話が聞こえてきた。
「……ですのでぇ、戸締りはきちんとして、毎日歯を磨くのですよぉ。食器は食べたらすぐ洗って、困った事があったら隣の人と助け合ってくださいねぇ」
「ええいもう、大丈夫と言うとろうが。何度言わせれば気が済むんじゃ……」
呆れたように言う老人の顔を、メアは心配そうに覗き込む。
どうやら他愛のない世間話のようだ。……つまらん。
「むぅ……本当に大丈夫ですかぁ?」
「いいからとっとと行かんかい!」
「ではぁ、私がいない間も元気でやっていてくださいねぇ」
「おう、メアも気を付けてな」
メアは老人に手を振って走り去る。
そしてすぐ、また別の人に声をかけたのだ。
「あ、ルチャおばさまーっ! お元気でしたかぁーっ」
「あらまぁメアちゃん、いつも元気そうねぇ。どうしたの今日は」
「えぇ、実は少しばかり留守にすることになりましてぇ……」
メアはその女性とまた話を始め出す。
やはり内容は取るに足らない世間話だ。
そうしてしばらく話し込んだあと、またまた次の人を見つけては話しかけていく。
「……もしかして挨拶、街の人全員にするつもりなのかな」
「……そのようだな」
何とも気長なことである。
これは時間がかかりそうだな。やれやれ、もうしばらく街を見て回るか。
そう考えた瞬間である、背後に気配を感じ振り返る。
「お主らが外から来た者たちか?」
立っていたのは一人の青年。
背が高く、口をへの字に曲げ太い眉を吊り上げた青年は、中々気難しそうな印象を受けた。
耳が長いし、恐らくエルフだろう。メアの知人かもしれない。
「そうだが……誰だ? お前は」
「ふん、我が誰だろうとお主らに関係あるか?」
そう言い捨て、男はぷいと顔を逸らした。
なんだこいつ……そっちから話しかけてきたくせに。
呆れるワシに構わず男は続ける。
「我の事などどうでもいい。それよりメアだ。街から連れていくのだろう?」
「連れていくと言ってもちょっと案内して貰うだけだぞ。大して心配する事はあるまい」
「メアは誰かを連れて来る事はあっても、誰かと共に行く事は今まで一度もなかった。十分に心配する理由にはなる」
不器用な言い方だが、男の顔にはメアを想っている様子が見て取れる。
口ぶりからしてメアの事を古くから知る者なのだろう。
無視していこうかと思ったが、少し真面目に話を聞いてやるか。
「……この街はな、メアが作り上げたといっても過言ではない」
「どういう事? 確かに皆と仲良さそうな感じだったけど」
「あの者らはメアが余所から連れてきた他種族なんじゃよ」
目を瞑り、遠い日を思い起こすように青年は語り始める。
「百年ほど前だったか。この街は元々我らエルフが少数で住んでいた所なのじゃ。エルフは長寿だがそれ故子供が出来にくい……流行病で大きく数を減らした我々はもはや滅びを待つのみだった」
確かにエルフは生殖能力が極端に低い種だ。
しかし他種族と混じれば、ある程度子供は生まれやすいというのを聞いた事がある。
その事を本能的に悟ったメアは、ワシにアプローチをかけてきたのかもしれんな。
「そんなある日、両親を魔物に殺され行き場を失った獣人の子供をメアが拾ってきた。しかしエルフは排他的な種、反対され捨ててこいと言われた……だがメアは捨ててくるどころか、また新たに他の子供を拾ってきたのじゃよ」
「それはまた……人の話を聞かない子だったのだな」
今もそうだが。子供の頃からのようである。
「じゃろう? メアには皆が困り果てていたよ。その後も次々と拾ってきて、子供が十人を超える頃には誰も何も言わなくなってな。それどころか子供の面倒を見るようになっていたよ……いつの間にか街には多くの種族が住み着くようになり、賑やかになっていた」
青年は行き交う人々の姿を眺めながら、呟く。
彼の目には、街の人と楽しげに話すメアの姿が映っているようだ。
「この街はメアが育てたようなものなんじゃ。だからメアがいなければ街は立ち行かん……必ず返せよ」
青年はそういうと、鋭い目で威嚇するようにして睨みつけてくる。
やれやれ、過保護というかなんというか……よほど大事にされているようだな。
ため息を吐きながら、青年の方を向いて応える。
「言われなくてもな。無理についてこようとしても絶対に返してやるよ」
「……メアがついてくるのが気に入らんような言い方じゃの」
「返すと言っているのだから絡んでくるなよ」
「貴様……まぁいい、とにかくメアは大事にしろ! 必ずじゃぞ!」
「はいはい、わかっているさ」
「………………ちっ」
青年は舌打ちをして、足早に去っていった。
めんどくさい奴である。エルフというのはどいつもこいつもこんな感じなのだろうか。
ぽつりとミリィが呟く。
「メアちゃん、街の人たちに大事にされてるんだね」
「少々甘やかされているきらいはあるがな」
「あはは、確かに!」
くすくすと笑うミリィ。ふっと、目を細めて遠くで老人と話すメアを見つめる。
「……本当言うとさ、私メアちゃんがついてくるって聞いてちょっと不安だったんだ。危なっかしい子だから。最悪の場合は私が身代わりになってでもゼフを守る、そう思ってた。……でも心配はいらなさそうね」
にひひ、と白い歯を見せて笑うミリィ。
ったくワシの心配など、10年早いぞ。
こそばゆくなったワシは、照れ隠しにミリィの頬をつまんで引っ張る。
「ひょっ! いふぁいよゼフっ!」
「ふん、ワシの心配より自分の心配をしろ。これから行く場所は何があるかわからんぞ」
「はなひへーっ!」
ミリィで遊んでいるとメアがこちらに駆け寄ってきた。
「ゼフさま、ミリィさまぁ。こちらにおじいちゃまが来ませんでしたかぁ?」
「先刻メアが話していたのがそうではないのか?」
「いいえぇ、おじいちゃまはエルフですから外見は若いんですのよぉ。ゼフさまより少し上の年齢の背の高い人ですわぁ」
「それってさっきの……?」
思わずミリィと顔を見合わせる。
先刻の青年がメアの言っていたおじいちゃまだったのだろうか。
やたら若かったな……年を取らなさすぎだろうエルフ。
「もう、逃げてばかりでどこにいるのかわかりませんのよ」
ため息を吐くメア。
……もしかしてメアにお別れするのが辛くて、少しでも時間を稼ごうとしているのだろうか。
「はぁ、もう困った人ですわぁ」
そう言ってメアは大きなため息を吐くのだった。
結局「おじいちゃま」は数時間の鬼ごっこの末ようやく捕まり、ワシらは街を発つのであった。
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