135 / 208
連載
248 レオンハルト家⑦
しおりを挟むワシが戦闘態勢に入ると同時に、オックスの右手に黒い剣が生まれる。
湾曲した黒い刃、凶々しい刀身は柄ごと漆黒に染まっている。
オックスは黒い凶刃を構え、にたりと嗤った。
「ゼフ君、君は邪魔だ――――だから、死にたまえよッ!」
そして駆ける。
凄まじい速度で駆けてきたオックスの振り抜いた剣閃が闇夜に溶けるように走り、咄嗟に突き出したワシの義手を半分に斬り裂いた。
(アロンダイト鋼で出来た義手をいとも容易く……!)
何という切れ味だ。
しかもあの黒い刀身、暗闇では相当に見切りにくい。
ガラン、と切り落とされた義手の落ちる音が鳴るのを待たず、オックスは更に前に出る。
「ちっ!」
突きを躱すべくワシは一歩後ろに飛び、ホワイトクラッシュを念じる。
黒い刀身が義手に触れた刹那、閃光がオックスの眼前で炸裂する。
「ぐあぁぁぁあっ!?」
「目を覚ませ、オックスっ!」
眩い光に目を潰され悲鳴を上げるオックスのどてっぱら目がけ、斬られた義手を叩き込む。
ぐしゃり、と骨が折れ内臓が破裂する感触。
しまった、少しやり過ぎてしまったかもしれない。
(まぁ死にはしない……かっ!)
そのまま加減せず、全力で振り抜く。
天井付近まで吹き飛んだオックスはしかし、何事も無かったかのように一回転し着地した。
ニタリ、と不気味に嗤い口元についた血を舌でぬぐう。
「やれやれ、参ったなコレは」
外見からある程度予想はしていたが……やはりオックスめ、人間やめているな。
悶絶モノの一撃のハズだが、平然とした顔でまたワシに近づいてくる。
「ふふ、酷いじゃあないかゼフ君……」
「あぁ? 先に手を出してきたのはお前なのだがな」
「くく、違うよ僕が言いたいのはそっちじゃない」
「……どういう事だ」
とにかくこの場は不利だ、家の中では魔導も使いにくいしレオンハルト家の者もいる。
何とか外へ誘導せねばならない。
手を考えるべくワシはオックスとの会話を続ける。
「ゼフ君……キミの周りにはあんなに女の子がいるじゃあないか。それなのにクロードさんからも好かれて……酷い話だよねぇ?」
「……だからどうした」
「だからさ、一人くらい僕に譲ってくれてもいいんじゃないのかい? クロードさんは元々僕の婚約者なんだぜ?」
「……ハッ」
余っているならくれ、だと?
仲間をまるで犬猫扱いするかのような言葉。
頭に血が上るのを自覚しつつ、ワシは吐き捨てるように言い放つ。
「それで夜這いか? 女が欲しいなら正々堂々モノにしてみせろよ。僻みは見苦しいぞ?」
「……っ!?」
ワシの挑発に余程気分を悪くしたのか、オックスの表情が邪悪に歪む。
相当カンに触ったようだな。
ふん、この手の輩を煽るにはコレに限る。
「き……さまぁ……っ!」
「来いよオックス。お前の情けない負けっぷりをクロードの前に晒してやる」
血走った目で、烈火の如く怒るオックスを見てワシの頭は一気に冷えていく。
熱くなった頭を冷やすには、相手をより激情させるのが有効だ。
鏡に映った自分を見るように、怒り狂った相手を客観的に見る事で冷静さを取り戻す事が出来る。
それにしても今のオックス、何があったかは知らんが異常なまでの魔力である。
奴の全身を走る刺青のような黒い線、幽鬼のような表情……あいつ何かに取り憑かれているのか?
「……まぁ出来るだけ殺さぬよう努力はするが……死ぬなよ? オックス」
「貴様は死ねェ! ゼフっ!」
真っ赤な顔で突撃してくるオックスに向け、ワシは一歩前に出る。
良し、上手く激情させる事に成功したようだな。
いくら剣筋が見えずとも、真っ直ぐ向かって来るならば躱すのは容易だ。
「はぁっ!!」
「……ふん」
怒りで単調となった見え見えの斬撃を躱し、隙だらけのヤツの身体にワシの背中を押し当てる。
全身を支えに右手を当て、タイムスクエアを念じた。
時間停止中に念じるのはレッドクラッシュ、ブルークラッシュ、ホワイトクラッシュ。
――――三重合成魔導、バニシングクラッシュ。
魔導を放つと同時に全身を突き抜ける衝撃。
それと共にごおん、と壁に何かがぶち当たる音が聞こえた。
緋、蒼、魄の三重合成魔導、バニシングクラッシュは魔導の反作用によって生まれる強烈な衝撃をぶつけ、相手を吹き飛ばす魔導。
目論見通りオックスが家の外に吹き飛んだのだろう。
ワシも全身を使って堪えるが、耐えきれず扉を破って部屋の中に転がり込んでしまった。
「きゃあっ!?」
可愛らしい悲鳴が聞こえ、ワシは何者かに抱き止められる。
暗闇でよく見えないが背中に感じる柔らかな膨らみ。
察するにここは……クロードのベッドの上か。
「ぜ、ゼフ君……?」
「よう、悪いな寝ている最中に……」
とりあえず、ベッドから起き上がる。
クロードは殆ど透けたネグリジェを着ており、その姿は非常にエロティックだ。
なんちゅう格好で寝ているんだお前は……全く、オックスが入る前に止められてよかったな。
「い、一体何事ですか……? もしかして夜這いに来てくれた……とか?」
「……アホか、敵の襲撃だ。寝ぼけていないでさっさと着替えろ」
「えと……あはは、ですよねー……少々お待ちを……」
そう言って布団を被るクロード。
どこか残念そうな顔なのは気のせいだろうか。
クロードは布団の下でもぞもぞと着替えているようだ。
「時間がないから手短に話すぞ。オックスが何者かに操られたような状態になっている。ヤツはワシが食い止めておくから、お前はすぐに着替えて両親を守るのだ」
「はいっ!」
「いいこだ」
クロードの頭をぼんと撫でると、心配そうにワシを上目遣いで見て呟く。
「あの……オックスさん大丈夫なんでしょうか……?」
「さてな……まぁ何とかしてみせるさ」
そう言い残し、ワシはクロードの部屋を後にするのであった。
************************************************
人気投票始めました。是非投票くださいませー!
http://vote1.fc2.com/poll?mode=browse&uid=10893272&no=1
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。