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連載
245 レオンハルト家④
しおりを挟む「ごほっ! げぼっ! むふうううん……」
「えほっえほっ……は、母上……っ?」
「あらあら二人とも、お行儀の悪い」
咳き込みながら青い顔で身体を震わせるアシュトン。
逆に、クロードは真っ赤な顔でプルプルと震えている。
「……そ、そんな事よりどういうつもりだフローラ……げほっ」
「ゼフさんにクロードのお婿さんに来て貰おうって話?」
「ごふんっっっ!」
冷静に答えるフローラとは逆に、もう一度咳き込むアシュトン。
折角収まりかけていたのに、身体をびくんびくんと震わせながらゲホゲホと咳を繰り返している。
おいおい死んでしまうぞ。
暴走する母を止めるべく、クロードが真っ赤な顔で掴みかかる。
「ははは母上っ! ななな何を言っているのですかっ!?」
「あら、でもあなただって満更でもないのでしょう?」
「それはその……うぅ……ゼフ君も何か言って下さいよぉ……」
「ふむ……ワシとクロードの子供、か」
「ここここ子供って……ぜぜぜっゼフ君っ!? じじっ冗談はその……やめて下さいっ!」
「馬鹿者、重要な事ではないか」
代々固有魔導を受け継ぐ家にとって、迎える婿や嫁の魔導師としての才能の見極めは最重要だ。
固有魔導は使い手を選ぶ為、魔導師によっては使えない場合もある。
家に伝わる固有魔導と相性が良くない者を家に迎え入れた場合、最悪の場合産まれた子に固有魔導が受け継がれない可能性もあるのだ。
例えば緋系統の固有魔導の家系に翠系統の魔導を得意とする魔導師を交わらせた場合、産まれてきた子供はどちらも中途半端な魔導しか発現出来ぬ事もある。
その為、同じ系統の術者を迎え入れるのが常道とされている。
特に緋と蒼、空と翠など、相反する系統の術者……今回でいえば魔導師殺しの家系に優秀な魔導師を迎え入れた場合、子供は両親の力を十分に受け継がれない。
――――いや、正確には受け継がないと思われていた。
未来での魔導師協会の研究によると、相反する術者の子供はその極端な才能を扱いきれていないだけで、十分に訓練を積ませればその力を両親以上に引き出す可能性を秘めているのだ。
魔力を上手くコントロール出来ない子供の頃は能力を打ち消し合い半端にしか力を発揮することが出来ないが、成長しコントロール出来るほどのレベルになると今まで抑制されていた分、潜在能力の上がり幅が大きくなる。
根気強く指導してやれば、相反する系統の魔導を十分に受け継いだ優秀な魔導師として育つと聞く。
こうして生まれた子は初めの頃は戦闘力が低い為、高レベルまで育つまでに死亡したり戦闘に不向きとされ戦いから退いてしまう場合が多かった。
その為、この法則は未来まで知られなかったのである。
だがはて、優秀な魔導師と魔導師殺しの子ではどうなるのだろうか。
魔導師殺しは使い手の魔導師としての才能も殺す諸刃の剣……しかし以前戦った派遣魔導師のグレインは両方を器用に使いこなしていた。
と言う事は理論的には魔導師殺しを使える魔導師というのは不可能ではない、か。
むしろ最も相反する系統であるワケだし、非常に優秀な子が生まれてくるのかもしれない。
「ふむ、ワシとクロードの子か……存外悪くないのかもしれんな。くっくっ」
「あ……うぅ……こど、子供……ゼフ君との……」
そう呟くワシの隣でクロードが口をパクパク動かしている。
おいおい少しは落ち着けよ。仮定の話だからな?
目を白黒させているクロードを落ち着かせるべくを頭を撫でてやるが、まるで熱があるのかという程に熱い。
湯気が出ているぞクロード。
「えへ……子供……ですか……えへへ……」
「……おい、大丈夫かクロード? 仮定の話だぞ、仮定の」
「えへへ……えへへへ……」
……駄目だ聞こえていない。
頬を赤く染め、口元をだらしなく緩ませ不気味に笑っている。
怖いぞクロード。
「あなた、ほら二人はもうあんな話をする仲なのですよ?」
「む、むぅぅ……」
「言っておくが仮定の話だからな……」
ツッコミを入れるが三人ともワシの言葉を聞いていない。
何だかえらい誤解が広がっているような気がする。
「だがレオンハルト家は騎士の家系……弱き者を迎え入れるわけには……」
「あら、先日ナナミの街にあらわれた黒い魔物を倒したのはこのゼフさんなのよ? 私も見ていたから間違いはないわ」
「なっ……あ、あの黒い魔物を……? 本当なのかゼフ君!?」
「……まぁそうだが」
「父上っ! ボクもゼフ君には何度も助けて貰いました! ゼフ君は僕より兄上よりずっと強いです!」
「む、むむう……」
妻と娘、二人して追い詰められ唸り声を上げるアシュトン。
特にクロード、必死である。
ワシの逃げ場がなくなっているような気がしてならない。
「おいワシは――――」
「すまんゼフ君っ!」
ワシの言葉に被せるようにアシュトンが叫び、頭を下げる。
その迫力に圧倒され、思わず言葉を飲んでしまった。
「実は……クロードにはもう婚約者がいるのだ……」
『はぁっ!?』
アシュトンの言葉にワシも含め全員が驚きの声を上げる。
この様子からしてフローラもクロードも、初耳のようだ。
それにしてもクロードに婚約者だと?
いや予想はしていたが母親がワシを推してきた時点でそれはないものだと思っていたが……不意打ちだったぞ。
「……本当にすまない。実は1年ほど前からさる騎士の家から何度も縁談の話を受けていたのだ。その家も魔導師殺しの家柄で、我がレオンハルトの血が……魔導師殺しがどうしても欲しいらしく、是非ともクロードを嫁にと……」
「あなたっ! 私に相談もせずそんな話を進めていたのですかっ! それにクロードを嫁に上げてしまえばレオンハルト家が絶えてしまうでしょうっ!」
「私だって何度も断ってはいたさ。……だがどうしても金が要り用になってな。援助を受ける代わりにいつか、クロードを嫁に差し出すと言ってしまったんだよ……それにあちらに子が生まれれば、次の子はレオンハルト家に養子に出すとも約束をしてくれた」
「そ、そんな……」
がくりと崩れ落ちるフローラ。
クロードも茫然とした顔で苦渋の表情をする父親を見ている。
ワシはゆっくりとアシュトンへ近づき、その襟首を掴み引き寄せた。
「……いいかげんにしろよ。自分の都合で家を追い出し、帰ってきたら今度は勝手に嫁ぎ先を決めているだと? クロードはお前の都合のいい道具ではないのだぞ」
「……君の怒りはもっともだ。私を殴りたいというなら好きにするといい」
そう言ってアシュトンは目を閉じる。
殴って解決するならいくらでも殴ってやるが……くそ、何かいい考えはないか。
思案を巡らせていると、ワシの脳裏にふといいアイデアが浮かぶ。
……そういえば騎士は強くなければうんぬんと言っていたな。
「……おい、騎士は強くあらねばならない、弱き者を受け入れる事は出来ぬ……とか言っていたな」
「う、うむ……確かに言ったが……」
「クロードを嫁に欲しているのは魔導師殺しを持つ騎士の家……対魔導師として特化している者が、もしどこの馬の骨ともわからぬ魔導師に負けたとあらば、どうする?」
そう言ってニヤリと笑うと、アシュトンはワシの言いたい事を察したのか、顎に手を当てて頷く。
「それは……ふむ、なるほどそう言う事か」
つまり、その婚約者とやらが魔導師であるワシに倒されてしまえば、弱き者を受け入れる事は出来ぬと婚約を破棄出来るであろうという事だ。
「だ、だが構わんのかね? 君には本来関係のない話だろう?」
「いいや、そんな事はないさ」
そう言って、ワシはクロードの肩に手を乗せる。
「お前はワシのものなのだろう、クロード?」
「……はいっ」
元気よく返事をし、クロードはワシに思いきり抱き着いてくるのであった。
************************************************
お知らせ
このたび効率厨魔導師第二の人生で魔道を極めるが書籍化となりました。
おめでたですね。
つきましては27日に1~35話までをダイジェストに差し替えさせていただきます。
そして書籍化にあたりまして、変更点がいくつか。
媒体、高級媒体はジェムストーンに統一(紛らわしいし何だかダサいので)
サモンサーバントは最初ゼフは知らなかったのですが、これは既に知っているという事に(元フレイムオブフレイムともあろうものが、専門外とはいえ知らない魔導があるのはおかしいので、ただし知識として知っているのみです。金がかかりすぎるので魄の魔導が一般的ではないという設定はそのまま)
ブルーゼル→アクアゼルに(蒼の魔導となんかかぶるので、あとダークレイスも名前変える予定です)
内容は基本的にそのままですが、設定が結構ふわふわしていたところがあったのをちゃんと煮詰めた感じです。
というかそれだけで多分2万字くらい増えています。
この辺りずっと直したかったのですが、書籍化を機会にやーっと直せたんですよね。
加筆部分はほとんど設定部分ですが、ミリィや母さんとの絡みがちょっと増えてるかもーって感じです。
(しかし一巻の最後でミリィと結婚どうのって話だったのに、今はクロードとそんな話になっているという……)
そして気になるイラストですが、一言でいうと美麗と言った感じでしょうか。
そしてゼフがものっそいイケメンになっています。
そしてそしてミリィがやたら美少女になっています。
クロード、レディアもかなりいい感じだと思います。
ぜひ手に取って見ていただけたらなと!
目標の書籍化も叶った事ですし、これで心置きなく完結まで書けますね。
それでは引き続きよろしくお願いいたします。
謙虚なサークル
PS、あとあと今更のご報告なのですが『この小説家になろうがアツイ!』でも紹介されていました。
ありがとうございました。
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