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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード56-72

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地下格納庫 ジン回想――

 ハルヒは今回のミッションを企画書を見せながら説明し始めた。

「次に、 目標とする『惑星カサンドラ』についてだが、これを見てくれ」 

 ハルヒが企画書をめくると、様々な大きさの星の中の太陽系らしい所に『地球』と書いてある。 そこから矢印が伸びており、矢印の先にある小さい赤い星に『ココ!!』と書いてある。

「随分大雑把な天体図ですね……」
「航行ルートはコイツ、『ベラ』の頭に入っておる! 迷子にはならんから安心せいっ!」

 ミモザの指摘に、ハルヒはドヤ顔で『ベラ』呼ばれたアンドロイドの頭に手をポンと置いた。
 朔也のスキルでアンドロイドの名前が『ベロニカ』と判明した時、どうしても名付け親になりたかったハルヒは、『ベラ』と言う愛称を付けたのだ。

「先輩、 でも、 なんで『ベラ』なんです?」
「は? コイツが女性型だってお前が言うから諦めたんだぞ?『ベム』と『ベロ』をなっ!」

 ミモザの問いにドヤ顔で答えるハルヒに、朔也は呆れ顔で言った。

「確かに、 その中じゃ一番女性的かもね……」

 朔也はベラに聞いた。

「じゃあ、 呼称は『ベラ』でイイのかい?」
「否定。 ワタシの正式名称は『XM177E2 ベロニカ』デス」

 仏頂面でそう言うアンドロイド。

「それだと長すぎるだろ? だから『ベラ』は略称なんだよ」
「ウゥゥゥ……」

 朔也がゆっくりと説明するも、アンドロイドは首を左右に振って低く唸っている。

「いわゆるコードネームだ。 中島の一式戦は『オスカー』、 四式戦は『フランク』と言う具合になっ!」

 ハルヒは大戦時に日本の戦闘機を敵軍が呼ぶ際に付けた仮の名称の例を挙げた。
 するとミモザがポンと手をつき、納得した。

「なるほど!『スカート付き』とか『とんがり帽子』、『木馬』とかと同じですねっ!」
「左様。 なまじっかホントの名前が判明するから困惑するんだ。 呼称など何でもイイ。 違うかベラ?」

 ハルヒに諭され、アンドロイドはようやく首を振るのを止めた。

「まことに不本意ではありますが、 コードネーム『ベラ』で登録シマス」
「やっと認めたか、 この石頭め……」

 名前の件が落ち着き、ほっとする三人。
 改めて朔也がベラに話しかけた。

「それでだねベラ、 この星にはどの位で着くんだい? 聞いている作戦予定日数は一週間なんだけど……」
「この星と地球との距離は約5光年ですから――」
「は? ちょっと待ってよ! 『光年』って?」

 朔也がベラの説明を途中で遮った。
 光年とは、光が1年かけて進む距離であり、 1光年をキロメートルに直すと9兆4600キロメートルである。 

「と言う事は、 一体地球から何キロ離れてるんですか? ベラちゃん?」

 ミモザは恐る恐るベラに聞いた。

「約50兆キロメートル、 デス」


「「「はぁ~っ!?」」」 


 ベラがそう言うと、何故かハルヒまで驚いていた。

「それって、 どの位かかるって事?」 
「光速で移動した場合、 単純に5年かかります、 デス」


「「「はぁ~っ!?」」」 


 再び驚いてのけ反る三人。

「光の速度でも往復で10年? ありえないでしょ!?」
「そんなに仕事しなかったら、ジン様干されちゃいますよ!?」

 二人はハルヒに詰め寄ると、ハルヒは二人をなだめながら言った。
 
「大丈夫だ。 落ち着け二人共、 どうどう」
「これが落ち着いていられるかっ!」
 
 二人が若干落ち着いた所を見図り、ハルヒはベラを睨んだ。

「ベラ……お前も人が悪いぞ? ちゃんと説明しろ!」
「否定。 ワタシは人間ではありません、 デス」
「つべこべ言わんで説明せんかボケ!」
 
 すました顔のベラに、強めのツッコミを入れるハルヒ。

「この宇宙船『ナビスコ』には『亜空間航行システム』が搭載されています、 デス」

「「亜空間航行!?」」 

 そこでハルヒがドヤ顔で朔也たちに向き直った。

「左様! コイツなら、 亜空間航行を使う事により光の速度で5年かかる所を何と! 一日で目的の星に行けるのだ!」


「「おお~っ」」パチパチパチ


 二人は感心してハルヒに拍手を送った。


「先輩、 それで『亜空間航行』ってどう言う理論なんです?」 
「よくぞ聞いてくれた! 『亜空間航行』とはだな……」

 ハルヒは一度天井を見て、言葉を整理した。

「出発点と到達点を『亜空間』で繋ぐ様なイメージだ。 お前たちの感覚では『ワープ』と言った方がしっくりくるだろう」


「「『ワープ』!?」」


 朔也たちは顔を見合わせた。

「この宇宙船ってそんなに高性能なの? スゴい発見じゃないか!」
「いろんな星に一瞬で行ける……素敵ですっ! 変な色とか言ってごめんなさい!」 

 二人はガンメタリックの宇宙船をまじまじと眺め、称賛した。
 それを見てハルヒはうんうんと何度も頷いた。

「な? 光栄な事だろう? 朔也、 お前は人類初の『亜空間航行』経験者になるのだからなっ! ハッハッハ」

 その言葉に朔也の顔が強張った。
 そして、恐る恐るハルヒに聞いた。

「ちょっと待って、 今まで誰も?」
「ああ」
「試験飛行とかは?」
「やっていない。 ぶっつけ本番だ!」
「何ィィィ!?」

 あまりにも場当たり的なハルヒの態度に、ミモザも呆れていた。

「専門家の意見とかは無いんですか? 軍の『宇宙開発局』とかに技術協力を仰ぐとか……」 
「宇宙開発局はクズだ。 有人ロケットもまだ実現化しとらんSFヲタの巣窟だ」

 以前、アマンダもその様な事を言っていた事から、軍の宇宙開発局は未だ発展途上の機関と言う事らしい。

「とにかく! ベラの奴が問題無いって言うから、 問題無いんだろう? 多分?」
「何で疑問形!?」

 ハルヒの言い草に全力でツッコむ朔也。 
 顔色が悪くなっていく朔也に、ベラは声をかけた。

「心配ありません朔也サマ。 亜空間航行の成功率は87.333%、デス」
「えっ!? 100%じゃないの!?……不安でしょうがないよ……」
 
 ベラの説明に、さらに顔色が悪くなる朔也。

「ベラは心配無用って言ってるんだ! 覚悟を決めろ!」
「何でボクがこんな目に? トホホ……」

 ハルヒがそう言って朔也の肩をポンと叩いた。
 そんな弱っていく朔也を見ていたミモザは、何かに気付いたのか、癖であるメガネの位置を直した。

「先輩……これは、 『陰謀』ですね?」チャ
「は? 何言ってるんだお前?」

 ミモザに指摘され、何処かソワソワし出すハルヒだった。
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