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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード55-4

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職員室 準備室――

 静流とシズムは、放課後に職員室に呼ばれ、奥にある別名『取調室』と呼ばれている準備室にいた。
 期末テストの成績に疑問を持ったムムちゃん先生が、ネネを伴い静流たちを尋問していた所に、何者かが部屋に入って来た。

「やぁ! お困りかね? 静流キュン!」
「睦美先輩!?」

 入って来たのは睦美だった。

「失礼します、先生方」
「柳生さん? 何か御用?」
「一言助言させてもらおうと思いましてね」

 いきなり入って来た睦美に驚くムムちゃん先生。 

「今までの説明でわかったでしょう? 彼、 五十嵐静流キュンには、 今後の授業自体が『消化試合』だという事を!」ビシッ

 睦美はそう言って決めポーズを取った。

「『消化試合』ですって? 何を言ってるの?」

 睦美の言い草に呆れてツッコむムムちゃん先生。
 しかし、ネネはそこをツッコまずに話を進めた。

「そんな事はわかっているわ。 でも授業は受けてもらうしか無いのよ、 単位取得にはね」
「ふっふっふ。 当然です。 授業に出なくてイイとは言っていません。 ただ、 彼に『試験』を受けさせる事がいかに無意味だと言う事をお伝えしたかったのです」
「試験で学力を測る事が無意味だと言うの?」
「左様です。 今後一切彼に試験は必要ありません」

 そう言い切った睦美は、自信に満ちていた。
 ムムちゃん先生は、不安そうに睦美に聞いた。

「今後って、 3年生になったらまた今まで通りの生活に戻れるのよね?」
「それはどうでしょうね? 静流キュン、 ちょっとイイかな?」
「は、 はい」

 自信満々で静流に声をかけた睦美。

「シュレーディンゴーが解いた『五円ハゲ解釈』の反論定義は?」
「ええと、 箱の中でシュレッダーにかけられたネコを再構築させる術式でしたっけ? ヒドい事しますよね……」
「安心しろ。 あくまで仮定だ。 実験はしていない」

 今の問答に、ネネの表情が鋭くなった。

「ん? その辺りは確か、 3年の選択科目の『魔導量子力学』でやる所よね? まさか……」
「そうです。 そのまさか、 です」
「えっ? えっ? どう言う事?」
 
 睦美とネネの掛け合いに付いてこれずに、ムムちゃん先生は二人を交互に見た。

「このように、 彼は既に高等学校で学ぶ、 すべての知識をアーカイブしているのです!」ビシッ

 睦美は勝ち誇ったようにポーズをとり、話を続けた。

「彼の試験に関しては私に一任させて頂きたい。 私の方で当たり障りのない成績を収める様に調整します」
「調整? そ、そんな事、 認められません!」

 睦美の提案を、ムムちゃん先生は全力で否定した。

「待ってムム。 どうかしら、 彼女に任せてみては?」
「せ、先輩!? 本気ですか?」

 ネネの意外な答えに、ムムちゃん先生は目を大きく開けてネネを見た。

「彼女がやらない場合、 最悪私たちが彼のダミー答案を作る事になるのよ? それの方が立場上マズいでしょう?」
「た、 確かにそうですね……でも……ごにょごにょ」

 ムムちゃん先生は最初口ごもったが、やがて口を開いた。

「そうですね……お願いした方がよさそうですね……」
「わかってくれましたか! ご理解感謝いたしま――」
「ただし、 条件があります!」
 
 睦美の言葉を遮り、ムムちゃん先生は顔をこわばらせながら静流を見た。

「五十嵐クンにお願いがあるの!」
「な、何です? ムムちゃん先生?」

 ムムちゃん先生は静流を真っ直ぐ見て、真剣な顔で静流に言った。

「ウチのクラスの追試組に、 勉強を教えてあげて欲しいの!」
「はぁ!?」

 ムムちゃん先生の無茶ぶりに、静流は面食らった。

「ぼ、僕が? つまり達也たちの先生になれって言うの?」
「そう。あの子たちだって、 その方がイイと思うの」

 そう言ってムムちゃん先生は、真剣な顔で静流の手を取った。

「……こうなったら睡眠学習でも何でもイイ。 とにかく追試をクリア出来ればイイから!」
「うぇ? 困ったなぁ……」
「このクエストがクリア出来れば、アナタの秘密は墓場まで持っていく。 だから、 お願い!」

 いつの間にか先生と生徒の立場が逆転している事に、ネネはツッコんだ。

「威厳もへったくれも無いわね? 見苦しいわよ?」
「でも先輩、 だって……」
「ノルマですか? ムム先生?」

 先生同士の会話に、睦美が割り込んだ。

「そう。 来年度の査定に響くのよ。 わかって頂戴」
「成程。ではそのクエスト、私も一枚かませてもらいます」
「アナタが? 理由は?」
「私の都合上、 安易にスルー出来ないのです」

 それを聞いていた静流は、恐る恐るムムちゃん先生に聞いた。

「ムムちゃん先生、 一応聞きますが『追試組』って、 達也とお蘭さんの二人で合ってます?」
「いいえ。 もう一人います」
「え? 誰です?」

 青くなったムムちゃん先生の顔を見て、静流は息を吞んだ。
 
「……篠崎イチカ。彼女はレッド3枚。 ある意味ラスボスよ」
「え? しののんが?」
 
 篠崎イチカは生徒会の『影』として常日頃諜報活動に勤しんでおり、実は真琴と同じ静流の『アルティメット幼馴染』であった。
 静流はとっさに睦美を見ると、睦美は頭を抱えていた。

「睦美先輩? 知ってたんですか?」
「ああ勿論。 生徒会関係者に赤点保持者がいるなんて事は前代未聞なのだ! ましてや留年、 果ては落第などと言う事になれば……くぅぅ、 空前絶後で未曾有の危機で由々しき事態であり極めて遺憾である!」

 睦美はそうまくしたて、肩を落とした。

「睦美先輩? 大丈夫ですか?」

 静流が睦美を覗き込むと、睦美がガバッと静流に迫った。

「静流キュン! 篠崎を奈落から引き揚げてくれ! 頼む!」
「そんな事、 僕に出来ますか?」
「手段は検討する。 引き受けてはくれまいか?」

 ズンズンと迫ってくる睦美に圧倒され、静流は溜息をついて言った。 

「ふぅ。 わかりました。 やってみます」

「ありがとう! 静流キュン!」
「ありがとう! 五十嵐クン!」

 静流の返答に、ほぼ同時に歓喜の声が上がった。

「最高の一手を考える! 期待してくれ!」
「頼むわね? 私の来年度がかかってるの!」
「あわわわ」

 二人はそう言ってズンズンと静流に迫った。

「まったく、アンタたちったら……」

 それを見てネネは呆れて溜息をついた。
 静流はムムちゃん先生にこぼした。

「でも、 達也より下がいたとは意外でした」
「今までは加賀谷サンとツートップ、いやツーボトムかしら? だったのよね……」
「でも、 今回お蘭さんはレッド1枚だって、 先生褒めてましたよね?」
「そうなの! どういう心境の変化なのかしら?」パァァ

 途端にムムちゃん先生の顔が明るくなった。

「恐らく蘭子クンの場合、冬休みに外せないイベントがあるからでしょうね」
「イベント? 何それ?」

 ムムちゃん先生は睦美の言っている事がわからずに、キョトンとしていた。

「わかりませんか? 今年最後の大イベントがあるでしょう?」
「うわぁ。 思い出した……」

 睦美の問いに答えたのはネネだった。

「ああ。 クリストマスね?」
「正解です!」

 ネネの回答にハッとしたムムちゃん先生。

「もう、そんな季節なのか……」

 興味を持ったネネが睦美に聞いた。

「柳生さん? クリストマスに何かイベントでもあるのかしら?」
「軍の保養所で忘年会を兼ねて一席設けるんです。 なぁ! 静流キュン?」
「え、ええ。 学園のみんなとかと約束してるんです」 

 ネネはあるキーワードに食いついた。

「保養所って、 温泉あるの? 最近肩こりがきつくて。 あと冷え性とか諸々……」
「勿論。 電気風呂とかもありますよ?」

 それを聞いたネネが悪戯っぽく静流に言った。

「面白そうね。私も行こうかしら?」
「参加されます? 歓迎しますよ♪」

 その様子を見ていたムムちゃん先生は、肩を震わせながら怒鳴った。

「もう!! 冬休みの計画は、 追試が無事に済んでからにして!」
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