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第9章 冬の……アナタ、どなた?
エピソード55-3
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職員室 放課後――
ムムちゃん先生の意図がわからないまま、静流とシズムは職員室に着いた。
「「失礼しまぁす!」」
「あ! コッチよ五十嵐クン! 井川サンも丁度良かったわ!」クイクイ
「げ、アッチはまさか……」
静流たちを見るなり、手招きで応えるムムちゃん先生。
誘導されたのは、職員室の隣にある準備室で、進路指導室代わりにも使われ、生徒たちはココを『取調室』と呼んでいる。
「来たわね、 五十嵐クン」
「木ノ実先生!?」
「ネネちゃん先生?」
準備室にいたのは、机に両肘をつき、顔の前で手を組んだ『あのポーズ』をしている司書の木ノ実ネネだった。
ネネは静流の母親と同級生であり、ムムの大学の先輩でもある。
シズムたちの芸能活動については学校側の窓口を務める等、静流の身の周りで起こる色々な相談を受けている、協力者的な立場の先生である。
「五十嵐クン、とんでもない事をしてくれたわね?」
「すいません。 これでも調整したつもりだったんですが……」
「シズム、アナタもよ。 事の重大さを理解していない!」
「あちゃあ、裏目にでたかぁ」
三人の会話が理解出来ていないムムちゃん先生は、机をバンと叩いて言った。
「三人で話を進めないで下さい! それで、 私にもわかるように最初から説明して下さい!」
「まぁまぁ、落ち着いて。 どうどう」
静流はムムちゃん先生を落ち着かせようとした。
するとネネがゆっくりと口を開いた。
「ちょっと前に相談に乗ってあげてたの。テストの件でね」
「相談? 五十嵐クン? 私は担任よね? 何で先輩には相談できるの?」
「で、ですから落ち着いて下さいよ。 今説明しますから」
静流は一度、頭の中を整理してから、言葉を選びながら話し始めた。
「何と言いますか……僕、 テストの問題がわかっちゃうんです。 全部」
「え? どう言う事?」
静流の言い分に、首を傾げるムムちゃん先生。
「つまり僕の頭の中には、 全教科の教科書の内容とその参考書、 及び過去30年分のテストの問題が入ってるんです」
そう言って静流は、右手の人差し指で自分のこめかみあたりを指した。
「何ィィィ!? どうやったらそんな事出来るのぉ!?」
ムムちゃん先生は目を見開き、顔を赤くして机をバンと叩いた。
「ムム、 落ち着きなさい!」
「せんぱぁい……」
ネネにたしなめられ、シュンとするムムちゃん先生。
「ムムに説明して。 簡潔にね」
「むぅ~」
ネネに説明を促され、恐る恐る口を開く静流。
「怒らないで下さいね? ってもう怒ってるか……」
静流はそう前置きし、ゆっくりと口を開いた。
「実はその……『睡眠学習』のせいなんです」
「何、 ですってぇ~!?」
それを聞いたムムちゃん先生は、案の定怒った。
「『睡眠学習』!? そんなバカな方法でそれだけの情報を覚える事なんて、出来るワケ無いじゃない!」
「だ、だから怒らないで下さいって……」
そこでネネがフォローを入れた。
「それが出来たの。 どうやったのかシズム、 ムムに説明して上げて」
「はぁーい♪」
シズムは準備室に会った『高校生のための進路指導・就職支援マニュアル』と言う本をおもむろに口に入れ、呪文を唱えた。
【リード】パァァ
「ジジ……解析中……完了」ベェーッ
解析が終わると、シズムの口から本が吐き出された。
「静流クン、オデコ貸して♪」
「ほい」
右手で前髪を搔き上げ、オデコを出した静流に、シズムはキスをした。
今度は静流が呪文を唱えた。
【ロード】パァァ
静流のオデコに金色のオーラが輝き、体内に吸い込まれて行った。
「何なの? 今のは?」
「イイ? 驚かないでねムム。 ちょっとソレ、貸しなさい」
「はい」
腕を組んで首を傾げているムムちゃん先生に、ネネが悪戯っぽく微笑んだ。
「じゃあ、 P.193、 『求人票でブラック企業か否かを見分ける方法』」
「えと、『平均残業時間で判断せず、対象の職種で判断せよ』『年間休日数が114日以上あるか?』『福利厚生や労働組合の有無』でしょうか?」
それを聞いたネネは、そのページを開いてドヤ顔でムムちゃん先生に見せた。
「ん? 確かに一言一句同じ……」
「ムム、 つまりそう言う事なの。 彼はそれを『眠っている間』にやってのけたってワケ」
ネネの言う事が信じられず、ムムちゃん先生は本を無作為に開く。
「そんなぁ……じゃあP.43は?」
「大学志望調査の取り組み 『オープンキャンパス参加』『公開授業』『体験学習』……」
「じゃあP.215は?」
「出願戦略の立案 『進路実現に向けたカリキュラムの徹底』……」
そのあとも何度か確かめるが、全部合っていた。
「……全部合ってる。 信じられない」
目の前で起こっている事を認められず、呆然とするムムちゃん先生にネネは声をかけた。
「シズムが五十嵐クンの忠実な部下なのはわかるわよね?」
「……わかります」
「シズム、 説明しなさい」
「はぁい♪」
ネネに促され、シズムが説明を始めた。
「静流クンが家で毎晩テスト勉強してて、寝てる時うなされてたの。 『助けてぇ~』って」
「お恥ずかしい限りです……タハハ」
「それで、『どうやったら静流クンを助けられるかなぁ?』って思ったの。 それで私が【リード】して、寝てる時に強制的に【ロード】させてもらったの」
ここまで大人しく聞いているムムちゃん先生。シズムが続けた。
「先ずは教科書。 でも、知識だけだと問題の解き方がわからないでしょ? だから真琴ちゃんに参考書を借りたの。 それでもまだ手ぬるいと思って、過去30年分の全国模試の問題と解答を読んだの♪」
とんでもないことをサラッと口に出すシズム。
続いて静流が話し出した。
「この間、 授業で教科書を開いたんです。 そしたら頭の中にぶわぁ~って色んな内容が入ってきてブラックアウトしそうになったんです」
「そのあと世界史の小テストがあったんですが、 勉強もろくにしてなかったのに、 全部わかっちゃうんですよ……」
静流はそう言って、気まずそうにムムちゃん先生を見た。
「問題がわかるのなら、 そのまま答えればイイじゃない? 今の所『カンニング』とかの不正ではないんだし……」
あっけらかんと言い放つムムちゃん先生に、静流は少し拗ねた顔で言った。
「そう簡単に言わないで下さい。 僕はただ、目立ちたくないんです……」
「ふーん、 そんなもんかねぇ……私だったら前人未到の『オール満点』を取って伝説を作るな♪」
つくづく欲の無い静流に、ムムちゃん先生は溜息をついた。
「それで相談を受けたのよ。 『どうすれば目立たないか』ってね」
ネネはそう言って溜息をついた。
「目立ちたくないのなら、 もう少し上手く間違えなさい。 ムムだけじゃなくって、他の先生方からも怪しまれてるわよ?」
「えっ? そうなの?」
「適当に空欄にしたでしょう? 回答にムラがあって、『コイツ、 本当に理解してるのか?』って首を傾げてたわよ?」
「そんな事言われても……わざと間違えるって難しいんですよね……」
「シズム、アナタもよ! ただでさえ目立ってるんだから、もう少し加減しなさい!」
「はぁーい」
ネネに叱られ、ペロッと舌を出すシズム。
「でも困ったわね。 取り敢えず三学期をどうやり過ごすかが今後の課題ね……」
傍から見れば何のことは無い事でも、静流には大問題であったのだ。
容姿の事だけでなく、学業も注目を浴びるなど、静流には耐えられなかった。
「コッチでダミーの答案を用意するか? バカバカしい……ああもう、 面倒な事に巻き込んでくれたわね?」
「本当にすいません……」
頭を掻いて愚痴るネネに、静流は小さくなって謝罪した。
すると突然準備室に入って来る者がいた。
「やぁ! お困りかね? 静流キュン!」
ムムちゃん先生の意図がわからないまま、静流とシズムは職員室に着いた。
「「失礼しまぁす!」」
「あ! コッチよ五十嵐クン! 井川サンも丁度良かったわ!」クイクイ
「げ、アッチはまさか……」
静流たちを見るなり、手招きで応えるムムちゃん先生。
誘導されたのは、職員室の隣にある準備室で、進路指導室代わりにも使われ、生徒たちはココを『取調室』と呼んでいる。
「来たわね、 五十嵐クン」
「木ノ実先生!?」
「ネネちゃん先生?」
準備室にいたのは、机に両肘をつき、顔の前で手を組んだ『あのポーズ』をしている司書の木ノ実ネネだった。
ネネは静流の母親と同級生であり、ムムの大学の先輩でもある。
シズムたちの芸能活動については学校側の窓口を務める等、静流の身の周りで起こる色々な相談を受けている、協力者的な立場の先生である。
「五十嵐クン、とんでもない事をしてくれたわね?」
「すいません。 これでも調整したつもりだったんですが……」
「シズム、アナタもよ。 事の重大さを理解していない!」
「あちゃあ、裏目にでたかぁ」
三人の会話が理解出来ていないムムちゃん先生は、机をバンと叩いて言った。
「三人で話を進めないで下さい! それで、 私にもわかるように最初から説明して下さい!」
「まぁまぁ、落ち着いて。 どうどう」
静流はムムちゃん先生を落ち着かせようとした。
するとネネがゆっくりと口を開いた。
「ちょっと前に相談に乗ってあげてたの。テストの件でね」
「相談? 五十嵐クン? 私は担任よね? 何で先輩には相談できるの?」
「で、ですから落ち着いて下さいよ。 今説明しますから」
静流は一度、頭の中を整理してから、言葉を選びながら話し始めた。
「何と言いますか……僕、 テストの問題がわかっちゃうんです。 全部」
「え? どう言う事?」
静流の言い分に、首を傾げるムムちゃん先生。
「つまり僕の頭の中には、 全教科の教科書の内容とその参考書、 及び過去30年分のテストの問題が入ってるんです」
そう言って静流は、右手の人差し指で自分のこめかみあたりを指した。
「何ィィィ!? どうやったらそんな事出来るのぉ!?」
ムムちゃん先生は目を見開き、顔を赤くして机をバンと叩いた。
「ムム、 落ち着きなさい!」
「せんぱぁい……」
ネネにたしなめられ、シュンとするムムちゃん先生。
「ムムに説明して。 簡潔にね」
「むぅ~」
ネネに説明を促され、恐る恐る口を開く静流。
「怒らないで下さいね? ってもう怒ってるか……」
静流はそう前置きし、ゆっくりと口を開いた。
「実はその……『睡眠学習』のせいなんです」
「何、 ですってぇ~!?」
それを聞いたムムちゃん先生は、案の定怒った。
「『睡眠学習』!? そんなバカな方法でそれだけの情報を覚える事なんて、出来るワケ無いじゃない!」
「だ、だから怒らないで下さいって……」
そこでネネがフォローを入れた。
「それが出来たの。 どうやったのかシズム、 ムムに説明して上げて」
「はぁーい♪」
シズムは準備室に会った『高校生のための進路指導・就職支援マニュアル』と言う本をおもむろに口に入れ、呪文を唱えた。
【リード】パァァ
「ジジ……解析中……完了」ベェーッ
解析が終わると、シズムの口から本が吐き出された。
「静流クン、オデコ貸して♪」
「ほい」
右手で前髪を搔き上げ、オデコを出した静流に、シズムはキスをした。
今度は静流が呪文を唱えた。
【ロード】パァァ
静流のオデコに金色のオーラが輝き、体内に吸い込まれて行った。
「何なの? 今のは?」
「イイ? 驚かないでねムム。 ちょっとソレ、貸しなさい」
「はい」
腕を組んで首を傾げているムムちゃん先生に、ネネが悪戯っぽく微笑んだ。
「じゃあ、 P.193、 『求人票でブラック企業か否かを見分ける方法』」
「えと、『平均残業時間で判断せず、対象の職種で判断せよ』『年間休日数が114日以上あるか?』『福利厚生や労働組合の有無』でしょうか?」
それを聞いたネネは、そのページを開いてドヤ顔でムムちゃん先生に見せた。
「ん? 確かに一言一句同じ……」
「ムム、 つまりそう言う事なの。 彼はそれを『眠っている間』にやってのけたってワケ」
ネネの言う事が信じられず、ムムちゃん先生は本を無作為に開く。
「そんなぁ……じゃあP.43は?」
「大学志望調査の取り組み 『オープンキャンパス参加』『公開授業』『体験学習』……」
「じゃあP.215は?」
「出願戦略の立案 『進路実現に向けたカリキュラムの徹底』……」
そのあとも何度か確かめるが、全部合っていた。
「……全部合ってる。 信じられない」
目の前で起こっている事を認められず、呆然とするムムちゃん先生にネネは声をかけた。
「シズムが五十嵐クンの忠実な部下なのはわかるわよね?」
「……わかります」
「シズム、 説明しなさい」
「はぁい♪」
ネネに促され、シズムが説明を始めた。
「静流クンが家で毎晩テスト勉強してて、寝てる時うなされてたの。 『助けてぇ~』って」
「お恥ずかしい限りです……タハハ」
「それで、『どうやったら静流クンを助けられるかなぁ?』って思ったの。 それで私が【リード】して、寝てる時に強制的に【ロード】させてもらったの」
ここまで大人しく聞いているムムちゃん先生。シズムが続けた。
「先ずは教科書。 でも、知識だけだと問題の解き方がわからないでしょ? だから真琴ちゃんに参考書を借りたの。 それでもまだ手ぬるいと思って、過去30年分の全国模試の問題と解答を読んだの♪」
とんでもないことをサラッと口に出すシズム。
続いて静流が話し出した。
「この間、 授業で教科書を開いたんです。 そしたら頭の中にぶわぁ~って色んな内容が入ってきてブラックアウトしそうになったんです」
「そのあと世界史の小テストがあったんですが、 勉強もろくにしてなかったのに、 全部わかっちゃうんですよ……」
静流はそう言って、気まずそうにムムちゃん先生を見た。
「問題がわかるのなら、 そのまま答えればイイじゃない? 今の所『カンニング』とかの不正ではないんだし……」
あっけらかんと言い放つムムちゃん先生に、静流は少し拗ねた顔で言った。
「そう簡単に言わないで下さい。 僕はただ、目立ちたくないんです……」
「ふーん、 そんなもんかねぇ……私だったら前人未到の『オール満点』を取って伝説を作るな♪」
つくづく欲の無い静流に、ムムちゃん先生は溜息をついた。
「それで相談を受けたのよ。 『どうすれば目立たないか』ってね」
ネネはそう言って溜息をついた。
「目立ちたくないのなら、 もう少し上手く間違えなさい。 ムムだけじゃなくって、他の先生方からも怪しまれてるわよ?」
「えっ? そうなの?」
「適当に空欄にしたでしょう? 回答にムラがあって、『コイツ、 本当に理解してるのか?』って首を傾げてたわよ?」
「そんな事言われても……わざと間違えるって難しいんですよね……」
「シズム、アナタもよ! ただでさえ目立ってるんだから、もう少し加減しなさい!」
「はぁーい」
ネネに叱られ、ペロッと舌を出すシズム。
「でも困ったわね。 取り敢えず三学期をどうやり過ごすかが今後の課題ね……」
傍から見れば何のことは無い事でも、静流には大問題であったのだ。
容姿の事だけでなく、学業も注目を浴びるなど、静流には耐えられなかった。
「コッチでダミーの答案を用意するか? バカバカしい……ああもう、 面倒な事に巻き込んでくれたわね?」
「本当にすいません……」
頭を掻いて愚痴るネネに、静流は小さくなって謝罪した。
すると突然準備室に入って来る者がいた。
「やぁ! お困りかね? 静流キュン!」
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