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第9章 冬の……アナタ、どなた?

エピソード51-10

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膜張メッセ コスプレエリア 11:20時――

 ユズルに扮した静流は、シズムのいるコスプレエリアに行き、大勢のギャラリーの前でシズムとコントを始めた。
 シズムになあなあで指示されたコスプレを『ダッシュ7』と勘違いし、シズムにツッコまれるユズル。
 次に着替え終わったユズルが、どんなコスプレだったかと言うと……。

「制服? いや、軍服だぞ? って事はもしや……」
「あの方ね? あの方が降臨するのね!?」


 ……パシィィン!……パシィィン!


 スクリーンに映ったシルエットは、乗馬に使うムチの様なものを手で弾いていた。

「ま、間違いない。アノ方だ!」
「来て下さったのですね?……あぁ、何と言う幸せ」

 白黒ミサがスクリーンを退けると、中から軍服を着た将校らしき者が現れた。

「よくぞ生き残った! 我がメス豚どもよ!」パシィィン!


「「「きゃっふぅぅぅ~ん♡♡♡」」」


 制帽からのぞく、桃色の髪はストレートで腰近くまである。
 服装は、旧ドイツ軍親衛隊風で、サーベル軍刀を腰に吊るしている。
 目は金と赤のオッドアイに、何故か黒縁の『ざぁますメガネ』を着用している。


「「「「シズルーさまぁぁぁぁ♡♡♡」」」」


 ユズルの姿は、『薄い本』登場する数少ない『攻め』キャラである、シズルー・イガレシアス大尉であった。

「あぁ……しばかれたいですぅ。 ハァハァ」
「待って、無理無理無理無理」
「大尉殿、わたくしめがイスになりましょうか? ヌフゥ」

 ヲタ女たちのウケは上々だった。
 ユズルは満足げに頷き、シズムに聞いた。

「どうだシズム! これで満足か?」
「むぅ、間違いじゃないけど、そのカッコじゃ目立ち過ぎる!」
「また違うのか? それではコレか?」パチン

 ユズルはいちいち着替えるのが面倒になったのか、指パッチンで瞬時に着替えた。

「え? 一瞬で変身した!? しかも……このキャラは」

 次にユズルが着替えたのは、ネコ耳メイド服の男の娘キャラであった。

「ウゲッ!? しまったニャ、間違えたニャ」

「シ、シズミちゃぁぁぁん♡♡♡」

 男の娘キャラである『シズミ』はお姉ショタ枠を担当する『薄い本』のキャラクターである。

「ユズル様、どんなエフェクトなのです? 声ばかりか、身長まで変わっていますよ?」
「素晴らしい。コスプレの域を遥かに凌駕している……」

 ヲタ女たちの中には、冷静に今の状況を把握しようとしている者もいた。
 シズムの顔がぱあっと明るくなり、シズミの方に駆け寄って抱きしめた。

「うわぁ! カワイイ♪」
「ヤダよこんニャの! ボク、恥ずかしいニョ……」クネクネ

 ヲタ女たちのウケは、先程のシズルーに対する刺激的な反応とは違い、幸福感に溢れていた。

「シズミちゃんマジ天使。めっさ愛らしい……萌え~」
「シズムンとの絡み、バブみ高過ぎ~」
「何と罪深い……無敵コンボだ」

 シズムの腕から逃れ、シズミは頬を膨らませて怒った。

「コレじゃニャいのニャ! 間違えたのニャ!」パチン

 次に変身したのは、ワンレングスのゆるふわパーマにワイシャツ一枚だけを羽織り、前をはだけているアンニュイな感じの美少年だった。

「は……くしゅん! うぅ、さぶぅ」

 美少年はあまりの寒さに震えが止まらなかった。 

「シ、シズベール様……!?」
「シズベール、キミってヤツは……この寒空で無茶を……」
「もう、思い残す事は無い……私はこのまま召されてしまうのか?」

 シズベールを見たヲタ女たちは最早、フリーズに近い状態であった。
 シズムは呆れ顔でユズルに言った。 

「アニキ、わざとやってるでしょ?」
「さ、寒ぅぅ、わかった、一番ポピュラーなキャラだな?」パチン

 指パッチンをして変身したのは、クセ毛っぽい桃色の髪をした、高校生くらいの落ち着いた美少年だった。

「もう打ち止めだからな? コレで文句ないよな?」
「そう! この感じなんだよ。何処にでもいそうでいない、『五十嵐出版』の鉄板キャラ♪」

 ユズルがちょっと拗ねた感じに言うと、シズムは納得の笑みを浮かべた。
 この少年を見たヲタ女たちは、動揺と歓喜が入り混じった反応を見せた。

「幻……ではないのだな……?」
「いつからだろう? 彼を『歩く都市伝説』と呼び始めたのは……」
「桃髪の美少年……伝承の通りだ……」
「ネットに錯綜する目撃情報は、ガセでは無かった……」
「ついに彼との邂逅を果たした。何と言う僥倖……」

 ブツブツと何かを呟いたあと、ヲタ女たちは深く息を吸い、そして叫んだ。


「「「「静流さまぁぁぁー♡♡♡」」」」


 ヲタ女たちの黄色い声が響き渡った。

「静流様……現実と非現実の狭間に存在する、ありとあらゆる可能性を秘めた完全無欠の美少年……」
「ジャンルの壁を超越し、我々の願望を全て兼ね備えた桃髪の美少年……尊い」
「静流様、ああ静流様、静流様……」
「女神シズルカの寵愛を受け、迷える子ブタたちに癒しを与える聖人……」

 ヲタ女たちの呟きを聞いてみると、静流はどこかの教祖なのでは?と勘繰ってしまいそうな崇高な人物として認識されていた。

「これで五十嵐出版のブースに行ってイイんだな?」
「オッケー。私も付いて行くね♪」

 シズムがニコニコしながらユズルの腕に抱き付こうとした時、シズムの両脇を白黒ミサが取り押さえた。

「おーっと! シズムンはまだ仕事が残ってるよぉ♪」
「ユズル様も仕事なのよ。邪魔しちゃ悪いでしょぉ♪」
「ヤダ! 一緒に行くぅ」

 白黒ミサに腕を掴まれ、足をパタパタさせて抵抗するシズム。

「じゃ、あとよろしく!」シュタッ
「お任せください! ユズル様!」
「アニキィ~!」

 その隙にユズルは、ミサミサたちにピース敬礼をしてこの場から去った。

  
「「「「わぁぁぁ!!」」」」パチパチパチパチ


 ユズルが振り返ると、ギャラリーたちからの盛大な拍手と歓声が響いていた。

「よぉし! 反応は上々だ!」



              ◆ ◆ ◆ ◆


献血カー 11:25時――

 献血カー内の面々は、今の一部始終をモニターで見ていた。
 モニターで周囲の人々の反応を観察し、腕輪の効果を確かめた一同。

「腕輪の効果は期待出来そうね、睦美?」
「ええ。入手してくれたオカ研の手柄です。何か褒美をとらせるか……」
「でも完全じゃない。熱狂的なヤツは何人かいた」
「万人に効くわけではありませんから。今後も注意深く見守りましょう」

 腕輪の効果を、お姉様たちは一応認めたようだ。

「さっきのコント、即興にしては良かったじゃん。色んなキャラを出して、宣伝効果バッチリだね♪」
「ファンサービスも兼ねてて、実に心憎い演出でした……ムフゥ」

 リリィはコントの出来に満足げに頷き、右京は仕事を放り出し兼ねないテンションだった。

「どうです鳴海マネ、ユズル様の演技力は?」
「まだまだですが、演技に余裕が出来て来ました。代表も喜ばれるかと」チャ

 右京に問われ、冷静に分析する鳴海。

「……だそうですよ? 真琴マネ?」
「意外だった。アイツに演技なんて、出来るわけ無いと思ってた……」

 左京がニヤついて真琴をいじるも、真琴は少し寂しそうな表情でモニターを見ていた。

「勿体ない! タダであそこまで見せるなんて……」
「計算の上です。予想以上の反響でした」

 ふくれっ面の忍に、睦美は満足げに言った。
 薫子は意外に冷静だった。

「睦美、今のコントは今後のフリなのね?」
「ええ。掴みはオーケーです。賽は投げられた」

 右京が五十嵐出版のブースに向かっているユズルを監視衛星で追っている。

「さぁて、次はいよいよ『おデート』の時間ですよぉ……ムフゥ」
「あの引っ込み思案の子がねぇ……勝負に出たわね?」
「心配ない。きっと玉砕する」
「忍!? そんな身も蓋もない事、言わないの!」

 睦美は一応念を押しておいた。

「忍お姉様、くれぐれもちょっかいは出さないで下さいね?」
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