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第2章 ミッション・インポッシブル  ミッション系お嬢様校に潜入ミッション!

エピソード11-4

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 機内―― 時間不明

「あれ? また夢を見ているのかな?」

 目が覚めたら自室のベッドだった。起き上がり、1階のダイニングへ。

「美千瑠はいないみたいだ。母さん、おはよ!」

「あら静流ね? おはよう」
 静流の前にいるのは母親なのか?

「母さん……じゃないな? ひょっとしてモモ伯母さん?」

「鋭い洞察力ね。そうよ。アナタの伯母さんの、モモよ」
 双子だけあって容姿はほとんど区別出来ない。ただ独特のオーラのようなものがミミのそれとは違った。

「【夢操作】で僕にいろんなビジョンを見せたのは、伯母さんなんでしょ?」

「ええ。私の見せたものもあるし、異世界からの影響を受けたものもあるわね」

「何でそんなまわりくどい事したんですか?直接会いに来ればいいじゃないですか?」

「それが出来ればとっくにしてるわよ。夢だって最近パスが通ったからやっとですもん」

「それで、僕に何をさせようとしてるんですか?」

「簡単に言うと、私たちを助けて欲しいの」

「詳しく説明、してくれますか?」

「話が長くなるから、学園に着いてからにしましょう?妨害が入らない所で ザザッ」

「伯母さん!伯母さん!」

「また……会いましょう プツン」


          ◆ ◆ ◆ ◆


 アスモニア空港―― 夕方

「しっかりして五十嵐君、大丈夫?」

「は! 先生!? 今どこ?」

「もう着いたわよ。無事にね」
 つい先ほど空港に到着し、前の席から乗客がボーディングブリッジに向かって移動している。静流たちは最後尾なので最後に降りることになる。日本とここでは時差が6時間遅れであるので、夕暮れ時であった。

「良かった!地面だ!重力圏だ!」
 静流が訳の分からない事を口走っている。CAのお姉さんたちが温かい眼差しで静流を見送った。

「さぁて、観光は明日。とりあえず学園に直行よぉ」

「緊張するなぁ」

「空港からバスで1時間くらいかしら。もう一息よ。かんばって」
 ポンポンと肩を叩かれ、静流は先生とバスターミナルの方に向かった。

「あれ?日本語だ」
 大きめのボール紙に「都立国分尼寺魔導高校 御一行様」と書いたものを高く掲げている女生徒がいた。

「ちょっと行って来るわね」
 先生がその女生徒と話している。やがて、先生が「おいでおいで」の仕草をした。

「あ、ヤベェ、変身してない!」
 静流は自分が素のままだった事を思い出した。

「大丈夫! この子は味方。キミの現地サポート要員よ!」

「あ、そうなんですね?僕は五十嵐ってあれ?」
 現地サポート要員の女生徒に見覚えがあった。

「長旅お疲れ様でした……静流様」
 女生徒は真っ赤な顔で挨拶した。

「キ、キミが?ミナトノさん……だよね?」
 ヨーコは今にも泣きだしそうな顔で、

「夢じゃない!やっと、やっと会えた。『女神様』」
 両手を組み、うっとりした表情で静流の顔を上目遣いで見ている。

「いやだなぁ、『女神様』だなんて、大袈裟な」
 二人がイイ感じに見えたのか、ムムちゃん先生は少しご機嫌斜めみたいだ。

「コホン。何で知ってるのかは分かりませんが、こちらが現地サポート要員の『ヨーコ・C・ミナトノ』さんです」

「シズル・イガラシです。よろしくお願いしますね(ニパァ)」

「本物よ。本物だわ(ハフゥ)」
 ヨーコはよろめいたが、踏みとどまった。

「こ、この度、静流様が当学園に短期交換留学されるとネットで知り、現サポ要員を募集しているとの事で立候補しました!」

「ネット? まさかそのサイトの管理者って?」

「黒魔術同好会 日本本部……です。恐縮ですがら私はアスモニア支部の副部長をやっています」

「はぁ……黒ミサ先輩かぁ。留学するのは僕じゃないんだよなぁ」

「ご安心下さい、静流様。表向きは『シズム・イガワ』様がご留学なされる事になっていますので」

「そうなんだ。ホッ」

「五十嵐君、バスに乗る前に、変装を済ませておきなさい」

 女子トイレにて変身する。先ず【復元】で偽装肉体を構築し、そして鳶色にセットしたカラコンと補助メガネを装着し、藍色のカツラを付ける。

「よし。これでOKだな」
 学園の制服を着る。ちょっと着方が分からないので、ヨーコに手伝ってもらう。

「すごく、可愛いです。素敵」
 トイレから出てきた静流。

「どうです?先生。うまく変身、出来てます?」

「うん。完璧よ」
 変装の出来栄えをチェックした。とその時バスが来たようだ。

「バスが来ました。乗り込みましょう」
 静流は窓際を選び、隣をヨーコが座る。通路を挟んで先生が座った。

「でもヨーコさん、あの『夢』ってどうやって見るの?」

「あ、あれはですね、黒魔ネットで販売している複数のユーザーで希望する夢を共有して見せる魔道具『夢ホイホイ』を使ったんです。」

「ネーミングセンス無いね、やっぱ黒魔の仕業かぁ……ヨーコさん、まさかとは思うんだけど」

「何です、あらたまって」

「薄っぺらい本、買わなかった?」

「もちろんありますよ♪お気に入りは『彼氏、犯しします』ってレンタル彼氏の話なんですけど……どうかしました?」

「僕はね、薄っぺらい本が大っ嫌いなんだよね?(ワナワナ)」
 静流は苦笑いを浮かべているが目は笑っていない。むしろ血走っている。

「ひ、ひぃぃ、すいません、お気に召しませんでしたか……」

「もうイイです。しかしあんなものが外国にまで流出してるなんて、世も末……だ」
 いつぞやの悪夢を思い出し、士気が下がっていく静流。ふと何か思い出したようだ。

「あ、でも僕、もうちょっと前に変な夢を見たんだ。僕がキミのご先祖様になってた」

「え? それって冒険者だった人でしょうか」

「そうそう。耳が尖ってたからエルフ族かなって」

「間違いないです。私の先祖です」

「で、薫さんって男の人に助けられた夢なんだよ」

「伝承にある『桃髪の君』のことでしょうか」

「確かに薫さんは僕の従弟だから桃髪だけどね」

「盛り上がってる所、申し訳ないんですがね?」
 二人の会話に先生が割り込んできた。

「そろそろ着くわよ。準備はいい?『シズム』さん?」


          ◆ ◆ ◆ ◆


 聖アスモニア修道魔導学園―― 正門 夕方
 
 聖アスモニア修道魔導学園は、基本的にはゲソリック系である。
 幼稚園から初等部、中等部、高等部まである一貫女子校であり、いわゆる「お嬢様学校」である。
 なぜ都立国分尼寺魔導高校と姉妹校であるかというと、両校の創設者がエルフ族長老のゾフィーである為である。

「全然変わってないわね。懐かしいわぁ」

「先生が通っていたのって、何年前なんです?」

「そうねぇ、ずいぶん昔の事だから……」

 空を見上げながら回想に耽ろうかと思った矢先、

「フフフ。ざっと116年ぶり……かしらね、ミズ・ヒヨシ!」
 先生を呼ぶ、ザマス系のメガネを掛けたすらっと細身の女性が迎えに来た。

「116年ぶりか。お久しぶり!ミズ・フジサワ?」

「お互いまだ独り者みたいね?あの時の『賭け』はまだ有効なのかしら?」

「もちろん!勝負はまだこれからよ」
 116年ぶりに会ったとは思えない位に息ピッタリな二人。

「ミズ・フジサワ、ただいま戻りました」

「ご苦労様、ミス・ミナトノ。で、こちらが?」

「はい、この方がシズム・イガワ様です」

「初めましてミス・イガワ。わたくしは教師のニニ・フジサワといいます。よろしくお願いしますね」

「初めましてミズ・フジサワ。私がシズム・イガワです。こちらこそよろしくお願いします」

「ここはね、結界内なら各国の言語・文字を同時翻訳して脳内に送ってるの」
 ムム先生が校内の言語システムについて説明した。

「すごい技術ですね。全く違和感がありません」
 シズムは、言葉が通じるかが心配要素の一つであった為、その一つが減ったのはありがたかった。

「先生方は古いお知り合いなのですか?」
 ヨーコが素朴な疑問をぶつけた。

「私たちは、この学び舎で一緒に過ごしたの。幼稚園からだから15年かしら」

「そうだったんですね。でも卒業されてから全く交流は無かったんですか?」

「そうね。ムム、アンタねぇ!便りのひとつも寄こさないなんて、心配してたんだからね!」

「だって、報告するような出来事が全くないんだもん!わかって?ニニ」

「まあ私も同じようなもんだから、アンタの事言えないわね」
 感情の昂ぶりから、思わずかしこまったしゃべり方が崩れた。全て台無しである。

「先生方、私たちは寮に向かいますので、心置き無く昔話に花咲いてください」

「そう?じゃあ行きましょう、ムム」

「シズムさん? わかってますよね?くれぐれも粗相のないように!」

「大丈夫ですよ、ムムちゃん先生♪」

「ちゃんは余計よ!」
 先生方は教員用宿舎の方に歩いて行った。


ここで一応補足しておこう。この世界の人類は「新人族」と言われ、脆弱な人族と生命力に溢れる魔族との交配を重ねた末に誕生した種族である。このため、新人族の寿命は200~300年と言われ、25歳くらいで成長が落ち着き、その後緩やかに老いていく性質を持つ。


学生寮エリア―― 夕方

「あのさぁ、ヨーコさん」

「何ですか?シズム様?」

「その話し方、同い年でしょ?何とかならない?あと、『様』はやめようよ。ぼ、私もキミを『ヨーコ』って呼ぶから」

「急にハードルが上がりましたね……じゃあ、シズム(カァァァ)」

「なあに?ヨーコ?フフッ」
 ヨーコは盛大に照れた。

「この先が寮のエリアよ。寮はあっちからペガサス寮、キグナス寮、アンドロメダ寮、フェニックス寮とドラゴン寮があるんだけど、ただドラゴンは……今は使っていないの」
 指を指しながら寮の説明をする。脳裏に某美少年漫画を思い浮かべたものもいるだろう。

「ドラゴン寮は何で使わないの?かっこいいよね、ぼ、私は好きだな」

「た、多分だけど建物の老朽化とかじゃないかしら」

「他の建物もけっこう古そうだけど、築何年だろう?」
 かなり古そうな建築様式であるが、手入れが行届いており、ボロさは微塵もない。ただしドラゴン寮を除いては。

「で?シズムはどの寮がお好み?」

「そうだなぁ、名前だけなら王道はやっぱりペガサスなんだろうけど、キグナスも結構好きかも。涼しそうだし」

「アンドロメダはどう……かな?」 

「最弱?かなぁ。攻撃より防御優先なのがどうかね?でも捜索スキルは高そうだね」

「シズム、寮の名前だけでそんなデタラメな考察はどうなのかな?」

「あ、あくまでもイメージだからね?」
 と他愛ない会話をしているうちに、一つの寮に着いた。

「ここが、私たちの『愛の巣』になるところです」

「ちょっとヨーコ、その表現はおかしいよって、うっ……」
 寮の表札には『アンドロメダ寮』とある。

「そう。シズムが名前だけでこきおろしてくれた寮よ」

「そこまで言ってないじゃない。アイツはきゃしゃな見た目からは想像を超える小宇宙が……」
 また訳の分からないことを言い出したので、ヨーコは遮るように言った。

「とにかく、私たちの寮へようこそ!シズム」

「短い間だけど、よろしくね。ヨーコ」
 二人は和気あいあいと寮に入っていった。

「寮長先生、今戻りました」

「お帰りなさい。まあ、その子が短期留学生の?」

「シズム・イガワです。ご、ごきげんよう」

「寮長のエスメラルダよ。まあまあ、そんなにかしこまらくってもいいのよ。ウチじゃ」
 世間一般には寮長と言えば規律に厳しい体育会系の印象だが、この寮長の第一印象は良かった。

「ただし!規律はしっかり守ってもらうよ!(ニカッ)」
 すると一瞬で鋭い眼差しになり、不敵に口角が上がり、白い歯が見えた。前言撤回。


アンドロメダ寮―― 夕方

「ここが私たちの部屋です。ウフ」
 ヨーコは歓喜に打ち震えていた。

「え? 一緒に?この部屋で?一人部屋とか無いの?」

「ダイジョーブです。何もしませんから」
 両手をわしゃわしゃやりながら言っても説得力が皆無である。とその時、ドアが開く。 ガチャ

「ヨーコ、帰ったの?留学生は?」
 もう一人のルームメイトのようだ。

「あぁん、もう来ちゃった。今、イイところだったのにぃ!」
 ヨーコは盛大に残念がった。

「あ、この子ね?うひゃぁ、超絶美少女キター!」
 翻訳は合っているのだろうか?

「ぼ、私はシズム・イガワです。よろしくお願いします」

「アンナ・ミラーズよ。こちらこそよろしくね?」ムギュ
 ガシッと抱き着かれ、豊満な双丘が顔に押し付けられた。

「フグゥ、く、苦しいです。助けてヨーコ」

「ちょっと、アンナ、シズムが窒息しちゃうでしょ!」 

「ゴメン、だって超カワイイんだもん」
 アンナという金髪碧眼の少女はいわゆる「ナイスバディ」であった。

「フゥ。助かった。私は抱き枕じゃないんだからね!」
 思わず出たツンデレをボイチェンが完璧に「おにゃの子ボイス」で披露した。

「ハゥ。これが本場のツンデレなの?効くわぁ」

「もしもしヨーコさん?もしかしてアンナさんは……黒魔?」

「うん、もちろん黒魔よ」

「やっぱりそう……か」

「そういえば会誌に載ってたね?キミ」
 ごそごそと机の引き出しから何かを取り出すアンナ。

「ほら、ココ!」

「う、うわぁ、あの時のヤツだ。何で?」

 いつぞやの黒ミサ潜入ミッションでの記念写真が記事に添付されていた。
 サイリウムを持ったフード付きローブ姿の観客大勢に囲まれ、黒ミサと白ミサの間に微妙な表情をしているシズムが写っていた。
 また他のページには、「ウォンテッド!井川シズムを探せ!」という題名でシズムをまるで指名手配犯のように紹介している記事が載っている。

「黒ミサ先輩めぇ……」

「シズムはシズル様の彼女?」

 アンナはとんでもないことを口走った。

「は? 違う違う。あんなヤツ、ただの友達よ(ワナワナ)」
 動揺している姿が返って怪しく見えた。

「さすがはツンデレね。まあ、この位でカンベンしてあげる」
 さらなる追及がなくなって、シズムは安堵した。

「おっとお祈りの時間ね?ヨーコ、今日当番じゃない?」

「え?しまった、忘れてた」

「お祈りの時間?わかんないんだけど?」

「シズムは周りの子を見て真似してれば大丈夫よ。あとはい、コレ」
 ヨーコはシズムにロザリオを渡した。

「聖歌を歌ってる間に使うのよ」


日本 立川宅―― 深夜

 この時、学園から約7,500km離れた日本では、休止状態のオシリスからのリアルタイム画像をモニターしている者たちがいた。

「潜入は成功みたいだな、カナメ」

「おう、完璧や。ムッちゃん」

「この後の予定は夕方のお祈り・夕食・入浴・談話・学習で、消灯だな?」
 液晶画面にかじり付きそうな二人。実に微笑ましい、訳は無い。

「うむ。いよいよか。大浴場がオレたちを待っている!ヌハァ」
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