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第2章 ミッション・インポッシブル  ミッション系お嬢様校に潜入ミッション!

エピソード11-3

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 五十嵐宅―― 朝
  
 いよいよ出発の日である。静流は目覚ましが鳴る直前にパチッと目を覚まし、アラームを切った。

「う~ん、あまり良く寝られなかったな……」

「おはよ。朝からしけたツラしてるわね」
 フェレットに似た自律思考型ゴーレムは、朝から毒舌であった。

「オシリスか。おはよう」
 程なくドドドドと階段を駆け上がる音がする。バァン!美千瑠である。

「おはよ! オシリちゃん!」
 美千瑠はオシリスを見付けるや、首の後ろをがしっと掴み渾身の力で抱きしめ、頬を擦り付ける。

「グェ!? ちょっとぉ、壊れちゃうわよ!あとワタシは『オシリス』よ!」

「この肌触り、たまんない。しず兄、これちょうだい!」

「ちょっと、聞いてるの?」

「ダメに決まってるでしょ!おい美千瑠!その子は精密機械なんだ、もっと優しく扱うこと!」

「今の言い方、ちょっと傷ついたわね……」
 そうこうしているうちに、隣の家の窓から真琴がズンズンと近づいて来た。

 ガラッ

「おはよ。荷物の整理は済んでるんでしょうね?」

「おはよう真琴。もちろん。ぬかりはない……と思う」

「ホントに今日出発……なのね」

「二週間か、短いようで長いな」

「静流の事頼んだわよ、オケツ」

「な! アンタもかい! て、アナタ、何か他人とは思えない親近感ね?」
 オシリスは真琴を注視した。

「静流ぅ、この子って精霊がらみだったりする?」

「あ、そう言えばカナメ先輩が精霊とか言ってたな」

「多分だけど、ウチの家系って『精霊族』の血が濃いからじゃないかな。私も気になってはいたのよ」

「なんか引っかかる物言いね。ま、いいわ」
 静流たちは1階のダイニングに、真琴は窓から自分の家に戻った。

「おはよう、母さん」

「おはよう。さては良く寝られなかったな?」

「ほら、しず兄、だから【スタン】掛けてあげるって言ったじゃん?ニタァ」

「あのね美千瑠さん、麻痺させられていい夢が見れるワケ、無いでしょ?」

「忘れ物無いわよね?ムムちゃんによろしく言っといてね?」

「大丈夫だよ。え?日吉先生とも仲良しなの?」

「ちょっとね。ネネの後輩だし」
 ふと母親の顔が真面目な顔になった。

「あの学園は何か怪しいわ。向こうに行ったら先生の言うことよく聞くのよ?いい?くれぐれも勝手な行動はメッ!」

「わかったよ。先生の他に、僕にはちゃんとサポートが付くんだから。な、オシリス?」
 不可視化を解いたオシリスが首に巻き付いている。

「問題ないわ。安心して、ママ上殿!」

「よろしくね?でん部ちゃん♪」

「いっこも掛かっとらんやないかい!」
 一応掛かっている。

「じゃあ美千瑠、あの子たちの世話、頼んだよ」
 静流は部屋にある食虫植物コレクションの世話を美千瑠に頼んだ。

「はいはい。その代わり、お土産忘れないでよね?」


 学校 学校 2-B教室―― 朝

 いつもより早めに家を出て学校に向かう。途中で達也と朋子が合流した。

「見送りがてら早めに登校しとこうと思ってな」

「五十嵐君、くれぐれも気を付けるのよ?」

「アンタってば向こうの女子に絶対絡まれるんでしょうね」

 みんなに心配されているみたいだ。

「だ、大丈夫だよ。ミッション系お嬢様学校に男子がたった一人で潜入するミッションだったり、たとえ僕以外はみんな女子だったり、僕が女装してバレないように2週間耐えるとかだったり……」ズゥーン
 静流は次第に顔が青くなっている。

〈大丈夫や! なぁーんも問題なしや!〉

 この関西弁はもしや?オシリスを介して念話が届いた。

〈カナメ先輩!〉

〈私もいるぞ! 静流キュン!〉

〈睦美先輩!〉

〈お前さんの行動は常にオレたちが見てるさかい。安心せい〉

〈はい!ありがとうございます!〉

「おい、さっきまで沈んでたのに何ニヤニヤしてんだよ、キモいな」
 念話なので静流しか聞こえていないため、傍から見るといささか挙動不審である。

「その様子なら問題ないわね?」
 教室の扉に木ノ実ネネ先生が立っていた。

「ムムはやるときはやる子よ。大いに頼りなさい」

「はい、わかりました」

「さ、行って来なさい。覚悟はいいかしら?」 
 ネネ先生は親指をグッと立てた。

「はい! 行ってきます!」


 学校 職員室―― 朝

 職員室に入り、留学の際のブリーフィングを済ませた。
「日吉先生、あとはお願いしますよ?」

「わかりました!五十嵐君はワタクシが全力で守ります(フンッ)」
 ムムは覚悟を決めたようだ。半分やけになっているようにも見えるが。

「ムムちゃん先生? 大丈夫?」

「問題ないわ。任せなさい!(ケホッ)」
 ムムは自分の胸を叩いてむせた。

「では五十嵐君、我が校の将来はお主にかかっておるのじゃ。心して臨むがええ」

「はいっ! 頑張ります!」パチパチパチ
 先生たちから暖かい拍手をもらい、職員室を出る静流とムム先生。

「さぁ、行くわよ!空港へ!」
 ムム先生は意気揚々と学校を後にした。


 空港 搭乗ゲート~機内―― 昼

 北欧諸国のひとつであるアスモニア。フライト時間は約10時間である。今回の飛行機は、客室1階に2本の通路があるワイドボディ機である。 静流とムム先生は、エコノミークラス最後尾の進行方向右側の座席であった。

「ムムちゃん先生……」

「どうしたの?五十嵐君?」

「僕、飛行機苦手なんですよね……」

「大丈夫よぉ、事故なんてそうそう起こりゃしないから」
 ポンッと肩を叩かれ、静流は少し気が楽になった。

「そ、そうですよね?大丈夫、ダイジョーブ……」
 そう自分に言い聞かせる静流。そんな静流を見た先生は、庇護欲をかき立てられた。
(ああ、抱きしめてあげたい。待って、これは母性本能なの?愛情?まさか……イケナイわ、先生と生徒がそんな……)

 先生はクネクネと身悶えしながら妄想に耽っていた。やがて飛行機が動き出した。

 ターミナルを離れた飛行機がエンジン音を増し、滑走路に向かってゆっくりと走り始めた。離陸までもう少し。

 機内でポーンという音が鳴り、ベルト着用のアナウンスが流れる。エンジンが大きな唸りを上げ、一気に加速を始めた。

「ナムゥ……アノクタラサンミャクサンボダイ……ジュゲム……ソワカ」
 訳の分からない呪文を唱えている静流。

「五十嵐君、大丈夫よ」 
 先生は静流の手を握り締めた。
 機体がフワッと浮き上がり、大空へ飛び立った。

「ほらね? 大丈夫でしょ? ん?」
 静流の方を見た先生は呆気にとられた。なんと、もう寝ている。

「スゥ……スゥ(ニパァ)」
 先生は静流の頬を撫でた。

「ムハァ。こ、この感情は何?」
 先生の顔が徐々に静流に近づいた。静流の口を凝視している。と、我に返ったのか、ぱっと顔を離し、プルプルと首を振った。

「どうしちゃったの私?イケナイわ、イケナイわ」

 辺りを見回す。ホッ。座席が最後尾だったのが結果オーライだったようだ。しかし、最後尾座席の

奥は「ギャレー」と呼ばれ、オフィスで言う「給湯室」のようなものがある。たまたまギャレーに

CAのお姉さんたちがいたようで、先程の先生の挙動は一部始終見られていた。

 ギャレーからひょいと顔を出したCAのお姉さんと目が合ってしまった先生。

「全くぅ。世話の焼ける子ねぇ。もう」
 先生は静流の頬をプニッとつねった。

 CAのお姉さんたちから「ドンマイ」とエールを送られた。


 機内―― 時間不明

 静流は夢を見ている。

 ここは、ヨーロッパの市街地の様である。石畳の街道に白い建物が並ぶ。

 静流観光気分で街を散策する。
「時代はいつの頃だろう?前に真琴から借りたBL漫画がこんな感じの風景だったような……」
 静流が連想しているのは、ある男子校で物凄い美少年が男同士でイチャコラする古典的BL漫画のことだろう。

「ん?あの子、どっかで……あ!」

 以前静流が見た夢に出てきた「あの」娘のようであった。銀髪の娘は買い物の帰りだろうか?麻袋

には今にもあふれ出してしまいそうなオレンジがのぞいている。すると言わんこっちゃない、ちょっ

と前かがみになった拍子にオレンジがポロリと落っこちた。あわてて拾おうとしてまた別のオレンジ

が。

「プッ。クハハハ」
 娘には悪いが少し滑稽で微笑ましい情景だったため、静流は思わず吹き出してしまった。とそこに、


 ガタガタガタ!


 騒々しい音を立て、街中を馬車が掛け抜けて行こうとする。程なくあの娘の前に馬車が迫る。

「どけどけ!こちとら急いでんだ!」

 とっさの判断ミスで足をくじいてしまう娘。もう立ち上がれない。両手を顔の前でクロスし、必死のガードをとる。

「きゃぁぁぁぁぁ!」

 この次に間違いなく襲ってくる痛みが無い。
「あれ?痛く……ない?」

「馬鹿野郎!死にてえのか!」ガタガタガタ!
 馬車の御者がお決まりのセリフを残し、走り去る。

「ふう。間に合った。キミ、大丈夫?」
 数拍置いて娘は自分がどのような状況なのか把握した。娘は静流に「お姫様だっこ」されていた。

「ふぁ、ふぁい。大丈夫、れす」
 動揺してろれつが回らない。静流はそっと地面に娘を座らせた。

「足をくじいたんだね【ヒール】ポゥ。よし、これで大丈夫。」
 回復魔法により赤く腫れた部分が次第に治っていく。

「立てるかな?」

「は、はい」
 静流は手を貸すと、くいっと自分の胸にたぐい寄せる格好になり、娘の顔が自分の目の前まで近づいた。

「きゃ」

「ご、ごめん」
 どの位見つめ合っていたのだろう?その沈黙は盛大な拍手で終わりを告げた。パチパチパチパチ

「やるな兄ちゃん!憎いよこのぉ!」

「素敵♡ 王子様みたい。絵になるわぁ」
 周りの人たちが静流の行いに称賛の拍手を送った。

「はい。これ」
 静流は落ちた荷物をさっと拾い、娘に手渡す。

「あ、ありがとうございます(カァァァ)」
 娘は荷物を受け取ると、顔を真っ赤にしてお礼を言った。

「災難だったね。でももう大丈夫だよ」

「少し、お話し……いいですか?そこの喫茶店、コーヒーがおいしいんです」
 娘は最大の勇気を振り絞り、静流をお茶に誘った。


          ◆ ◆ ◆ ◆


 二人で近くの喫茶店に入った。
「ここは私に出させてください。私はカモミールティーを」

「僕はカフェラテを下さい、苦いのダメなんだ」

「フフッ。甘党なんですか?以外です」 

「ブラックを頼むと思った?」

「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃあ……(カァァァ)」

「実際甘党なんだから、謝られても困るよ。フフフ」
 周りから見ても、かなり「イイ感じ」である。

「キミ、名前は?」

「ヨーコ・C・ミナトノです」
 やぱり夢に出てきた娘で間違いない。

「僕はシズル・イガラシ。ミナトノさんって日本と関係あったりして?」

「私の祖父は日本人です」 

「そっかぁそれで日本語ペラペラなんだね?」
 静流はこれが夢であることを忘れているのか?

「少しですが。でも私、日本には一度も行ったこと、ないんですよね」

「ちょっと変な事訊いていい?ミドルネームって『キャロライン』だったりする?」

「え?なんで知ってるの? ……ですか?」
 ミドルネームを言い当てられ、動揺を隠せないヨーコ。

「実はさ、僕、夢で会ってるんだよね、キミに」
 静流はヨーコに前に見た夢をかいつまんで語った。

「夢にしては妙にリアルな夢ですよね。確かに私の祖先はエルフ族ですが」

「でもさ。この状況だって、『夢』なんだよね?」

 静流は夢であることを確信した。

「やはり、あなたはあの『静流様』で間違いないようですね?」

「僕を試したの?だとしたら人が悪い」
 静流は少し怒っている。

「ちち、違うんです。私はただ……(ワタワタ)」

「ただ、なぁに?(ズイッ)」 

「わ、わ、近い、近すぎます」
 静流はヨーコの顔を覗き込んだ。

「話してくれる……ね?」

「は、はい(ドキドキドキ)」
 ヨーコは深呼吸をしてから、ボソボソと話し始めた。

「私は、『聖アスモニア修道魔導学園』の生徒です」

「え?何だって?」
 突然音声が聞き取れなくなった。誰かが静流を呼んでいる。

〈シズル! シズル! 起きなさい!〉
 オシリスであった。

「う、うーん。え?ムムちゃん先生?」
 左肩に重みを感じた方向を見て、静流は素直な感想を述べた。

「か、可愛い……かも」
 静流の左肩に頭を預け、静かな寝息を立て、ムムちゃん先生は気持ちよさそうに眠っていた。

「うーん、五十嵐くぅん、もう食べられないよぅ」ムニャ

 オシリスと念話してみた。
〈どうしたの? オシリス〉

〈どうしたもこうしたもないわよ!アナタ、【夢操作】されてたみたいよ〉

〈でも悪意とかは感じなかったよ〉

〈全くもう。潜入前からこんなんじゃ、油断できないわね……〉

「う、う~ん、キャ!?」
 先生が目を覚ました。いきなりどアップで静流の顔を見た先生は、顔を真っ赤に染めた。

「おはようございます、先生。よく眠れました?ここって一番後ろだから、あまり倒せないんですよねぇ」

「お、おはよう五十嵐君。あれぇ?もう大丈夫なの?飛行機」
 頼もしい位の静流の大人な対応に関心する先生。

「ふぇ?飛行機の中だったの忘れてた」
 ふと窓の外を見た。斜め下の雲の切れ間に海が見えた。次第に顔が蒼くなっていく静流。

「大丈夫、大丈夫よ。バスッ」

 素早く静流の後頭部に手刀を入れ、無力化する。

「ぐっ?! くぅぅぅ。スゥ。スゥ」

「手がかかる子ほど可愛い……か」
 ギャレーにいたCAのお姉さんたちが、「グッジョブ!」と親指を立てた。

「あと3時間くらいかしら。でも、また『あそこ』に行くはめになるとは……」
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